2023年08月26日
【短編小説】『片翼の人形が救われた日』4 -最終話-
⇒【第3話:後追いなんて、しないでよ】からの続き
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>
・香坂 凜生葉(こうさか りいは)
双子の姉、25歳
意志が強く、自分で決めたことを曲げない
過干渉な母と衝突し、遠方へ進学就職、実家と疎遠になる
・香坂 優羽葉(こうさか ゆうは)
双子の妹、(25歳)
姉と正反対で、おとなしく、人との衝突が苦手
過干渉な母に逆らえず、実家では人形のように支配される
・西那 純世(にしな あやせ)
23歳、凜生葉(りいは)の後輩社員
大学でも先輩だった彼女に好意を寄せている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第4話(最終話):ぜんぶ引きずって、生きてく】
僕、西那 純世には1つ年上の兄がいた。
兄は勉強もスポーツも優秀だった。
両親はいつも、そんな兄と、平凡な僕を比べた。
そして兄を溺愛し、僕を蔑んだ。
兄は両親が望む大学、望む会社へ入るため、
必死に”親の操り人形”を演じた。
それでも、兄は弟想いで、優しい人だった。
自分も辛いはずなのに、
いつも僕のことを気にかけてくれた。
けど、兄はついに壊れた。
大学受験の直前に、自ら命を…。
僕の心には、兄を救えなかった後悔が刻まれた。
何とか大学へ入っても、
暗い顔をした僕には誰も近寄らなかった。
凜生葉
「なーに暗い顔してんの?よかったら話して?」
凜生葉先輩は、そんな僕に唯一、声をかけてくれた。
兄を失ったことも、
兄に甘えて何もできなかったことも、
先輩はイヤな顔1つせずに聞いてくれた。
先輩のおかげで、僕は明るさを取り戻せた。
友達も増え、僕の人生に光が差し込んだ。
あのとき、凜生葉先輩は、
「双子の妹を失った直後」だった。
なのに辛い顔を見せず、
落ち込んだ後輩のことを気にかけてくれた。
僕はそのことを、
後から別の先輩に聞いて知った…。
ーーーーー
純世
『…あの頃は、先輩の方がずっと辛かったと思います。』
『なのに、そんな素振りを見せず、僕を元気づけてくれました。』
凜生葉
「あれは…ただの空元気だよ?」
純世
『それでも!僕は先輩が強く生きる姿に救われたんです!』
『そして思ったんです。”もう、守られてばかりはイヤだ”って。』
『出過ぎたマネでも、今度は僕が先輩を守りたいんです!』
凜生葉
「…私は、純世君が思ってるほど強くないよ…。」
純世(あやせ)
『…?』
凜生葉
「4年も経つのに、母への恨みに囚われて、前に進めてない。」
「妹を救えなかった事実から逃げるように、こっちへ来た。」
「いつまでも、過去にも自分にも向き合えない弱虫だよ。」
純世
『…大丈夫ですよ。まだ4年です。』
『前を向けないのも、恨みが消えないのも当然ですよ。』
凜生葉
「…まだ4年…?」
純世
『それに、いいじゃないですか?』
『いろいろ引きずったまま生きたって。』
『すべて精算しないと次へ進めない決まりなんて、ありませんよ?』
凜生葉
「引きずったまま、生きてもいいのかな…?」
純世
『いいんです。僕だって、未だに兄のことを引きずってます。』
凜生葉
「そうだよね。純世君の方が辛いよね…。」
純世
『何を背負っていても、生きていればいつか出逢えますよ。』
『先輩の荷物を、一緒に引きずってくれる人に。』
凜生葉
「…?!///(照)」
純世
『…そして、僕はずっと狙ってますからね!』
『先輩の荷物を”一緒に引きずっていく人”を///(照)』
凜生葉
「…もう!ここでそれ言うの?!///(照)恥ずかしいなぁ!」
「そんなの十分…伝わってるよ…?」
ーーーーー
<1年後、優羽葉の墓前>
凜生葉
「優羽葉、久しぶり。」
優羽葉
『お姉ちゃん、来てくれてありがと。』
『純世君、初めまして!妹の優羽葉です。』
『姉がお世話になっております!』
純世
『は、初めまして!』
『こちらこそ、凜生葉さんにはお世話になってます!』
凜生葉
「ホラ、これ、優羽葉の好きな限定スイーツ。」
優羽葉
『えー?いいの?!ていうか買えたの?!』
凜生葉
「うん。有休取って、朝から並んでね(笑)」
優羽葉
『あはは、ありがと!』
凜生葉
「あなたこそ1年前、よく3人分も買えたよね。」
「お土産に私と、純世君の分まで(汗)」
優羽葉
『そりゃあ、呼び出したのは私ですから!』
凜生葉
「半休まで使わせてさ(笑)」
優羽葉
『それはごめんなさい(汗)』
純世
『はは…(苦笑)いいですよ。』
『あのときは本当に、優羽葉さんに助けられました。』
『今こうしていられるのは、優羽葉さんのおかげです。』
優羽葉
『うまくいってよかった!』
『妹は、姉の幸せを願うのです!』
凜生葉
「…優羽葉…ありがと。」
「私、もう大丈夫だから、還りなよ。」
優羽葉
『うん。これでもう、心残りはないよ。』
『純世君、手のかかる姉だけど、これからもよろしくね?』
純世
『はい!優羽葉さんも、どうか、安らかに…。』
凜生葉
「手のかかる姉は余計…って、否定できないわ(苦笑)」
優羽葉
『でしょー?(笑)』
凜生葉
「まったく…(笑)」
「私、ぜんぶ引きずったまま、生きてくから。」
「お母さんのことも、優羽葉のことも。」
優羽葉
『…そっか、よかった。』
『じゃあ私、これからは”幸せなお姉ちゃんの中で”生き続けられるんだね。』
凜生葉
「そういうこと。やっと安心した?」
優羽葉
『うん!安心した!』
『…安心しすぎて、涙が出るくらい…ね…。』
ーー
<数時間後、優羽葉の墓前>
双子姉妹の母
『…あら…?お花と、お供え物が…。』
『先に誰か、お墓参りに来たの?』
周りを見渡しても、誰もいない。
母
『お供え物のお菓子、地元じゃ見かけない。』
『まさか、先に来てたのは…あの子…?』
5年前、我が子を”2人とも”失った傷が疼く。
それでも、私にできる償いは1つだけ。
母
『凜生葉…生きてるよね?どうか、幸せに…。』
優羽葉の分まで…ね…?
ーーーーーENDーーーーー
※本作は過去作品『人形の翼が折れた日』の続編です※
⇒『人形の翼が折れた日』前編
⇒『人形の翼が折れた日』後編
⇒この小説のPV
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12178798
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック