2016年06月30日
十三月の翼・いふC 中編A(天使のしっぽ・二次創作)
こんばんは。土斑猫です。
この間、2度目の睡眠時無呼吸症候群の検査をしてきまして、めでたく重症認定されました(泣)
「これは辛かったろうね〜」と言われまして。どうりで眠かった筈だよこんちくしょう!!
という訳で、昨夜から治療器具つけて寝てます。これ、取れる日来るのかねぇ……?
で、今回も「いふ」更新です。
――3――
「な、何!?」
「何ですか!?あれは!!」
叫んだガイの視線を追った皆が、驚きの声を上げる。
彼らのいる場所の、滝を挟んだ対岸。
そこの森に、異変が起こっていた。
「木々が……」
「葉が、落ちていく……!?」
「あれは、冬枯れ……?いや、しかしこの季節に……!?」
そう言う彼らの前で、木々はその身の色を変え、葉を散らしていく。
そう。それは正しく、冬の情景。
しかし、それが起きるには今はあまりに季節が早い。
名残の署気が残る、残夏の世界。その中で、そこだけが季節を終わらせていく。
それは、静謐にして異様な光景だった。
「一体、何が……!?」
『――ああ。丁度、あんな感じだよ――』
「は?」
突然の言葉にポカンとする、四聖獣。
その横で、バアルは言葉を続ける。
『――屍姫(ヘル)嬢が顕現すると起きる現象だよ。彼女の能力は「魂魄を鎮める程度の能力」だからね。彼女が通った後の万物は、魂が眠りについてしまうのさ。植物は冬の如く身を散らし、動物は覚めぬ眠りに落ちる。丁度、あんな風にね――』
「「「「……」」」」
『――いや、どうやって説明しようか考えていたのだが、丁度良い実例があって助かった。いいかね。彼女を放っておくと、あの様な事態がこの世界のあちこちで――』
「「「「……(汗)」」」」
沈黙する四聖獣。
その横で、バアルがはたと思い至った様に『――ああ――』と手を打った。
『――”あれ”だ――』
途端、飛び出す四聖獣。
「いかん!!早く止めるぞ!!」
「クソッタレ!!毎度毎度面倒事持ち込みやがって!!」
「言ってる場合じゃありません!!急がないと!!」
飛び去っていく彼らの背を見ながら、バアルはナベリウスに言う。
『――ご覧。彼ら、行動力はあるんだよ。若さとは、いいものだねぇ――』
『『『言ってる場合かい!僕達も行くよ!!“手筈”通りに!!』』』
『――分かった分かった――』
そして、二人の魔王の姿も、その場から忽然と消え去った。
転じて、対岸の森。
舞い散る紅葉の中で、小さな人影がヘタリ込んでいた。
『あーもう、ここ、何処ですのー?』
喚くその姿は、年端の行かない少女そのもの。
その幼くも美しい面立ちは勿論、目を引くのは身にまとう衣装。
中世の北欧を思わせるその衣装は、左側が長いヴェール状に作られており、小柄な少女の半身を完全に覆い尽くしていた。
その衣とさざめく黒髪を揺らし、少女は足をジタバタさせて喚く。
『そもそも、ここ何ですの!?木や草がザワザワってうっとーしーですの!!もう、皆寝ちゃえばいいですの!!』
途端、少女の周囲の空間が揺らぐ。
そして―
『『『ストップ!!』』』
どこからともなく、響く声。
『ん?』
少女の周囲の、揺らぎが止まる。
いつの間にか、彼女の前に異形の影が二体。
『『『やっと見つけたよ、ヘル』』』
『――全く。汝のやりようは素直過ぎて面白味に欠けるね。もう少し捻りたまえよ――』
『……バアルにナベリウス……。何しに来たですの……?』
不機嫌そうに眉を潜めながら、死者の姫は目の前の同僚二人を睨みつける。
『『『何じゃないよ。早く戻ってくれ。眠れる魄達が目覚めてしまう』』』
『――それはそれで、興味深い事態ではあるけどねぇ――』
『『『……バアル。君は少し黙っててくれ……』』』
頭を抱えるナベリウスを見て、鼻を鳴らすヘル。
『優等生ぶるんじゃないですの。単に面倒事を排して惰眠を貪りたいだけのくせに』
『『『分かってるなら、さっさと帰って仕事を再開してくれ!!もう寝たいんだよ!!僕らは』』』
『――それはそれで、非生産的だがねぇ――』
『ふん!!がらんどう頭の都合なんか、知った事じゃないですの!!』
『『『何をー!??』』』
『何ですのー!!?』
牙を剥き合う二人。
『――うーむ。魔王同士の喧嘩と言うのも稀有なものだが、あまり面白くはないねぇ――』
ギャアギャアと言い合う、魔王三人。
と、そこへ――
ガサガサ
「や……やっと着いた……」
近くの藪をかき分けて、ガイが顔を出した。
何か知らないが、随分と疲労困憊と言った態である。
『――おや?遅かったね?――』
『『『ああ!!こんなに早く!!バアル、空間歪曲の術式構築、手を抜いたね!?』』』
「んだと!?おかしいと思ったら、やっぱりてめぇか!?」
ナベリウスの言葉に、いきり立つガイ。
「一体、何だってんだ!?手伝えと言ったり邪魔してみたり!!人をおちょくるのも大概にしねぇと、こっちもいい加減堪忍袋の緒が……」
しかし、そこまで言った所で様子が変な事に気づく。
バアルもナベリウスも、ガイの方を見ていない。二人の視線は、傍らの少女――ヘルに集中している。
「……な、何だよ?お前ら……?って、何だ?そのガキ……?」
当惑した問いにも、答えは返ってこない。
二人はただ、ヘルを見つめる。
当のヘルは、ガイを見つめたままキョトンとしている。
『『『……どうやら……』』』
『――違う様だねぇ――』
「は?」
二人の言葉に、ガイがポカンとしたその時――
「酷い目に会いましたね」
「全く、髪がバサバサじゃないですか!!」
ガイの後方から、シンとレイも顔を出した。
それを確認した魔王二人。改めてヘルを見る。
ヘル、相変わらず無反応。
『『『……これも……』』』
『――違うねぇ。となると――』
「?」
「何の話です?」
訳が分からぬ態の二人に、バアルが問う。
『――汝ら、長兄殿はどうしたかね?――』
「は?兄者ですか?」
シンが、後ろを振り返りながら言う。
「それなら、もうすぐ……」
それを聞いた、ナベリウスが問う。
『『『じゃあ、すぐ引き返す様に言ってくれ。じゃないと、面倒な事に――』』』
「面倒な?」
「事?」
『『『説明してる暇はないんだ。彼に会ったら、ヘルの悪癖が――』』』
皆まで言う事は、叶わなかった。
レイの後方の藪が揺れ、ゴウが顔を出したのだ。
「やっと見つけたぞ!!魔王(貴様ら)、一体どういうつもり……」
ゴウが、バアル達に食って掛かろうとしたその時――
『ああ!!』
黄色い声が響いた。
「あ?」
「え?」
「ん?」
「何だ?」
四聖獣の視線が、その声の出所に集まる。
……空気が桃色に染まっていた。
声の主は、ヘル。しかし、様子が明らかにおかしい。
片方だけの目をキラキラと輝かせ、頬を朱に染めている。小さな胸の前で組み合わせられた両手は、その高鳴りを示す様に震えていた。
「な、何だぁ!?」
「ちょ、貴女、どうし……」
ガイ達が問おうとした時、何かを決定づける声が響いた。
『青の君!!』
事態を先んじて察したのは、レイだった。
咄嗟に飛び上がり、身をかわす。
ガイとシンは、間に合わなかった。
「うわぁ!?」
「うがぁああ!?」
矢の様にすっ飛んできたヘルに突き飛ばされ、シンはそこらへんの藪に頭から突っ込み、ガイは斜面を転がって口を開けていた滝壺に落ちていった。
ゴウも、間に合わなかった。
「がふぅ!?」
鳩尾に、少女の体当たりをもろに喰らい、もんどりうって倒れた。
「あ、兄者!?」
慌てて助けに向かおうとしたシン。身を起しかけた所で、凍り付く。
仰向けに倒れたゴウ。その胸板に顔を埋め、ヘルは感極まった様な声を上げていた。
『ああ、青の君!!お会いしとうございました!!こうやって、あなたの腕(かいな)に抱かれる事を、どれほど夢見た事か……!!』
ゴウ、茫然。
シン、唖然。
一人事態を回避し、近場に降り立ったレイにバアルが話しかける。
『――流石に場数を踏んでいる様だね。見事な機転だったよ――』
そんなバアルに、レイは些か顔を引きつらせながら問う。
「あの少女が、“ヘル”ですか……?」
頷く、バアル。
「と言う事は、まさか彼女の悪癖と言うのは……」
『――その通りだよ――』
『『『だから、君達と遭遇する前に連れ帰りたかったんだ……』』』
疲れた様に、ナベリウスが息を吐く。
『――そう。魔王、「死姫のヘル」は――』
『『『惚れっぽいんだ……』』』
その言葉に、場の空気がピシリと凍り付いた。
――ちなみに、轟轟と唸る滝壺の方からはガイの悲鳴が響いていたが、気にする余裕があるもの(正確には一人いたが、あえて無視した)者はいなかった。
続く
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今回はヘルたんをお披露目する回ってところか。
出現時には周りの生物が死んでくんだっけ。
ナベリウスに対しては遠慮ないようだな。がらんどう頭とかwww
ぎゃあぎゃあと言い合っている魔王は三人じゃなくて二人じゃね?w
ヘルたんが惚れっぽい事は既に聞いてたけど、ターゲットはゴウか。
これはつまり、ゴウとヘルで「ゴウトゥヘル」ってわけだなwww
そういやG3‐XXも青だけど、こっちは仮面で顔を隠しているうえに
下心丸出しだから相手にされなさそうだw
最後にガイを気にする余裕のあった一人は多分バアルだろうw
以上