2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part1
いなづまこと様の第5作目です。毎週ありがとうございます!!
今回はレナ(FFX)と誰かが悪堕ちしていきます。
いなづまこと様の作品はいつも違ったパターンの悪落ちなので、
本当に素晴らしいです。
それではどうぞ!
注意! この文章には官能的表現が含まれております。
(ご覧になる方は、自己判断でお願いします。)
ここはタイクーン城の北西の、かつて海賊のアジトがあった洞窟。現在では海賊団は解散し、奥には小動物以外誰もいないただの洞窟になっている。
が、その洞窟の入り口に今、二人の若者が姿を現していた。
そのうち一人の女性はボロボロの衣服を纏ったまま気を失っており、男の腕に抱かれている。
そしてもう一人の男…もとい、元海賊の頭目でありこの洞窟をアジトにしていたファリスは、遠くに見えるタイクーン城を見て悔しげに顔を歪ませた。
「畜生……。一体何が起こっちまったんだ!!」
ファリスの目に見えるタイクーン城は、周囲を真っ黒い霧で朦々と覆われていた
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』
いなづまこと様作
自らの野望を成就するため二つに別れた世界を一つに戻し、手に入れた『無』の力で全てをゼロに帰そうとした暗黒魔導士エクスデスをバッツ、ファリス、レナ、クルルの4戦士が倒してから約1年後、レナと共にタイクーン城にいたファリスは城を出ていく決意を固めた。
三歳の頃海難事故で両親と離れ離れになって海賊に拾われ、先代の養女になったあげくに後に海賊の親分となってしまったファリスにとって、タイクーン城は確かに生まれ故郷ではあったものの自由気ままな海の人間として振舞えない城内は決して住み易い環境ではなかった。
やれ礼儀作法だ、やれ勉強だ、やれ花嫁修業だと堅苦しい毎日に、ファリスの顔から次第に笑顔が消えていっていたことはレナも気がついていた。自分にとってはかつての日常でありさして苦にもならないことが、姉ファリスにとっては想像を絶する苦行だと思い至った。
だからファリスが一旦城から出て行きたいと言ってきた時、レナは最初応えに逡巡した。
レナとしては、ようやっと姉妹一緒に暮らせるようになったこの日常をそう簡単に手放したくはない。
しかし、そのレナの望みはファリスを心身ともに縛りつけ、ファリスの人生に暗い影を落としている。
自分のエゴにより、姉に苦痛を与えるのはレナとしても本意ではない。なにしろ、ここ数ヶ月、ファリスの公式な場での笑顔をレナは見た覚えがないのだ。そして、レナはファリスから笑いが消えた本当の理由がわかっていた。が、あえてそのことをファリスに問うことはしなかった。
熟慮の末、レナは最終的に自分のエゴより姉の幸せを選択した。これが永遠の別れになるわけではない。
心の健康を取り戻した姉さんは、また自分の前に戻ってきてくれる。
そう思ったからこそ、レナはファリスを快く送り出したのだ。
タイクーン城の裏口から人目をはばかるように出て行くファリスを、レナは姿が見えなくなるまで笑顔で見送っていた。
だが、その心の内は決して笑顔のままではなかった。
ファリスが足取り軽く駆けて行く様を見て、レナの心に少しだけ浮かんだファリスへの疑念。
(もしかしたら、姉さんはもう帰って来ないかもしれない)
(姉さんは、私を捨てて出て行った)
もちろんそんなことありはしない。あってたまるはずがない。レナはその黒い想いをさっと打ち消して城の中に戻っていった。ファリスが出て行ったことをどうやって爺に納得させるかを考えながら。
だが、レナがファリスに向けて思い浮かんだ疑念はこの後もレナ自身も気づくことないままずっとレナの心の中に燻り続けていた。
そして、その小さくも強烈な黒い意思が結果として招かれざる客をこの世界に導く結果となってしまったのだ。
一方城を出たファリスは、真っ先にリックスの町へと向っていった。そこはもちろんあのバッツの生まれ故郷である。
ファリスにとってバッツはエクスデスと闘い世界を救った仲間という以上に、自分が初めて異性として意識した男である。それまで海賊の荒くれ連中の中で頭領として振舞うために女としての自分を消さなければならなかったファリスが、本来の『女』としてのファリスを引き出させてくれたきっかけを与えてくれたのがバッツだった。
長い旅の間に、ファリスは自分より強くしかも心優しいバッツに惹かれ、バッツのほうもファリスを仲間ではなく『女』として見るようになっていった。
だが、エクスデスが滅び世界が平穏を取り戻すと、バッツはファリスの前から去っていってしまった。
本来が風来坊気質であるバッツは、こじんまりした城の中の世界で生きることはできなかったのだ。
ファリスに断りを入れて城を去っていくバッツに、ファリスは自分もついていこうと一瞬だけ考えた。
が、それは叶わぬことだった。
自分は今、海賊の親分ファリスではなくタイクーン王家第一王女サリサとしてこの城にいる。王家の人間である自分が勝手に城を抜け出て、男と一緒に当てもない旅についていくなんて真似をできようはずもなかったのだ。
いや、それでも以前の自分ならそうしたかもしれない。どうせ記憶の隅っこにしか残っていなかっ
た王族の身分など、うっちゃっても全然未練はないものだからだ。
しかし、今のファリスには妹のレナがいる。妹をほっぽって自分だけが逃げるなんてことができるわけない。
だからこそ、ファリスはバッツを黙って見送った。それしか、ファリスの選択肢はなかったのだ。
が、バッツが自分の手から離れた時から、ファリスの見る世界は色を失ってしまった。ファリスにとってバッツは、もはや欠くことのできないほど重要な位置を占める存在になってしまっていた。
(バッツに会いたい!とにかく会いたい!!会いたい!会いたい!)
ファリスはただそのことを悶々と考えながら日々をすごし、果てには体調すら崩しかねない状態になってきていた。
そしてその想いが限界を超えた時、ファリスはレナに頼み込んでタイクーン城を後にしていた。
目的はただ一つ。とにかく少しの間だけでもバッツと一緒にいたい。ただそれだけ。
ただ、そう簡単に会えるとは思っていなかった。相変わらず世界中を旅して周っていると聞くバッツに、リックスに行ったからといって会える保障は全くない。
むしろ空振りにあう確率のほうが高いだろう。
だが、それでもファリスの足はリックスへと向けられていた。どうせいつも根無し草のようにフラフラとしてどこにいるか分からないのだ。それなら、居る可能性が僅かでもあるところに脚が向くのは当然のことである。