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ν賢狼ホロν
「嫌なことなんて、楽しいことでぶっ飛ばそう♪」がもっとうのホロです。
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2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part1 

いなづまこと様の第5作目です。毎週ありがとうございます!!
今回はレナ(FFX)と誰かが悪堕ちしていきます。
いなづまこと様の作品はいつも違ったパターンの悪落ちなので、
本当に素晴らしいです。
それではどうぞ!

注意! この文章には官能的表現が含まれております。
(ご覧になる方は、自己判断でお願いします。)





ここはタイクーン城の北西の、かつて海賊のアジトがあった洞窟。現在では海賊団は解散し、奥には小動物以外誰もいないただの洞窟になっている。
が、その洞窟の入り口に今、二人の若者が姿を現していた。
そのうち一人の女性はボロボロの衣服を纏ったまま気を失っており、男の腕に抱かれている。
そしてもう一人の男…もとい、元海賊の頭目でありこの洞窟をアジトにしていたファリスは、遠くに見えるタイクーン城を見て悔しげに顔を歪ませた。
「畜生……。一体何が起こっちまったんだ!!」
ファリスの目に見えるタイクーン城は、周囲を真っ黒い霧で朦々と覆われていた



『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ

いなづまこと様作



自らの野望を成就するため二つに別れた世界を一つに戻し、手に入れた『無』の力で全てをゼロに帰そうとした暗黒魔導士エクスデスをバッツ、ファリス、レナ、クルルの4戦士が倒してから約1年後、レナと共にタイクーン城にいたファリスは城を出ていく決意を固めた。
三歳の頃海難事故で両親と離れ離れになって海賊に拾われ、先代の養女になったあげくに後に海賊の親分となってしまったファリスにとって、タイクーン城は確かに生まれ故郷ではあったものの自由気ままな海の人間として振舞えない城内は決して住み易い環境ではなかった。
やれ礼儀作法だ、やれ勉強だ、やれ花嫁修業だと堅苦しい毎日に、ファリスの顔から次第に笑顔が消えていっていたことはレナも気がついていた。自分にとってはかつての日常でありさして苦にもならないことが、姉ファリスにとっては想像を絶する苦行だと思い至った。
だからファリスが一旦城から出て行きたいと言ってきた時、レナは最初応えに逡巡した。



レナとしては、ようやっと姉妹一緒に暮らせるようになったこの日常をそう簡単に手放したくはない。
しかし、そのレナの望みはファリスを心身ともに縛りつけ、ファリスの人生に暗い影を落としている。
自分のエゴにより、姉に苦痛を与えるのはレナとしても本意ではない。なにしろ、ここ数ヶ月、ファリスの公式な場での笑顔をレナは見た覚えがないのだ。そして、レナはファリスから笑いが消えた本当の理由がわかっていた。が、あえてそのことをファリスに問うことはしなかった。
熟慮の末、レナは最終的に自分のエゴより姉の幸せを選択した。これが永遠の別れになるわけではない。
心の健康を取り戻した姉さんは、また自分の前に戻ってきてくれる。
そう思ったからこそ、レナはファリスを快く送り出したのだ。
タイクーン城の裏口から人目をはばかるように出て行くファリスを、レナは姿が見えなくなるまで笑顔で見送っていた。
だが、その心の内は決して笑顔のままではなかった。
ファリスが足取り軽く駆けて行く様を見て、レナの心に少しだけ浮かんだファリスへの疑念。
(もしかしたら、姉さんはもう帰って来ないかもしれない)
(姉さんは、私を捨てて出て行った)
もちろんそんなことありはしない。あってたまるはずがない。レナはその黒い想いをさっと打ち消して城の中に戻っていった。ファリスが出て行ったことをどうやって爺に納得させるかを考えながら。
だが、レナがファリスに向けて思い浮かんだ疑念はこの後もレナ自身も気づくことないままずっとレナの心の中に燻り続けていた。
そして、その小さくも強烈な黒い意思が結果として招かれざる客をこの世界に導く結果となってしまったのだ。




一方城を出たファリスは、真っ先にリックスの町へと向っていった。そこはもちろんあのバッツの生まれ故郷である。
ファリスにとってバッツはエクスデスと闘い世界を救った仲間という以上に、自分が初めて異性として意識した男である。それまで海賊の荒くれ連中の中で頭領として振舞うために女としての自分を消さなければならなかったファリスが、本来の『女』としてのファリスを引き出させてくれたきっかけを与えてくれたのがバッツだった。
長い旅の間に、ファリスは自分より強くしかも心優しいバッツに惹かれ、バッツのほうもファリスを仲間ではなく『女』として見るようになっていった。
だが、エクスデスが滅び世界が平穏を取り戻すと、バッツはファリスの前から去っていってしまった。
本来が風来坊気質であるバッツは、こじんまりした城の中の世界で生きることはできなかったのだ。
ファリスに断りを入れて城を去っていくバッツに、ファリスは自分もついていこうと一瞬だけ考えた。
が、それは叶わぬことだった。
自分は今、海賊の親分ファリスではなくタイクーン王家第一王女サリサとしてこの城にいる。王家の人間である自分が勝手に城を抜け出て、男と一緒に当てもない旅についていくなんて真似をできようはずもなかったのだ。
いや、それでも以前の自分ならそうしたかもしれない。どうせ記憶の隅っこにしか残っていなかっ
た王族の身分など、うっちゃっても全然未練はないものだからだ。
しかし、今のファリスには妹のレナがいる。妹をほっぽって自分だけが逃げるなんてことができるわけない。
だからこそ、ファリスはバッツを黙って見送った。それしか、ファリスの選択肢はなかったのだ。
が、バッツが自分の手から離れた時から、ファリスの見る世界は色を失ってしまった。ファリスにとってバッツは、もはや欠くことのできないほど重要な位置を占める存在になってしまっていた。
(バッツに会いたい!とにかく会いたい!!会いたい!会いたい!)
ファリスはただそのことを悶々と考えながら日々をすごし、果てには体調すら崩しかねない状態になってきていた。
そしてその想いが限界を超えた時、ファリスはレナに頼み込んでタイクーン城を後にしていた。
目的はただ一つ。とにかく少しの間だけでもバッツと一緒にいたい。ただそれだけ。
ただ、そう簡単に会えるとは思っていなかった。相変わらず世界中を旅して周っていると聞くバッツに、リックスに行ったからといって会える保障は全くない。
むしろ空振りにあう確率のほうが高いだろう。
だが、それでもファリスの足はリックスへと向けられていた。どうせいつも根無し草のようにフラフラとしてどこにいるか分からないのだ。それなら、居る可能性が僅かでもあるところに脚が向くのは当然のことである。

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part2 

結果として、その賭けは大当たりだった。
ファリスは町に入った途端、たまたま里帰りしていたバッツともろに鉢合わせしたのだ。
二人はそのまま旧交を温め、しばしリックスに滞在した後に二人でタイクーン城に行くことを決めた。
バッツとしても、レナに久しぶりに会ってみたいと思っていたところらしかったのだ。
そして、ようやっとタイクーン城が見えるところまで来たら……
「あれは…、どういうことなんだ?!」
目の前に広がる光景に、バッツとファリスは息を呑んだ。
ファリスの生まれ故郷であり、現在は妹のレナが王となっているタイクーン城の周囲は真っ黒な霧に覆われ、バッツ達からは城の一番高い塔のてっぺんぐらいしか見えてない。
しかも周りには上空を舞うモンスターの姿も細かい粒となって視認でき、今タイクーン城がただごとならぬ状況に陥っているのが見て取れる。
「ファリス、とにかくタイクーン城に急ごう!レナが心配だ!」
「おう!」
バッツとファリスは馬を駆け、タイクーン城を取り巻く黒い霧の中に突っ込んでいった。


ファリスとバッツがタイクーン城に近づくにつれ、その行く手を妨害するかのようにモンスターが二人に襲い掛かってきた。
「畜生!最近は随分と大人しかったっていうのに、なんでこんなに!」
ファリスが剣で周りをなぎ払いながら舌打ちをした。エクスデスを倒して以降、世界中を荒らしまわっていたモンスターたちは気が抜けたように大人しくなり、いわゆる普通の獣のような存在になってしまっていた。
勿論人間を襲うことはあるのだが、以前のように頻繁というほどではなくなっており自衛手段さえきちんとしていればリスクは相当に回避できていた。
だが、今ファリスたちに襲い掛かってきているモンスターたちは、明らかに昔のような悪意に塗れた意思を持ちこちらに向かってきている。それも、どう考えてもタイクーン周辺には出てこなかったような強力なモンスターが大挙して襲ってきているのだ。
「俺が出て行った少しの間に、タイクーンに何が起きちまったっていうんだよ!!」
ファリスがタイクーンを離れていたのはほんの一ヶ月もない間だ。たったそれだけでこれほどまでに環境が変わってしまうのが全く理解できなかった。
「くそっ…。これだったらクルルもいっしょに連れてきていれば……」
バッツはファリスたちと同じく共にエクスデスと戦った仲間のクルルのことを思い出していた。四人の中では最年少のクルルだが、その実力は決してバッツたちに見劣りするものではない。今現在の彼女は、祖父ガラフの後を継ぎバル城の女王となっているはずだった。もしタイクーンに行く途中でバル城によりクルルをいっしょに連れてくれば、レナもきっと喜んだだろうと考えたが後の祭り。
そして、今はそれを途中で思いつかなかったことを心底後悔していた。

「グオーッ!!」

バッツの行く手に二体の巨大な獣のモンスター、アケローンが立ちふさがる。本来次元の狭間にいる魔物がこんなところにいるのはやっぱり普通じゃない。

「バッツーッ!どけーーっ!!」

バッツの後ろからファリスの絶叫が響く。その声にバッツはバッと反応して身を横っ飛びさせるといま自分がいた空間を舐めるように炎の渦が飛んでいき、二体のアケローンをこんがりと焼き尽くした。
ファリスが発したファイガの魔法はそのまま触れるもの全てを焼き尽くし、タイクーンまでの道を真っ直ぐ切り開いてみせた。
「よし!これでタイクーン城まで行ける!」
四方から間断なく襲ってくるモンスターを切り伏せながら、ファリスとバッツは一目散にタイクーン城へと駆け抜けていった。
その先にある、更なる地獄の釜を開きに。

「これは…」
「ひ、ひでぇ……」
ようやっとたどり着いたタイクーン城内に入った途端、バッツは顔をしかめファリスは顔をそむけた。
城内は、地獄だった。
兵士達はところどころでぼろきれのように蹂躙され、無残な骸を晒し上げている。窓ガラスは割られ柱は崩れ、黒く霞む視界の先からは所々で火が出ている。
「なんでだよぉ…。なんでこんなことになっちまったんだぁ!!」
事切れている死体には、ファリスが良く知る人間も多数含まれている。
あまり城の中を知らない自分に親身になって話し掛けてきた兵士。
厨房に入り込んではつまみ食いをし、その仕返しに包丁を投げてきたコック長。
いつも部屋の花を取り替えに来た侍女。
その他その他…
そのどれもが、人間から肉の塊にへと変わり果てていた。
「畜生畜生ちくしょう!!俺たちの城をこんなにした奴は誰だ!!絶対、絶対ぶっ殺してやる!!」
敵を探すファリスの目は憎悪で激しく燃え上がり、復讐すべき相手を捜し求めていた。時折ちょろりと姿を見せるモンスターを一瞬にして切り刻み、次の獲物を探している。
そして今も、廊下の柱から不意を打ってきたモンスターを一刀の下に真っ二つにした。
「どこだーっ!どこにいやがるーっ!!」
あくまでも仇を求めるファリスだったが、そんなファリスの頭に冷や水をかけるものがあった。
「ファリス!今はレナを見つけるのが先だろ!まずはレナの無事を確認するんだ!!」
「ッ?!」
この一言が、血が昇っていたファリスの頭を一瞬にして冷静に戻した。
(そうだ!ここにはまだレナがいるんだ!こんなところで油売っているわけには行かない!)
現時点ではまだレナの安否は確認されていない。これは言い換えればレナがまだ無事かもしれないということを意味している。
勿論逆のこともあるのだが、今回はあえてそれは無視した。助けに行こうというのに死んでいることを前提にするのはあまりにもナンセンスだ。
「ファリス!レナの部屋に行くぞ!!」
「ああ!わかった!!」
バッツとファリスは手を取り合い、レナの寝室がある道を駆け抜けていった。

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part3
「レナ!」
道すがら襲ってくるモンスターをなぎ払い、ようやっとレナの寝室にたどり着きドアを蹴り破ったファリスの視界に、レナを小脇に抱えたモンスターが今にも窓から逃げようとしている光景が入ってきた。
どうやらレナは気を失っているらしく、青白い顔に目を閉じたままぐったりと力が抜けている。
「て…てんめえぇーっ!!レナを離しやがれーっ!!」
今にも妹がかどわかされようとしている状況に、ファリスの頭の血は一気に上りモンスターに向けて突進していった。
「お、おいファリス!」
それを見たバッツも慌ててファリスの後に続いていく。
「ぶもっ?!」
今までファリスが見たこともない、頭が牛の形をしている筋骨隆々としたモンスターはファリスとバッツの乱入に相当驚いたのか、レナをぽいと投げ捨てると手に持った両手斧を構えてファリスを迎え撃とうとした。
「ぶもーっ!!」
牛の怪物の持つ斧から、見るからに重そうな一撃がファリス目掛けて振り下ろされる。まともに受けたら剣ごと骨までへし折られてしまうだろう。
だが、ファリスを捉えるにはその動きは遅すぎた。
「へっ!のろまが!!」
ファリスは横に飛んで怪物の攻撃を難なくかわすと、そのまま剣を怪物の胴体目掛けて突き出した。
「ぶもぉ!!」
斧を振り下ろして体勢を立て直せない怪物に、ファリスの突きは真っ直ぐに胸板に突き刺さった。
が、怪物もどういう筋肉をしているのかファリスの突きは深々と刺さることなく切っ先がほんの数センチ埋まっただけだった。
「ぶ、ぶもーーっ!!」
だが、傷口から青々とした血を派手に噴出した怪物は苦悶の雄叫びを上げると、形勢不利と見たのかそのまま窓から飛び出しベランダ伝いに逃げ出してしまった。
もっとも、ファリスもバッツもそんなものに構うことなく、床に寝転げているレナに真っ直ぐ向っていった。
「大丈夫か、レナ!おいレナ!!」
身体に外傷は特になく呼吸もしているので取り合えず命に別状はなさそうだが、ファリスが懸命に揺すって語りかけてもレナはぐったりとしたまま全く動こうとしない。
「レナ!レナぁ!!」
「落ち着けファリス!今は一刻も早く城から逃げ出すんだ。このままここにいたらどうしようもなくなる!」
バッツの言うとおり、窓の下から見える城下には夥しい数のモンスターが集まってきつつある。もしこのまま城内に残っていたら、とてもじゃないが対抗しきれない。
「で、でも他の皆は……」
昔の記憶がなくても、人生の大部分を外で過ごしていたとしても、この城はファリスにとってはやはり生まれ故郷なのだ。そして、ここには何年もファリスを待っていた人間が多数いたのだ。
その人たちを残して自分たちだけ逃げることに、ファリスは躊躇していた。できるなら、生き残っている人間全員引き連れて脱出したい。
だが時間は刻々と迫っている。ほんの僅かな時間の遅れが、今は致命傷になりつつあった。
だからバッツは冷酷に言い放った。
「だめだ。もうそんな時間はない。他の人たちは幸運があるのを祈るしかない」
一人での長い放浪の経験があるだけあってバッツはその辺の決断は迅速だった。ファリスも海賊を率いていたので決断力がないわけではないが、それ故どうしても『仲間』『家族』を大事にするきらいがあって非情な判断を下すのには躊躇いがちになってしまう。
「ほら急ぐんだ!今ならまだ外に出られる余裕はある!」
バッツはファリスからレナを奪って抱え上げると、駆け足に寝室から飛び出していった。ファリスに何も言わないのは、もう議論をする必要も余裕もないという決意の現れであろう。
「………畜生!!」
ほんの少しの時間震え固まった後…、ファリスは後ろ髪を引かれるような思いで寝室を後にした。
これまでに死んだ、これから死ぬと思われる人間たちに心の中で詫びながら。

幸い、裏に隠し止めていた馬にはまだモンスターの手は伸びていなかった。
「ほらファリス。しっかり抱えているんだぞ!」
バッツはファリスの馬にレナを預けてから、自分の馬の手綱を解き放った。
どうやら自分が先頭に立ち、ファリスとレナの血路を開くつもりのようだ。
「いいか、もし俺が遅れても決して助けようとするな。全力で逃げるんだ。いいな!」
「そんな?!俺だって……」
「レナを抱えているのを忘れるな!俺なら一人でもどうにかなる。なにがあっても絶対に馬を止めるんじゃないぞ!」
そう言うなり、バッツを馬を走らせ始めた。行く先には、バッツたちの気配を察して集まり始めたモンスターが十重二十重と。
「うおおおぉっ!!」
馬の上からバッツが剣を振るう。その斬檄にたちまちモンスターの一角が崩れ、突破口が作り出されていく。
「いいなファリス!もし俺とはぐれたら、お前達二人だけで先にクルルのいるバル城へ行くんだぞ!」
「くそぅ…死ぬなよバッツ!お前が死んだら俺は、俺はよぉ!!」
その突破口目掛けてファリスが馬を突っ込ませていく。たちまちのうちに周りは血飛沫と怒号と悲鳴に包まれ、自分が前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかすらもわからなくなってきている。
「ちきしょう!ちくしょう!ちくしょう!!」
前を進んでいるはずのバッツの姿が、いつのころからか確認できなくなってきている。だが、バッツとの約束から決して馬を止めることはなく、脱出路を目指しひたすら突き進んでいる。
(死ぬなよバッツ!死ぬんじゃねえぞ!!)
こうなってはもうファリスはバッツの無事を祈るしかなく、レナをしっかりと抱えながらもみくちゃになったタイクーン城下をひたすら駆け続けていた。
そんな大混乱の中、意識がないはずのレナの口元が不自然に上に釣りあがっていた。
が、逃げるのに夢中のファリスがそれに気づくことはなかった。

そしてようやっと包囲網を抜け出した時にはファリスは完全にバッツとはぐれていた。
「大丈夫だ……。あいつは絶対大丈夫だ。どうにかなるって、言っていたじゃないか……」
もしかしたら、先にアジトの洞窟に向っているのかもしれない。ファリスはそう納得し、先を急いだ。
「そうさ。俺が行ったら先についていたバッツが『遅かったな』っていって迎えてくれるんだ。
あいつは昔からそういう奴さ。いつもこっちを驚かせやがるんだ……だいたいあいつは……」
ファリスは自らにそう言い聞かせ、心の平静を保とうとした。
そうでもしないと、先に心が参ってしまいそうだったからだ。

だが、ファリスがアジトに辿り着いた時、そこにバッツはいなかった。バッツが乗っていたはずの馬もどこにもいなかった。
「……バ……そんな……
いいや!あいつが死ぬはずがない!あいつがこんなことで、ことで……!」
そうだ。待とう。もしかしたら少し遅れているだけかもしれない。どうせ落ち合うところはここと決めてあるのだ。しばらくしたら、きっとケロッとした顔でやってくるに違いない。
ファリスはとりあえず奥にあるアジト跡に引っ込み、まだ残っていたベッドにレナを寝かせて自分は洞窟の入り口辺りに身を伏せた。
こうすれば、もしタイクーンの方からモンスターがやってきてもすぐに引っ込んで地底湖から船をだせるし、また少しでも早くバッツを視界に捉えたいという意味もあった。
「まったく…おいバッツよぉ……。ちんたらしてるんじゃねえよ……」
そのままファリスはバッツの帰還を待ち続けた。


2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part4

が、とうとう日が沈んでもバッツが戻ってくることはなった。
「早く…、早く来いよ……。来いってんだよバッツ!!もう待ちくたびれたぞ!
もう俺たち二人でバル城に行っちまうぞ?!いいのかよぉ!!」
モンスターに見つかるかもしれないのに、ファリスは叫ばずに入られなかった。
こんなことで、自分が愛する人間が目の前から消えてしまうことにファリスはとても耐えられなかった。
(俺とはぐれたら、二人だけでバル城へ行くんだぞ!)
バッツが別れ際に叫んだ言葉がファリスの脳内にわんわんと反射している。
正直、ファリスが一人だけだったらそんな言葉を無視してタイクーン城へ戻っていただろう。
というより、先に逃げずにバッツの傍に寄り添い運命を共にしていたに違いない。
だが今ファリスには妹のレナがついている。自分ひとりが死ぬのはどうでもいいが、レナを巻き添えにするのだけは絶対に許されないことだ。
「……今は、バル城へ行くのが先か……」
そしてクルルに事情を説明し、バル城の兵力をあわせてタイクーン城を解放しに行く。
そしてそこで、バッツの仇を……
「違う!あいつは死んでない!絶対に死んでなどいるものか!
俺はバッツを見捨てていくんじゃない。絶対にどこかに逃げ延びているバッツを後で迎えに来るんだ。
だから今は、レナを連れてバル城へ逃げ延びるんだ。それをバッツも望んでいるんだ!」
口ではそう言っているものの、もうバッツの生存が絶望的なのはファリスにもよく分かっている。
ぎりぎりと噛み締めている唇から血がだらだらと零れ落ちている。
バッツを失った悲しみ。
それは父親、シルドラを目の前で失った時よりはるかに大きいものだった。
「とにかく…レナを起こして……」
奥で眠っているはずのレナを連れて、まずはここから……と思いながらファリスがアジトの地下に戻ってくると…
「あ、姉さん……」
そこにはすっかり顔色の良くなったレナが佇んでいた。
「あ…レナ!起きたのか……!」
「ええ。でも、ここって確か姉さんが海賊だった時の住処よね。何で私、こんなところに……」
そこまで言ってから、レナの顔が見る見るうちに青く染まっていく。どうやら、タイクーン城を襲った惨劇を思いだしたようだ。
「そう、だ…。突然、空が真っ暗になって、あたり一面からモンスターが現れて、
たちまち城の中に入ってきて……みんな……みんな………?!」
「ああ。俺たちが見たとき、タイクーン城はもう真っ黒い霧に覆われていた。
そこから、何とかレナだけは助け出せたんだが、バッツは、バッツは……」
「バッツ?!バッツがどうかしたの?!」
「ああ、実は……」
ファリスは、現在までいたる経緯をレナにかいつまんで説明した。
「バカだよな。自分ひとりなら何とかなるって言ってさ、一人でモンスターの群れに飛び込んでさ……なに言ってやがんだっての。結局戻ってこれなかったじゃねえか……
そんな背伸びしたことしてんじゃ、ねえよ……。こんなあっさり や、やられ  やられちち   …」
つい今まで軽口を叩いていたファリスの顔に見る見るうちに涙がたまり、口元が変な痙攣を起こしてきている。
「なあレナ、あいつバカすぎ…   …。一人で勝手に格好つけて   … し、 し しん    …」
「姉さん…」
「しん しんじ…死んじまうなんてよぉーーーっ!!うわあぁ〜〜〜っ!!」
とうとう我慢が出来なくなったのか、溜めた堰が決壊するかのようにファリスはレナに抱きつきながら大声を上げて泣き叫び始めた。
「なんで、なんでこんなことになっちまったんだぁ〜〜〜〜っ!!ひどすぎるよぉ〜〜〜〜っ!」
顔をレナの胸に埋め泣きじゃくるファリスを、レナは無言で抱きしめその頭を優しくなでていた。
これだけ見るとどっちが姉だかわかりはしない。
「可哀相な姉さん…。とっても、とっても辛かったのね……
私じゃバッツの代わりになれないと思うけど……、ずっと姉さんの隣にいてあげるね……」
「あぁ……あぁぁ……レ゛ナァァ……」
「ずっとずっと、永遠に姉さんの傍にいてあげる……そう」


私がバッツなんか忘れさせてあげる


「……レ、レナ……?」
ファリスを抱きしめるレナの腕にぎりぎりと力が込められていっている。あまりの強さにファリスの顔がレナの胸に埋まり、呼吸すらしんどくなってきている。
「ちょ…。レナ、苦しい……離して……」
「いや。ここで離したら姉さんはまたどこかに行ってしまう。私を置いてどこかに消えてしまう!
男を漁りに、私から離れてしまうの!!」
レナが発する声にしだいに黒いものが混じりだしてきている。ファリスを掴む腕の力はますます力を増し、頭蓋骨からミシミシと軋む音が聞こえてきているほどだ。
「や、やめろ……レナ……!離せ!!」
身の危険を感じたファリスは、渾身の力をこめ自分の身体をレナから引き剥がした。抱きしめられていた頭からザッと血が引き、軽い頭痛が起こっている。
「何をするんだいきなり………?!」
いきなりの仕打ちにさすがに怒ったファリスがレナを見たとき、途中でファリスの言葉は詰まってしまった。
ファリスを見るレナの瞳は尋常でない輝きを放っている。
それは憎悪であり嫉妬であり…、決して人間には出せるはずもない強烈な光だった。
「また、逃げるのね……」
レナがぽそりと喋った。
「また私を捨てて逃げるのね……。自分だけがいい想いをしたくて、ただ一人の血を分けた私を捨てて、いずこへなりと逃げるのね。
そして、別天地で男を作って酒色にふけるのね!許さない!許さない!!そんなの許さない!!」
「レナ……」
レナが発するあまりにも強い憎しみの炎に、ファリスは無意識に後ずさってしまった。こんなに薄ら暗い感情を爆発させるレナを、ファリスは今まで見たことがなかった。
「そんなことはさせない!姉さんは私のもの!未来永劫、私のもの!
もう絶対に逃がしはしない!姉さんは、私のものなんだぁーっ!!」
洞窟が壊れるかとくらいの大声を出したレナの容姿が、ファリスの目の前で見る見るうちに変わっていく。



皮膚の色が薄灰色に変化し、所々がぬめりを帯びた鱗で覆われていく。
額の天辺からは毒々しい赤色をした角が伸び、背中からは大きな翼、腰からは尻尾が生えてきている。
瞳は瞳孔が縦長に伸び、虹彩は狂気と淫気を帯びた紅色に変化し、耳元からは小さい翼状のものが伸びている。
その姿は、まるで人間と竜をいびつに融合させたようなものだった。
「レ、レナ……。その姿は……」
目の前で起こったことを、ファリスは受け入れることが出来なかった。
ついさっきまで妹だったものが、いきなりモンスターに変化してしまったなんて到底信じれるはずがない。
「…姉さん。私ね、姉さんが出て行った夜からずっと思っていたのよ。
なんで私の前から姉さんがいなくなるのか。せっかく再会した肉親なのに、それより大事なものがあるのかって……」
レナだったものはファリスを憎々しげに睨み付けている。自分の前から消えたファリスを心底怨んでいるようだ。
「それで私は考えたの。私に力がないから、逃げていく姉さんを止めることが出来なかったんだって。
だから私は空にお願いしたの。姉さんを引き止めることの出来る力が欲しい。
姉さんを私だけのものに出来る力が欲しいって……そうしたらね」
レナだったものはファリスに黒く歪みきった笑みを送った。
「空から声が聞こえてきたの。私の願いを叶えてくれるって。
城の人間全ての命と引き換えに、私の願いを叶えてくれるってね……」
「?!レ、レナ……まさか……」
その答えを聞くのがファリスは恐かった。あのレナが、そんなことを受け入れるなんて考えたくもなかったからだ。
だが現実は非情である。
「もちろん受け入れたわよ!!
城の人間全員を生贄にすれば、私の願いが叶うんならそうしないわけないじゃない!!
一言言ったわよ!『この城の人間全部差し上げます』ってね!!そうしたらあのお方…ダークサタン様はきちんと約束を叶えてくださったわ!
だってこの私にくれたんですもの!姉さんを、いや人間全てを蹂躙できる素晴らしい身体を!!」
レナはその場で新しい体をファリスに見せ付けるようにくるっと一回転した。
「バ、バカヤロ……。お前、そんなことのためにタイクーン城の人間全員殺したっていうのか?!」
ファリスが憤るのももっともだ。ファリスは確かにバッツを愛していたが、それと同じくらいにレナも大事にしている。どっちのほうが上かなんて比べられるものではない。
それをレナは、ファリスを独占したがためだけにエクスデスもかくやという大虐殺をしたことになる。
これはファリスにとって決して許されるものではない。
「そうよ!姉さんを手に入れるためなら他の人間なんかどうなってもいい!
私には姉さんだけいればいい!他の人間なんていらない!」
が、レナは体だけでなく心までモンスターに変わってしまっておりそんなことは気にもしていないようだ。
「だから、私は姉さんがいるリックスにモンスターたちを率いて攻め込んで、姉さん以外は皆殺しにしようとしていたの。でも、姉さんがこっちに向っているのを知って考えを変えたわ…」
レナの顔が邪悪に微笑む。
「姉さんの目の前で、バッツと離れ離れにして姉さんを一人ぼっちにする…
姉さんも分かったでしょ?大好きな人間が目の前で来て、孤独になる寂しさが……アハハハァ!」
「なんだと?!じゃあまさか最初から……」
「当たり前でしょ?!私だけが無事だったなんて不自然に思わなかったの?!私が生きていたと安心して頭の芯までボケちゃったの?!
そんな都合のいいこと、よく考えたらあるわけないのに!!キャーッハッハッハ!!」
目の前で馬鹿笑いをするレナを見て、ファリスはわなわなと肩を振るわせた。
これは最初から罠だったのだ。ファリスただ一人を捉えるための、一国を使った壮大な罠。
「許さねぇ……許さねえぞレナ!よくもバッツを……タイクーンのみんなを!!」
ファリスは怒りに燃えた瞳をレナに向け、腰にかけた剣を抜き放った。
目の前にいるモンスターを、ファリスは既にレナとは思っていなかった。
「うふふ!そうよ姉さん、私だけを見て!愛も怒りも憎しみも、ただ私だけに向けて!!」
「黙れ!もうお前なんか妹じゃねえ!この場でぶった切ってやる!!」
ファリスは剣に黒魔法ブリザガの力を込め、レナとの間合いをじわりと詰めた。レナは以前から魔法系の力は得意だが肉弾戦は苦手にしていたはずだから、一気に勝負を賭ける腹積もりでいた。
だが、そんなファリスをレナは余裕を持って待ち構えていた。
「ふふっ、そこから一気に間合いを詰めて私を切るつもり?
甘いわよ姉さん!追い詰められたのは姉さんのほうなんだから!!」
「なんだと………」

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part5
バァン!!

レナの言葉に訝しんだファリスの背後から、突如物凄い衝撃が走った。
「うあっ!!」
不意をつかれたファリスはたちまち前のめりに吹っ飛び、ブリザガを込めた剣もあらぬ方向に飛んでいってしまった。
「な、なんだ………ハッ?!」
苦しげに顔をゆがめたファリスが周りを見ると……
なんとアジトの周囲をすっかりと囲むほどのモンスターが現れてきた。
しかも、そのどれもこれもが今までファリスが見たこともないようなものだった。
曰く、人間の顔から大蛇が伸びているようなもの。
曰く、脚が八本生えている怪馬。
曰く、人間の胴体に巨大な口が開いている頭のない物体。
曰く、足元が無数の触手で構成されている蟹。
そして、レナの後ろから出てきた全身が金色に光り輝くレナのように竜と人間が融合したような妖女と、その横につれそうどこかで見たような牛人間。



「ご苦労でしたねレナ。これでダークサタン様も大層喜ばれることでしょう」
「ありがとうございます。セイバー様」
レナは目の前の妖女に深々と畏まった。どうやら、セイバーと言う名前らしい。
「始めまして。私はダーククロス・淫魔竜軍軍団長セイバー。そこのレナの上司にあたる者です」
セイバーは地面に横たわるファリスに慇懃無礼にお辞儀をした。
「あなたの妹君はたいした方で、たった一人でこの国一つを滅ぼす決断をしてくださりました。
おかげで我々としても当面の侵攻がとても行いやすくなり、我らがダークサタン様もひどく喜ばれておいでです。
そして貴方はそこのレナがこれはと一押しした人間。本来なら、快楽に包まれ悦びのなかで我らが一員へと変えるところなのですが……」
あくまで顔に笑顔をたたえたままセイバーはファリスへと近づき…、
笑顔のままファリスの顔を思い切り踏みつけた。
「ぐっ!」
「な・の・で・す・が、私のモンタに傷をつけた以上、そうは問屋が卸さないのです」
セイバーは後ろにいる牛男〜ミノタウロスのモンタにちらと視線を送る。
するとモンタは「ぶもぉ」と鳴き、照れくさそうに頭を掻いた。
「ですから貴方には、まずモンタの素晴らしさをその体に教えて差し上げましょう。
どうせ、既に男を咥えている体なのでしょう?そんな男の記憶なんか、一瞬にして消え失せてしまいますよ…
モンタ、存分に恨みを晴らしなさい。貴方を傷つけた、不遜な女にね」
「ぶもーっ!」
それは恨みを晴らせる嬉しさなのか、それとも女を抱ける嬉しさなのか、モンタは喜び勇んでファリスの元へと駆けつけてきた。
そのいきり立った逸物を見て、ファリスの顔が真っ青になる。
「や、やめろ!!そ、そんなもの入るわけない!」
「大丈夫です。彼は毎日毎日私を悦ばせてくれます。問題はありません」
それはお前が化物だから…、なんていう暇もなくファリスはモンタに両足を掴まれ、強引に股を開かされた。
「うわーっ!バカーッ!!やめろやめろ!!やめてくれぇーっ!!」
「前戯なんて必要ありません。そんなことをしなくてもモンタのモノを受け入れればすぐに気持ちよくなってしまいますから…」
泣き叫ぶファリスに、セイバーは無慈悲に宣告した。その顔は明らかにファリスの醜態を面白がっているように見える。
「やめろやめろ!レナ!助けて……」
ついさっきまでは殺す気満々だったレナにファリスは救いの手を伸ばしたが、レナもファリスをニヤニヤと見るだけで何もしようとはしない。
「ぶもーっ!!」
「うわーっ!いやだぁ……があっ!!」

メリメリィッ!

絶対に、何かが裂ける音がした。そうファリスは確信した。
モンタが勢いよく突き入れたペニスは、ファリスの小さい陰唇を強引に引き裂き奥までずっぷしと刺し入った。
「が…    ぐぁ     …」
まるで焼けた鉄棒をねじこまれたような感覚に、ファリスは大きく口を開いたままパクパクと声にならない悲鳴を上げていた。
「さあモンタ、思い切りシェイクするのです。その女から思考というものを奪って差し上げなさい」
「ぶもぉーっ!!」

バンッ!バンッ!バンッ!!

それは腰と腰が当る音と言うより、つるはしか何かで岩を砕くような音だった。
セイバーはすぐに気持ちよくなるといったが、そんなものは毛ほども湧いてこない。むしろ、今にも自分が壊されるんじゃないかという思いのほうが大きくなっている。
「ぶもーっ!ぶもーっ!ぶもーっ!!」
モンタのほうはファリスの体を堪能しているようで、その顔は快楽に染まっている、ように見える。
牛の顔のどういうものが快楽の表情なのか、残念ながら普通の人間にはわからない。
「うふふ。そうですかモンタ。その女の中はそんなに素晴らしいですか……」
モンタとファリスの情事をセイバーは興味深そうに眺めていた。
その顔にはいまだに笑顔が張り付いているが、心なしか口元が引きつっているように見える。
「いだぁ……いだいぃ!とめてぇ……」
セイバーに顔を踏みつけられ、下半身をモンタに陵辱されながら、ファリスはか細い声で必死に止めてくれと訴えかけていたが、二人はそんなことお構い無しにその手を休めようとしない。
見るとレナもファリスの痴態を見て興奮したのか、下腹部に手を入れて荒い息を吐きながら自慰を行っている。
自分の不様な姿が妹に見られていることよりも、それを妹のオカズにされていることにファリスは深いショックを受けていた。
「うあぁ……レナァァ……
バッツ……バッツゥ……助けてくれ。助けてくれよぉ……」
もういないバッツに、ファリスはうわ言のように助けを求めた。
バッツなら、バッツならきっと自分を今の境遇から救い出してくれる。まるで本の中の英雄のように、今まで何度もピンチの時に現れてなんかしてくれたのだ。
今回だってきっとそうだ。そうに違いない。いま自分が苦しんでいるのも、そうなった時の心の爽快感をより引き立たせるためのスパイスなのさ……
バッツに救いを求めるファリスの目からは光が失われている。もう現実から目をそむけ、夢と願望の世界に心を預けないとファリスという個が消滅しかねないほどの精神的ショックを受けていたのだ。
そしてそんな心の中に逃げ込んだファリスを許すようなレナではなかった。
たとえ夢の中でも、ファリスとバッツが一緒にいるというのがレナには耐えられなかった。



「うふふ、姉さん。そんなにバッツに会いたい?」
恐らく聞こえてはいないと思うが、腕を弄り続けながらレナはファリスに語りかけてきた。
「実は……、バッツはまだ生きているんですよ。姉さん」
「………、うぁ…?」
『バッツ』が『生きている』。
この言葉にファリスは僅かに反応した。
「だって、バッツはかつて私たちと一緒にエクスデスを倒した大切な仲間じゃないですか。
なんでそう簡単に殺したりしますか?そんなことをする血も涙もないような私に見えますか?」
レナの顔は、一見すると心底バッツのことを案じているように見える。
だが、その目は意地悪く笑っておりその言葉が上辺だけの嘘っぱちだというのは明らかだ。
「だから私、セイバー様に頼んでバッツを殺さないようにって言っておいたんです。
そう。殺さないで……」
クスクス笑っているレナがすっと体を横に動かす。
すると、奥に並んでいる魔物の群れも左右に分かれ、隠していたものをファリスの視界に飛び込ませてきた。
それは…

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part6

「あっ!あああぁっ!!気持ちいいっ!!」

それは、全裸に剥かれたバッツが多数の女性型モンスターに貪られている構図だった。
その下半身は蛇の下半身を持つラミアによって埋められ、ぐにぐにとした腰使いから多量の精をこ削ぎ取られており、溢れ出した精液がラミアの胴体の隙間からダラダラと零れ落ちてきている。
上半身には頭だけが人間の蛇ウロボロスが纏わりつき、大きい口から伸びた牙をバッツに埋め、快楽を与えると共にその血を吸い取っている。
さらに数匹の人魚が周りにたかって、バッツの肌をぺろぺろと舐めしゃぶっている。
「ひあっ!凄いぃ!もっと、もっとおぉ…っ!」
女モンスターのされるがままに任せ、快楽を貪るバッツの顔にはファリスが知っている精悍さは微塵もない。
そのあまりに酷い姿に、ファリスの目に光が僅かながら戻ってきた。
「ひっ……バ、バッツゥ……?!」
バッツのほうからも、モンタに組み伏せられているファリスの姿は見えているはずだ。
だがバッツはファリスには目もくれず、自分のものを咥えているラミアの下半身をギュッ掴み、ぐいぐいと自らの腰に押し付けていた。
「ですから殺さないで、私たちの体をたっぷりと味あわせてあげたんですよ!
とってもとっても気持ちいい、姉さんなんか眼中にも入らなくなるほどの魔物の快楽をね!
ほら見て姉さん!バッツのあの気持ちよさそうな顔を!
目の前で姉さんが犯されているというのに、全く気にしないで自分の快楽を貪っているんですよ!
なんて浅ましいのかしら!ねえ、姉さん!」
「ひ、ひぃぃ……」
もう二度と会えないと思っていた恋人に再会できた。本来なら諸手を上げて喜ぶべき場面であろう。
だが、『今』『この場面』というのははっきり言って最悪だった。
自分は化物に犯され身動きが取れず、相方は自分の目の前で化物に犯され歓喜の表情を浮かべている。
こんな姿をバッツに見せたくはない。あんなバッツをこっちは見たくなかった。
「あはは…、あへぇぇ………?」
快楽で緩みきったバッツの視線が、偶然かファリスの姿を捉えてきた。
モンタに下半身を貫かれているファリスの無残な姿がバッツの脳内に飛び込んでくる。
「や、やめろバッツ……。見るな、こんな俺の姿を見るなあぁぁっ!!」
それは恥ずかしさからか、それとも申し訳なさからか、ファリスは目を閉じながらバッツに対して訴えかけていた。
だが、心の中では淡い期待もしていた。
このままバッツが自分の姿を見て正気を取り戻し、自分を助けてくれる、という実に都合のいい期待を。

しかし、現実はやっぱり非情である。
「………も、もっとぉ…。もっと動いて!もっと吸って!もっと舐めて!!
まだ足りない!もっと、もっともっともっともっと気持ちよくしてくれぇ………!」
ファリスの姿を、バッツはまるで興味ないと一瞥してから自分に絡むモンスターたちに更なる奉仕を要求した。
もちろんモンスターたちはその願いをかなえるべくさらに淫らに蠢き始めた。
「見るな!見るな………っ?!」
ちらっと薄目を明けたファリスは、自分などいないかのように女モンスターとの狂宴に明け暮れるバッツを見て激しいショックを受けていた。
「バ、バッツ……?!
た、助けてくれよ!お願いだ!助けてくれ、助けてくれバッツゥーッ!!」
だがいくらファリスが声を上げようとも、バッツは振り向く気配すらない。完全に女モンスターがもたらす肉の快感に取り込まれ、それ以外のことを考えられないようになっている。
「あ、あああ……バッツゥ……。バ ッ    ツ………」
いくら叫んでも何のリアクションも起こさないバッツを見て、ファリスの顔から次第に表情が消えていった。
今度はさっきのように夢の世界に逃げたわけではない。
それこそ完全に、完膚なきまでに『ファリス』という人間の心が破壊されてしまったのだ。

「ぶ、ぶ、ぶもぉーーっ!!」

それと同時に、上り詰めたモンタがファリスの体内に大量の精液をぶち撒けたが、ファリスは特に反応するでもなくピクリとも動かないままその熱い精を子宮内で受け止めた。
「ふふっ、どうでしたか?モンタのモノは。あの世に昇るような心地よさで……む?」
セイバーの言葉にもファリスは全く反応しない。時折体をピクッと振るわせる以外は人間っぽい仕草はなにもしていなかった。
「むう、どうやら壊れてしまったみたいですね。まあ、肉体的にはそれほどのものではないので問題はないでしょう。
モンタ、もう離れなさい」
セイバーに諭され、モンタは名残惜しそうにペニスを引き抜きセイバーの傍らに寄り添った。
「…なに物足りなさそうな顔をしているのですか。これは、ちょっと貴方に指導をする必要がありますね……」
セイバーはモンタの腕をむんずと掴むと、そのままアジトの館の一つにずかずかと進んでいった。
「レナ、その女のことは後は貴方に任せます。煮るなり焼くなり好きにしなさい」
いきなりファリスの処遇を任され、レナは慌てふためいてしまった。
大体こういうのは軍団長あたりがダークサタンの一部を召還し、魔精と魔因子を注ぎ込むのが通例だと以前セイバーに聞いているからだ。
「えっ?!セイバー様、どこに行くんですか?何をする気ですか?!」
「私はこれから、モンタに自分の立場を知らしめる指導を行います。
私たちが出てくるまで誰も、決してこの扉を開けてはいけません。私たちを呼ぶことも許しません。
もしこれを破るものがいたら…、即、抹殺します」
そう言ってセイバーは扉をばたりと閉め、内側から鍵をかけてしまった。相変わらずいい加減な軍団長である。
「まったく……。でも…」
そのやっつけぶりに少し閉口したレナだったが、力なく蹲っているファリスを見てそんな思いはどこかに吹き飛んだ。
考えてみれば、自分の手で姉を淫怪人に出来るのだ。これほど喜ばしいことは他にない。
「フフフ……。私が、私が姉さんを……。私だけを見る、私だけの姉さんに……」
顔を淫靡に染めながらファリスに近づくレナの下腹部から、ダークサタンの触手が粘液を纏わりつかせながらズルズルッと競り出して来た。
これでファリスを犯して魔精と魔因子を注ぎ込めば、ファリスは淫怪人に生まれ変わる。
「本当なら、淫魔卵を入れて完全な奴隷にしたいけれど…、三回目はさすがに自重しろっていわれそうだし…」
どこかの心の声を代弁しながら、レナはファリスの腰に手を当て触手の先端をピトッとファリスの壊れかけた膣口にあてがった。
「姉さん……優しく、優しく抱いてあげます。
そして、姉さんの心の中をすべて私に染めてあげますね……ククク!」
レナは、虚空を眺めているファリスに顔を近づけて唇同士を重ねた後、ゆっくり、ほんとうにゆっくりとまるでファリスの体を隅々まで味わうかのようにその触手を埋めていった。



その際も全く肉体的反応を見せなかったファリスの目に、つぅっと一筋の涙が流れていった。
それが果たして本当の涙なのか、それとも飛び散った粘液の飛沫かはわからないのだが。

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part7
「………」
ファリスがゆっくりと目を開いた時、目の前にはにこやかに、だが邪悪さを満面にかもしだしているレナの笑顔があった。
「………」
どうしたことか、さっきまであれほどおぞましかったレナの姿が、今はとても愛しく感じられる。
「おはよう姉さん。そしておめでとう。
見てみる?姉さんも立派にダーククロスの淫怪人になれたのよ」
レナが手鏡を出し、ファリスの姿を映し出してきた。



その姿は、首の付け根に三筋のえらがぱくぱくと動き、深水色に染まった体のあちこちに鱗が浮かんでいる。
肩口や耳元からは透明なひれが艶かしく生え、口からは鋭い牙が覗いている。
それは、まるで魚が人間の姿をとったような姿だった。
「これが……俺……」
ファリスは人外になった自分の姿を、隅々までなめるように見回した。
そして、自分の詳細がわかるにつれふつふつと笑いが込み上げてきた。
「そうか……これが、俺なのかぁ……。ハ、ハハハ………」
魚のようになった自分。
それはなんて自分に相応しい姿だろうか。
自分は最近まで海と共に生きてきた。その自分が海の生き物になるというのは、ある意味当たり前のことなのだ。
鋭く生え揃った牙。これで肉を引きちぎればどれほど旨い味がするだろう。
猛々しく伸びたひれ。ひと薙ぎすれば人間ぐらいなら容易く切り裂くことが出来る。
この滑った艶かしい体。これを見ればどんな人間でも篭絡され体を求めてくるに違いない。
「ハ、ハハハハ!!凄いぞ!この体凄すぎる!!」
高らかに笑ったファリスの瞳には、レナと同じ淫気と狂気があわさったダーククロスの淫怪人独特の淫らな輝きが放たれていた。
「アハハハ!レナ、ありがとうよ!俺をこの姿にしてくれて!!
今まで人間やってた俺は一体なんだったんだ?!こんな素晴らしい世界があったなんて、ついさっきまでは思いもしなかったぜ!!」
「そうでしょ姉さん。私はいつだって姉さんの幸せだけを思っているのよ。
だから、タイクーン城の人間全てを生贄にしたのも、バッツと姉さんを引き離したのも、すべては姉さんにとってよいと思ったからそうしたの。私の気持ち、わかってくれるよね?」
「ああ!ああ!!分かるぜ!レナが俺のことをどれだけ考えているってのがたっぷりとな!
そうさ!人間なんてのはしょせん俺たちのおもちゃなんだ。しかも、タイクーンの人間は俺たちに仕える連中だ。どう扱おうが自由って訳だよな!クククククッ!!」
さっきまでアレほどレナの行いを避難してきたファリスも、淫怪人になって心の根本が捻じ曲げられてしまったからか、それがさも当然のことと考えるようになっていた。
「そう!俺はファリス!淫水魔ファリス!!
この世界の人間全てを蹂躙し、ダークサタン様に捧げるのが使命なんだ!
レナ、やろうぜ!人間もモンスターもなにもかも、この世界全てをダーククロスのものに!」
「そう、それでいいのよ姉さん。それでこそ、私が愛する姉さんよ…」
身も心も完全にダーククロスに堕したファリスに、レナは顔を赤く染めながら抱きつき、その唇をチュッと奪った。
「んっ?!ん………」
最初は驚いたファリスだが、そのままレナを受け入れ互いに舌を絡めあい長い時間ディープキスを堪能した。
「ぷぅ……。じゃあレナ、早速他の国をダークサタン様に捧げに行こうじゃないか。どうせこの世界に俺たちに立ち向かえる人間なんてバッツとクルルぐらいしかいないんだ。
そして、バッツが俺たちの肉人形になっている現在、クルルのいるバル城さえ堕してしまえば、あとは簡単に全世界を淫に染めることが出来るさ!」
ああしようこうしようと勢いづくファリスだが、逆にレナは少し浮かない顔をしていた。
「そうね。でも……」
そう言って、レナはある館をちらっと見た。
それは、さっきセイバーとモンタが入っていった館である。
「一応、淫略は軍団長の指揮のもとに行われることになっていて…
で、今セイバー様はあの中に引き篭もって出てこないから……。今はちょっと……」
「なんだ、そりゃ」
時折ぎしぎしと軋む館を、ファリスとレナは呆れた顔で眺めていた。



セイバーが館に入って6時間…、いまだに閉ざされたドアが開くことはなかった…




文責 178





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