2020年04月13日
コロナ終息後の経済V字回復は有り得無い 危機で顕在化した巨大リスク 求められる処方箋は
コロナ終息後の 経済V字回復は有り得無い
危機で顕在化した巨大リスク 求められる処方箋は
〜47NEWS 4/13(月) 15:32配信〜
3月16日 株価が暴落したニューヨーク証券取引所でダウ工業株30種平均で終値を示す画面(ロイター共同)
〜新型コロナウイルス感染症は終息が見通せず、人々の活動に暗い影を落として居る。経済への影響は2008年のリーマン・ショックを超える深刻さとの見方も広がる。
安倍晋三首相は「戦後最大の危機」として事業規模で108兆円に為る緊急経済対策をマトめ、立て直しを図る。只首相が思い描く「V字回復」は考え難いと危機感を募らせるのは、国際金融論が専門で日銀審議委員を歴任した慶応義塾大学の白井さゆり教授だ。世界経済は、そして日本経済は何処に向かって居るのか寄稿して貰った〜
慶応義塾大学の白井さゆり教授
昨年末に中国・武漢で確認された新型コロナウイルス感染症は、年明けには日本を含むアジアに広がり、3月には欧米等にも到達、世界的脅威へと発展した。中国の徹底したヒトの移動と活動の停止で感染拡大は抑えられるとの楽観論は裏切られた。コロナ危機が勃発したのである。
今回の危機は又、中国が、ヒトを通じた世界との繋がりをより深化させて居た事を再認識させる契機に為った。2010年頃に世界第2位の経済大国と為った中国は、所得上昇も相まって本土からの旅行者数が年間1・4億人、観光支出は30兆円程度に上る。各国の観光産業を潤す世界最大の観光輸入国と為って居たのだ。
米、最大級の景気後退に突入
各国が蔓延を抑えるべく経済・文化・社会活動を縮小・停止した事で、急速な景気後退が始まって居る。その大きさと悪化のスピードは、2008年リーマン・ショック時とは比較に為ら無い程大きく為りそうだ。
2008年10月〜12月時の米国の経済成長率は前期比年率で9%程下落し1960年代以降で最大の落ち込みと為った。今年・2020年4月〜6月期はそれを遥かに超えて30%前後迄落ち込みそうだ。トランプ米大統領は今回の危機を「戦争」と表現して居る。
感染症と戦争は、患者数の急増で医療現場が切迫した状態に為る点で共通して居るものの、経済的な性質は大分異なる。戦争が巨額の軍事支出に依る需要を作り需要超過とインフレをもたらす傾向が有るのに対し、コロナ危機は、需要と供給を同時的・強制的に消滅させるデフレ的な性質を持って居るからだ。不足するマスクや医療品等一部価格が高騰しても、全体としてインフレには為り難いのだ。
日本 五輪延期で燻る投資資金回収への懸念
日本も厳しい状態が続く。悲願の東京五輪・パラリンピックは1年延期され、年間4,000万人を目標として居た今年の訪日旅行者数は激減した。祭りムードもスッカリ消え去った。来年無事に開催出来るのか見通せず、政府・民間が投じた資金を回収出来るのか懸念が燻(くすぶ)る。
日本は2018年末から米中貿易摩擦の悪化と世界経済の減速に依って製造業の業況が悪化して居た。消費は、2019年10月の消費税率引き上げで落ち込んだ。内需が弱まり、昨年10〜12月期の経済成長率は対前期比年率で7%程度も下落した。
消費は少しずつ回復途上に在ったが、コロナ危機で製造業とサービス業がダブルで悪化、今年1〜3月期もマイナス成長は避けられ無い。2020年度全体の成長率は、自粛が何時迄続くかにも依るが、内需と外需が共に弱くマイナス成長は確実だろう。
強まる金融と財政の連携
コロナ危機に依って様々な事が大きく変わろうとして居る。第一に、家計や企業と云った民間経済活動の急激な減少の穴埋めに、政府・中央銀行が大掛かりに介入し、事実上、密接な政策協調が展開されて居る。米国では、中央銀行である連邦準備制度理事会・FRBが3月に短期金利を大幅に下げた上、無制限の国債等の買い入れや、金融機関だけで無く企業や地方政府も含めた大規模な支援に乗り出した。その結果、同月だけで1・6兆ドル・GDPの7%弱も金融資産を膨張させて居る。
これ等金融支援の一部は、損失が発生する恐れが有り米財務省が出資に踏み切った。しかも米政府は同じ月に240兆円にも達する「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法」CARES法を成立させた。国内総生産・GDPの1割程度に相当し、リーマン・ショック時の3倍程度だ。
米国の財政赤字がGDPに占める割合は、昨年の5%弱から今年は15%近くに膨張すると見られる。今後発行される新規国債発行の多くはFRBが市場経由で買い入れるであろう。
コロナ危機が長期化すれば、米政府は更に財政支出を増やすだろうし、金利急騰を抑える為、FRBの買い入れも自ずと増えて行くであろう。
一方、日本政府は緊急事態宣言を発令した4月7日、事業規模108兆円の経済対策を発表した。リーマン・ショック時の2倍近くでGDPの20%程度にも為る。40兆円程度の財政支出を含み26兆円相当の新たな国債等の発行を伴う。経済対策の拡充が必要に為って国債発行が増えれば、既に発行残高の半分近い国債を保有する日本銀行は一段と買い入れを増やし財政を支えて行くであろう。
米国も日本も、政府の大幅な財政拡大を受け、中央銀行が国債を買い上げて行く点に変わりは無い。市場経由で買い入れるにしても、政府の経済対策を事実上受けた対応と為らざるを得無い。国の借金拡大の多くを中央銀行が肩代わりする「金融の財政従属」との見方は強(あなが)ち否定出来無い。
遂最近迄、世界では中央銀行による財政ファイナンスを提唱する「ヘリコプターマネー」論や、インフレ目標が実現する迄無制限に財政拡大をする「現代貨幣理論」・MMTが盛んに議論されて居た。だが、そうした議論は現在の非常事態では殆ど意味を為さ無いであろう※。
我が国では、都心を中心に商業不動産やタワーマンション等の価格が高騰し、賃料と比べて割高な物件も増えて居た。不動産市場の活性化の切っ掛けは、日銀による異次元緩和と2013年に開催が決まった2020年東京五輪だ。加えて、海外からの訪日旅行者数が増えた事も在って、全国でホテル・商業施設の建設、都心でのオフィスビルの建設、中心都市での市街地再開発が活発化した。外国からの資金流入も増えた。
処が、東京五輪・パラリンピック後には、一等地の優良物件は兎も角、供給過剰も有って不動産価格の下落リスクが以前から指摘されて居た。
コロナ危機で、この状況は予想よりも早く起きてしまったかも知れない。東証REIT指数は3月、30%以上も下落した。危機が長引けば賃料を支払え無い企業や自営業者も増えて不動産価格の下落に拍車が掛かる。負の資産価格効果で、消費や経済活動が下押しされる恐れも有る。
コロナ危機は、人類に対し、自らが制御出来無い巨大なリスクの存在を嫌応にも意識化させた。投資家心理が以前の状態にスンナリ戻らず、市場が正常化しない事態が長引く事を想定して置く必要がある。
景気V字回復を阻む最大の要因
景気後退局面は何時迄続くのだろうか。日本も世界も感染者数はヤガテ減って行くだろう。活動の制限・自粛が解除されるに連れ、経済・文化・社会的な活動は回復して行く。処が、経済のV字回復は考え難い。世界で十分なPCR検査態勢が整わ無いと、人々の不安は簡単には消えて行きそうも無いからだ。
ワクチンの開発・実用化に1年以上も掛かれば猶更(なおさら)だ。又、新型コロナウイルスの再発・リーマン・ショックとは異なるタイプの経済危機・大規模な自然災害・そして新しいウイルス感染の拡散が起こるかも知れない。そう為れば、政府と中央銀行に依る密接な政策協調はより頻繁に見られる様に為るかも知れず、国の財政規律や中央銀行の独立性等の重要性が失われて行くかも知れない。
五輪延期 不動産価格下落に拍車か
第二に、世界では超金融緩和が長期化する中で、株式や信用リスクが高いが高利回りのハイイールド債務・債券・ローン、不動産等の市場に大量の資金が流入し、国に依って違いは有るものの、割高と為って居る資産もあった。
後手に回る日本の対応
経済対策の効果を高める大前提は、人々の不安心理を如何に和ら気て行くかだ。この点、日本政府も多大な努力はして居るが、近年に大きな感染症が発生せず態勢が未整備だった事も在ってか、当初から後手に回って居るとの印象は拭えない。
4月7日、緊急事態宣言と経済対策が要約発表された。経済対策に付いては108兆円の内45兆円分は企業へ利子補給・債務支払い延期・信用保証料減免・債務保証等である。当面の資金繰り支援として有効ではあるが、基本的に債務は残る。
小規模事業者が、賃金や賃料・光熱費等の支払いに必要な資金を借り入れる際、条件を満たせば元本に付いても一定期間支払いを免除する等の対応が必要かも知れない。FRBは前述した様に、こうしたローンを担保に銀行貸出を増やした。又中小企業に対しても、最大4年間貸し付けた銀行ローンに付いて、条件を満たせばホボ全額を買い取る仕組みを導入して居る。
税・社会保険料の減免や雇用調整助成金も有るが、当面を凌ぐには出来るだけ早期の現金給付が不可欠ではないか。中小企業への給付金は最大200万円、個人事業主には100万円、世帯に対しては30万円が支給される。しかし売上高・収入が50%以上減少と云った条件付きで、自らそれを証明する手続きも必要だ。時間も掛かるし支給額も少ないと云った不満が出るのは仕方無い。
又自粛する活動に対する損失補償は含まれて居ない。給付金総額は6兆円程度の為、コロナ危機が長引けば今後給付金の追加支援の拡充が待たれる。損失補償をする上では地方政府支援の大幅な拡充も必要であろう。
一方、緊急事態宣言の発令は、感染拡大の防止と経済への打撃緩和との間でバランスを取ろうと自粛要請には限定的だ。今後の感染者の拡大に歯止めが掛かるのか注視したい。根拠無き楽観論を示して対応を遅らせたトランプ米大統領を反面教師として、日本政府には検査・医療体制面での現状や課題を出来る限り正直に、分かり易く説明し、人命を最優先した対応と発信を求めたい。
慶応義塾大学総合政策学部教授 白井さゆり 慶応義塾大学総合政策学部教授 ザンビア国財務大臣付きマクロ経済政策アドバイザー 社外取締役(食品メーカー)アジア開発銀行研究所客員研究員 その他 日本銀行政策委員会審議委員(2011〜16)国際通貨基金/IMF(1993〜98)コロンビア大学大学院経済学部・経済学博士号取得 国際金融・日本経済・世界経済・金融政策・貨幣論
週刊エコノミストの書評を担当 30か国前後の米国・欧州・中国を含むアジア・中東等世界各国の中銀・政府関係者者・国際機関・有識者・金融機関・投資家等が主催する国際会議で講演・パネル討論会に討論者として出席及び率直な意見交換を実施
メディア関連では、海外経済テレビ番組Bloomberg Live・CNBC, Channel NewsAs・NHK News Line,等にコメンテーターとして出演(すべて英語) 国内でも複数のテレビ・ラジオ番組でコメンテーターとして日本の金融政策・日本経済・世界経済等に付いて解説 世界の経済新聞社・通信報道社から日本経済と金融政策に付いて頻繁に取材要請を受ける(過去3年間に12か国以上)
ジャパンタイムズ紙や海外新聞に数多く寄稿 世界の金融政策や経済記事を扱う英国専門ウエブサイト「Central Banking」(https://www.centralbanking.com/)や英国シンクタンクCEPR政策ポータル(https://voxeu.org/)にも多くの専門記事・論文を執筆または解説
メッセージ 学問をして居て判ら無い事が有る場合、先ずは自分で解答を見付ける粘り強さを身に着けてください。直ぐに解答が見付から無くても、考え続け学び続け知識を深めて行く事が大切です。
以上
【管理人のひとこと】
このレポートを何度か読み直した。元々経済は苦手な一つなのだけど、このブログで何度も取り上げざるを得ず掲載し続けて居る。少し気に為ったのが・・・※ 遂最近迄、世界では中央銀行による財政ファイナンスを提唱する「ヘリコプターマネー」論や、インフレ目標が実現する迄無制限に財政拡大をする「現代貨幣理論」・MMTが盛んに議論されて居た。だが、そうした議論は現在の非常事態では殆ど意味を為さ無いであろう・・・の一文である。
詰り、インフレが過度に為らぬ限り政府は国民に金を注ぎ込み需要を作り出し供給を拡大する・・・所謂景気拡大政策を続け様との言葉が、何度も紹介した中野剛志氏や山本太郎氏の主張だ。現在の消費増税とコロナ禍の超デフレ状態に於いて、何故、その様な議論は現在の非常事態では殆ど意味を為さ無いであろう・・・と断言するのかが理解出来ない。これが中野氏が指摘する〔主流経済学〕の意味不明な処かも知れないと気が付いた。
詰り、意味を為さ無いであろう・・・と結論するがその理由は指摘しない・出来無いのだろう。しかし、世界全体の経済の流れは把握して居られる様で、その他の文節には批判は無い。物々交換貨幣論から抜け出せ無い、貨幣そのものの理屈を素通りした表面的な批評に始終しそうな所謂〔主流経済学の批評家〕の一人なのだろう。
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