2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part2
結果として、その賭けは大当たりだった。
ファリスは町に入った途端、たまたま里帰りしていたバッツともろに鉢合わせしたのだ。
二人はそのまま旧交を温め、しばしリックスに滞在した後に二人でタイクーン城に行くことを決めた。
バッツとしても、レナに久しぶりに会ってみたいと思っていたところらしかったのだ。
そして、ようやっとタイクーン城が見えるところまで来たら……
「あれは…、どういうことなんだ?!」
目の前に広がる光景に、バッツとファリスは息を呑んだ。
ファリスの生まれ故郷であり、現在は妹のレナが王となっているタイクーン城の周囲は真っ黒な霧に覆われ、バッツ達からは城の一番高い塔のてっぺんぐらいしか見えてない。
しかも周りには上空を舞うモンスターの姿も細かい粒となって視認でき、今タイクーン城がただごとならぬ状況に陥っているのが見て取れる。
「ファリス、とにかくタイクーン城に急ごう!レナが心配だ!」
「おう!」
バッツとファリスは馬を駆け、タイクーン城を取り巻く黒い霧の中に突っ込んでいった。
ファリスとバッツがタイクーン城に近づくにつれ、その行く手を妨害するかのようにモンスターが二人に襲い掛かってきた。
「畜生!最近は随分と大人しかったっていうのに、なんでこんなに!」
ファリスが剣で周りをなぎ払いながら舌打ちをした。エクスデスを倒して以降、世界中を荒らしまわっていたモンスターたちは気が抜けたように大人しくなり、いわゆる普通の獣のような存在になってしまっていた。
勿論人間を襲うことはあるのだが、以前のように頻繁というほどではなくなっており自衛手段さえきちんとしていればリスクは相当に回避できていた。
だが、今ファリスたちに襲い掛かってきているモンスターたちは、明らかに昔のような悪意に塗れた意思を持ちこちらに向かってきている。それも、どう考えてもタイクーン周辺には出てこなかったような強力なモンスターが大挙して襲ってきているのだ。
「俺が出て行った少しの間に、タイクーンに何が起きちまったっていうんだよ!!」
ファリスがタイクーンを離れていたのはほんの一ヶ月もない間だ。たったそれだけでこれほどまでに環境が変わってしまうのが全く理解できなかった。
「くそっ…。これだったらクルルもいっしょに連れてきていれば……」
バッツはファリスたちと同じく共にエクスデスと戦った仲間のクルルのことを思い出していた。四人の中では最年少のクルルだが、その実力は決してバッツたちに見劣りするものではない。今現在の彼女は、祖父ガラフの後を継ぎバル城の女王となっているはずだった。もしタイクーンに行く途中でバル城によりクルルをいっしょに連れてくれば、レナもきっと喜んだだろうと考えたが後の祭り。
そして、今はそれを途中で思いつかなかったことを心底後悔していた。
「グオーッ!!」
バッツの行く手に二体の巨大な獣のモンスター、アケローンが立ちふさがる。本来次元の狭間にいる魔物がこんなところにいるのはやっぱり普通じゃない。
「バッツーッ!どけーーっ!!」
バッツの後ろからファリスの絶叫が響く。その声にバッツはバッと反応して身を横っ飛びさせるといま自分がいた空間を舐めるように炎の渦が飛んでいき、二体のアケローンをこんがりと焼き尽くした。
ファリスが発したファイガの魔法はそのまま触れるもの全てを焼き尽くし、タイクーンまでの道を真っ直ぐ切り開いてみせた。
「よし!これでタイクーン城まで行ける!」
四方から間断なく襲ってくるモンスターを切り伏せながら、ファリスとバッツは一目散にタイクーン城へと駆け抜けていった。
その先にある、更なる地獄の釜を開きに。
「これは…」
「ひ、ひでぇ……」
ようやっとたどり着いたタイクーン城内に入った途端、バッツは顔をしかめファリスは顔をそむけた。
城内は、地獄だった。
兵士達はところどころでぼろきれのように蹂躙され、無残な骸を晒し上げている。窓ガラスは割られ柱は崩れ、黒く霞む視界の先からは所々で火が出ている。
「なんでだよぉ…。なんでこんなことになっちまったんだぁ!!」
事切れている死体には、ファリスが良く知る人間も多数含まれている。
あまり城の中を知らない自分に親身になって話し掛けてきた兵士。
厨房に入り込んではつまみ食いをし、その仕返しに包丁を投げてきたコック長。
いつも部屋の花を取り替えに来た侍女。
その他その他…
そのどれもが、人間から肉の塊にへと変わり果てていた。
「畜生畜生ちくしょう!!俺たちの城をこんなにした奴は誰だ!!絶対、絶対ぶっ殺してやる!!」
敵を探すファリスの目は憎悪で激しく燃え上がり、復讐すべき相手を捜し求めていた。時折ちょろりと姿を見せるモンスターを一瞬にして切り刻み、次の獲物を探している。
そして今も、廊下の柱から不意を打ってきたモンスターを一刀の下に真っ二つにした。
「どこだーっ!どこにいやがるーっ!!」
あくまでも仇を求めるファリスだったが、そんなファリスの頭に冷や水をかけるものがあった。
「ファリス!今はレナを見つけるのが先だろ!まずはレナの無事を確認するんだ!!」
「ッ?!」
この一言が、血が昇っていたファリスの頭を一瞬にして冷静に戻した。
(そうだ!ここにはまだレナがいるんだ!こんなところで油売っているわけには行かない!)
現時点ではまだレナの安否は確認されていない。これは言い換えればレナがまだ無事かもしれないということを意味している。
勿論逆のこともあるのだが、今回はあえてそれは無視した。助けに行こうというのに死んでいることを前提にするのはあまりにもナンセンスだ。
「ファリス!レナの部屋に行くぞ!!」
「ああ!わかった!!」
バッツとファリスは手を取り合い、レナの寝室がある道を駆け抜けていった。
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