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こばとの数学基礎講座10 無限等比級数(どこまでも足し続けます)
このまえ、こばとの英語ノートのブログ記事を書くために、六郷瞳(ろくごうひとみ)さんのお宅にお邪魔しました。なぜならテーマが "Eyes(目)" だったからです。「"瞳" ちゃんだから "Eyes" のテーマにぴったりですよねー」と言ったら、「くだらない」と一蹴されました・・・・・・へこみました。瞳ちゃんは、ちょー真面目できっちりした性格のリケジョさんです。冗談が通じるタイプの人ではないので、「こばとちゃん講義」を進行させるのにとっても苦労しましたよ。興味のある方は読んでみてくださいね。
それでは今回の数学です! 今回は 無限等比級数 を扱います。何だか難しそうな用語ですけど、要するに前回まで扱っていた等比数列の各項を全て足し合わせたものを等比級数と呼ぶのです。初項 a, 公比 r の数列 a n = a r n−1 の無限等比級数 S は次のように書き並べます。
無限級数なので終わりはありません。どこまでも足し続けます。「どんな数列だって、こんなにたくさん足し合わせたら ∞ になっちゃうんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうはならないのが数学の奥深いところなんです。
上の無限等比級数から一部分を取り出したものを部分和といい、 S n で表します:
まずはこの S n を求めてみましょう。 S n と S n に r を掛けたものを並べてみます。
赤い部分が互いに共通する項です。[1]から[2]を引いて整理すると、
両辺を 1−r で割れば S n が求められるわけですが、こういうときに注意しなくちゃいけませんよね。 r = 1 のときは割ることができませんよ。r = 1 のときは [1] の表式まで戻って、
となります。 r≠1 のときは、
ですね。そしてこの公式で n → ∞ とすれば無限等比級数の値が得られるのですが、前回の最後に数列 r n の収束条件は −1 < r ≦ 1 であると言いましたね。上の式でわかるように、数列 r n が発散すれば、級数も発散してしまいます。そして r = 1 の場合、数列は a 収束しますが、級数は a を無限に足すことになるので発散します。したがって、無限等比級数の収束条件は −1 < r < 1 (|r| < 1)ということになります。その条件の下で n → ∞ とすれば r n → 0 ですから、
となります。部分和よりも無限級数の方が公式が簡単になっているのは面白いですね。では初項 1, 公比 1/2 の数列 a n = (1/2) n−1 を上の数式に入れて計算すると、S = 2 が得られます。つまり、
ということです。こんなに足しているのに 2 を超えることは決してありません。何だか不思議ですよね。感覚的に掴みにくいかもしれませんが、こう考えてみてください。確かに項数は無限大に続いて足し合わせる作業に終わりはありません。しかし、a n は n が1つ増えるごとに 半分、またその半分と、どんどん小さくなっていきます。項数の増加に対して a n の値の減り方が大きすぎて、数を増やすことに貢献できなくなるのです。もう少しわかりやすい例を見てみましょう。1.000000……という数(つまり 1 です)を考えます。この数に 1/10, 1/100, 1/1000, …… というように順に数を足していくと桁はどう表示されるでしょうか(初項 1, 公比 0.1 の級数です)。
1.100000……
1.110000……
1.111000……
1.111100……
1.111110……
1.111111……
1.110000……
1.111000……
1.111100……
1.111110……
1.111111……
いくら繰り返したところで1つ後ろの桁に 1 が加わるだけですね。この級数が決して 1.2 の値を超えられないことは直感的にわかると思います。もちろん、先程の無限等比級数の公式を用いても計算できます。ちょっと練習してみてください。S = 10/9 = 1.11111…… という無限循環小数が得られます。次回ではこのあたりのことも含めて、無限等比級数 S は公比 r の関数としてどのように振る舞うのかということを解説します。いよいよエクセルによる "数値計算" の威力をお見せできると思います。教科書では説明されないことがたくさんでてきますよ。お楽しみに!
こばとの数学基礎講座11 エクセルによる等比級数の分析
KOBATO です! 皆さん、シルバーウィークはどのように過ごされましたか? こばとはマリちゃん(刑部真理子さん)と北陸新幹線に乗って金沢まで行って来ましたよ! ちょー楽しかったです。
今回は夏休み企画(夏はとっくに過ぎてしまいましたけど)の最終回となります。でも冬休みあたりにまた再会する予定ですので、よろしくお願いしますね。それまでの間はブログ主さんが更新再開する本編の記事にチャレンジください。高校生の方にとっては、まだまだ難しい内容も含まれているとは思います(フーリエだとか、ディリクレだとか、聞いたこともないような関数がでてきたりするかもしれません)けど、グラフを眺めているだけでも楽しいと思いますよ。ブログ主さんのお話によると、次は y = logx logxという変てこな関数を扱うらしいです(今回の基礎講座で対数関数が間に合わなかったのはちょっと残念です)。
最終回は、エクセルをふんだんに使って等比級数を分析してみます。数値解析の初歩の初歩です。「なるほどー。エクセルってこんなことができるんだー」ということを知ってもらえたらいいと思います。ではまず前回のおさらいから。等比級数の部分和と無限和を求める公式は、
でしたね。上の式(部分和)で n → ∞ とすれば下の式(無限等比級数)が得られます。ここでちょっとこう考えてみます。
「別に ∞ までいかなくても、n に十分大きい値を入れたら、Sn と S は同じぐらいの値をとるんじゃないかなー?」
一理ありそうですね。はたしてどうなんでしょう? さっそく初項 1, 公比 1/2 の等比級数で見てみましょう。無限和は簡単に計算できて S = 2 ですね。問題は Sn のほうです。思いつくままに大きな n を入れて計算するのは(たとえ電卓を使っても)大変です。どのぐらいの n が適当なのかさえわかりません。そんなことはとてもやっていられないので、エクセルで n ごとの Sn の値をいっぺんに計算してグラフにプロットしてしまいます。
いかがですか? n = 6, 7, 8 のあたりから Sn の伸びが悪くなって、n = 10 のあたりでは少しも動かなくなっているように見えます。私のエクセルに出力されている具体的な数値は S10 = 1.999023438, S11 = 1.999511719 となっています。小数点以下 4 桁のところしか動いていません。もう少し先を見ると、 S20 = 1.999999046 です。
「それなら、n = 10 ぐらいとっておけば、近似的に S は Sn と同じと考えていいんだね」
などと考えるのはまだ早計です。公比によって事情はだいぶ変わってきます。初項 1, 公比 0.9 の等比級数ではどうなるでしょうか? 無限和は S = 10 です。
先程とはだいぶ様子が違いますね。グラフが水平になるのは n = 40 を超えたぐらいからでしょうか。私のエクセルで数値を見ると、Sn = 9.99 に達するのは n = 65 のときです。小数点以下 3 桁の精度を求めるなら、n = 87 が必要です。このように、等比級数は公比が大きくなると、総和が大きくなるのは当然として、収束に必要な n も大きな値が必要になってきます。
では次に、公比 r と無限和 S の関係をグラフで見てみましょう。初項は煩わしいので a = 1 としてあります。もちろん、収束範囲の 0 < r < 1 に限定してあります。
立ち上がりは遅いのに、r = 0.8 を超えたあたりから急速に値を伸ばしていきます。このグラフが意味するところを丁寧に考えてみましょう。r = 0.2 と r = 0.3 で級数を比較してみると、それぞれ S = 1.25, S = 1.43 となります。一方で r = 0.8 と r = 0.9 で比較すると S = 5, S = 10 となり、その差はとても大きくなってしまいます。つまり、公比の大きい範囲では、公比がわずかに異なるだけで、計算される級数は大きく違ってくるということです。それは r が 1 に近づくにつれてより顕著になっていきます。r = 0.98 と r = 0.99 で比較すると、それぞれ S = 50, S = 100 です! わずか 0.01 の公比の差異が級数にこれほどの違いをもたらすということになるのです! こういうことは感覚ではなかなかわからないものですよね。
こばとの数学基礎講座はしばらくお休みします。12月中旬ごろに再開する予定です。でも、こばとは『あとりえこばと』にいつもいますので、暇があったらお越しくださいね。それではまた、冬休みにお会いしましょう!