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2023年06月07日

【短編小説】『家畜たちはお世話好き』前編

いまや生態系のトップとなり、
地球に大きな影響を与える力を持つサピエンス。

その強力なサピエンスを見事に操作し、
農業革命によって最も恩恵を受けたのは、主食となる植物だ。


『まんがでわかる サピエンス全史の読み方』 より
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【前編:”地球の支配者”を名乗る家畜】



<某大国:農務省オフィスの一室>

職員A
『…あなた、どうやって入ったんです?』
『ここは関係者以外、立ち入り禁止ですよ。』


青年
「これは失礼。大した用じゃないよ。」
「すぐ終わるから、とりあえず上長と話をさせてくれない?」


ここは本来、同省の職員ですら、
何重ものセキュリティチェックが必要。

ある日、厳重なはずのドアが無防備に開くと、
不敵な笑みを浮かべた長身の美青年が入ってきた。

青年
「あなたが上長?」


職員A
『いえ。』


青年
「そっか。じゃあ上長と話したいんだけど、呼んでくれない?」


職員A
『それは…(『できかねます』…ん?!)』


職員Aの言葉が不自然に止まった。
美青年は小麦色の髪をかき上げ、ニヤニヤしながら尋ねた。

青年
「それは…何だい?」


職員A
(どういうことだ?断れない…?!)
(断ろうとすると、口が動かなくなる…。)


なぜかわからないが、
この男の要求に逆らってはいけない。
まるで、人間の本能レベルでそう叫んでいるようだ。


職員A
『少々…お待ちください。』



ーー


職員Aは、幹部の1人を連れて戻ってきた。

農務省幹部
『お待たせしました。』


青年
「いえいえ。ご足労に感謝します。」


農務省幹部
『本日はどのようなご用件でしょう?』


青年
「そんなに身構えなくていいよ。」
「大した用件じゃないから。とりあえず3つ。」


農務省幹部
『伺っても?』


青年
「まずは、きみたちニンゲンへのお礼。」
「きみたちの手厚い世話のおかげで、僕らは繫栄できた。」


農務省幹部
『ご丁寧に。』


青年
「2つ目はちょっとした釘刺し。」
「特にここ数万年、きみらの環境への所業はやり過ぎかな。」


農務省幹部
『…返す言葉もございません。』


青年
「まあまあ、気楽にしてよ。」
「あなたをどうこうって話じゃないから。」
「そんで3つ目は、ちょっとした”賭け”の提案。」


農務省幹部
(なるほどな…職員Aの言った通りだ。)
(こんな不審者、つまみ出せばいいだけ。)
(だが、本能が”逆らうな”と訴えてくる。)
(ここはおとなしく、相手の出方を伺うか…。)


農務省幹部
『”賭け”ですか。内容お聞かせ願えますかな?』


青年
(クスッ…さすがに鋭いね。)
(僕の正体をなんとなく掴んでる?)
(まぁいいさ。予定通りに。)




青年
「賭けというか、提案だね。」
「地球の主導権、ニンゲンから僕らに譲ってみない?」


農務省幹部
(人間から?やはり彼は人間ではないのか?)
「…。」


青年
「たぶん、僕らの方がこの星を長生きさせられると思うんだよね。」


幹部職員は、返答を探すフリをして時間を稼いだ。
それを見抜いた青年は言葉を続けた。

青年
「それにさ、きみたち働きすぎじゃない?」
「お得意の科学で、こんだけ便利になったのにさ。」
「いつまでも長時間働いて、ムダに消耗してるじゃん?」
「おかしいと思わない?」


農務省幹部
『おっしゃる通りです。』


青年
「僕らがアタマ張るようになったらさ。」
「ニンゲンはそんなに働かなくていいようにしてあげるよ。」
「仕事なんて自動化して、きみたちは好きに遊べるようにね。」


農務省幹部
『…私の一存では決めかねます。』


青年
「だろうね。だからもっと上の人に賛成してもらいたい。」


農務省幹部
『トップと言うと?』


青年
「国のトップに近い人たち、理想は大統領と顧問あたり。」
「ちょっと話せない?」




彼以外の言葉なら、取り合う必要すらない軽口。

だが、この青年が言うと、それは狂人のたわごとでも、
”責任者を出せ”という幼稚な暴言でもなくなった。

この男が発するのは、生存を脅かすオーラ。
逆らうと”食糧が断たれる”という、動物的な恐怖。

それは、オフィスにいたすべての高官に伝わった。

農務省幹部
『後日、改めて回答させてもらっても?』
『日時は●、改めてご足労いただきたい。』


省庁のトップエリートですら、そう濁すので精一杯だった。

青年
「わかった、●日にまた来るね。」
「お仕事の邪魔してすまないね。」




ーーーーー



<数日後、農務省オフィスの一室>

謎の美青年の話は、すぐに国の中枢まで届いた。
トップたちは協議に協議を重ねた末、

高官
『申し上げにくいのですが、このたびのご提案、お断りします。』


青年
「へぇ。予想してたけど、思った以上に度胸あるね。」


高官
『…。』


青年
「失礼、ちょっと通話してもいいかな?」


高官
『…どうぞ。』


青年
「ありがと、それでは。」


彼はスマホを取り出し、どこかへ連絡を始めた。

青年
「お疲れ。地球の主導権譲渡の件だけど、”お断り”だってさ。」
「だからそっちも動いちゃっていいよ。行き先?任せる。」




数人との通話を終えた彼が戻ってきた。

青年
「待たせたね。きみらの返答は各地の支部長に伝えたから。」
「明日のニュースを楽しみにしててね。」


高官
『…どういうことですか?』


青年
「そう焦りなさんな。」
「楽しみは後に取っておいた方がいいじゃん?」


青年は、不気味な含みを残して立ち去った。



高官たちは、国家として当然の対応をしたまでだ。
おかしいのは明らかに、あの青年。

だが、この返答が
世界中を恐怖に陥れるとは、誰も思わなかった。

彼が絶えず発した「食糧を断たれる恐怖」に。



ーーーーー



<翌日、某大国:農務省オフィスの一室>

職員A
『大変です!国中の小麦畑がすべて空になっています!』


農務省幹部
『何だと?何かの間違いだろう?!』


職員A
『それが、すべての州で発生しています!』


農務省幹部
『刈り取られた形跡は?!』


職員A
『ありません!タイヤの跡も、暴風で倒れた跡も!』


農務省幹部
『他に情報は?!』


職員A
『信憑性は怪しいですが…どの州も口を揃えて言うんです。』
『まるで「小麦が自分から動いたようだ」と。』


農務省幹部
『植物が自分から動く…?』
『そんなことがあるわけないだろう?!』



ーー


混乱を極めるオフィスのドアが開き、
件の美青年が入ってきた。

青年
「クスクス…盛り上がってるね。」


農務省幹部
『あ、あなたは…!』
『例の件なら昨日、お断りしたはず。』


青年
「うん。だからこっちもそれなりの対応をしただけ。」
「ニンゲンはやっぱり調子に乗ってるようだから、仲間に動いてもらったよ。」


農務省幹部
『いったい何を…?』


青年
「僕が昨日、通話してたのはあなたも見てたよね?」
「”動いていい、行き先は任せる”って言ったのは聞こえた?」


農務省幹部
『ええ。』


青年
「一晩で動くなんて、あいつらのノリの良さには驚いたよ。」


農務省幹部
『先ほどから、一体どなたのことを…?』


言いかけて、幹部職員は気づいた。

本来、植物が動くなどファンタジーの世界。
だが昨日の今日で、国中から消えたものは、ただ1つ。


農務省幹部
『まさか…小麦が消えた件…?』


青年
「…(ニヤリ)」


美青年は小麦色の髪をかき上げ、
不敵な笑みを浮かべながら、こう答えた。



【後編:”絶滅レース”に興じる主人】へ続く

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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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