2018年08月27日
スペイン巡礼記 H 6日目:ヤンとの出会い
Pilgrimage in Spain H Day:6 Encounter with Jan 【4.2011】
Torress del Rio トレス・デル・リオ 〜 Logrono ログローニョ (20.4km)
「久々の都会へ To the big city after a long absence」
睡眠をたっぷり取ったからか、6日目は足の痛みも引き、比較的順調に距離を稼ぐことができた。
そして今日は、ホテルに泊まると決めていた。
5日間アルベルゲに泊まってきたが、昨日から生理痛がひどいので、身体のためにも一人でゆっくりしたかったのだ。
そのためには一応現金を用意しておかないと…。
3時間半歩いてログローニョまであと10キロのヴィアナまで来た時、初めて銀行を発見。
財布には1,2ユーロしか残っていなかったが、ここで無事現金をおろすことができ、やっと安心してバルでカフェ・コン・レチェ(ミルク・コーヒー)を飲むことができた。
ランチはボカディージョというフランスパンにいろんな具を挟んだサンドイッチが主流で、皆ガブリと齧りついて簡単にペロッと食べてしまうのだが、私はあの固いフランスパンが苦手なのでトルティーヤ(スペイン風オムレツ)を頼むことが多かった。
オムレツといってもジャガイモのたっぷり入った卵焼きといった感じで、キッシュのようにホールで作られたものを三角形のショートケーキ型に切り分けて一切れ皿に載せたもので、バルによってはフランスパンのスライスが付いてくる。
私はこの一皿だけで立派な食事になったし、どこのバルにもある定番メニューなのでスペイン滞在中何度となく食べた。ヴィアナでもそれを食べたかったのだが、まだ昼前だったのでないがオムレツのボカディージョならできると言われ、仕方なく巨大サンドイッチを食べることにした。
顎が丈夫な人ならば熱々の卵焼きを挟んだフランスパンを美味しくいただけるのだろうが、顎関節症の私には一噛みするごとに顎がガクッと音を立てて痛いので、あまり嬉しいランチではなかったが、今朝はお金がなくてクッキーしか食べられなかったのでお腹が空いていて、なんとかバリバリとフランスパン1本の半分にあたるボカディージョを食べてしまった。
お腹も膨らんで、さてログローニョまで一気に歩いてカロリーを消費しなければと、これから歩く道を確かめるため、バルの前の石段に腰掛けて地図を開いていると、すぐ隣りに背の高い男性が腰掛けてきた。
「彼は突然現れた He appeared suddenly」
彼はおもむろにサングラスを取ると「ハイ!ボクはヤン、ドイツから来たんだ、君は?」と話しかけてきた。まるで言う台詞を予め考えていたような話し方と満面の笑みだった。私が日本から来たことと名前を名乗ると
とファンキーなノリで握手を求めてきた。
ドイツ人特有の高い鼻と、きっちりと横長の長方形に開く口からのぞくキレイな歯並びを持つヤンの話し方は、矢継ぎ早なのにとても話しやすくて、次々と質問されても自然に答えることができ、妙な親しみを感じさせる男性だった。
好奇心旺盛そうな目と不思議な形に動く口がアメリカの俳優ウッディ・ハレルソンに似てるなぁ、と思いながら彼の横顔を見ていた私に、ヤンは失礼なことにストレートに年齢を訊いてきた。
10歳ほど誤魔化したいところだったが正直に38歳だと答えると、彼は立ち上がって大仰に驚き「サーティエイト⁈」とやたらゆっくり発音すると、もう一度「本当に38?」と訊き返した。
外国で年齢を言って驚かれるのには慣れているので「本当に38」と頷いて答えると、彼はまだ立ったままあんぐりと口を開けて私を見ていた。ここまで驚かれたのは初めてなので、彼のリアクションに私の方が笑ってしまった。
外国人にはよくいるが、話す度に首を回すというかイントネーションに合わせて首を傾げる癖があるらしく、身振りも手ぶりもかなり派手なので忙しない印象を与えるが、どこかリズミカルな動きなので微笑ましくなってしまい、この後ヤンに会うたびに私はついつい笑顔になってしまうのだった。
彼は漫画でよく見るアゴが外れた人のような驚き顔で私を見つめていたが、今度は不躾にも「写真撮ってもいい?」と訊いてきた。訊きながらすでにカメラを構えているのでノーとも言えずOKしてしまう自分はつくづく日本人だなぁと思うが、なぜか嫌悪感を抱かせないのがヤンの特長でもあった。
写真を撮り終えて満足そうに撮った写真を見返すと、改めて首を振りながらヤンは再び私の隣りに座り
「絶対38になんか見えないよ」と言った。
それから日本人は皆若く見えることを説明すると、このカミーノで日本人に会ったのは初めてだという。「君は今まで会った子の中で一番小さいのに、よくこんな大きな荷物を背負って一人で歩いているよね」と感心したように言い、体は大丈夫なのかと訊く。
彼はドイツで整体師のような仕事をしていたらしい。正確にどんな仕事なのかは英語での説明がよくわからなかったが、肩が痛いと言うと「骨と筋肉はボクの専門なんだ」と言って薬は飲んでいるかと訊く。昨日塗り薬を買ったと答えるとジェルは発熱を抑えるだけだからあまり有効ではない、筋肉痛を取るならピルタイプの薬を飲むのが一番いい、と教えてくれた。
次はピルを買うと答えると、「まあボクはヘルス・ドクターみたいなものだから」と鼻の頭をかいてきれいな歯並びを見せながら笑い「ところでバナナは好き?」と手にしていたバナナの房を持ち上げてみせた。房単位でしか売っていないバナナは、荷物を極力軽く抑えたい私にとって買いたくても買えないものだった。
「一房買ったの?」と驚く私にファイバー補給のためにバナナは1日3本食べるのだとニヤッと笑いながら言い、もぎ取った1本を私にくれた。嬉しくて思わず「ありがとう、私バナナ大好き!」と言うと、やはり子供みたいだなぁ、と思っているかのような顔で私を見るので恥しくなって立ち上がり、リュックの蓋を開けてバナナを大切にしまった。
彼も立ち上がりながら「君はもうランチを食べたんだよね?」と言う。なぜ知っているのかと訝しく思いながら頷くと「さっきバルから出てくるのを見たから…」と何事も自信たっぷり気に断定的に話すヤンが珍しく口ごもりながら答えた。
彼が私の隣りに座ったのは多分偶然じゃない。先ほどの会話の中で彼は昨日私に会ったと言った。「君はベンチで本を読んでた」と言われて思い出した。
その時私は裸足のままベンチの上で斜め座りをして本を読んでいた。きっとその恰好がヤンには「子供みたいなアジア系の小さな女の子」という印象を強く抱かせて興味を持ったところに、今日ヴィアナのバルから出て来る私を見かけたので話しかけてきたのだろう。
ヤンだけでなく、歩いているとき通り過ぎる誰もがどこかで私を目撃しているらしく、私は誰が誰だか覚えられないのだが、向こうは旧知の仲のように声をかけてくる。他に日本人がまったくいないし「小さい女の子が一人」という印象を強く与えるらしく皆が「頑張れ」とか「歩き続けろ」などと励ましの言葉をかけてくれる。
同じように重い荷物を背負い、同じ場所を目指す巡礼者の間には、ある種の連帯感が働くのか、追い越したりする際、必ずお互いに声をかける。短い会話の場合もあれば「ブエン・カミーノ!」と言い合うだけのこともあるが、自転車で一瞬の間に追い越していく人々でさえこの「ブエン・カミーノ!」を叫んで通り過ぎていく。
カミーノとはサンティアゴ・デ・コンポステラまでの巡礼路のことで「ブエン」はスペイン語の「良い」という意味なので、直訳すると「良い巡礼旅を!」という感じの言葉で、もともとは巡礼道中の地元の人が通り過ぎていく旅人に向かって投げかけた言葉だったが、今では巡礼者同士、励ましの合言葉になっているという。
一人で黙々と歩いているとき、後ろから来た巡礼者が「ブエン・カミーノ!」と手を振って追い越していってくれるだけで、何度勇気付けられたかわからない。私もまた手を振って「ブエン・カミーノ!」と返し、暖かい気持ちで再び歩き出すのだ。
★スペイン巡礼記Iへ続く…
(表題上部の>>をクリックしてください)
Torress del Rio トレス・デル・リオ 〜 Logrono ログローニョ (20.4km)
「久々の都会へ To the big city after a long absence」
睡眠をたっぷり取ったからか、6日目は足の痛みも引き、比較的順調に距離を稼ぐことができた。
そして今日は、ホテルに泊まると決めていた。
5日間アルベルゲに泊まってきたが、昨日から生理痛がひどいので、身体のためにも一人でゆっくりしたかったのだ。
そのためには一応現金を用意しておかないと…。
3時間半歩いてログローニョまであと10キロのヴィアナまで来た時、初めて銀行を発見。
財布には1,2ユーロしか残っていなかったが、ここで無事現金をおろすことができ、やっと安心してバルでカフェ・コン・レチェ(ミルク・コーヒー)を飲むことができた。
ランチはボカディージョというフランスパンにいろんな具を挟んだサンドイッチが主流で、皆ガブリと齧りついて簡単にペロッと食べてしまうのだが、私はあの固いフランスパンが苦手なのでトルティーヤ(スペイン風オムレツ)を頼むことが多かった。
オムレツといってもジャガイモのたっぷり入った卵焼きといった感じで、キッシュのようにホールで作られたものを三角形のショートケーキ型に切り分けて一切れ皿に載せたもので、バルによってはフランスパンのスライスが付いてくる。
私はこの一皿だけで立派な食事になったし、どこのバルにもある定番メニューなのでスペイン滞在中何度となく食べた。ヴィアナでもそれを食べたかったのだが、まだ昼前だったのでないがオムレツのボカディージョならできると言われ、仕方なく巨大サンドイッチを食べることにした。
顎が丈夫な人ならば熱々の卵焼きを挟んだフランスパンを美味しくいただけるのだろうが、顎関節症の私には一噛みするごとに顎がガクッと音を立てて痛いので、あまり嬉しいランチではなかったが、今朝はお金がなくてクッキーしか食べられなかったのでお腹が空いていて、なんとかバリバリとフランスパン1本の半分にあたるボカディージョを食べてしまった。
お腹も膨らんで、さてログローニョまで一気に歩いてカロリーを消費しなければと、これから歩く道を確かめるため、バルの前の石段に腰掛けて地図を開いていると、すぐ隣りに背の高い男性が腰掛けてきた。
「彼は突然現れた He appeared suddenly」
彼はおもむろにサングラスを取ると「ハイ!ボクはヤン、ドイツから来たんだ、君は?」と話しかけてきた。まるで言う台詞を予め考えていたような話し方と満面の笑みだった。私が日本から来たことと名前を名乗ると
とファンキーなノリで握手を求めてきた。
ドイツ人特有の高い鼻と、きっちりと横長の長方形に開く口からのぞくキレイな歯並びを持つヤンの話し方は、矢継ぎ早なのにとても話しやすくて、次々と質問されても自然に答えることができ、妙な親しみを感じさせる男性だった。
好奇心旺盛そうな目と不思議な形に動く口がアメリカの俳優ウッディ・ハレルソンに似てるなぁ、と思いながら彼の横顔を見ていた私に、ヤンは失礼なことにストレートに年齢を訊いてきた。
10歳ほど誤魔化したいところだったが正直に38歳だと答えると、彼は立ち上がって大仰に驚き「サーティエイト⁈」とやたらゆっくり発音すると、もう一度「本当に38?」と訊き返した。
外国で年齢を言って驚かれるのには慣れているので「本当に38」と頷いて答えると、彼はまだ立ったままあんぐりと口を開けて私を見ていた。ここまで驚かれたのは初めてなので、彼のリアクションに私の方が笑ってしまった。
外国人にはよくいるが、話す度に首を回すというかイントネーションに合わせて首を傾げる癖があるらしく、身振りも手ぶりもかなり派手なので忙しない印象を与えるが、どこかリズミカルな動きなので微笑ましくなってしまい、この後ヤンに会うたびに私はついつい笑顔になってしまうのだった。
彼は漫画でよく見るアゴが外れた人のような驚き顔で私を見つめていたが、今度は不躾にも「写真撮ってもいい?」と訊いてきた。訊きながらすでにカメラを構えているのでノーとも言えずOKしてしまう自分はつくづく日本人だなぁと思うが、なぜか嫌悪感を抱かせないのがヤンの特長でもあった。
写真を撮り終えて満足そうに撮った写真を見返すと、改めて首を振りながらヤンは再び私の隣りに座り
「絶対38になんか見えないよ」と言った。
それから日本人は皆若く見えることを説明すると、このカミーノで日本人に会ったのは初めてだという。「君は今まで会った子の中で一番小さいのに、よくこんな大きな荷物を背負って一人で歩いているよね」と感心したように言い、体は大丈夫なのかと訊く。
彼はドイツで整体師のような仕事をしていたらしい。正確にどんな仕事なのかは英語での説明がよくわからなかったが、肩が痛いと言うと「骨と筋肉はボクの専門なんだ」と言って薬は飲んでいるかと訊く。昨日塗り薬を買ったと答えるとジェルは発熱を抑えるだけだからあまり有効ではない、筋肉痛を取るならピルタイプの薬を飲むのが一番いい、と教えてくれた。
次はピルを買うと答えると、「まあボクはヘルス・ドクターみたいなものだから」と鼻の頭をかいてきれいな歯並びを見せながら笑い「ところでバナナは好き?」と手にしていたバナナの房を持ち上げてみせた。房単位でしか売っていないバナナは、荷物を極力軽く抑えたい私にとって買いたくても買えないものだった。
「一房買ったの?」と驚く私にファイバー補給のためにバナナは1日3本食べるのだとニヤッと笑いながら言い、もぎ取った1本を私にくれた。嬉しくて思わず「ありがとう、私バナナ大好き!」と言うと、やはり子供みたいだなぁ、と思っているかのような顔で私を見るので恥しくなって立ち上がり、リュックの蓋を開けてバナナを大切にしまった。
彼も立ち上がりながら「君はもうランチを食べたんだよね?」と言う。なぜ知っているのかと訝しく思いながら頷くと「さっきバルから出てくるのを見たから…」と何事も自信たっぷり気に断定的に話すヤンが珍しく口ごもりながら答えた。
彼が私の隣りに座ったのは多分偶然じゃない。先ほどの会話の中で彼は昨日私に会ったと言った。「君はベンチで本を読んでた」と言われて思い出した。
昨日夕方やることがないので、トレス・デル・リオのアルベルゲの前でベンチに座り、ヴィラマヨールのオーナーが夕食時にくれたキリスト教の小冊子を読んでいた時に、坂を登ってきた男性がいた。 もう6時近かったので「こんな時間にアルベルゲに到着する人もいるんだなぁ」と思ったのだったが、それがヤンだったのだ。 |
ヤンだけでなく、歩いているとき通り過ぎる誰もがどこかで私を目撃しているらしく、私は誰が誰だか覚えられないのだが、向こうは旧知の仲のように声をかけてくる。他に日本人がまったくいないし「小さい女の子が一人」という印象を強く与えるらしく皆が「頑張れ」とか「歩き続けろ」などと励ましの言葉をかけてくれる。
同じように重い荷物を背負い、同じ場所を目指す巡礼者の間には、ある種の連帯感が働くのか、追い越したりする際、必ずお互いに声をかける。短い会話の場合もあれば「ブエン・カミーノ!」と言い合うだけのこともあるが、自転車で一瞬の間に追い越していく人々でさえこの「ブエン・カミーノ!」を叫んで通り過ぎていく。
カミーノとはサンティアゴ・デ・コンポステラまでの巡礼路のことで「ブエン」はスペイン語の「良い」という意味なので、直訳すると「良い巡礼旅を!」という感じの言葉で、もともとは巡礼道中の地元の人が通り過ぎていく旅人に向かって投げかけた言葉だったが、今では巡礼者同士、励ましの合言葉になっているという。
一人で黙々と歩いているとき、後ろから来た巡礼者が「ブエン・カミーノ!」と手を振って追い越していってくれるだけで、何度勇気付けられたかわからない。私もまた手を振って「ブエン・カミーノ!」と返し、暖かい気持ちで再び歩き出すのだ。
★スペイン巡礼記Iへ続く…
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