2020年01月01日
何故、カルロス・ゴーン氏は逃亡出来た? 最早検察もお手上げか 今後の展開は
何故、カルロス・ゴーン氏は逃亡出来た? 最早検察もお手上げか 今後の展開は
〜前田恒彦 元特捜部主任検事 1/1(水) 7:30 〜
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〜2019年は保釈中の逃亡が目立った1年だったが、最後の最後で関係者に冷水を浴びせる衝撃の逃亡劇があった。元日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏だ。何故レバノンに逃げる事が出来たのか。今後の展開は〜
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これ迄のパスポートで出国するのは困難
こうしたケースの場合、出国そのものを水際で防ぐ事が何よりも重要だ。只、検察と入国管理局は同じ法務省畑でも別組織だから、両者の連携が無ければそのママ通過されてしまう。 そこで、検察が入管に手配を依頼し、出入国審査時のパスポート提示の際等に手配者のデータベースとヒットすると、自動的に検察に通報され、入管で足止めされるシステムに為って居る。これを「国際海空港手配」と呼ぶ。
又、各国で「事前旅客情報システム」が導入され、搭乗券を購入する際に航空会社に氏名や性別・生年月日・国籍・居住国・パスポート番号・有効期限・発行国と云った情報を登録する事が求められて居る。
その情報が航空会社を通じて入管に伝えられ、出国する航空機へのチェックインが確認されると、空港警察の捜査員が逃亡者を待ち構えると云う訳だ。
氏名や国籍等を変えて居たら・・・
そこで、これを逆手に取り、その網の目を掻(か)い潜る為、養子縁組によって氏名を変更すると云ったケースが現にある。国によってはその国への投資額等に応じてパスポートを発給して呉れる処もあるので、これによって国籍や氏名を変えると云った遣り方を取る逃亡者も居る。
只、写真データも入管に届けられて居り、氏名や国籍等がデータベースの情報と食い違って居ても、風貌が同じだと「類似者」として足止めされ詳しい調査を受ける場合がある。その為、逃亡者は、お盆の時期や年末等、敢て出国ラッシュで空港がゴッタ返し、監視の目も手薄に為り勝ちな時期を狙う湧けだ。
大使館の協力を得れば・・・
ゴーン氏の場合も、保釈中は海外渡航が禁止されて居り、発行済みの全てのパスポートを弁護人が預かる条件と為って居た。このパスポートを使って出国しようとすると、弁護人の協力を得る必要がある。検察にも把握されて居るパスポートだから、入管で足止めされるリスクも高い。
考えられる可能性だが、国籍を有するレバノンやフランス・ブラジルと云った国の大使館の協力を得て、氏名やパスポート番号等を変えた新たなパスポートの発行を受けたり、外交用や公用と云った特別なパスポートの発行を受けたり、帰国の為の渡航書の交付を受けた事だ。
その上で、別人のフリをし、年末の出国ラッシュに紛れ、プライベートジェットで出国したと云うものだ。勿論、日本の自宅からそのママ空港に向かえば目立つ。一部メディアでは、クリスマスディナーの音楽隊を装った協力者がゴーン氏を楽器箱に隠して自宅から連れ出し、手荷物検査を受け無いと云う外交特権を利用して出国させたとか、ゴーン氏がレバノンで大統領と面会し、政府の警護を受けて居ると報じられて居る。
信憑性は不明だが、頷ける話だ。間違い無く日本の内外に相当数の協力者が居た筈で、彼らとの間で事前に綿密な計画が立てられて居たことだろう。
15億円はどう為る?
裁判所の許可を得て数日間の約束で海外に出国し、そのママ帰って来ないと云うパターンはママあるものの、今回の様にハリウッド映画さながらの逃亡劇は前代未聞だ。偽造パスポートを手に入れて逃げると云った遣り方も、実際には少ない。
その意味で、検察が受けた衝撃は極めて大きい。年末年始と云う事で気を許して居ただろうし、流石にここ迄の逃亡劇は無いだろうと甘く考えて居たのだろう。
それでも、ゴーン氏が保釈許可条件に違反した事は確かだ。早速検察は裁判所に保釈の取消しを求め、裁判所もこれを認めて居る。これで再びゴーン氏を拘置所に収容することが出来るし、次は保釈保証金15億円を「没取」即ち取り上げると云う流れと為る。
没取は刑罰の一種である「没収」とは異なるが、読み方が似て居て混同しやすい為、実務では「ぼっとり」と呼ばれて居る。
この様に、保釈中の逃亡防止は、もし逃げたら保釈保証金を取り上げるよ、と云う威嚇によって担保されて居る。だからコソ、保釈保証金は流石にこの人物にこれだけ積ませて置けば逃げ無いだろう、と云う金額である必要がある。
結局の処、海外に多額の資産を抱えるゴーン氏に取って、15億円等大して痛くも痒くも無い金額だったと云う事だ。この金額が妥当だったのかに付いては、改めて徹底した検証を要するだろう。
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裁判はどう為る?
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ゴーン被告の弁護士 「寝耳に水」
ゴーン氏には「無罪請負人」や「刑事弁護界のレジェンド」と呼ばれるプロ中のプロの弁護士が弁護人として選任されて居り、東京地裁で粛々と公判前整理手続が進められて居た。
2019年12月25日にも公判前整理手続が行われ、ゴーン氏も出席して居た。2020年春には初公判が開催される段取りだったが、今回の逃亡劇で全てが吹き飛んだ。
日本国外に逃亡した者に取ってのデメリットは、国外に滞在中は何時まで経っても時効が完成せず、事件を引きずる事に為ると云う点だ。ゴーン氏はそんな事等全く意に介して居ないと云う事だろう。又、もし日本に家族が居れば日本で会え無く為る事に為るが、これもゴーン氏には当て嵌らない。
弁護人によれば「寝耳に水」だったと云う。ゴーン氏が逃げる事など無いと主張して居た弁護団も、完全にハシゴを外された形だ。
このママだと弁護団はゴーン氏から解任されるか、自ら辞任する事に為るかも知れない。ゴーン氏と連絡が取れ無いと云う話だし、弁護団の説得で日本に戻って来るとは考えられ無いからだ。最早日本でゴーン氏の裁判が開かれる可能性も乏しい。
行方を探すだけでも一苦労
即ち、検察は、警察の協力を得た上で、国際刑事警察機構・ICPO・インターポールを介し、194の加盟各国に逃亡者の探索等を要請する「国際手配」が可能だ。レバノンも加盟国の一つだ。
その中でも身柄の引渡しを前提として所在の特定や身柄の確保を要請する場合を「赤手配」と呼ぶ。これに至ら無いものの、逃亡者の所在や身元・行動などに関する情報を照会する場合を「青手配」と言う。
日本が赤手配を要請するのは余程の事件だ。反捕鯨団体シー・シェパード創立者で南極海調査捕鯨妨害事件の首謀者とされる男や、関東連合リーダーで六本木クラブ襲撃事件の首謀者とされる男等だ。このママの流れだと、検察はゴーン氏を赤手配するかも知れない。
又、インターポールを介さず、直接その国に必要な捜査を要請する「捜査共助」と云う遣り方もある。困った時はお互い様と云う事で、出入国歴を含めた所在捜査や関係者の取調べ、証拠物の押収、情報提供等を相互に行って居る。
但し、これらは外務省等の外交ルートを介する必要があるので、時間と手間が掛かる。特別な条約や協定を締結して居る国との間では捜査当局間でダイレクトに遣り取り出来るものの、米国・韓国・中国・香港・EU・ロシアに限られる。
日本国内から足跡を辿る事も
国内に軸足を置いた地味な捜査も大変だ。検察は、日本の内外でゴーン氏の逃亡を手助けした協力者を入管法違反や犯人隠避罪で、ゴーン氏を入管法違反や犯人隠避教唆罪で捜査する筈だ。令状を取って電話会社から通話記録を、プロバイダーからメールのやり取り等を押収し、分析した上で、ゴーン氏と接触した事実やその内容を把握する事に為るだろう。
ゴーン氏は弁護士事務所の特定のパソコンしか使用出来無いと云う事に為って居たので、場合によってはここも捜査の対象と為るかも知れない。こうした捜査で国内外における足取りを掴み、点と点を線に繋げて行く作業を進めるが、どれだけの成果が挙がるかは未知数だ。
身柄の引渡しは絶望的
所在が判明しても、検察には大きな壁が立ち膚(はだ)かる。日本が他国との間で逃亡者の身柄を相互に引き渡す法的根拠は(1)犯罪人引渡条約と(2)逃亡犯罪人引渡法しか無いからだ。
日本が(1)を締結して居るのは米国と韓国だけだ。(2)はそれ以外の国との遣り取りをカバーする為に制定された法律であり、他国からの要請に基づいて他国に引き渡す際の手続を定めて居るが「相互保証」と云う考えに基づいているので、お互いに請求に応じる場合で無ければ為らない。
しかも、実際の適用は何かと面倒だ。(1)は1年以上の懲役・禁錮に当たる罪 (2)はヤヤ要件が厳しく3年以上の懲役・禁錮に当たる罪で無ければ為ら無い。又(1)は自国民の引き渡しも認めて居るが (2)は認めて居ない。
そればかりか、相手国の法令に当て嵌めても犯罪を行ったと疑うに足りる相当な理由を証拠に基づいて相手国に示さ無ければ為らない。大量の証拠を相手国の言語で正確に翻訳し依頼文書を作成し、外務省を通じて外交ルートで相手国の関係機関に交付するのは本当に大変だ。
現に、日本が他国から逃亡犯罪人の引渡しを受けた件数は、例年0〜数人程度に留まっている。凶悪な殺人事件等、多大な時間と費用を掛けて逃亡者の引き渡しを求めるに値するだけの重大犯罪に限られて居るのが実情だ。
そもそもレバノン政府が、自国民であるゴーン氏の身柄を日本に引き渡す事等考えられ無い。特に大統領が自らゴーン氏と面会したと云う報道が事実であれば、相当の後ろ盾があることに為り、正しく国と国との外交問題だ。最早検察の手には負え無いレベルの話に他なら無い。
それ以外の国の場合も、どれだけ日本の為に本気に為って呉れるか、どれだけその逃亡者にシンパが居るか等、様々な事情に影響される。
正規の身柄引渡し手続は可成り面倒なので、渡り鳥の様にA国に短期間滞在し、次はB国へと云ったパターンだと、A国もB国も見て見ぬ振りをするかも知れない。赤手配されて久しいシー・シェパードの創設者ですら、米国への入国等所在が判明して居るにも関わらず、未だに引渡しが実現していない状況だ。
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あくまでレアケース
特別背任罪や金融商品取引法違反の一審は被告人が出席し無ければ裁判を進められ無いし、判決も言い渡せ無い決まりだ。その状態が長く続いても、ゴーン氏の死亡が確認された段階で公訴棄却と為り、裁判手続は打ち切りと為る。
ゴーン氏は、レバノンに入国後「日本の司法制度は、国際法・条約下における自国の法的義務を著しく無視して居り、有罪が前提で、差別が横行し基本的人権が否定されて居ます」と云ったコメントを出して居る。
「人質司法」「中世並み」と揶揄(やゆ)される程長期の身柄拘束が濫発されて居る状況や、取調べの可視化の不徹底、取調べに対する弁護人の立ち会いが認められて居ないこと、再審請求事件を含めて証拠の現物を全て開示する制度が無いこと、捜査当局のリークに基づく有罪決め着け報道が横行して居る事等、正しくゴーン氏の言う通りだ。
しかも、昨今の保釈許可率の上昇は「人質司法」による弊害を打破し様としたものに他なら無い。実際には保釈が許可されても逃亡せず、キチンと裁判所に出頭して来る被告人の方が圧倒的に多い。件数自体は少ないのに、保釈中の逃亡事案が相次いで大きく報じられて居る事で、こんな被告人ばかりだと云う印象を与えて居るだけだ。今回の逃亡劇はレアケースに過ぎない。
逃亡劇がもたらすものは
それでも、裁判所がどれだけ厳しい保釈条件を付けたとしても、多数の支援者を抱える資産家が海外に逃亡しようと思えば、簡単に逃亡出来るルートがある事が示されたのも確かだ。検察が叩かれる中でのトドメの一撃とも言える逃亡劇だから「焼け太り」がお家芸の最高検が旗振りをし、他の保釈請求事件でも益々強く保釈に反対すると云った対応に出る事が考えられる。
特に保釈保証金の決め方だが、検察側が被告人の資産関係を厳格かつ徹底的に調査した上で裁判所に証拠を示し、相当高額なもので無ければ断固反対しろとか、保釈保証金の一部に付いて弁護人の保証書を差し入れさせろと云った話に為るかも知れない。
将来の新規立法に向けて背中を押す形にも為るだろう。例えば、現在では保釈中に逃亡しても刑法の逃走罪は適用出来ないが、これが可能と為る様に、しかも厳罰化する様に法改正すると云ったものだ。
カナダでファーウェイ社のCFOが保釈された際に注目された様に、保釈を認める代わりに取り外し出来ないGPS端末を被告人の自費で装着し、24時間・リアルタイムで行動監視をすると云った遣り方もその一つだろう。(了)
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前田恒彦 元特捜部主任検事 1996年の検事任官後、約15年間の現職中 大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍 ハンナン事件や福島県知事事件 朝鮮総聯ビル詐欺事件 防衛汚職事件 陸山会事件等で主要な被疑者の取調べを担当した他 西村眞悟弁護士法違反事件 NOVA積立金横領事件 小室哲哉詐欺事件 厚労省虚偽証明書事件等で主任検事を務める 刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中 きき酒師 日本酒品質鑑定士でもある
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