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2016年06月20日

十三月の翼・いふC 前編(天使のしっぽ・二次創作)




 久々の更新。天使のしっぽです。
 最近、無理に更新するよりはじっくり作品を練ってから上げようと考えを改める事にしました。
 更新の頻度は減りますが、じっくり腰を添えて続けていきますので、これからもどうぞよろしく。



ヘル.jpg



            十三月の翼・いふ
         おてんば(屍)姫の恋模様(前編)


               ―0―


 ――闇の中に、ガランゴロンと声が響く。
『『『どうだい?いたかい?』』』
 無骨な鈴を鳴らす様な、耳障りな声。
 それが、何かに問いかける。
 ――と、
 るぉん
 虚色の空に、紅が揺らめく。
『――いや。何処にもいない様だねぇ――』
 虚ろに響く声が、昏い空を揺らす。
『『『この世界全てを見晴らす君の目にも、映らないかい?』』』
 ガランガラン
 鳴り転がる声。
 なんとなく、疲れが見て取れる。
『『『となると、やっぱり“向こう”か……』』』
『――そうだねぇ――』
 それに答える、もう一つの声。
 こちらは何処となく、面白そうな気配。
『『『・・・楽しんでないかい?』』』
 恨みがましそうな、響き。
 苦っ苦っと笑いながら、”その”声は応える。
『――否々、其は被害妄想と言うものだよ。小生は十分、事態の重大性は理解している――』
『『『ふん。どうだか』』』
 ガランガラン
 苛立たしげに声を鳴らしながら、鵞鳥の足で地面を蹴る。
 黒く凍てついた土が削れ、氷の欠片がキラキラと宙を舞った。
『――まぁ、そう頭に血を上らせるのはよしたまえよ。いや、君には上る場所がなかったかな――』
『『『余計なお世話だよ』』』
『禍禍』
 その笑い声に、ますます気分を逆なでられたのか、”彼”は鵞鳥の羽で三つの頭を掻き毟る。
『『『笑えた立場かい!?大体、もとはと言えば君が……!!』』』
 ガラガラガラン
 転がる音を鳴らしながら、喚き散らす“彼”。
『――分かった分かった。小生の非は認めよう。だから、そう頭を振るのは止めたまえ。騒々しくて仕方ない――』
 辟易した様に響く声。
 それを聞いて、“彼”はようやく三つの頭を鳴らすのを止める。
『『『全く、余計な話をしてくれたものだよ。“あれ”の悪癖は、君も知っているだろうに』』』
『――いや、実に面目ない――』
 反省を示す言葉。
 問題は、それに全く誠意が感じられない事だろうか。
 と言うより、明らかに楽しんでる雰囲気がダダ漏れである。 
 “彼”はため息をつきながら昏い天を見上げる。
『『『せめてもの救いは、行く所が大体見当がつく事くらいか……』』』
『――ああ、それはまず間違いないだろうね――』
『『『“彼ら”の居場所は?』』』
『――もう特定済みだよ。なかなか、風流な場所に居る様だ――』
『『『その風流とやらも、もう少しで台無しだ』』』
『――おお、それは残念――』
 何処まで本気か分からない言葉にげんなりしながら、“彼”は天に向かって言う。
『『『とにかく、見知りがあるのは君だ。“彼ら”との話は、付けてくれよ』』』
『――それは、勿論――』
 と言う言葉が下りた後、しばし考える気配。
『――しかし、協力してくれるかねぇ?どうも小生、“彼ら”に大層嫌われている様だからねぇ。全く、理由が分からないのだが――』
『『『……』』』
 いけしゃあしゃあとそんな事を言う声に、“彼”は三つの頭を抱える。
『『『……とにかく、頼んだよ……』』』
『――ああ、では、“道”を作るのは頼んだよ――』
 その言葉に返るのは、これでもかと言うくらいに大きな三度のため息。
『『『ああ、面倒だなぁ……』』』
『――まあ、そう愚痴るのはやめたまえよ。どうせ、大概寝ている身だろう?たまには励みたまえ――』
『『『分かったよ』』』
 言いながら、“彼”は懐から何やら取り出す。
 見れば、それは手の平大の懐中時計。
『――さて、見物だ。汝の芸は久しぶりだからねぇ――』
『『『少し、黙っててくれないかな』』』
 そして、幾度目かも知れないため息がまた一つ。
『『『……全く。余計な手間を増やさないでくれよ。“屍姫(ヘル)”――』』』
 流れるべき子守歌の消えた、かの世界。
 それを見渡しながら、魔王ナベリウスは三つの頭を悩ましげに鳴らす。
 ガラン ガラン
 ガラン ガラン
 以前にも増して、沈黙が支配する世界。
 その音は、白霧の中に長く尾を引いて溶けてゆく。
 ナベリウスの手の中の懐中時計。
 その針が響く音に踊る様に、グルグルと回り始めていた。


                 ―1―


 場所は、とある大陸にある深山。
 木々は深く、大気には濃密な緑の匂いが漂っている。
 と、
 パキリ
 静寂に包まれる森の中に、小枝を踏み折る音が聞こえた。
「あ、いけね!」
 同時に響くのは、年若い男性の声。
 幼さの残るそれは、少年と言ってもいいかもしれない。
「また、やっちまった……」
 言いながら片足を上げるのは、白い中華風の衣装を纏った白金色の髪の少年。
 名前を、白虎のガイと言う。
「やれやれ。いつまで経っても進歩がありませんね」
 上げた足の下で折れた小枝を、忌々しげに睨むガイ。
 そんな彼に向かって、背後にいた朱色の服の青年――朱雀のレイ――が呆れた様に声をかける。
「これで何度目です?また、鍛錬の際の負荷が増しますよ?」
「そんな事、言うけどよ〜……」
 げんなりしながら、反論するガイ。
「無理な話だぜ。こんな山ん中で、小枝を一本も踏まずに歩くなんて」
「雑念が多いからです。見なさい」
 そう言ってレイが、片足を上げる。
 成程。
 その靴裏には、一片の木片もついていない。
「が〜〜〜……」
 唸るガイに向かって、ふふんと鼻を鳴らすレイ。
「兄者が言っていたでしょう。一挙手一投足に気を回せ。呼吸の一つも修行と思えと。さもなくば、また“あの様な事”が起きた時後悔する事になりますよ」
「……分かったよ……」
 件の件に関しては、彼も思う所があるのだろう。不承不承、頷くガイ。
「よろしい」
 そう言って、足を下すレイ。
 途端。
 バキキッ
 乾いた音が、静寂の中に響いた。
「あ」
「あ」
 思わず、互いを見やる二人。
 その間を、風がピゥ〜〜と吹き抜けていった。


 ドドドドドドドドド……
 深い山林の間に開けた渓谷。
 そこに、一筋の大きな滝がある。 
 大音響と共に雪崩落ちる、水の柱。
 その飛沫が届く岩場で、青龍のゴウは座禅を組んでいた。
 バチバチ バチバチ
 しぶく水滴が、その身を痛い程に打つ。
 けれど、その身はまんじりともしない。
 静かに目を閉じたまま、彼は大自然の息吹の中にその心を委ねていた。
 ――と、
「兄者」
 背後からかけられる声。
 ス、と目を開き後ろに声をかける。
「何だ?シン」
 背後に立つ弟。玄武のシンに、声をかける。
「食事の用意が出来ました。こちらへ」
「分かった」
 そう言って立ち上がると、濡れた髪をかき上げる。
「火を用意してあります。身を乾かしてください」
 言われて目をやれば、焚き火に薪をくべるレイとガイの姿。
「すまないな。お前達」
 労働をしてきた弟達に、労いの声をかける。
「言われる程の事ではありませんよ」
「薪拾いくらい、馬鹿でも出来らぁ」
 そう返して笑う、レイとガイ。
 そうか。と笑いながら、チクリと棘を刺す。
「で、お前達。鍛錬の方は失念していなかっただろうな?」
 小枝踏みの事である。
 ギクリ!!
 一瞬強張る、二人の身体。
「も、もちろん!しっかりこなしてきましたよ?ね、ねぇ、ガイ?」
「お、おう!!楽勝っても、もんよ!!」
 明らかに挙動不審な二人。
 それを見て、ゴウはフ……と笑みを浮かべる。
「そうか。それならいい」
「は、はい!!」
「お、おう!!」
「午後の鍛錬は、五割増しだな」
 ピッキーン
 固まる二人。
 それを見て、シンが苦笑した。


「あー、ちくしょう……。誤魔化せるかと思ったんだけどなぁ……」
「貴方の演技が、下手だからですよ……」
 焚き火で炙った川魚を齧りながらぼやくガイに、レイが突っ込む。
「何言ってやがんだ!!オレはちゃんとやったぞ!!レイの方こそ……」
「馬鹿者」
 ズガンッ
「ウガァッ!?」
 ゴウが投げた串に額を直撃され、ひっくり返るガイ。
「誤魔化そうとか言う、その性根がいかんのだ。罰として、午後の鍛錬は九割増しだ」
「そ、そんな殺生な……」
「仕方ないですね。私達も付き合うから、観念なさい」
 シンにそう言われても、ガイの鬱憤は晴れない。
「チクショー!!」
 額に刺さった串を引っこ抜きながら、喚く。
「これも元はと言えば、あの性悪魔王のせいだ!!今度会ったら、徹底的にぶちのめしてやる!!」
『――性悪かね?――』
「おう!!性悪も性悪!!歩く風評被害!!頭でっかちのサイコパス!!ネジの飛んだ快楽主義者!!5メートル離れてつつくのも危ねえ毒蛇よりたちが悪ぃ!!文字通りの羽根付き脳みそのド腐れ野郎だ!!」
『――大概、酷い言われ様だねぇ――』
「何言ってやがる!!これでも大分控えめだっつーの!!大体だなぁ……」
「……ガイ。さっきから誰と話してるんです?」
「は?」
 シンに問われ、ポカンとするガイ。
「誰って……」
 振り返る。
 何処かで見た事のある、白い仮面が浮いていた。
『――全く。そこまで言われなきゃならない事を、小生が汝にしたかね?――』
「どぅわぁあああああああああああっっっっっ!!!!!?????」
 一瞬で、10mほど後ずさるガイ。
『――やれやれ。相も変わらず、騒がしい事だ――』
 などと言いながら、どっこいせ、と空間に開いた穴から出てくる“そいつ”。
「貴様は!?」
「バアル!!」
 一斉に身構えるゴウ達。
 そんな彼らを見渡し、魔王バアルはうやうやしく頭を下げる。
『――覚え宜しく、結構な事。久方ぶりだね。若き神々の諸君――』
 ゴウが、険しい顔で問う。
「貴様、何故また現れた!?先の件をまた繰り返すつもりか!?だとしたら……」
 ヴンッ
 皆が、一斉に獣神具を召喚する。
「見逃す訳にはいかん!!」
『――いや、ちょっと待ちたまえよ――』
「ゴチャゴチャうるせぇ!!」
 バアルの言を遮り、飛びかかってくるガイ。
 拳を振り上げ、がなる。
「ここで会ったが100年目!!今度こそそのふざけた面、粉々にしてやらぁ!!」
 バアルに向かって振り下ろされる、神気を纏った拳。
 そして――
 ぐしゃこんっ
 拳は見事にめり込んだ。
 “ガイ自身”の顔に。
 ガイの腕は途中でUの字を描く様に曲がり、自身の顔に直撃していた。
 どうやら、空間を捻じ曲げたらしい。
「ウ……ガ……」
 ピロピロピロ ポスン
 悲しげな音と共に、地に落ちるガイ。
 それを見ながら、大仰にため息をつく。
『――全く、迂闊に突っ込むと喰われると言うに。相も変わらず汝は――』
 そして、あの一言。
『――頭が、悪いなぁ――』
「だ……誰が阿呆だ……!?……」
『――阿呆じゃない。頭が悪いと言ったのだ。全く、耳まで悪いのかね?汝は――』
「ま……またしれっと言いやがったなぁ……」
 地に付したまま、プルプルと手を挙げるガイ。
 そんな彼に、魔王は言う。
『――とりあえず、汝は黙っていてくれ。話が進まない――』
「ち……ちくしょー……」
 そして、ガイの手はヘロヘロポテンと、地に落ちた。


                                  続く 
この記事へのコメント
では、第4波いってみよー
どうやらナベリウスとヘルたんが本格的に動き出すようだな。
ヘルたんがいなくなった理由は、先に全部読んだからもう知ってるけど。
ナベリウスが3つの頭を抱える姿をビジュアル化したらさぞカワイイだろうなw
ぜひフィギュア化しようw
ゼクシア「(゚∀゚ ) まあ、ワンちゃんったら。お顔が3つでとってもステキよ(はあと)」

バアルは相変わらずのトラブルメーカーだな。
ガイのいじられぶりも健在で何よりだw
四聖獣もあの事件の後鍛錬を重ねているようだが、
そんなにすぐにはパワーアップできないか。孫○空は規格外にも程があるなwww
ちなみに、アクシオンも一応修行はする。修行の仕方を模索するのが大変だけどw

第4波は、以上。
Posted by G5‐R at 2019年12月09日 00:07
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