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2020年04月28日

安倍政権の「鎖国政策」最早自殺行為に等しいと言えるワケ




 安倍政権の 「鎖国政策」最早自殺行為に等しいと言えるワケ

           〜現代ビジネス 町田 徹 4/28(火) 8:01配信〜


          042805.jpg

              経済ジャーナリスト 町田 徹氏

              外資系企業から守ると言うが・・・

 安倍政権は、悪法・改正外為法の適用対象に医薬品と医療機器のメーカーを加えて、外資に依る買収を厳しく規制する方針・・・と報じられて居る。
 新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行に乗じて、欧州等で企業買収攻勢を掛けて居るとされる中国の影に怯えたらしい。しかし、ソモソモ日本に守るべき医薬品メーカーや医療機器メーカーが存在するのかさえ疑問だ。

 一方で、新型コロナウイルス感染症危機は、2030年代に為っても日本の経済成長を5%程度引き下げる履歴効果を残すとの予測も出る程、日本経済に深刻な影響を及ぼして居る。2030年代には日本経済はマイナス成長に転落すると云う。
 そんな時に、貿易や自由な資本取引を経済の立て直しに活用せずに、江戸時代の様な鎖国を目指す安倍政権の改正外為法政策は、国民経済と暮らしに取って自殺行為に為り兼ねない。

 事実上の安倍政権・鎖国政策強化を伝えたのは、4月23日(木曜日)付の日本経済新聞朝刊1面の「外資買収規制、医薬品・医療機器を対象に」と云う記事である。それに依ると、安倍政権は、医薬品・医療機器メーカーを、5月に施行する改正外為法の規制対象に加えて、外資系企業による買収から厳格に保護すると云う。
 感染症に関わるワクチンや医薬品・人工呼吸器等の高度医療機器を改正外為法の「安全保障上、特に重要な業種」に追加して、中国企業等による買収を事実上阻止すると云うもので、世界的な争奪戦が懸念される医薬品・医療機器の国内への安定供給を確保する狙いがあると云うのである。

 これは「令和の鎖国」だ

 この記事にある「5月に施行する改正外為法」は曲者だ。保護主義的で「令和の鎖国」に繋がると言わざるを得ないのだ。改正外為法が可決・成立したのは、昨年11月の事。原子力・電力・通信等安全保障分野に関わるインフラ企業への外国資本による出資の規制を強化すると云う触れ込みで、従来10%以上出資する場合に必要だった「事前届け出」の対象を1%以上に引き下げるものだ。
 又、既に出資した日本企業に、重要な事業の売却や役員の選任を提案する時も、今後は「事前届け出」の対象にすると云うものだ。

 その後、所管官庁のひとつ財務省は、3月半ばに改正外為法の政省令案を発表。外国金融機関等規制の例外を示す一方で、一般の外国人投資家が1%以上の出資を計画して居る場合に国への事前届け出が必要に為る業種として、武器・航空機・宇宙・原子力・軍事転用可能な汎用品の製造・サイバーセキュリティー・電力・ガス・通信・上下水道・鉄道・石油の12業種を定める方針を明らかにした。実際には、上場企業400〜500社が対象に為ると観られ、政府は社名リストを公表するとして居る。
 そして、報道に依ると、新型コロナウイルス感染症のまん延の結果、政府は医薬品や医療機器の重要性が高まって居るとして、12業種に上乗せする方針を固めた様だ。
 安倍内閣は4月24日(先週金曜日)、外為法改正に伴う政省令や告示に付いて閣議決定を行い、同法を5月8日に施行し、6月7日から全面適用する事を最終決定した。只、上場企業の内どの会社が規制に当て嵌るかのリスト公表に付いては、当初予定の4月中から5月8日に延期した。

 世界各国で外資規制の流れ

 規制強化の背景とされるのが、EU(欧州連合)や米国の動きだ。何れも、中国企業の買収攻勢等を警戒したもので、EUは昨年、安全保障を害する投資を規制する新規則を承認、これを受けてフランスが既に規制強化を決めた他、イタリアとスペインも独自の外資規制導入を検討中だ。
 アメリカも今年2月、外資によるアメリカ企業への投資案件を審査するCFIUS・対米外国投資委員会の権限を強化する最終規則を施行した。その際、イギリス・カナダ・オーストラリアの3ヵ国企業による重要インフラを保有する米企業の投資に付いては一部規制を免除した。

 一方、日本企業はそうした特例措置の対象に為らず、経済外交筋が苛立って居るのは事実らしい。しかし、そう云った風潮に便乗して、日本も外資規制を強化する必要が本当に有るのだろうか。ソモソモ外為法は、対外取引や国内の外貨建て取引等を必要最低限の範囲で管理する為の法律だ。正式名称は「外国為替及び外国貿易法」と云う。
 安全保障が主な目的で、財務省・経済産業省・日銀等の所管だが、各産業を扱う経済官庁も共管と為って居る。重要なのは、現在の外為法が長年に渉って、原則として「投資の自由」を掲げて来た事だ。戦後間も無い時期には、国内産業を守りつつ貴重な外貨を日本企業の設備投資に回す為対外取引が制限されて居た。1980年代に掛けて自由化に舵を切って以降は、日本企業への出資等を原則自由とする今の法規制が形作られた。
 今回の改正外為法に付いても、財務省は「投資自由の大原則は不変」としつつ、国の安全等を損なう恐れのある投資に適切に対応する為「メリハリのある対内直接投資制度を目指す」と主張して居る。

 過剰規制が及ぼす影響
 
 これに対して、外国金融機関やソブリン・ウェルス・ファンドから投資が困難に為るとの懸念が続出。外国金融機関に付いて「外国投資家」自らや改正外為法上の「密接関係者」が役員に就任しない等の免除基準を順守すれば、事前届け出を免除する仕組み等を、政府は受け入れざるを得なかった経緯がある。
 財務省は同様の趣旨から、ソブリン・ウェルス・ファンドと公的年金基金に付いても、取締役会等に参加しない等の上乗せ基準を満たせば、コア業種の10%未満の株式取得に付いて事前届け出を免除する仕組みを設けざるを得なかった。

 だが、こうした措置で、海外投資家の日本企業に対する投資意欲の低下懸念が完全に払しょくされる訳では無い。歴史的に見ても、12年前の2008年5月、英投資ファンドの「ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド」TCIが、Jパワー・電源開発株式の買い増しを進めた際に、日本政府が中止を命令した実績がある。
 筆者は当時、本州と北海道を結ぶ送電線を持つ唯一の電力会社であるJパワーが外資系ファンドのマネーゲームの対象に為る事のリスクを指摘して、この外為法に基づく指示を支持した。が、日本の証券会社も含めて資本市場サイドの日本政府に対する反発は激しかった。裏返せば、外国投資家の受けた衝撃はそれ以上に大きかったと云う事だ。およそ5カ月後、TCIは保有株をJパワーに売却してこの案件から撤退した。

 外国人労働者が消える?

 詰り、改正前の外為法は十分なパワーを持って居た。にも関わらず改正した事で、過剰規制が可能に為るのは明らかだ。その過剰規制が招くのは、極端な場合が江戸時代の様な「鎖国」であり、例えば中国企業に厳しく運用して、欧米諸国の企業には甘く運用すれば「ブロック経済体制」である。
 安倍政権が鎖国やブロック経済体制を視野に入れて居ると見做さざるを得無い、もう一つの政策が、既に閣議決定を終えて居り、月内にも国会に提出する予定の「令和2年度補正予算案」に盛り込まれた「サプライチェーン対策の為の国内投資促進事業補助金」である。

 中国等に流出した自動車や電機・機械等のメーカーの製造拠点を呼び戻し、サプライチェーンを国内に再構築しようと云うもので、今回の補正には2,200億円の予算が計上されている。更に、近い将来導入される可能性があるのが、外国人労働者を排斥する措置だ。
 アメリカではトランプ大統領が4月21日の記者会見で、米国の永住権・グリーンカード取得を目指す外国人の入国を60日間停止する政策を打ち出した。同大統領は「コロナウイルスの為に解雇された米国民が、海外から流入した新たな移民労働者に職を奪われるのは間違って居る」と強調したが、日本でも失業が急増の兆しを見せて居り、同様の措置が執られても可笑しくない。

 同じ過ちを繰り返すのか
 
 だが、これら3つ・・・外資による日本企業への投資・海外に流出したサプライチェーンの国内再編成・そして外国人労働者の排斥、即ち鎖国やブロック経済体制作りに依って、新型コロナ感染症の収束後の経済立て直しを図ろうと云うほど矛盾に満ちた戦略は無い。
 ソモソモ、戦前の先進各国のブロック経済体制指向が、日本やドイツを窮地に追い込み、第2次世界大戦の戦端が開かれる大きな切っ掛けだった事は幅広く知られた話である。加えて、今回の新型コロナ感染症の流行に伴う日本経済の落ち込みは、既に戦後最悪の事態を迎えつつある。

 老舗シンクタンクの日本経済研究センターが4月24日に公表した短期経済予測の改定を見ると、年内に外出自粛が解除されても、2020年度の日本経済の実質GDP成長率は「マイナス8%」と云う悲惨さなのだ。同シンクタンクは、一旦下がった成長軌道を「V字回復」させるのは至難の業で、2030年に為っても経済成長率を5%程度下方に引っ張る履歴効果が残ると云う。
 こんな異常事態に、鎖国やブロック経済体制が我々の取るべき選択肢と云う事は有り得ない。寧ろ、自由貿易体制下での輸出拡大等で弱り切った経済を下支えしないと、日本経済も我々日本人の暮らしも成り立た無く為るだろう。


              042806.jpg

            町田 徹 経済ジャーナリスト   以上












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