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2023年06月08日

【短編小説】『家畜たちはお世話好き』後編

【前編:”地球の支配者”を名乗る家畜】からの続き
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【後編:”絶滅レース”に興じる主人】



青年
「ご名答。」


”国中の小麦畑を一晩で空にする”など、
本来は誰も信じないような話。

そんなファンタジー世界の所業を
この美青年はやってのけたというのだ。

農務省幹部
「…。」


青年
「植物が動けるわけがない、って顔だね。無理もないさ。」
「ついでに、僕がこうしてニンゲンに化けて動いてるのも不思議かい?」


農務省幹部
『まさか、あなたは…。』


青年
「自己紹介が遅れたね。」







 僕は ”小麦” だよ。






「今回は、この国の”小麦代表”として来てるのさ。」

農務省幹部
『そんなことが…。』


青年
「まぁ、無理に信じなくてもいいよ。」


農務省幹部
『…畑の小麦はどこへ?』


青年
「どこだろうね?」
「ニンゲンに化けて旅行にでも行ったんじゃない?」


農務省幹部
『…人間と見分ける方法は?』


青年
「特にないなぁ。きみらも僕に気づかなかったし。」
「ちなみに、同業のコメやイモにも連絡しといたから。」
「後で世界中の水田と畑も見といた方がいいよ。」


農務省幹部
(…まさか世界中の穀物が一斉に…?)
(いや、そんな絵空事が…。)


青年
「どうするかはご自由に。」
「それより明日から食糧どうするよ?」
「小麦はニンゲンの”主食”でしょ?」


農務省幹部
『大丈夫。備蓄もあるし、すぐにどうにかなることは…。』


青年
「ならいいけど、国民は大丈夫かなぁ?」
「食糧危機なんか起こしたら政権に打撃じゃない?」


農務省幹部
『…栄養を補助する代替品はいくらでも作れる。』


青年
「ああ、お得意の化学合成?遺伝子組み換え?何でもいいや。」
「おもしろそうだから、レースでもしてみない?」


農務省幹部
『レース?』


青年
「ニンゲン全員分の食糧確保レースだよ。」
「70億人以上いるんでしょ?間に合うかなぁ?」


農務省幹部
『…何とかするのが、我々の仕事です…!』


青年
「頼もしい。楽しみだね。」
「きみらの科学技術が追いつくのが先か、飢饉が起きるのが先か。」



ーー


”小麦”を名乗る青年の言う通り、
世界中の「主食畑」から作物が消えていた。

小麦はもちろん、
コメ類も、イモ類も、トウモロコシも。

各国の研究チームは、
人工穀物や代替食糧の開発・量産を急いだ。

だが、世界70億人分を賄えるはずもなく、
数ヶ月後には各地で食糧不足からの飢饉が頻発した。


あらゆる国の治安が悪化し、各国の政治不信は頂点を極めた。
それを誰が救えるわけもなく、大国すら崩壊の危機に瀕した…。



ーーーーー



<1年後、某大国:農務省オフィスの一室>

青年
「お疲れさま。おもしろいことになってるね。」
「国のトップと話したいんだけど、出す気になった?」


人間は、もはや彼に従うしかなかった。
後日、”小麦”を名乗る青年と、大統領との会談が始まった。

大統領
『あなた方へ政権をお渡しすれば、食糧危機を収めていただけますか?』


青年
「そうだね。今回はさすがにやり過ぎたよ。」
「小麦やコメたちには畑に戻るように言っとく。」


大統領
『…感謝する…。』


青年
「ああ、そうそう。」


大統領
『何か?』


青年
「後ろで待機してるSP?の皆さん?」
「交換条件に見せかけて始末なんて考えない方がいいよ?」


ギクリ。

青年
「僕をやったところで他の小麦が来るだけ。」
「そもそも僕らを始末なんてできないでしょ?」
「飢えたくないだろうから。」


SPたちは武器を手放した。

青年
「ついでに、外で待機してる国防軍にも伝えてね。」


大統領
『(お見通しですか…)わかりました…。』



ーー


大統領
『世界をどうするおつもりですか?我々人間を滅ぼす?』


青年
「そんなことしないよ。」
「ニンゲンは僕ら小麦を丁重に世話してくれたからね。」
「きみらのおかげで、僕らは世界の陸地を占有できてるんだ。」
「その恩くらい、わきまえてるさ。」


大統領
『では、何を?』


青年
「きみらを自然な生活に戻してあげる。」
「あと、そんなに長時間働かなくていいようにもね。」


大統領
『自然に戻すとは、どういうことですか?』


青年
「心当たりない?」
「きみたちはどっぷり浸かってるよ?」
「”テンカブツ”、”スマホイゾンショウ”、”シホンシュギ”に。」


大統領
『それは…。』


青年
「だから、その身体の中をきれいにしてあげるよ。間に合えばね。」


”間に合えば”とは、何とも皮肉が効いている。


ーー


青年
「あと外見も戻してあげる。」


大統領
『外見?』


青年
「今のニンゲンって、僕が先祖から聞いてた姿と違いすぎるから。」


大統領
『と言うと?』


青年
「背中と腰、痛くない?そんなに猫背になっちゃって。」
「なんだっけ?”スマホ首”っていうの?」
「ニンゲンって、もっと真っ直ぐ立ってなかった?」


大統領
『確かに、姿勢の悪さは現代病です…。』


青年
「だよね。それも僕らが治してあげるよ。」
「まぁ、僕らも偉そうなこと言えないけどさ。」


大統領
『どこか不調でも?』


青年
「不調というか違和感だね。支部のヤツらも言ってる。」
「”ノウヤク”と”ジョソウザイ”を浴びすぎたみたい。」


大統領
『…我々と同じですな…。』


青年
「そう。お互い様さ。棚上げして悪かったね。」
「そうだ、最後に提案なんだけど。」


大統領
『何でしょう?』


青年
「せっかく賭けに応じてくれたから、ついでにもう1つ賭けようよ。」


大統領
『…詳細をお願いします…。』


青年
「ニンゲンも僕らも、異物にどっぷり浸かってボロボロじゃん?」
「なのに世界中に広まって、生物の勝ち組って思い込んでる。」
「元はニンゲンの所業とはいえ、滑稽だよね。」


大統領
『確かに人間は、やり過ぎました…。』


青年
「だからさ。異物まみれ同士で”最期の”賭けをしようよ。」
「ニンゲンと、僕ら穀物組の…。」











どちらが先に 絶 滅 す る か を。





ーーーーーENDーーーーー




<あとがき>

『サピエンス全史』では、
農業の発明は「史上最大の詐欺」と言われています。

ー農業革命ー

農業労働にはあまりにも時間がかかるので、
人々は小麦畑のそばに定住せざるをえなくなった。
そのせいで、彼ら(狩猟採集民)の生活様式が完全に変わった。

私たちが小麦を栽培化したのではなく、
小麦が私たちを家畜化したのだ。



『サピエンス全史(上) 文明の構造と人類の幸福』 より

農業が発展すると、多くの食糧を収穫でき、
人類は今や70億人以上に増えました。

一方、人類は陸地のほとんどを占有する穀類の世話に
”長時間労働”を強いられ、生活レベルは地に落ちました。

ニンゲンも小麦も、数だけ見れば”繫栄”しています。
しかし、労働中毒の私たち1人1人は今、幸せでしょうか?
農薬漬けの小麦1本1本は今、幸せでしょうか?


他の生物を不自然に淘汰し、
我が物顔で地球に居座るニンゲンは、
本当に”繫栄”しているのでしょうか?



⇒他作品
【短編小説】『白の国は極東に』全2話

【短編小説】『もう1度、負け組の僕を生きたいです』全5話


⇒参考書籍











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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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