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2016年07月24日

十三月の翼・いふC 中編B (天使のしっぽ・二次創作)




 こんばんは。土斑猫です。
 ここしばらく、ペットネタが続いたので、今日は久しぶりにSS更新。
 天使のしっぽ・二次創作、「いふ」です。
 しかしこれ、最初の予定に反して長くなってんな・・・。
 いつ終わるんだろ・・・?


ヘル.jpg



               ――4――


 沈黙だった。
 これ以上ない程の沈黙が、場を支配していた。
 その沈黙の中、円形に座するは3人の神と3柱の魔王。
 彼らは……少なくとも3人の方は、これでもかと言うほど渋い顔をしていた。ちなみに、一人足りないが、先ほど転落した滝壺からまだ上がってきていないだけの話なので気にしなくていい。
 その中で、ことさら言い様のない……強いて言えば、梅干と正露丸を同時に口に放り込んで噛み締めた様な顔をしていたゴウが、口を開く。
「……つまりは、どういう事だ……?」
 組んだ腕の左側には、白霧の様な色の衣を纏った少女が組み付いている。彼女は逞しいそれに頬を寄せ、蕩けそうな顔でゴロゴロ喉を鳴らしている。
 ……幸せそうである。
 それを横目に見ながら、ゴウはもう一度言う。
「……どういう事だ……?」
 起伏のない声が、何気に怖い。
 それに答える様に、対面に座した玉面の魔王が面を揺らす。
『――どうもこうも、今説明した通りだよ――』
 口調は平々坦としているが、面にペイントされた赤眼がニタニタと歪んでいる。
 楽しんでいるのが、もろ分かりである。
『――何度も言うが、ヘル(その娘)は非常に惚れっぽくてね。この間の件での四聖獣(汝等)の話を……特に青龍(汝)の事を聞いたら、それだけで熱が上がってしまってね。飛び出していってしまったという訳さ。いや、全く困ったものだよ――』
 そして、KAKAKAと楽しそうに嗤う。
「……誰が話したんだ……?」
『――ん?――』
「誰が話したんだと訊いている……」
『――小生だが?――』

ズッガァアアァアアアアアンンッ

凄まじい轟音が響き、青白い雷光が嗤うバアルを貫いた。
「貴様と言う奴は、毎度毎度毎度毎度余計な事ばかりしおってぇええええええっっ!!!!」
「あ、兄者!!落ち着いてくださいぃい!!?」
「こんな所でそんなフルパワーを出したら、辺りに被害が!!!」
「えぇい!!離せ!!こいつは生かしておいてはならん!!ならんのだぁあああっ!!!!!」
 慌てて止めに入る弟二人を振り回しながら、吠えるゴウ。
 一方、当のバアルは雷撃を文字通り喰らいながらケタケタ嗤う。
『――禍禍禍。まあ、落ち着き給えよwそんなに興奮すると、何処かの血管が切れてしまうぞwwああ、もうキレてるのかwwwww――』
「草を生やすなぁあああ――――っっっ!!!」
『ああ、青の君!!猛るお姿も、また素敵ですの―――♡』
 暴れるゴウに張り付きながら、うっとりとした声を上げるヘル。
 その地獄絵図を前にして、ナベリウスは一人頭を抱える。
『『『ああ、何でこうなるのかなぁ……』』』
「……何事だよ……。この騒ぎ……」
 後から絶え絶えに聞こえた声に振り返れば、崖から顔を出すガイの姿。
 ようやく滝壺から上がって来たのだろう。全身ずぶ濡れで、頭の上では小魚が跳ねている。
『『『ああ、無事だったかい?』』』
 羽根を差し伸べ、引っ張り上げるナベリウス。
「すまねぇな……」
 ブルブルと身を震わせて、水気を切るガイ。
 その飛沫を羽根で弾きながら、ナベリウスは溜息をつく。
『『『全く。もうグダグダだよ。こうなる前に事を済ませたかったのに……。バアルが絡むと、いつも事がややこしくなる』』』
 陶製の頭が、疲れた様にガランと鳴る。
 その様に、ガイが抱くのは共感に等しい憐憫。
「……苦労してるんだな」
『『『……分かって、くれるかい?』』』
 そんな会話を交わし合うと、二人。
 確かに交わる思い。
 やがて、二人はガッシと固い握手を交わす。
 神と魔王の間に熱いものが生まれた、偉大なる一瞬であった。
 

「……それで、俺にどうしろと言うんだ……?」
 しばしの騒ぎの後、どうにか滾る憤懣を押さえ込んだゴウ。
 どっかと座り込み、鼻息も荒く問いかける。
 ちなみに、その腕にはヘルが張り付いたままである。
『――そうだねぇ。とりあえず、ヘル(彼女)の気がすめばいい訳だが――』
 顎に手を沿え、考え込む素振りを見せるバアル。
 当然の様に、ノーダメージである。
『――ヘル嬢、汝、結局どうなれば満足なのかね――』
 目を細めながら、ヘルに問いかける。
 返ってくる答えは、承知しているのだろう。
 この上なく、楽しそうである。
『決まってるですの。青の君と添い遂げるですの』
 これでもかと言うくらい、真剣な顔で答えるヘル。
 マジ顔である。
「「「「『………』」」」
 絶句する皆様。
 沈黙するゴウに向かって、バアルが言う。
『――だそうだよ?――』
「……何がだ……?」
『――うん?――』
「……何が、”だそうだ”、だ……?」
 ヒクつく様な声で問うゴウ。
 苦悩する様に目を閉じた顔。
 その米神には、太い青筋が何本も浮いている。
 ピクピク痙攣するそれは、今にもブチ切れそうである。
『――”何が”はないんじゃないかね――』
 その赤眼を歪ませながら(と言うか、今にも吹き出しそうな顔で)、バアルは言う。
『――いたいけな少女が、その心の内を吐露したのだよ?相応の誠意を持って答え給えよ――』
「ほう……」
 地の底から湧き上がる様な声。
 ゴウの体から立ち上る気が、剣呑さを増す。
「では……、どう言う答えが望みなのだ……?」
『――そりゃ、汝――』
 バアルはサラリと、あくまでサラリと言う。
『――汝が”こっち”に婿入りしてくれれば、万事丸く収まるよ――』
「ちょっ!?」
「おm!?」
「何言ってんですか!!あんたは!?」
 真っ青な顔で大合唱する皆さん。
 当然である。
「兄者は、地上の鱗ある動物を統べる宿命を持った、神の一柱ですよ!!それをそっちの都合で引き込むなどと……!!」
『『『……まぁ、それで収まるなら、それでも……』』』
「「「良くない!!!」」」
 皆が喚き散らす中で、ヘルは顔を真っ赤にしてフルフルしている。
『いやですの〜♡婿様だなんて、気が早すぎますの〜♡♡』
 黄色い声を上げながら、ゴウの腕に頬ずり。
 ゴウ、ストレス臨界点。
 それを見透かしながら、バアルはなおも言う。
『――なら、”そちら”の方でヘル嬢を娶ってくれるかね?こちらはそれでも――』
「「「良い訳あるか!!!」」」
『『『いや、真面目にそれは困るよ。こっちの仕事が増えるじゃないか。面倒くさい……』
 皆さん、さらにヒートアップ。
 バアル、わざとらしく溜息。
『――我が儘だねぇ。じゃあ、一体どうして欲しいのだね?――』
「「「連れて帰れ!!!」」」
 皆が、三度声をそろえたその瞬間。
「……おい……」
 静かな……と言うか、途方に暮れた声がそれを制した。
「な、何ですか?兄者?」
「少し、黙れ……」
「何を言っているんですか!?兄者も何か言……」
 気色ばんで振り返ったシンが、言葉に詰まる。
 ヘルが、その顔をゴウの腕に埋め、身を震わせていた。
 さめざめ。
 どう見ても、泣いている。
「「「………」」」
 皆が、一斉に沈黙した。


 さて、この世で最も強力な液体は何であろう?
 硫酸?それとも塩酸?
 否。
 それは、美少女の涙である。


『ああ……、何と言う事ですの……。皆様は、この恋を祝福してはくれませんのね……』
「あ、いや、それは……」
「な、なんつーか、その……」
 ポロポロ涙をこぼしながら、嗚咽を漏らすヘル。
 魔王とは言え、見た目は幼い少女である。こう泣かれると、やはり居心地が悪い。
 零れた涙が地面に落ちる度、シュウシュウと下草が枯れ朽ちていくが、それも今は些細な問題である。
『――おやおや。淑女を涙させるとは。全くもって罪な事だ――』
 ニヤニヤしながら言うバアル。「なーかした、なーかした」などと言い出さないだけ、マシというものかもしれない。
「す……好き勝手言いやがって……」
 ガイが歯噛みするが、それでどうなるものでもない。
 ヘルの涙は、止まらない。
 ゴウは、途方に暮れている。
 流石のシンも、”これ”は管轄外。
 ガイに至っては、言わずもがな。
 自然、皆の視線はとある人物に集中する。
 他の誰でもない。朱雀のレイ、その人である。
 おそらく、女性の扱いには一番長けているであろう彼に、期待が集まる。
 それに気づいたのだろう。彼は咳払いを一つすると、ヘルに向かって進み出る。
「もし、お嬢さん」
 声をかけられたヘルが、涙に濡れた眼差しを上げる。
「ヒク……何ですの……?」
「貴女の悲しみは、痛い程に分かります。焦がれる想いとは、辛いもの。僕達も、出来る事ならば、貴女の想いを叶えて差し上げたいと思っています」
「おい!!何を勝手な事を……ムガモガ!?」
 文句を言いかけるゴウの口を、シンとガイが押さえる。
『それなら……』
 一瞬、期待の光を目に灯らせるヘル。しかし、レイはゆっくりと首を振る。
「残念ですが、それを世の理は許してくれません。それは、かの世界の王である貴女も、分かっている筈です。」
『う……』
 言葉に詰まるヘル。
 レイは、この上なく優しい笑顔と声音で語りかける。
「分かっています。貴女は、かの世界で自分を待つ者達を蔑ろにする様な方ではありません。ただ、ほんの少し駄々をこねてみたかっただけですよね」
『………』
 様子を見ていたバアルが、感心した様に言う。
『――これはこれは。なかなかどうして。あのヘル嬢を黙らせるとは、かなりの舌技。あれで、何人の婦女子を籠絡してきたのだろうねぇ?――』
『『『……どうでもいいけど、余計な口は出さないでおくれよ……』』』
 一抹の不安を隠せない、ナベリウスだったりする。
 しかし、その間にもレイの言葉は続く。
「もちろん、僕達も貴女の想いを無下にはしたくありません。そこで、どうでしょう?」
 言いながら、傍らのゴウの肩にポンと手を置く。
「今日一日、兄者をお貸しします」
 その言葉に、ハッと顔を上げるヘル。
 仰天するゴウ。
「おい!!お前何を……!?」
 慌てるゴウを無視して、レイは言った。
「どうぞ、今日一日、兄者と一緒にその想いを満たしてください。これからの永きの刻を、温もりを抱いて過ごせます様に」
『………。』
 しばしの間。
 やがて、ヘルはコクリと頷いた。
「おい、待て!!俺の意見は……グガゴモ!!」
 憤慨するゴウを、シンとガイが押さえつける。
 かくて、前代未聞。神と魔王の1日デートが実現する運びとなったのだった。


                               続く
この記事へのコメント
ゴウの奴はわかっていないな。この状態がどれだけ羨望の的であるかをw

結局この騒ぎもバアルが原因だったと。
しかし、いくらヘルたんが惚れっぽいとはいえ、
話を聞いただけで顔もわからない相手に
そこまで熱を上げられるものなのかというのが疑問。
もし不細工だったらどうするんだとw
おそらく、バアルの事だから何らかの形で映像を見せたのではないかと推測。

そしてまた頭を抱えるナベリウスが可愛すぎw
きっといつもこんな感じでバアルに振り回されているのだろう。
もしこれでゼクシアに付きまとわれたりしたらノイローゼになるんじゃないかwww
ゼクシア「(゚∀゚ ) ワンちゃん、カワイイねえ。俺と『もふもふ』しよーぜ☆」
ガイを引っ張り上げてやる辺り、本当に話の分かる奴っぽいな。友情も芽生えてるしw

で、神と魔王がケコーンしたら生まれてくる子供が最強になりそうな予感。
ゴウがなぜOKしないのか、草葉の陰でクゥエルが首を傾げていそうだw
ヘルたんの涙は硫酸や塩酸並みの威力がありそうだなw

今回はレイが結構ファインプレーかも。一日レンタルは案としては妥当な線か。
もっとも、この一日デートがすんなりいくわけないだろうがw

てなわけで今回はこんなもんか。
Posted by G5‐R at 2019年12月11日 00:41
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