2021年03月14日
NHKドラマ1本7,900万円 紅白は非公表・・・問われる改革・公共性
NHKドラマ1本7,900万円 紅白は非公表・・・問われる改革・公共性
3/14(日) 9:45配信 3-13-4
東京・渋谷のNHK放送センター
受信料値下げ等業態改革がこれ迄に無く迫られるNHK。今後3年間でのスリム化を宣言して居るが、テレビを持って居れば受信料の契約締結を余儀無くされる側からすれば、大河ドラマから紅白歌合戦迄各番組にどの位の費用が投じられて居るかは気に為る処。この先、番組がどう変わるのかも含め、公表資料を基に聞いてみた。
記事 読売新聞オンライン 旗本浩二
スリム化目指すNHK 制作総量を削減
NHKが1月に公表した21〜23年度の経営計画は、剰余金が1,200億円超に迄膨らんで居る事から受信料の値下げばかりが注目された。しかし、そもそも受信料はNHKが事業を行う上での原資。事業の中で最もウェートを占めるのが番組制作費だ。詰り、“改革”と云うなら、番組一つひとつを精査する必要が在る筈だ。
この点、同計画では「スリムで強靭(きょうじん)なNHKに向けた番組経費などの見直し」を表明。「制作の総量を削減し、夫々のコンテンツの質を高める」とした上で、チャンネル毎に行って来た従来の番組管理を、ジャンル毎の管理に変更。内容の重複を見直し、コストの査定を厳しくすると云う。
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(写真:読売新聞)
では、一体、番組にはどの位の制作費が投じられて居るのだろう。これに付いては、毎年1月に公表される次年度予算の説明資料の中で、掲載の別表の様に「番組区分」「1本あたりの制作費の目安」「主な番組名等」を対比して公表して居る。出演料等の直接制作費に人件費、機材費を含んだ金額だ。
これを見る限り、1本当たり60万円程で出来るものがある等、趣味・実用、福祉番組と云ったジャンルは相対的に安く作れる様だ。だが、娯楽番組と為ると訳が違う。ドラマでは1本7900万円の作品があり、エンターテインメント・音楽のジャンルでも3,540万円と云う金額が記されて居る。
横に並ぶ番組名を見ると「矢張り俳優や歌手の出演料が高いのだろうな」と勘ぐってしまうが、これ以上の情報開示は無い。表に例示される「大河ドラマ」「チコちゃんに叱られる!」の他「 NHKスペシャル」「紅白歌合戦」等の具体的な制作費を広報局に尋ねた処、
「個別の番組単価は、編集権に深く関わるものであり、原則として公表して居ません。視聴者の皆さまから頂いている受信料をどの様な形で番組の制作に充てて居るかに付いて、より理解を深めて頂く事を目的としてジャンル毎に1本当たりの制作費の目安を公表しています」
「篤姫」5,910万円 「合点」は1,680万円
「紅白歌合戦」の優勝旗 NHKの看板番組の制作費は今もって非公表
隔靴掻痒(かっかそうよう)な思いも募るが、実は06〜08年度は個別番組の制作費が公表されて居た。08年度をみると、大河ドラマ「篤姫」は1話当たり5,910万円。音楽番組では「BS日本のうた」が3,290万円「NHK歌謡コンサート」が2,460万円だった。
現在の「ガッテン!」の前身「ためしてガッテン」は1,680万円とされて居る。処が翌年度から、番組と制作費を対応させ無い現在の公表方式に切り替わった。その理由は矢張り「編集権と深く関わる」からだ。
ちなみに「紅白歌合戦」に付いては、以前の方式でも一切公表されて居ない。昨年12月に行われた担当チーフ・プロデューサーによる説明会でも「番組予算に付いては、お答えを控えさせて頂きます」と、サラリと受け流されてしまった。
BSチャンネル削減は好判断
番組の評価は主観に基づくものであり、出演者や演出を含め作り手の裁量、まさに編集権だ。只、昨今のNHKの番組に関しては、民放的な内容・演出への批判、宣伝が過剰だとの指摘がある。内部からも「ドラマが多過ぎる」「アイドルに偏り過ぎ」等の声が上がる。
勿論「NHKスペシャル」「ETV特集」と云ったドキュメンタリーの他、文化庁芸術祭等での受賞ドラマ等、民放とは一線を画す作品が連打されて居るのは言う迄も無い。
その意味では、今回の経営計画で23年度中に現在四つあるBSチャンネルを一つ削減する方針を打ち出したのは、“スリム化”実現に向けた好判断だ。放送枠が減れば、嫌でも番組を減らさざるを得無いからだ。
と云っても未だ先の話で、来月からの21年度に番組編成がどう変わるのかは、今一つ見えて来ない。2月の放送総局長記者会見で公表された資料には、幾つかの新番組が示されているが、その他は「新しいNHKらしさを追求する番組開発ゾーン」を総合テレビの夜の時間帯に年50本規模で設けることや、ジャンル別の番組管理として「高品質コンテンツを合理的コストで」と記されている程度だ。
70年で変わった公共放送の役割
どんな番組をどの程度の費用で制作するかに付いて視聴者が気にするのは、その原資と為る受信料の契約締結義務が課されて居るからだ。放送法64条は「協会(日本放送協会=NHK)の放送を受信する事の出来る受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をし無ければ為ら無い」と規定。NHKが映るテレビを持っている以上、幾ら番組が気に入ら無くても受信料契約から逃れられ無いのだ。
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21〜23年度の経営計画を発表する前田晃伸・NHK会長(1月13日)
受信料は「公共放送を維持運営する為の特殊な負担金」と位置付けられて来た。17年の最高裁判決は「特定の個人や団体、国家機関から財政面での支配や影響が及ば無い様、NHK放送を見られる環境に在る人に広く公平に負担を求めたもの」とも指摘。「公共放送」コソが受信料の前提だ。
現在の公共放送NHKは1950年、放送法により誕生し、受信料制度もその際に盛り込まれた。当時はラジオ受信に適用されたが、テレビ放送が53年に開始された事を受け、そちらも対象と為った。その後、68年にラジオ受信料が廃止され、テレビのみの受信料として続いている。
と云う事は「受信料によって支えられる公共放送」は、戦後間も無い頃の社会状況を踏まえて生み出されたと云える。
その頃と比べれば、メディア状況は激変し、取り分け、民放が未成熟だったテレビ黎明(れいめい)期にNHKが担った、国民への娯楽や教養情報の提供と云った役割は大きく変容して居る。
その意味では、先ずは公共放送の「公共」とは何か、NHK自身が改めて検証すべき時期に来ている。これは、今回の経営計画で強調されている「新しいNHKらしさの追求」に集約される。だが、それが何なのかは判然としない。
尋ねてみても「メディア環境や視聴者行動が大きく変化する中、受信料で成り立つ公共メディア・NHKで無ければ出来ない事、NHKだけが出来る事を、もう一度、一つひとつきちんと見詰直す」等の回答に留まった。
視聴率獲得だけが公共への貢献か
民放も含めた放送の公共性に付いては、議論が活発に為りつつある。今月5日にオンライン開催されたNHK放送文化研究所のシンポジウム「いま改めて“公共”とは何かを考える」では、データサイエンスが専門の宮田裕章・慶大教授が「公共と云うものをどう定義して放送を作って居るのか。多くの場合は視聴率等しか見て居ない。それによって本当に公共に貢献したと言えるのか」と指摘。
多くの人に番組を届けると云う従来の視点だけで無く「個を捉えて具体的な問い掛けを行って行くべき」と提案した。
個別具体的な社会問題の解決に向け、これ迄以上に踏み込んだ番組。そこに公共性を見い出そうと云うのだろう。
これに付いて、福島県いわき市の地域活動家、小松理虔(りけん)さんは「放送により一つの答えを示さ無くても好い。問い掛けて、それに付いて僕らが考える余白のある姿勢が求められている」と発言。
「問いが社会の動きを生んで新しいコミュニケーションに繋がり、そこにメディアが並走して行く」と新たな役割を示した。
ニュースやドキュメンタリーに限らず、ドラマも情報番組も含め、NHKの原点はこの「公共性」を、広告放送を行う民放とは異なる次元で自問自答する事にある。番組の同時配信や関連団体の整理等改革の各論は在ろうが、国民・視聴者が受信料契約を断れ無い以上、現代日本の公共放送の在るべき姿について、もっと判り易く説明して欲しい。
以上
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