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2019年11月01日

書評−TEN



今回の「TEN」楡周平氏には何回泣かされた事か。久しぶりにそのくらい
感動した作品です。この作品は学生の皆さんや社会人になったばかりの人に
、是非とも読んでいただきたいと思います。

この作品を読んで最初に感じたのは、柴田錬三郎氏の「図々しいやつ」でし
た。時代設定も、ストーリーも勿論異なりますが、立身出世物語で読後感が
極めてさわやかな点は、大変良く似ています。ただ「TEN」のほうが戦後
すぐの設定なので、今の若い人にも共感を呼ぶのではないかと思います。

話のスタートは戦後の横浜ドヤ街。中卒で定職にも就かず、当たり屋をして
いた主人公の「TEN」こと小柴俊太に、俊太の兄の友人の麻生寛司が声を
かけ仕事を世話してやる。奉公先の料亭「川霧」で下足番となった俊太が、
ムーンヒルホテルの御曹司月岡の靴磨きをしたことがきっかけで、月岡の専
属運転手となる。

その後社員となって最初の仕事が経理課といっても、業務は未払い金の回収。
命がけでやくざの親分の付けを回収したりと実績を上げるが、成果は上司に
横取りされる始末。しかしめげずにホテルの夏枯れ対策のキャンペーンで、
尋常ではない実績をたたき出し、課長に昇進。

そして運転手時代に月岡家で住み込んでいた時のお手伝いの文枝と晴れて結婚
する事に。その結婚式の経験から、もっと安い料金で結婚式専門の式場を展開
すれば、ホテルでは敷居の高い若者たちにアピールするのではと、社長に就任
した月岡に提案。その仕事、ムーンヒル・ウエディングパレスの成功で、子会
社パレスの社長となる。

次の難関は、月岡社長がグループ全体のPRの為プロ野球球団の買収。それに
伴う球場の建設。しかも建設費用は他社に持たせ、その上球場は市に寄付せよ
という無茶振り。そしてこれも文枝のアイデアで何とか成功させると、今度は
本社の取締役に抜擢される。

しかし順風満帆だったのもここまで、事業の拡大とともにアメリカへのホテル
進出の為アメリカに赴任していた先輩の麻生寛司が、世界最大級の米国資本の
ハミルトンホテルとの合弁会社を立ち上げた辺りから、話がだんだんきな臭い
ものとなっていきます。

この後は月岡社長の有価証券虚偽記載問題、ハミルトンによる乗っ取り、そして
一番信頼していた部下の裏切りなど、まさにノンストップムービーの如きストー
リー展開。果たして俊太の運命はというところですが、ここから先は本編を読ん
でのお楽しみ。

この本のすごいところは、単に読んで面白いと云う事以外に、仕事とは何か、生
きるとは何か、経営とは何か、恩義とは何かなどの根源的なテーマに、具体的に
踏み込んでいるところだと思います。本当に若い人にこそ是非にでも読んでほし
いと思います。それでは又。

TEN




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2019年08月01日

書評−キリングクラブ



今回は「エウレカの確立」シリーズでおなじみの石川智健氏の小説です。
タイトルの「キリングクラブ」とは、殺し屋のクラブと言うことではなく
て、キリングには殺人という意味のほかに、大儲けという意味もあるそう
で、サイコパスで尚且つ著名人になった人達のクラブと言う事だそうな。

出だしからストーリーがやや荒唐無稽なので、ほんまかいな?という疑念
がどうしても先行してしまいがちだが、読み進むにつれて、ひょっとする
と本当にあるのかもという感覚になって来るので不思議だ。

かなり長いストーリーなので、簡単に説明するが、主人公はフリーライタ
ーの佳山藍子。友人の千沙の紹介で、キリングクラブの給仕の仕事を引き
受ける。そのクラブは千代田区のどこかの地下にあり、会員と従業員以外
はその存在も場所も知らない秘密のクラブ。幸い藍子は採用され給仕とし
て働くが、仕事はただ会員に飲み物だけを運ぶ事。そして仕事初日に、フ
リーランス・ジャーナリストで会員の青柳祐介に、ビールジョッキを倒し
てしまい、一連の連続殺人がここからスタートする。

一人目はジャーナリストの青柳祐介、二人目はの仮想通貨コインブラザー
ス社長の高瀬和彦、三人目は弁護士の中里真吾、いずれもキリングクラブ
の会員で、著名なサイコパス。しかも全員が生きたまま開頭され、偏桃体
を取り出されているという。そしてその間にクラブ会員ではないが、葬儀
社の戸塚秋稔も又、開頭されて殺されていた。

そこで一躍犯人候補に浮かんだのが、同キリングクラブ会員で手術狂と異
名のある脳神経外科医の國生明。手術の腕は超一流だが、出世の為なら妻
との離婚も辞さないという、自分勝手なサイコパス。ところがこの國生明
も患者を助けようとして、電車に轢かれてしまう。國生の場合は事故との
判断だが、実は現場に思わぬ人物の顔が。

この作品のストーリー展開で面白いのが、被害者の一人一人の章があり、
その章の中で各自のサイコパスとしての具体的な物語があり、その結果と
して殺されてしまうという形式をとっていることです。

さて話はいよいよ大団円に向かって突き進んで行く訳ですが、ここから刑
事辻町、香取、藍子が入り乱れ、いろいろな仕掛けや藍子の過去なども明
らかになり、又藍子のクラブに採用された本当の理由が明白になっていき
ます。本当の犯人は?キリングクラブの実態はといろいろ興味が出てくると
ころですが、これから先は読んでのお楽しみと致しましょう。
それでは又。

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2019年07月16日

書評−あしたの君へ



またまた書評で恐縮です。作者の柚月裕子氏については、以前に「検事の使命」などの
書評を書いていたように思っていたのですが、完全に私の錯覚で、今回が初めてでした。
そして今回の「あしたの君へ」については、家裁調査官補の物語なので、従来の検事・
検察物ほど重くはなく、気軽に読めそうと勝手に解釈していましたが、とんでもござい
ません、失礼いたしましたという内容の濃いものでした。丁度良い機会になりましたの
で、改めて紹介させていただきたいと思います。

内容は5話から作られておりまして
   @ 背負う者 (17歳 友里)
   A 抱かれる者 (16歳 潤)
   B 縋る者 (23歳 理沙)
   C 責める者 (35歳 可南子)
   D 迷う者 (10歳 悠真)

夫々が、けっこう考えさせられる重いテーマを持っています。詳しくは読んでからのお楽
しみという事ですが、現代に蔓延する普遍的なテーマとでもいうものでしょうか。大きく
共通するのは、家庭・家族です。そこにそれぞれ病気、夫婦関係、親子関係、離婚問題な
どが複雑に絡み合って、人間関係をより修復不可能なものにしてしまう。それに気後れし
ながらも、果敢に立ち向かっていく家裁調査官補の物語です。

主人公は望月大地。裁判所職員採用総合職試験に合格し、現在は福森市で2年間の養成課
程研修の真っ最中。同僚の藤代美由紀、志水、先輩の溝内、上司の真鍋、露木などのかか
わりの中で、時に喧嘩し、悩み、諭され、元気づけられしながら、自分では自信の持てな
い家裁調査官という仕事について戸惑う事ばかり。そんな大地に次々と解決が難しいと思
われる案件が降りかかる。果たして大地の運命は?

この本を読んで痛切に感じたのは、当事者同士でも関わりたくない親子問題、家族問題、
夫婦問題、その他諸々の家庭・家族に関する事案に、真摯に寄り添っている家裁調査官と
いう職業があり、そういう人たちが現実にいるんだという事。つまり今までは離婚調停、
あっ、家庭裁判所ねという軽い感覚で、家裁調査官という人がいる事も、他人の事案にこ
れほどかかわって仕事している事も、全く知らなかったという反省です。

正直やりがいのある仕事であるし、第3章の理沙の言葉で「自分では問題を解決できずに、
調停委員や家裁調査官という他人に、頼るしかない人間もいるの。望月君も、頑張って悩
んでいる人の力になってあげて」という泣かせるシーンもあるが、お前にやれるかと問わ
れれば、例え資格があったとしても考えてしまう程、重い仕事です。

毎度の事ですが、柚月さんの小説には本当によく泣かされます。でもその後はとても清々
しい気分になります。それでは又。

あしたの君へ (文春e-book)




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43年勤めた会社を退職し、趣味でやっていた株式投資三昧の毎日。そんなに贅沢し美食したわけでもないのに、50歳から痛風予備軍と高血圧症。長年の医者通いにうんざりし、医療費節約も兼ねて、薬の個人輸入を始める。
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