2009年02月12日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編) part2
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編)
いなづまこと様作
「でたーっ!悪魔が出たぞーっ!!」
副都心から少し離れた広大な緑溢れる公園の中でダーククロスの戦闘員達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。
所々につい数分前まで行動を共にしていた仲間の死体が転がっているが、そんなものにかまっている暇はない。
なにしろ、次の瞬間には自分がそれと同じにされてしまうかもしれないのだから。
"バーン!バーン!"
後ろなど振り向きもせず木々の間を抜けて、少しでも悪魔から見つからないようにと逃げている戦闘員Aの後方から大きな銃声が聞こえる。今日戦闘員達は銃を持ってきてはいないので、撃たれているのは間違いなく自分の仲間だ。
だが、戦闘員Aにとってはそれはある意味歓迎すべき事態だった。自分以外の誰かが悪魔をひきつけていれば、自分がここから逃げられる可能性が増すというものだから。
だが、そんな戦闘員Aの思惑は無残にも打ち砕かれた。
手入れをするものも無くすっかり荒れ果てた緑地を抜け、公園の出口が見えるところまで走ってきた時、戦闘員Aの逃げ道を塞ぐかのように、文字通り上空から悪魔が降ってきた。
全身白尽くめの悪魔はその手に分相応に大きい刀を握り締め、戦闘員Aを冷たい瞳で睨んでいる。
「ヒ、ヒィッ!!」
何とか逃げ切れたと思った直後に現れた白い悪魔に、戦闘員Aは恐怖で顔を真っ青にし情けない悲鳴を上げてしまった。
だが彼女を責めることは出来ないだろう。なにしろ目の前にいる白い悪魔は自分たちよりはるかに戦闘能力が高い淫怪人すら相手にならないほどの強さを持っているのだ。噂によればダークサタン様すら退かせた事があるという。
そんな化物に狙われてしまっては、どう考えても生き延びれるはずが無い!
「ダーククロス戦闘員を確認。抹殺します」
白い悪魔・ハクが持つ刀が白い輝きを帯び始める。高熱を発したその刀で切られたら、ただ切られるのとは比較にもならない苦痛が戦闘員Aを襲うのは間違いない。
もちろんハクが持つ刀は普通の状態でも戦闘員や淫怪人は容易く切り裂く威力を持っている。なのに発熱機能まで持っているのはひとえにハクたちの生みの親である鎧健三の意図が込められているのだ。
ただ殺すだけでなく、極限まで苦痛と絶望を与えながら命を絶つ。ダーククロスへの復讐のみに心を奪われている健三の偏執的なまでのダーククロスへの憎しみが生み出した結果と言える。
もちろん、健三はハクとコクに戦闘員や淫怪人を殺す際は出来るだけ相手に恐怖を与えるようにということを徹底させている。
ハクたちが相対した際に『抹殺する』と発するのも、その意図に基づいたものなのだ。
そんな偏執狂の創った戦闘少女にロックオンされた戦闘員Aは不幸というほか無い。
「な、なんでよ?!何でお前達は私たちダーククロスを付け狙うのよ!
私たちは人間に苦痛ではなく悦びを与えているのよ!いいことをしているのよ!それなのになんでぇ?!
お願い!見逃して!!助けてくれたら、あなたにとってもいい事してあげるからさぁ!!」
進退窮まった戦闘員Aは、手前勝手な理屈を並べてハクに向かい必死に命乞いをしてきた。
今までハクとコクに相対した戦闘員たちに生存者が一人もいないという現実は今の戦闘員Aには考慮の埒外だった。
おそらく、これまでハクたちに狩られた戦闘員にも同様のことをした者がいたはずなのに。
「ねえねえ!私、女の子も旨く扱うことが出来るのよ?!今までだって、たくさんの女の子にとってもいい思いをさせてきたんだからさ!だから、剣を収めて私といい事しよ!ねぇったらぁ!!」
ハクの関心を引こうと戦闘員Aは身振り手振りを加えてなんとかハクを篭絡しようと試みる。
だが哀しいかな、ハクにそういったことは当然の事ながら全く通用しなかった。
ハクは戦闘員Aの言うことに何の関心も示さずつかつかと歩み寄り、熱されて刀身が真っ白になった刀をぴゅん、と横に薙いだ。
「おねが…!」
近づいてきたハクの手をとろうとした戦闘員Aの右手が、肘のところからばっさりと吹っ飛んだ。
そして次の瞬間、焼け付くような熱さと痛みが戦闘員Aの全神経を暴れまわった。
「い……?!うがあああぁぁっ!!!」
腕を切られた戦闘員Aは、左手で右腕を抑えもんどりうって転げ回った。
切断面からは血が出てこない。ハクの刀の発する高熱で、傷口が炭化してしまっているのだ。
「熱い!痛い!熱い痛いイタイ熱いーーっ!!」
陸に上げられた海老のように転げる戦闘員Aに、刀を逆手に持ったハクが近づいてきた。
その顔は相変わらず、何の感情の色も彩らせてはいない。
ハクにはダーククロスへの憎しみも怨みも、痛みにのたうつ戦闘員への同情も憐憫もない。
ハクの心にあるのはただ一つ『ダーククロスを抹殺する』。それだけであった。
「抹殺します」
バシュ
ハクの刀が戦闘員の頭蓋へと振り下ろされ、哀れな戦闘員Aは脳への衝撃と高熱により瞬時に絶命した。
自分が死ぬ瞬間の恐怖を感じることがなかったのは、意図ではなかったにせよハクが与えた情けだったのかもしれない。
「…当該戦闘員の生命活動停止確認。次のターゲットに目標を変更します」
目の前で動かなくなった戦闘員だったものを一瞥すると、ハクはこの公園内にまだまだたくさんいる逃げ惑う戦闘員を狩りに森の中へと消えていった。
今日に限って何故か大量の戦闘員がハクとコクの前に現れてきている。最近はハクたちを恐れて副都心界隈には誰も近づきはしなかったのだが、あまり目撃例が無かったので逆に油断したのだろうか。いまだ公園の中にはハクの換算で10体以上の戦闘員がいる。まるで、ハクたちに狩られるためにいるように。
もっとも、ハクやコクにはダーククロスにどのような思惑があろうと関係は無かった。彼女達はただただ目の前のダーククロスの戦闘員を狩る。それ以外のことには興味なく、それ以外のことを考えることもなかった。
「敵味方不明行動体、前方約250m。音紋照会……照合。
ダーククロス戦闘員確認。抹殺します」
ハクの手に持った刀が高熱を帯び始める。再び、死の鬼ごっこが始まろうとしていた。
いなづまこと様作
「でたーっ!悪魔が出たぞーっ!!」
副都心から少し離れた広大な緑溢れる公園の中でダーククロスの戦闘員達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。
所々につい数分前まで行動を共にしていた仲間の死体が転がっているが、そんなものにかまっている暇はない。
なにしろ、次の瞬間には自分がそれと同じにされてしまうかもしれないのだから。
"バーン!バーン!"
後ろなど振り向きもせず木々の間を抜けて、少しでも悪魔から見つからないようにと逃げている戦闘員Aの後方から大きな銃声が聞こえる。今日戦闘員達は銃を持ってきてはいないので、撃たれているのは間違いなく自分の仲間だ。
だが、戦闘員Aにとってはそれはある意味歓迎すべき事態だった。自分以外の誰かが悪魔をひきつけていれば、自分がここから逃げられる可能性が増すというものだから。
だが、そんな戦闘員Aの思惑は無残にも打ち砕かれた。
手入れをするものも無くすっかり荒れ果てた緑地を抜け、公園の出口が見えるところまで走ってきた時、戦闘員Aの逃げ道を塞ぐかのように、文字通り上空から悪魔が降ってきた。
全身白尽くめの悪魔はその手に分相応に大きい刀を握り締め、戦闘員Aを冷たい瞳で睨んでいる。
「ヒ、ヒィッ!!」
何とか逃げ切れたと思った直後に現れた白い悪魔に、戦闘員Aは恐怖で顔を真っ青にし情けない悲鳴を上げてしまった。
だが彼女を責めることは出来ないだろう。なにしろ目の前にいる白い悪魔は自分たちよりはるかに戦闘能力が高い淫怪人すら相手にならないほどの強さを持っているのだ。噂によればダークサタン様すら退かせた事があるという。
そんな化物に狙われてしまっては、どう考えても生き延びれるはずが無い!
「ダーククロス戦闘員を確認。抹殺します」
白い悪魔・ハクが持つ刀が白い輝きを帯び始める。高熱を発したその刀で切られたら、ただ切られるのとは比較にもならない苦痛が戦闘員Aを襲うのは間違いない。
もちろんハクが持つ刀は普通の状態でも戦闘員や淫怪人は容易く切り裂く威力を持っている。なのに発熱機能まで持っているのはひとえにハクたちの生みの親である鎧健三の意図が込められているのだ。
ただ殺すだけでなく、極限まで苦痛と絶望を与えながら命を絶つ。ダーククロスへの復讐のみに心を奪われている健三の偏執的なまでのダーククロスへの憎しみが生み出した結果と言える。
もちろん、健三はハクとコクに戦闘員や淫怪人を殺す際は出来るだけ相手に恐怖を与えるようにということを徹底させている。
ハクたちが相対した際に『抹殺する』と発するのも、その意図に基づいたものなのだ。
そんな偏執狂の創った戦闘少女にロックオンされた戦闘員Aは不幸というほか無い。
「な、なんでよ?!何でお前達は私たちダーククロスを付け狙うのよ!
私たちは人間に苦痛ではなく悦びを与えているのよ!いいことをしているのよ!それなのになんでぇ?!
お願い!見逃して!!助けてくれたら、あなたにとってもいい事してあげるからさぁ!!」
進退窮まった戦闘員Aは、手前勝手な理屈を並べてハクに向かい必死に命乞いをしてきた。
今までハクとコクに相対した戦闘員たちに生存者が一人もいないという現実は今の戦闘員Aには考慮の埒外だった。
おそらく、これまでハクたちに狩られた戦闘員にも同様のことをした者がいたはずなのに。
「ねえねえ!私、女の子も旨く扱うことが出来るのよ?!今までだって、たくさんの女の子にとってもいい思いをさせてきたんだからさ!だから、剣を収めて私といい事しよ!ねぇったらぁ!!」
ハクの関心を引こうと戦闘員Aは身振り手振りを加えてなんとかハクを篭絡しようと試みる。
だが哀しいかな、ハクにそういったことは当然の事ながら全く通用しなかった。
ハクは戦闘員Aの言うことに何の関心も示さずつかつかと歩み寄り、熱されて刀身が真っ白になった刀をぴゅん、と横に薙いだ。
「おねが…!」
近づいてきたハクの手をとろうとした戦闘員Aの右手が、肘のところからばっさりと吹っ飛んだ。
そして次の瞬間、焼け付くような熱さと痛みが戦闘員Aの全神経を暴れまわった。
「い……?!うがあああぁぁっ!!!」
腕を切られた戦闘員Aは、左手で右腕を抑えもんどりうって転げ回った。
切断面からは血が出てこない。ハクの刀の発する高熱で、傷口が炭化してしまっているのだ。
「熱い!痛い!熱い痛いイタイ熱いーーっ!!」
陸に上げられた海老のように転げる戦闘員Aに、刀を逆手に持ったハクが近づいてきた。
その顔は相変わらず、何の感情の色も彩らせてはいない。
ハクにはダーククロスへの憎しみも怨みも、痛みにのたうつ戦闘員への同情も憐憫もない。
ハクの心にあるのはただ一つ『ダーククロスを抹殺する』。それだけであった。
「抹殺します」
バシュ
ハクの刀が戦闘員の頭蓋へと振り下ろされ、哀れな戦闘員Aは脳への衝撃と高熱により瞬時に絶命した。
自分が死ぬ瞬間の恐怖を感じることがなかったのは、意図ではなかったにせよハクが与えた情けだったのかもしれない。
「…当該戦闘員の生命活動停止確認。次のターゲットに目標を変更します」
目の前で動かなくなった戦闘員だったものを一瞥すると、ハクはこの公園内にまだまだたくさんいる逃げ惑う戦闘員を狩りに森の中へと消えていった。
今日に限って何故か大量の戦闘員がハクとコクの前に現れてきている。最近はハクたちを恐れて副都心界隈には誰も近づきはしなかったのだが、あまり目撃例が無かったので逆に油断したのだろうか。いまだ公園の中にはハクの換算で10体以上の戦闘員がいる。まるで、ハクたちに狩られるためにいるように。
もっとも、ハクやコクにはダーククロスにどのような思惑があろうと関係は無かった。彼女達はただただ目の前のダーククロスの戦闘員を狩る。それ以外のことには興味なく、それ以外のことを考えることもなかった。
「敵味方不明行動体、前方約250m。音紋照会……照合。
ダーククロス戦闘員確認。抹殺します」
ハクの手に持った刀が高熱を帯び始める。再び、死の鬼ごっこが始まろうとしていた。
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