2023年06月04日
【短編小説】『ツンデレという凶器』3 -最終話-
⇒【第2話:闇の予感】からの続き
<登場人物>
・麻上 紫依良(あさがみ しえら)
主人公、20歳
幼馴染みの怜紫(りむ)に好意を寄せているが、
素直になれず悪態ばかりついてしまう
・百瀬 怜紫(ももせ りむ)
紫依良(しえら)の幼馴染み、20歳、マンガ家の卵
気弱な性格で、紫依良(しえら)に言われるままになっている
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【第3話:枯れた紫苑の花】
怜紫(りむ)のマンガの最終話を待ち焦がれていた私は、
ある日の彼のSNS投稿を見て凍りついた。
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<連載休止のお知らせ>
健康上の理由でマンガ投稿をお休みします。
再開時期は未定です。
今まで応援してくれた皆さま、
本当にありがとうございます。
どうなるかわかりませんが
また皆様へ元気な姿を見せたいと思います。
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紫依良(しえら)
「健康上の理由…?どういうこと?!」
私は急いで彼の家を訪ねると、
紫依良(しえら)
「精神科へ…入院…?!」
怜紫(りむ)は精神を病み、
今は精神科へ入院しているという。
紫依良(しえら)
「何とか面会できませんか?!」
私は彼の母親に頼み込んで、面会を許可してもらった。
病室へ入ると、やつれた顔の怜紫(りむ)がいた。
彼は私の顔を見るなり、怯えたように震え出した。
そして、
怜紫(りむ)
『あ…あぁ……ああああああああ!』
彼は悲鳴とともに、私に背を向け、ガクガク震えた。
紫依良(しえら)
「怜紫(りむ)!いったい何があったの?!」
「あんたのそんな情けない姿なんて見たくないよ?!」
怜紫(りむ)
『…ひ…!!う、う、うわあああ!!』
私から「情けない」という言葉が出た瞬間、
彼がまた悲鳴を上げた。
紫依良(しえら)
「あんたのマンガを待ってる読者がたくさんいるよ?!」
「さっさと元気になりなさいよ!」
「私だって……!!」
(楽しみに…してるんだから…!)
それだけは、私の口から出てこなかった。
紫依良(しえら)
(私のバカ…!!)
(この期に及んで、どうして言えないの…?!)
私は何とか怜紫(りむ)と話そうとした。
けど、精神が壊れてしまった彼は怯えるばかり。
私の顔すら見てくれなかった。
結局、私は話ができないまま、病室を後にした。
ーー
怜紫(りむ)の母
『紫依良(しえら)ちゃん、ごめんなさいね。』
『今はそっとしてあげて…。』
お見舞いから戻った私は、
怜紫(りむ)の母親から事情を聞いた。
今は言葉も話せなくなってしまったと。
怜紫(りむ)の母
『特に紫依良(しえら)ちゃんの名前が出ると、ひどく怯えるの…。』
『幼馴染みを1番怖がるなんて、いったいどうしたのかな…。』
私は、ありすぎる心当たりから、必死に目を背けた。
彼はきっと、母親に1度も言わなかったんだろう。
私からの言葉に槍に、傷ついていることを。
怜紫(りむ)の母
『あの子から、あなた宛に手紙を預かってるの。』
私は怜紫(りむ)の母親から手紙を受け取った。
怜紫(りむ)の母
『あの子がまだお話できるうちに書いたみたい。』
『”お母さんは絶対に中身を見ないで”って言われたの。』
『おとなしいあの子が、あんなに強く言うなんて初めてよ。』
『怜紫(りむ)は、よっぽど紫依良(しえら)ちゃんのことが好きなのね…。』
紫依良(しえら)
「………。」
-----怜紫(りむ)からの手紙-----
麻上 紫依良(あさがみ しえら)さんへ
今まで、僕と一緒にいてくれてありがとう。
僕がマンガ投稿を始めたときから、
ずっと支えてくれて感謝しています。
苦しいときもあったけど、
いつもくれる応援コメントのおかげで、
ここまで続けてこられました。
きみの気持ちには、何となく気づいていました。
嫌いな人とこんなに一緒にいてくれることはないと思うから。
以前、聞かれたときは濁しちゃってごめんね。
いま連載している『紫苑の花、枯れるまで』の
モデルは紫依良(しえら)と僕です。
僕はやっぱり、
きみと一緒にいる未来を諦め切れなかったから。
けど、ごめんね。
僕の心は、きみからの言葉の槍に耐えられませんでした。
たとえそれが、好意の裏返しだったとしても。
僕はもうじき、紫依良(しえら)の顔を見られなくなります。
決して、きみが嫌いだからじゃない。大好きです。
だからこそ、きみを見ると、
きみが僕の心に槍を刺してくる妄想を
止められなくなるんです。
そうなる前に、
どうか素敵な人を見つけて幸せになってください。
小さい頃から、一緒にいてくれて本当にありがとう。
さよなら。
百瀬 怜紫(ももせ りむ)
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紫依良(しえら)
「う…ううぅ…うわああああああぁぁん!!!」
怜紫(りむ)はすべて知っていた。
私のツンデレも、裏にある好意も、
SNSで応援しているのが私であることも。
なのに私は、彼に言葉の槍を刺し続けてしまった…。
彼は、そんな私を理解しながら…耐えていたんだ…!!
まるで、最後のページの”最後の暗いコマ”のように。
紫苑の花言葉は「亡き君を忘れない」
あのマンガのタイトルに込めた思いはきっと、
『僕の心はもうじき枯れてしまう。』
『けど、枯れるその日まで、きみを忘れたくない。』
怜紫(りむ)は、私を忘れる最期の瞬間まで、
私の好意に応えようとしてくれた…。
それなのに…。
どうして私は、もっと早く、”素直”に………。
ーーーーーENDーーーーー
<あとがき>
ツンデレが許されるのは二次元だけです。
否定的な言葉は、
たとえ好意の裏返しであろうと、
人の心をたやすく貫きます。
好きな子には、つい意地悪してしまいます。
恥ずかしくて、照れ隠しをしてしまいます。
ですが、気持ちと裏腹な言葉の槍で、
本当に相手の心を掴めるでしょうか?
本当に、未来の2人を幸せにするでしょうか?
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⇒他作品
【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』全4話
【短編小説】『もし自己肯定感の高さが見える世界になったら』全6話
⇒この小説のPV
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