2018年11月23日
ユニット型特養の闇
はじめに
特別養護老人ホーム(以後特養)は
これから超高齢化社会を迎える日本において、
限られた財源の中で
効率よく
介護サービスを提供するためには
必要不可欠な
器です。
小さな入居施設がたくさんあると
それだけで経費がかかります。
かといって
「流れ作業」
「プライバシーがない」
とされる従来型の特養では問題も多く、
考えられたのがユニット型特養でした。
しかし、
僕はユニット型特養がかなり強引な形で
理想を押し込んでいるように感じています。
その結果,
実際どのようなことが起きているのでしょうか。
現場で働く介護職の目線として語ります。
ユニット型特養の理想
尊厳を守る
従来型特養では「流れ作業」のような介護、多床室や大浴場での合同入浴などプライバシーの欠如、その他介護のシステムとして利用者の尊厳を守りにくいとされていました。それを改善するために入居の部屋を原則個室とし、お風呂も一人ずつが入る「個人浴槽」が基本とされました。これによって利用者は居室でプライバシーのある生活が可能になり、排泄や入浴も他の利用者に見られることなく尊厳を保つ生活ができるようになります。
手厚い介護
利用者を多人数一斉介護ではなく、個室、10人程度の小規模な単位に分けることで職員の目も行き届き、個別性、人それぞれにあった生活を支援する手厚い介護が実現可能となります。
生活の延長としての施設
特養施設が要介護者の収容施設ではなく、施設に入っても今までの生活を可能な限り続けることのできる、生活の延長の場としての施設サービスを提供することが可能になります。
ユニット型特養の現実
尊厳を守る?トイレに行けなくなった
利用者をユニット別、
個室に分けることと尊厳を守ることは
全く違うことになりました。
確かに同じ部屋でおむつを交換されたり、
一斉にお風呂に入れられることはなくなりました。
その代わりトイレに行ける人が
トイレに行けない!
という事態も起こるようになっています。
従来型は利用者数も多かったですが、
職員も複数配置されていました。
ユニット型特養にしたまでは良かったのですが
十分な人員配置ができる環境
を与えなかったため
日中動ける職員が基本的に1名
になってしまうケースが多くなりました。
2名と3名は大して変わりませんが
1名か2名かは大きな違いがあります。
1名だと
自力で立ってズボンを下ろすことができない人
をトイレに連れていくことができません。
誰か応援を呼ぶなど対策を講じれば良いと、
簡単に思うかもしれませんが
特養施設には
他にもやらなくてはならない!
と義務化されたことが山ほどあります。
一人の人が一日に何回トイレに行くでしょうか?
このような助けを必要とする人が
ユニットに一人いたとして、
100床なら10人。
10人がトイレに行きたくなるたびに
ランダムで人を派遣することは
簡単ではありません。
利用者が
トイレに行きたい時に連れて行ける環境
を作ることは至難の業です。
結果何が起きるかというと、
職員は理由をつけて
「トイレは無理なのでおむつで」
という話に持っていくようになっていきます。
トイレに行ける人を
トイレに連れていける可能性
が少なくなりました。
ただ壁で仕切る、
見えないということが
プライバシーや
尊厳の保持と呼べるのでしょうか?
手厚い介護
個室にすることで
目が行き届かなくなり、
介護はさらに手薄になりました。
一斉介護
ではないということは
それだけ
ひとりひとりに時間がかかります。
壁があるため
誰がどうしているのかわかりにくくなり、
人手もなく
時間もないために
「(ナースコールで)呼んでもなかなか来ない」
ということが起きます。
このナースコールも
「闇」の一つで、
ナースコールさえあれば
適時に介護が行える!
と勘違いしている人が多くいます。
しかし実際はどうでしょうか?
服を着替えるのに
何分かかりますか?
悩みを聞いて
対応するのに何分かかりますか?
壁がなければ
優先順位もわかりやすく、
待っている方も
「今忙しいのか」
「次は自分かな」
と状況がわかります。
しかし、
壁があるために
「なんで呼んでも来ないんだ」
「自分が後回しにされているのではないか」
と介護サービスに満足するどころか
不満が大きくなっていきます。
また転倒の危険がある利用者は
個室化することで
危険の予測がさらに難しくなりました。
手厚い介護とはどのようなことなのでしょうか?
生活の延長としての施設
個室化することで
利用者の居住空間を
個性に合わせて
レイアウトすることが
できるようになりました。
まるで自宅の部屋のように
自分の使いやすいようにすることも可能です。
しかし
特養はどのような人たちが
利用するか考えてみます。
介護保険の規定により
特養の入居者は
「原則要介護3以上」
とされました。
「要介護3以上」
とはどのような人たちでしょうか?
多くの人は認知症
を抱えていたり
麻痺などの障害
を抱えていたりします。
認知症の人は
自宅でティッシュを口に入れても
危ないね
で済みますが
介護施設では大問題です。
自宅のようにものを置くのは
施設側にとって
相当なリスク
を背負わせることになります。
また障害のある人は、
自宅のようなレイアウト
よりも早く手伝ってもらいたい
ということのほうが多く、
個室により作業時間が増して
細分化された職員配置で
より不便な思い
をするという面もあります。
10人の
要介護3以上の利用者
を職員一人で介護する状況において、
自宅のような生活の延長
というのは
利用者にとって
それほど優先度の高いこと
と言えるのでしょうか?
ユニット型徳用の誤算
従来型特養は悪ではなかった
従来型特養の介護は
悪い介護のお手本
のように扱われ、
新設の特養は原則ユニット型に限る
とまでされ、
従来型を根絶させる
かのような政策も行われてきました。
しかし
ユニット型特養から
問題点が浮き彫りになり、
従来型には従来型の良さがある
ことが認められるようになりました。
例えば
「個室=プライバシー=幸せ」
という
思い込み
があったのですが、
孤独を感じる高齢者の中には
従来型のような大部屋を好む
という人もいることがわかってきました。
また
ユニット型特養の問題点
から見てもわかるように、
問題は
「建物の形」
ではなくて
「介護の中身」
であることがわかってきています。
現実に
従来型徳用でも利用者が
活き活きと生活し、
質の良い介護サービス
を提供しているところが
たくさんあります。
密室性を助長した
利用者をユニット別、
個室に細分化する
と同時に、
職員の配置も細分化
されてしまいました。
以前から介護施設は
「密室性」
が問題になっていました。
事故や虐待、
不適切なサービスがあっても
施設内の雰囲気や現場職員の同意によって
公に報告されない、
隠蔽される
などの問題がありました。
ユニット型特養は
範囲をユニットや個室
というさらに狭い空間にし、
対応する職員が
実質1名
という密室性を
さらに助長する形になりました。
極端な言い方をすれば、
事故や虐待が起きても
報告するかどうかは
対応する
1名の職員
の判断に委ねられる
という状態です。
これは利用者にとって大変危険な状態とも言えます。
効率化は失敗だった
ユニット型特養を開始した当初は、
質の良いサービスを効率よく提供できる
と考えていた政策でしたが、
実際は
従来型特養が悪かったところはカバーしても
別のところが悪くなり
サービスの質が
明らかに向上した
とは言い難い状況です。
さらにユニット型特養は
個室を作るため建設費用もかかります。
介護報酬も従来型より高くなります。
それほど効率的とは言えない状況の中、
このユニット型特養の
普及と維持
にはそれなりの費用がかけられています。
利用者がいなかった
国が示した
特養の待機者数は
非常にいい加減で、
大きな数字だけが
ひとり歩きしていました。
その理由としては、
複数の施設に申し込んだ
重複した待機者を
数えていなかったこと。
そして
待機者が
都市部に集中していたことです。
施設介護が必要になる状況は
段階的に進むことは少なく、
骨折や認知症の発覚などにより
急を要して起こります。
そのため家族は
急いで入れるところを探して
急性的に
いくつもの施設に問い合わせをします。
1つの施設に問い合わせて
空くまで待つわけではないのです。
そのため
各施設の待機者数を合算して
大きな数字になってしまいました。
都市部では人口が集中しています。
人が多く住んでいるからといって
特養施設も同じ割合
で立てられるわけではありません。
当然近い施設から問い合わせるので
都市部で待機者数が増える
ことになります。
逆に、
この数字だけを信じて
各地で特養を乱立させた結果
「あれ?利用者がいない」
ということが発生します。
現状
都市部を除いて
多くの都道府県で
入居者の争奪戦や
特養の空室が起き、
特養の運営を苦しめています。
;">ユニット型特養はない方が良かったのか?
ここまで問題だらけだと
なんのために
ユニット型特養が必要であったのか
わからなくなってきます。
しかし
ユニット型特養にも
存在した意義はしっかりとあります。
ユニット型特養がもたらした
一番良い効果とは
「介護に新しい風を吹き込んだ」
ということだと思います。
従来型特養に絶望し、
介護に希望を感じられなくなっていた介護職も
たくさんいたと思います。
そこに
ユニット型特養が現れることによって
「え?なに?そこならいい介護ができるの?やってみたい!」
そう感じた介護職員がたくさんいました。
ユニット型特養には
新しい介護の形、理想
を求めて転職してくる職員もたくさんいます。
もちろん
打ちのめされる人も多いのですが、
そこから
新しい希望や新しい介護の形
を模索する職員もたくさんいます。
今ユニット型特養が良いの
か悪いのかということよりも、
これからユニット型特養を
良いものにするかどうかは、
僕を含めて
働いている介護職員の皆さん
にかかっているのだと思います。
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