方程式にたよらない 和算的思考力をつける [ベレ出版/深川和久]
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和算 とは日本古来からわが国で独自に発達した数学です。
江戸時代には関孝和を代表する俊才たちによって非常に高度なものへと発展しました。また 和算 は庶民の間でも広く普及し、これを趣味として楽しむ人が大勢いました。当時の最高水準の和算は現代人にとっても簡単に手の出せる内容ではありませんが、和算の基本的な考え方は現代の小学校の「算数」という教科に受け継がれています。特に中学受験で問われるのは、まさにこの 和算的思考力 そのものと言ってよいでしょう。
タイトルにあるように、この本では「方程式を用いない」つまり「文字を使用しない」問題の解き方を「和算的な手法」として、つるかめ算や過不足算、損益算など、現代の算数の問題を解くためのアプローチをたくさん紹介しています。本書の構成は次のようになっています。
第1章 つるかめ算について考えてみる
第2章 いろいろな和算的方法
第3章 いろいろな数量と和算的方法
第2章 いろいろな和算的方法
第3章 いろいろな数量と和算的方法
つるかめ算
まず第1章を丸ごと割いて、和算の代表格ともいえる「つるかめ算」を丁寧に説明しています。「小学生の頃に習ったけど、よくわからなかった」とか、「とっくに忘れたよ」という人も多いと思います。というより意識的に使う機会がなければ普通は自然と忘れます。でも「つるかめ算」の考え方を学び直すと、中学以降の「方程式思考」に慣れてしまった頭に心地よい刺激を与えて、和算的な思考を取り戻すきっかけになります。「つるかめ算」の考え方は和算の土台となるものですから、この第1章を読むだけでも「頭が柔らかくなったよー」という気分になります。
過不足算、仕事算
「つるかめ算」を扱った第1章に比べると、この第2章で扱う過不足算、消去算、仕事算、相当算、倍数算といった内容は少しやさしく感じられると思います。まず第1章でしっかり頭をトレーニングしてから、残りの章をスムーズに読んでもらおうという意図があるのかもしれません。実に上手い構成になっています。第2章まで読み終えると、和算の一般常識(?)を身につけることができます。網羅しています
第3章では旅人算、通過算、流水算、時計算、平均算、年齢算、植木算 ...... 色々なパターンの和算的問題を網羅しています。特に順番に読まなくてはならないということもないので、ぱらぱらとページをめくりながら、面白そうな箇所を拾い読みすることもできます。粋な解き方を身につけましょう
この本で扱っている問題のほとんどは、中学で習う方程式で解くこともできます。これは私の個人的な意見ですが、和算で解ける問題に方程式を持ちこむことは、時として「非常に野暮ったく」見えることがあるのです。方程式はある種の「万能ツール」であって、色々な問題に等しく適用できるという利点がある反面、適用対象によっては必ずしも最適手法とはなりえずに、がちゃがちゃと無駄に文字をいじくり回して時間を浪費するといったことになってしまいます。
対して和算とは、それぞれの問題に応じた考え方を会得する「専用ツール」です。「専用ツール」であるがゆえに、その習得には方程式より時間がかかります。しかし和算技術を身につけることができれば、ある問題を見た瞬間に最適最速の解法を見つけ出し、ぱぱっとスマートに解いてしまう「粋な職人」となることができるのです。この本をきっかけに、皆さんにもぜひ和算の素晴らしさを見直してもらえたらいいなと思っています。