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2017年10月07日

霊使い達の旅路 第一章・八話(遊戯王OCG二次創作)




 霊使い達の旅路、新話投稿。天使のしっぽの二次創作は今少しお待ちくだされ。


ライナ2.jpg



               ―8―


 「……貴女……どうして……?」
 手の鏡を輝かせながら近づいてくる風水師。彼女から距離をとる様に後ずさりながら、問うライナ。そんな彼女に微笑みかけながら、風水師は答える。
 「甘くみないでください。こう見えても、数ヶ月前までは地獄の如き戦場に身を置いていたんです。そう易々と足元をすくわれたりはしませんよ」
 「いつから……?」
 再びの問い。
 微笑みが答える。
 「ずっとです」
 「……聞いていたんですか……?」
 三度の問い。
 変わらず答える。
 「ええ。全部」
 瞬間、ライナが杖を風水師に向ける。
 『ライナ!!』
 『姉上様!!』
 使い魔達の制止の声も、届かない。ライナの杖が、光を纏う。
 「雷鳴(サンダー・ハウル)!!」
 詠唱破棄。轟音と共に生じた雷光が、風水師に襲いかかる。
 しかし――
 「禁!!」
 澄んだ光が一閃し、迫る雷光を弾き返した。軌道を逸らされた雷は、そのまま夜空に吸い込まれて消えた。
 「言ったでしょう?これでも少し前は、バリバリの現役だったんですよ」
 まだ、錆び付いてはいません。手の中の神鏡(かみがね)をシャラリと鳴らし、風水師は穏やかな声でそう言った。
 「く……」
 歯噛みするライナに変わらぬ微笑みを向けながら、風水師は一歩また一歩と近づいて来る。そんな彼女からライナを庇う様に、ダルクが前に出る。
 「……ずっと聞いていたって言う事は、こっちの事情は把握している訳だ……」
 「そうですね。あまり好ましい話ではありませんでしたが」
 少し困った顔をする風水師。そんな彼女に鋭い眼差しを向けながら、ダルクは神経を研ぎ澄まし、気配を探る。
 「……他に氷結界の連中はいないみたいだな……」
 そんな言葉に、風水師は何でもない事の様に答える。
 「ええ。気づいているのは私だけです」
 「……正直じゃないか……」
 「嘘をついても、しようがないでしょう?」
 互いに静かな口調。しかし、二人の間の空気は確かに張り詰めていく。
 「……じゃあ、あんたを黙らせれば、邪魔者はいなくなる訳だ……」
 パチパチ……パチ……
 ダルクの黒杖が、黒い光を纏い始める。『黒の宝珠(ブラック・コア)』の前動作。使い慣れた魔法。詠唱破棄も容易。それの前兆をあえて晒すのは、せめてもの思いやりだろうか。
 それを察してか知らずか。風水師は深い溜息をつく。
 「やれやれ。さっきから問答無用ですね。話くらい、聞いて欲しいものですが」
 「……聞かなくても分かってる。僕達がやろうとしている事は、かつての悪夢を呼び戻す可能性があるものだ……。この地を守護する、氷結界(あんた達)が理解してくれる筈がない……」
 その言葉を聞き、風水師はフムと顎に手をそえる。
 「重々、承知の様で。では、もう一つ、お教えしましょう」
 「?」
 怪訝そうに眉を潜めるダルクの前で、細い指が地面を示す。
 「ここは、龍脈の走る場所です」
 「……龍脈……?」
 「本来、大地にある気の流れを表す言葉ですが、氷結界(ここ)では些か意味合いが違います」
 「……何を言ってる……?」
 「まあ、聞いてください」
 言葉を交わしながらも、ジリジリと機会を伺うダルク。しかし、残りの一手が出せない。飄々と話し続ける風水師。一見無防備に見える姿だが、そこには微塵の油断も見て取れない。攻めあぐねるダルク。傍らのライナも、手を打たない所を見るとそれを察しているのだろう。息が詰まる程に張り詰めた空気。しかし、それを他所に風水師は言葉を続ける。
 「氷結界(ここ)に、例の三龍が封印された事はご存知でしょう?」
 黙って頷くダルク達。それを見て、風水師は次の句を紡ぐ。
 「封印された三龍(彼ら)は、その位相を変え、強大な水気(すいき)の流れとなってこの地を巡っています。氷結界(ここ)が、常に冷気と氷に覆われているのはそのため」
 その言葉に、思わずライナが足元を見る。黒く、固く凍てついた大地。その奥に、かつての厄災の鼓動を感じた様に。
 「その気の流れが交わり、強くなる場所がいくつか存在します。ここは、その一つ。もしここで、何か事が起こり交わる龍脈が刺激されれば……」
 穏やかだった風水師の眼差しが、一瞬鋭さを増す。
 「三龍は、再び復活します」
 「「『『!!』』」」
 最後に紡がれた言葉に、皆の顔が凍る。その様を見て、風水師はさらに続ける。
 「分かりますか?貴女達がワームコールを喚起し、ワーム達が再びこの地に降り立てば、それを呼び水にして三龍達が蘇る。そうなればこの地は……いいえ、この世界は以前にも増した混乱と混沌に包まれるでしょう。それでも……」
 やりますか?
 試す様に、風水師は問いかけた。
 俯くライナ。皆が、彼女を見る。一瞬の間。そう。迷ったのはほんの一瞬。次の瞬間にはその顔を上げ、爛々と輝く眼差しを風水師に向ける。それを見た風水師は、ハァと溜息をつく。
 「……揺るぎませんか」
 「……モイ君は、友達なのです。見捨てる事は、出来ないのです」
 「世界と、天秤にかけても?」
 もう、逡巡はなかった。はっきりと、そして力強く、ライナは頷く。それを見たダルクが、風水師に向き直る。
 「……そう言う訳だ……」
 そんな彼にも、風水師は問いかける。
 「貴方も、それを良しとするので?貴方の片割れが犯そうとしているのは、世に希な大罪ですよ?」
 「それが、僕達なんだよ」
 ダルクは言う。
 「許してくれとは言わない。理解しろとも言わない。ただ、この在り方が僕達だ。変える事は出来ない」
 風水師が、もう一度溜息をつく。
 「……仕方ありませんね」
 瞬間――
 ジャッ
 風水師の左袖から数本の苦無が滑り出し、彼女の手に収まる。
 「やらせません」
 「「『『!!』』」」
 ダルクが『黒い宝珠(ブラック・コア)』を発動するのと、風水師がその言葉を放つのとは同時だった。しかし――
 「ダルク!!」
 ライナが、悲鳴の様な声を上げる。
 ――錆び付いては、いない――
 風水師の言葉に、嘘・間違いはなかった。魔力の収束を読んでいたのだろう。発現した『黒い宝珠(ブラック・コア)』が、その身体を抉る事はなかった。彼女はそれをすれすれでかわし、手にした苦無をダルクに向かって投げつけた。
 術発動後の隙。ダルクには、かわす術も防ぐ術もない。空を裂く音と共に、苦無が迫りそして――
 すり抜けた。
 「!?」
 「え!?」
 一瞬、ポカンとするライナ達。次の瞬間――

 グギュェエエェエエエエエッ

 怖気を誘う様な叫び声が、夜の静寂を震わせた。
 「!!」
 「な、何!?」
 振り向いたライナ達の目に映ったのは、その身に苦無を突き立てられ、苦悶の叫びを上げる異形の怪物。複数のモンスターが絡み合い、粗雑に融合した様なその姿は、正しくこの世のものではない。
 『な、何だ!?コイツ!!』
 『イツノ間二!!』
 ギュブゥエェエエエッ
 驚く皆に向かって、怪物は汚らしい体液を撒き散らしながらなおも襲いかかる。無数の触手が蠢き、ライナをからめとろうと迫る。
 「や、やめてくださいです!!気持ち悪いです!!」
 ライナは力いっぱい杖をスイングし、怪物を殴打する。
 グニャリ
 骨に値する器官がないのだろう。殴られるままに、その身体は変形する。
 「ヒェエエエ!!気持ち悪ぃいい!!」
 「ライナ!!離れろ!!」
 ライナを引き寄せながら、『黒の宝珠(ブラック・コア)を放つダルク。同時に、風水師が新たに苦無を投げつける。
 ゴキュキュキュキュッ
 ザシュザシュッ
 その身を『黒の宝珠(ブラック・コア)』にえぐられ、そして無数の苦無に刺し貫かれ、怪物はようやく断末魔の声を上げる。
 ドシャアァアッ
 前のめりに倒れる怪物。最後のあがきの様に蠢いていた触手が、パタリと落ちた。
 「何なんです?このモンスターは?」
 「ああ、見た事も、教本で読んだ事もないな……」
 遠巻きに怪物の死体を見下ろしながら、ライナとダルクは言う。と、
 「……ワーム……」
 傍らから飛んできた風水師の声に、ライナ達は目を丸くする。
 「ワームですって!?」
 「馬鹿な!!ワームコールはまだ発動していないぞ!?」
 しかし、怪物をまじまじと観察しながら、風水師は二の句を紡ぐ。
 「この姿……。氷結界(我々)の伝承に残るワームにそっくりです……。もっとも……」
 伝承では、ここまでおぞましい姿はしていませんでしたが。そう言って、風水師は心なしか青ざめた顔で笑った。


 「……でも、どうして助けてくれたんです?」
 油断なく辺りを伺う風水師。彼女に向かって、ライナは問う。その瞳には、困惑の色がありありと浮かんでいる。そんな彼女に向かって、風水師は言う。
 「元から、邪魔するつもりはありませんでしたから」
 「え……どうして……?」
 戸惑うライナに、つかつかと近寄る風水師。一瞬、身構えるダルク達。けれど、彼女に殺気がない事を悟り、構えを解く。ライナの前に立った風水師は、彼女の瞳を間近から見つめる。距離が近い。ライナの顔が、心なしか赤く染まる。そんな彼女に、風水師は優しく微笑む。
 「同じ……ですね」
 「え……?」
 「強い目です。エリアさんと同じ……」
 ライナの瞳の奥に、かの少女の姿を追う様に彼女は言う。
 「その目を持つ人は、道を違えません。例え、その手法が間違っていたとしても、必ずや正しき結果に行き着きます」
 「風水師さん……」
 微笑む風水師の顔は、どこまでも優しい。ライナの胸が、小さく痛む。
 「もともと、今の平穏はエリアさんがもたらしてくれたもの。その平穏が同輩の方に終わらせられたとしても、それは止む無き事かもしれません」
 「……あんた達、それでいいのか……?」
 呆然と問うダルク。そんな彼にも、風水師は同じ笑みを向ける。
 「この地を護るが、氷結界(我々)の本来の役目。例え事が起こっても、氷結界(我々)が元の役目に戻ればいいだけの事。それが……」
 そして、風水師ははっきりと口にした。
 「皆の、総意です」
 「「『『!!』』」」
 その言葉に、その場にいる皆が息を呑む。
 「あんた達……それじゃあ、全部知って……」
 「忘れましたか?ブリズド様は、心を読めるんですよ?」
 そして、悪戯っぽく舌を出す風水師。と、
 ポスン
 彼女の胸に、ライナが顔を埋めていた。震える手が、風水師をかき抱く。
 「ごめんなさい……ごめん、なさい……」
 嗚咽と共に繰り返す、その言葉。そんな彼女の小さな肩を、風水師はそっと抱きしめた。


                                続く

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