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2019年09月07日

世界1周の旅:ヨーロッパ後編C【ブルガリア】ヴェリコ・タルノヴォで人生について考える

A voyage round the world : Europa Edition 2nd part C Think about my life in Veliko Tarnovo【6.2011】


【6月3日:夕方の列車でヴェリコ・タルノヴォへ向かう】

この国を鉄道で旅するのは少々危険だ。乗り換えのないバスの方が安全かもしれない。まだまだ個人旅行者に対応できていないキリル文字の国だから。必ず人に口頭で確認する必要がある。ただ、「Yes」に当たる「ダー」と言いながら彼らは首を横に振る。頷くときは、実は「No」を表すので注意が必要だ。

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                 ツァレヴェッツの丘

「驚きの鉄道移動」

薔薇の谷とフレスコ画の残るトラキア人の墓で有名なカザンラクからヴェリコ・タルノヴォへ移動する際、バスの人と密着する閉鎖的な空間がイヤで鉄道を選んだのに、トゥロヴォで列車を乗り換えて一安心、と思ったら隣りの駅で列車を降ろされ、なぜかバスに載せられて山越え。

しかも席を確保したにもかかわらず、1台には微妙に収まり切らない客数だったため、後から乗り込んできたお婆さんに席を譲り、立ったままの乗車。若い男性の姿も多かったのに、誰一人席を譲ろうとはしなかったのだ。そんな状況は当り前なのか、お婆さんは明らかに異国からの旅行者である私を、その皺に埋もれた黒々とした目で見つめながら、私の横で止まった。席を譲れ、と指名されたような状況で座り続けられる図太い神経は持ち併せていないので、せっかく確保した座席を譲るほかなかったのだ。

これは、後に散々思い知らされるブルガリアの国民性にも深く関わりのあることなのだが、その時の私にはまだ知る由もない…。
くねくねとした未舗装の山道を1時間立ったまま、右へ左へと振り回されながらのバス乗車、めちゃくちゃ疲れた…!!!

30分ほどバスに揺られて九十九折りの山を越えたと思ったら、着いた先の駅には先ほどと同じ列車が同じ車掌を乗せたまま待っていた。何なんだろう。

かくして再び汗の臭いの浸みこんだ古くて汚い車輛に乗り込み、あのガタンゴトンという列車の奏でる心地よいリズムに身を委ねたのだが、恐らく列車車輛が古すぎて、人間と荷物を運んだまま山登りをするだけの馬力がないための措置だったのではないだろうか。
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英語ではもちろん、現地語でも何の説明もなかったので真実はわからずじまいだが。

3時間という短時間ではあったが、山越えのバスで必死に足を踏ん張ったためか、予想以上の疲労困憊状態で、バルカン山脈東部に位置する古都ヴェリコ・タルノヴォに辿り着いた。


「サプライズ!」

ヴェリコ・タルノヴォの鉄道駅から市街地まではタクシーで10分ほど。U字渓谷に沿って家々がへばりつくように街が形成されている。

思わぬ難儀な移動のあとで、ホテルにチェックインするためパスポートを渡したホテルのオーナーだという男性に「今日が誕生日だね」と言われて、初めてその日が自分の誕生日であることを思い出した。
旅に出ると毎日が週末感覚なので、今日が何日で何曜日なのかあまり頓着しなくなる。自分の誕生日をすっかり忘れていたのは、この年が最初で最後かもしれない。それほど体力的にも精神的にも消耗していた、ということでもある…

この、イエローの外観がわかりやすいホテル・プレミア(写真下左)のロビーには琴欧州の写真が飾られていた。日本からの団体客が多いのかもしれない。でも日本人に好意を持っているのは確かだ。街の中心、ブルガリアの母広場からも近いのでとても便利である。

夜8時過ぎ、無事に部屋に入り荷物を整理しているとノックの音が。こんな夜に誰やねん、と怪しく思い誰何すると受付だという。手続きに不備でも?と少しだけドアを開けたところ、なんとケーキをお皿に載せた若いお兄さんが「ハッピバースデー、トゥーユー♪」と歌いながら微笑んでいるではないか。

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かくしてオーナーからのささやかなプレゼントだという、キャンドルが1本灯されたラブリーな苺ムースケーキが私のテーブルに置かれた。ひとりで誕生日を祝ってもなぁ、と即刻寝るつもりでいた私は、せっかくなので冷蔵庫にあった地ビールなどを開けて Happy Birthday to me黄ハート したのだった。

三ツ星ホテルを選んで良かった〜♪ 粋なプレゼントを用意してくれたホテルのオーナーさん、ありがとう〜<(_ _)>



【6月4,5日 ヴェリコ・タルノヴォ


「私の人生」

日本を出て約1週間が過ぎた。この168時間で、私は何をしただろう。飛行機を乗り継いでヨーロッパをあっちへ行ったりこっちへ行ったりし、ソフィアの街を徘徊し、汚い列車に揺られ、バスに詰め込まれて老婆に座席を譲り、また汚い列車に乗ってこの岩山にへばりつくような古都へやってきた。そして気が付けば、39歳になっていた。
39歳!ああ、何てこと!30代最後の歳ではないか…!!

ともかく私は今、ひとりブルガリアの地方都市に滞在している。しかし、一日の大半をホテルの部屋で過ごしている。シエスタも取るから、ものすごい睡眠時間だ。史跡や博物館を目一杯巡るのは、限られた日数の旅だからこそ出来ることで、私のように数か月単位の時間を持っている人間には向かない。かといって欧米人のように一か所に長く滞在して日がな一日カフェでビールをあおり、お喋りに興じることも日本人には難しい。

右:丘陵にへばりつくように建てられた家々。良く見るととてもぜいたくな造りになっている瀟洒な家もある。
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まして女のひとり旅だ。世界1周旅行に出る人は一体どうやって時間を過ごしているのだろう。一人旅とは言え、普通は人とのコミュニケーションによって有意義な時間を過ごせるのだろうが、一人を好む私のようなタイプにはものすごくハードルが高いことだし、知らない人と親しくなるのは危険な賭けでもある。

都市部は特に、スペインの巡礼道とは違ってどんな罠が待ち受けているかわからない。そして結局いつも「私はここで何をしているのだろう」という問いに戻ってしまうのだ。ここである必要がどこにある?毎回考えることだ。日本の東京でも、長野の山奥にこもっていたってきっと同じ非生産的な生活を送っている。旅をする方がお金がかかるという違いがあるだけだ。

なぜブルガリアなどという遠い異国で、現地の人々から奇異な目で見られ、自分を宇宙人か何かのように感じながらも、ヨーロッパを放浪しているのだろう。行く先に一体何があるというのか。そしてそれは何か価値のあるものなのか…。

一方で「それでいいのだ」という声も聞こえる。スペインではチュロス・コン・チョコラーテを食べて幸せを感じ、サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の威容に慄き、ブルガリアでは毎回チーズとヨーグルト尽くしの食事に胃をむかつかせながらも頑張ってブルガリア料理にチャレンジし、アレクサンダル・ネフスキー寺院ドームの天井画に魅入られて何か大きなものに包まれるのを感じ、十年以上前に初めて一人で訪れた外国オーストリアのザルツブルクの小さな教会の光に満ちた幸せな空間を思い出す。

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左:こんな何気ない看板の並んだ小路にはついつい入って行きたくなってしまう…。しかし、ホント坂の街だなぁ〜。

それはきっと長野の山奥にこもっていては、東京のワンルームで見るテレビ画面だけでは、経験できないことなのだ。だから時間とお金を浪費しているような罪悪感を覚えても、私は旅を続ける。

そのことにまったく価値を見出せない人もいるだろう。確かに私のしていることは、人生において何の意味もないことかもしれない。家族を愛し、社会に貢献して生きることを最上と考える人も少なからずいるのだ。しかし、残念なことに私にはそれが自分に合った生き方だとはどうしても思えない。だからいつも、何かを探して、何かを求めて、異国の地を彷徨う。それがきっと、私のくだらないながらも愛おしくて手放せない、人生なんだ。


「石畳の街はブラブラ歩きが超楽しい!」

琴欧州の出身地として知られるヴェリコ・タルノヴォは、12,3世紀に第二次ブルガリア帝国の首都として栄えた古都。蛇行するヤントラ川の勾配の急な丘陵地にへばりつくように旧市街の家々が建つ、独特で不思議な景観を持つ美しい街だ。鉄道駅からタクシーで街に向かうと、山の谷間に位置するため、突然秘境のような街が姿を現し感動的だ。

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歴史的遺跡が数多く残り、廃墟へ続く石畳を歩くのが楽しい。すでに陽が高く昇り気温が上昇した11時頃、街のメインストリートをブラブラと歩きながらツァレヴェッツの丘へ向かう。オスマントルコの猛攻で瓦礫と化した王宮の廃墟が、丘の途中に残っている。頂上に建つのは大主教区教会。

頂上の教会まで行きたかったのだが、あまりの暑さと予想外の上り坂でギブアップ。(翌日筋肉痛になった)今になって他の方のブログで内部の写真を見ると、東欧の教会らしいなかなか興味深い絵などに溢れていて、ああ、もっと頑張って頂上まで行くべきだった…と少し悔しい。後悔先に立たず、の典型的な例ですね…

旧市街の見所、サモヴォドスカタ・チャルシャ(市場)を雰囲気の良いカフェを探しながら彷徨ってみる。昔ながらの職人の工房を兼ねた金銀細工、革製品、陶器など伝統工芸品の小さなお店が石畳のメインストリートに沿って続いていて、一軒ずつ全てのぞいてみたくなる楽しい散策。

メインストリートの尽きる手前のカフェに居心地の良さそうなオープンエア席を見つけ、桃のケーキとココアでやっと一息。青空の下、爽やかに吹き抜けていく風を感じて普通に幸せ。

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しかし、このチャルシャは誘惑が多かった…。ランプ屋さんにはひとつひとつ違うアイアンフレームの可愛らしいガラスランプがこれでもかと天井から吊り下げられていて、ひとつひとつじっくり見ずにはいられなかった。そんな客は絶好のカモ。長旅の途中なのに、しっかり重いランプを買わされてしまった…
この後6月末にイギリスを出る直前に日本へ増え過ぎた荷物を送るまで、スーツケースの一角を占めることになり、おおいに私を悩ませた。

あまりの暑さに一旦ホテルへ戻って昼寝を貪る。まだ6月なのに、ヨーロッパはすでに真夏…。
半袖でも石畳の坂道を登ったり下りたりすると、汗びっしょりあせあせ(飛び散る汗)

広場の前の道路沿いに、コーンの屋台が出ていた。アイスクリームのように、カップにコーン(とうもろこし)のバター炒めを盛って売っているのだ。コレ大好き!日本で小腹が空いたときによく食べていたのがスイートコーンのバター炒めだったので、喜び勇んで買いました(*^^)v
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ブルガリアの母広場に面したインターナショナルな雰囲気の大きなレストランで、ポーク・リゾットの夕食。普通に美味しい。それと、ブルガリアならではのアイリャン(飲むヨーグルト)にチャレンジしてみた。味のバリエーションが豊富で、このレストランでは10種類以上あり迷ったが、無難にストロベリーをチョイス。外席に座り、まだ生暖かい風に吹かれて飲むほんのり甘いアイリャン、喉にしみて美味しかった
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その後、地図によると広場からほんの少し南下すると比較的大きな公園があるので、そちらに向かってお腹が満足した後の腹ごなしにぶらぶら歩いてみた。
なぜか教会めぐりや遺跡、博物館といった観光コースよりも、知らない街を訪れると私は公園を探してしまう。きっとそこに暮らす人々の日常に触れられるからかもしれない。

きれいに整備された緑豊かな公園を、散歩道沿いに歩いて行くと何やら人だかりと歓声が。胡散臭そうに周囲の人々から奇異の目で見られながらも近付いていくと、そこはサマー・シアターというステージが設えられた一角で、コンテストのようなイベントが行われていた。そっか、夏の週末だもんね。

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カラフルなドレスを着た若い女の子たちが踊って歌ったりしている。なるべく人の少ない観衆の層をみつけて前へ進んでみると、ちょうどひょろりと細長い男の子がマイケル・ジャクソンの物まねをして踊っていた。ムーン・ウォークがなかなか上手い。聞きなれたマイケルの歌声とともに、観衆から喝采が飛んでいた。最後の出演者だったらしく、彼のパフォーマンスが終ると参加者が全員ステージに上がった。若い子たちが多い。
あまりに周囲の人が「オマエ、何者?」光線丸出しでジロジロと私を見るので、優勝者を見届けたかったが諦めて、逃げるように観衆の輪から抜け出す。市民の公園に行く外国人ツーリストはほぼいないからだろう。アジア人はまだこの国では珍しいらしい。


「旅の空で、旧い友人『孤独』が私を訪ねてきた」

翌日もカラリと晴れてまた暑そうだったので、この日は袖なしのワンピースで街歩きに出かける。広場から下って行くと、ヤントラ川の中州(正しくは陸続きの場所であり島ではないので中州ではないのだが)に渡る橋に行きつく。どっしりとしたアートギャラリーは比較的新しくきれいな建物。アートギャラリーの裏には、天を突くような黒々とした鋼鉄のオベリスクとアッセン王の巨大なモニュメントが建っている。目の前で見ると、圧巻…

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アートギャラリーからそのまま南下すると、超巨大な公園(国立公園だと思う)に入ってしまうので、誘うようにさやさやと音を立てている緑の木々に後ろ髪を引かれつつも別れを告げて、目的もなくなんとなく歩いてみる。メインストリートから心惹かれる小路へと迷い込んだりするのがめちゃくちゃ楽しい!!

東欧はやはり西欧とは違う独特の雰囲気がある。トルコ、ギリシャ、そしてロシアの影響を強く感じるからだ。大国の狭間で翻弄されてきた複雑な歴史的背景を思うと、切なくなる。

足の向くまま民家の間を歩いて行くと、聖ニコラ教会が現れた。入り口の両側に咲く薔薇が手招いているように見えて、思わず入ってしまった。イコノスタシスで飾られた内部はとても神秘的で、ブルーを基調とした東方正教会らしい小宇宙を思わせる空間。

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祭壇はこじんまりと可愛らしく、レースがふんだんに使われた布で飾られていた。地元の人々に敬われ、大切にされている教会だと感じたので、とてもカメラを構えられるような雰囲気ではなく、内部の写真が撮れなかったのが残念だが、ヴェリコ・タルノヴォを訪れたら、ぜひ足を運んでみてほしい小さな教会だ。

聖ニコラ教会へ続く石段には、何十匹という猫が思い思いに寛いでいた。猫好きにはたまらないだろうな(*^▽^*)
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午後3時過ぎ、昨日目をつけていたメインストリート沿いの、川が見渡せそうなレストランに入って遅めのランチにする。微妙な時間帯だったからか、U字渓谷を望む眺めの良い窓際席をゲット、やったね

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せっかくなので、ほうれん草のコロッケとブルガリアの伝統料理タラトール(冷製ヨーグルトスープ)にチャレンジしてみる。細かく刻まれたきゅうりが入ったタラトールは、意外とさっぱり系の味。でもやっぱりブルガリアは本当にヨーグルトづくし!!


ブルガリアの邸宅は、マナーハウス(イギリスの邸宅)好きの私にとって非常に魅力的に映った。旅の最後にプロヴディフという街を訪れるのだが、そこはハウス・ミュージアムとして公開されている往時の邸宅がたくさんあり、それぞれカラフルで独特の特徴を楽しめる。

ここ、ヴェリコ・タルノヴォの民族復興期博物館は、オスマン朝時代の総督邸。初のブルガリア国会がここで開かれたという。白いシンメトリーな作りが優雅な建築で、入ってみたかったが時間が遅かったので諦める。
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帰国した後ブルガリアの歴史に興味を持って、少し調べてみたことがあった。多くの血を流してオスマントルコから独立を勝ち取ったのも束の間、次はロシアという超大国に支配され、蹂躙され続けた東欧の歴史をよく知るためにも、この博物館には入っておくべきだった…と、とても後悔。これを書いている今、もう一度この街を旅したくなっている自分がいる。

夜、部屋の窓から丘陵に階段状に建てられた家々の灯りがまたたく街の夜景を飽きることなく眺めた。都会の夜景のような華やかさはなく、まばらな灯りのなか、時々通る車のライトが周囲の家々を照らし出す。

本当は夜のヴェリコ・タルノヴォを歩いてみたかったけれど、女のひとり旅なので危険を冒したくなくて、部屋でおとなしくしていた。物怖じしない性格の人ならばこんな時ホステルに泊まってあっという間に友達を作ってみんなで夜歩きも楽しむんだろうなぁ。つくづくひとりでいたがる自分の性格がイヤになる…。

そして私は2001年にしたイギリス旅のことを思い出していた。大きな一人用のソファに身体を埋めて、似たような夜景をずっと眺めていたことがある。あれは『嵐が丘』の舞台となったハワースという小さな村だ。

あの時は一人旅のあと、帰る場所があった。恋人が日本で私の帰りを待っていてくれた。だから寂しくはなった。
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けれど今、私に帰る場所は、両親のもういない実家以外にはない。誰も私の帰りを待つ人はいない。ブルガリアの古都で寂しい街の灯りを眺めながら、本当に孤独だと思った。

その感覚はあまりにも慣れたものだったし、こうして一人気ままに旅ができることに幸せも感じていたので、死にたいほどの孤独ではなかったけれど、私は残りの人生ずっとこのまま独りなんだろうかと思うと、やはり切なくなって漠然とした不安が涙を運んで来た。
ヴェリコ・タルノヴォでの、感傷的な一夜…

『ヨーロッパ後編Dブルガリア国鉄と最悪の一日』へつづく…


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