スーパーのインスタント飲料が並ぶ商品棚の前で、女性が困惑の表情を浮かべていた。
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「やっぱりここもダメですね。3軒回ったんですけど、どこも売り切れで。いつになったら買えるのか……」
彼女が探し求めていたのは、ココア味の麦芽飲料『ミロ』だ。「子供の成長に必要な栄養素をしっかりと」というコンセプトのもと1973年に発売され、今年で47年目を迎えるロングセラー商品。新発売でもなければ、リニューアルしたわけでもない。それがなぜかいま、全国で売り切れが続いているという。
「7月に240g入りの袋タイプが品薄になり、9月に入っても需要が供給を大幅に上回ったため、9月末に発売元のネスレ日本が一時的に販売を休止しました。1杯分ずつ小分けにされたスティックタイプも、品薄状態が続いています」(食品流通ジャーナリスト)
きっかけは7月にツイッターに投稿された、何気ないつぶやきだったという。
《貧血の皆さまー。ミロ飲んでみてくださいー! 鉄分が平均の1/7しかないと指摘された私でも、ミロ飲んだら平均値になりましたー!》
これに貧血に悩む女性たちが反応し、SNSでミロ情報が拡散。以来、「貧血の症状が和らいだ」といった書き込みが日増しに増えていき、ミロを飲んで健康になる活動を指す「ミロ活」なる造語も生まれている。子供向けに販売されていたミロが完売に至った要因は、どうやら大人の女性にあるようだ。
日本人女性の多くは、鉄分が不足しているとされている。月経ありの30〜50代女性の1日の鉄分摂取量の目安は10.5〜11mg(2020年版「日本人の食事摂取基準」/厚生労働省)。ところが実際には平均で6.8〜7.3mgしか摂取できていないという(平成30年国民健康・栄養調査/厚生労働省)。
ミロを販売するネスレ日本によると、ミロ15gを牛乳150mlに溶かして飲んだ場合、含まれる鉄分は3.2mg。1杯で1日の摂取目安量の不足分をカバーできることになる。
公式ホームページで公開されているこのデータを消費者がSNSに投稿し、またたくまにミロブームに火が付いたというわけだ。
「ミロは栄養機能食品で、鉄分だけでなく、カルシウムやビタミンDなどが豊富に含まれています。カルシウムは骨づくりに欠かせない栄養素で、ビタミンDは腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素です」(ネスレ日本の広報担当者)
閉経を迎えた女性は、骨密度を維持する働きのある女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が減少するため、閉経後骨粗しょう症を発症しやすくなると指摘されている。貧血対策だけでなく、骨粗しょう症予防のうえでも女性の味方といえそうで、実際にSNS上には「骨を丈夫にするためにミロを飲んでいる」という意見も多く確認できるのだ。品切れ続出の要因は、ほかにもある。ネスレ日本はこう分析している。
「ミロを飲んで育ったかたがたが親世代になり、成長期のお子さまと一緒に飲むケースが増えているようです。親子飲用比率が2011年の37%から、2018年は59%と、1.6倍に増えています。
また今年は新型コロナの影響で新しい生活が始まりました。健康志向が高まったこととや自宅で過ごす時間が長くなったことで、家でミロを飲む機会が増えているのも要因と考えられます」(前出・ネスレ日本の広報担当者)
ミロはいまや飲むだけではない。食パンに牛乳に溶かしたミロを染み込ませ、バターを引いたフライパンで焼き上げる“ミロ味フレンチトースト”など、さまざまなアレンジレシピが誕生している。公式ホームページには、50種類以上のアレンジレシピが掲載されているのだ。
ネスレ日本によると、一時販売休止となっていた袋入りミロについて、「商品の供給体制が整いましたので、11月16日(月)より出荷を再開しました」とのこと。この冬はミロブーム到来か。