Excel で学ぶ微分・積分 [涌井良幸/涌井貞美 ナツメ社]
残念ながら絶版になってしまいましたが、まだ中古市場では辛うじて出回っているようです。そもそも解析学に的を絞った Excel 関連の本は希少です。それだけで本書は十分な価値があるのですが、そういう点を抜きにしても本当に良い本です。Excelで学ぶ微分・積分―Excelで微分・積分を学習すれば、いろいろと実感を伴って理解できる 中古価格 |
私自身の経験から言えば、数学をある程度扱える人は Excel を学習するときにとても有利になります。数学と表計算ソフトは相性が良く、たとえば2次関数のグラフを描きながらオートフィルやグラフウィザードの使い方を自然と学んでいけますし、 Excel に用意されている数学関数の意味を理解するのも速いでしょう。そもそも数学の論理構造を把握できる人にとって、Excel の操作を習得することはさほど困難ではないはずです。
本書の特徴は次のような点です。
@微分積分を学びながら Excel の基本を学べる。
A数学の学習と Excel の学習のバランスがちょうど良い。
B解析学について、かなり高度な内容まで踏み込んでいる。
Cレイアウトに無駄がなく、整理整頓されていて見やすい。
特に@とAが重要な点です。一般に Excel を用いた数値計算の本は Excel の基本操作についてはおざなりです。たいていは数学のほうに重点が置かれています(当たり前かもしれませんが)。しかし本書は Excel の基本についても一切手抜くことなく丁寧に解説してくれています。それこそ Excel における数式の入力やオートフィルのやり方、グラフウィザードの起動など、本当に基本中の基本から大きな図を使って説明してくれています。 Excel 中級者の人にとっては「こんなことわかりきってる!」と思われる内容かもしれませんが、章が進むにしたがって3次元グラフの描き方など、少しずつ高度な操作の説明が登場するのでご心配なく。
一方で微積分の説明に関しても厳密性をばっさり切って捨てて(数学的厳密性なんて専門家以外には不用です!)、直感的に図解的に、それこそ Excel のグラフと連動しながら分かり易く記述してくれています。微積分の入門書として読んでも本当に良質な本です。
Bについていえば、「よく僅か 240 頁の本にこれだけの内容が入ったなー」と感心するぐらい幅広い内容を扱っています。高校数学の範囲を超えて、テイラー展開、偏微分方程式、ラプラス変換、確率微分といった話題を惜しげもなく提供してくれています。
Cもこの手の本には大事な要素。どんなに良いことが書かれていても、読む時にストレスを感じては価値も半減してしまいますからね。
もう1つ私個人として感心したのは、「 Excel において複素数をどう扱うか」ということが書かれている点です。 Excel には IMPRODUCT(複素数の積を求める)など、複素数を扱うための関数がたくさん用意されているのですが、エンジニアのような特殊な人しか用いない関数であるためか、あまり一般向けにこれらの関数が説明された本はありません。しかし数学の学習には複素数を避けて通ることはできませんから、本格的に Excel で数学を学ぼうとすれば、これらの関数の扱い方を習得しておく必要があります。そういう点でも本書は貴重なのです。
この本を読み通せば、Excel についても、微分積分についても相当な知識を得ることができますよ!