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2016年04月22日

霊使い達の旅路 第一章・三話(遊戯王OCG二次創作)




 遊戯王OCG二次創作、「霊使い達の旅路」更新です。


ライナ2.jpg



               ―3―


 「ここが、ひょうけっかい・・・ですか?」
 「・・・地図じゃあ、もう領域内だけどな・・・。」
 周囲をキョロキョロするライナの横で、地図を広げたダルクが呟く。
 「ひとのすくないところときいてましたが・・・。」
 旅に出てから2日目の夕刻。
 ライナ達は氷結界の東端、塩湖ウォーターワールドの周辺へとたどり着いていた。
 しかし、その場所は彼女達が話に聞いていたものとは大分様変わりしていた。
 通りやすく慣らされた道は人通り多く、道沿いにはズラリと出店が並んでいる。
 湖畔には水遊びに興じる人々が集い、観光者のものと思えるテントも多く見えた。
 「おぅ、そこの姉ちゃん。何か買ってかねーかい?」
 道端にボロけた布を広げた人物が、ライナに向かって声をかける。
 緑色の肌に毛のない頭。
 『ゴブリン』と呼ばれる亜人種である。
 「ここまで来て、文無しなんてこたぁねーだろ?ほらほら、こっちの水着なんてどーだい?いい身体してるじゃねーか。きっと似合うぜ?」
 そう言って広げて見せる水着は、ほとんど紐である。
 「それとも、こっちのスネーク・パームから搾り取ったサンオイルがいいかい?北とは言え、結構日差しはキツイぜ。そのピチピチのお肌にゃこたえるんじゃねぇか?それとも・・・」
 矢継ぎ早の売り文句。
 どうやら、意地でも何か買わせる気らしい。問題なのは、その文句のほとんどがセクハラ紛いである事だろうか。
 流石に眉を潜めるライナを下げ、ダルクが前に出る。
 「お?何だ、兄ちゃん。その娘の彼氏かい?だったら、”これ”買いな。夜に必要だろ?」
 差し出される小箱(何の箱とは言わないが)を押し返しながら、ダルクは尋ねる。
 「・・・随分と賑やかだな。この辺りは忌地じゃなかったのか・・・?」
 その言葉を聞いたゴブリンが、あからさまに馬鹿にした顔になる。
 「はあ?兄ちゃん、随分と遅れてんな。いつの話をしてんだい?」
 「・・・今は、違うのか・・・?」
 ゴブリンの顔が、ニヤリと笑む。
 「ただじゃ、教えねぇぜ。」
 「・・・分かったよ。これをくれ・・・。」
 溜息をつきながら、ダルクは二本のビンを手に取った。
 「あいよ。『ヴェノム・コブラの薬酒漬け』ね。毎度有りー。」
 ホクホク顔で代金を受け取ると、ゴブリンは得意そうに話し出す。
 「確かに、ここは忌地だったさ。理由は聞いた事あるだろ?」
 「・・・氷結界の三龍か・・・?」
 ダルクの答えに頷くゴブリン。
 「おうよ。奴さん達がいつ結界を破って出てくるか知れなかったからな。ここから離れる奴らはあっても、来る連中なんてのはいなかったのさ。それが、今年の初め頃よ。その三龍が、そろって再封印されちまったんだ。」
 『氷結界ノ龍ガ!?』
 「・・・氷結界の一族と周辺国の連合軍総がかりでも、結界内に押しとどめるのがやっとだと聞いてたぞ・・・?」
 驚くダルク達に、ゴブリンも頷く。
 「そういう話だったんだがねぇ。何しろ、詳しい事を聞いた奴ぁ誰もいねぇんだ。氷結界の連中が意地を見せたか、戦士団の手柄か、とんと知れねぇ。まぁとにかく・・・」
 ゴブリンの指が、遠くの山岳を指す。
 「今はもう、あそこに三龍はいねぇ。それだけぁ、確かなのさ。」
 先刻受け取った金をチャリチャリとズタ袋に入れながら、ゴブリンは続ける。
 「後は、見ての通りよ。元から、バカンスにゃうってつけの場所だからな。話が広まるにつれて、人が集まる様になった。商売にゃ、うってつけよ。」
 そう言って、ニシシと笑う。
 と、それまで後ろで話を聞いていたライナが身を乗り出してきた。
 「それでは、ひょうけっかいのちゅうしんぶにもはいれるのですか!?」
 「ああ。事が済んでから、氷結界の連中も大分人当たりが良くなったってぇ話だ。挨拶ばかりもちゃんとしやぁ、無下には扱わねえだろうよ。」
 「そうですか・・・。」
 ライナの顔が綻ぶのを見て、ダルクが小さく息をつく。
 「・・・時間をとらせたな。ありがとう・・・。」
 そう言って、ダルクはもう一枚銅貨を放る。
 「おっと、ありがとよ!!」
 喜色満面でそれを受け取るゴブリン。
 「・・・ライナ、行くぞ・・・。」
 「はいです!!」
 一同がその場を離れようとしたその時、ゴブリンが叫ぶ。
 「お〜い、兄さんよ!!さっきの薬酒、”やる”前に飲むんだぜ!!そうすりゃ、朝までバッチシだからよ!!」
 その声に、周囲から集まる視線。
 ダルクとライナは、顔を真っ赤にして沈黙した。


 「もう!!デリカシーのないひとなのです!!」
 日が暮れ、皆は氷結界本山の麓で二回目の夜を過ごしていた。
 「ダルクもダルクなのです!!なんでそんなおかしなものかうですか!!」
 燃える焚き火を前に、ライナは今もプリプリと憤慨していた。
 「・・・しようがないだろ。これが一番まともそうだったんだ・・・。」
 言いながら、ダルクは眺めていた薬酒のビンを腰の小物入れにしまった。
 「すててください!!そんなもの!!」
 「・・・一応、金出して買ったものだしな・・・。それに、何かの役に立つかもしれないだろ・・・。」
 それを聞いたライナの頬が染まる。
 「あ・・・ひょっとして、ホントにつかうきですか・・・?」
 「は・・・?」
 「いやですね〜。ダルクったら〜。そうですか〜。やるきじゅうぶんですか〜。でもぉ〜、ライナにもじゅんびというものが〜」
 クネクネとしなを作りながら、甘ったるい声を出すライナ。
 「そりゃ〜、いまはラヴくんもDちゃんもいないですし〜、チャンスっちゃあチャンスですけどぉ〜。」
 「・・・・・・。」
 ダルク、沈黙。
 ライナ、流石に別な意味で赤くなる。
 「あ、あはは・・・。さ、さすがにやりすぎましたか・・・?じょうだんですじょうだん・・・」
 と、
 ガバッ
 「へ?」
 突然、ダルクが立ち上がった。
 「ダ・・・ダルク・・・?」
 呼びかけるも、答えがない。
 ツカツカ
 そのまま、近づいてくるダルク。
 「え?え?ちょ、ちょっと???」
 焦るライナ。
 無言で近づくダルク。
 顔が焚き火の光で影になり、表情が見えない。
 はっきり言って、怖い。
 「ま・・・まさか、ホンキなわけじゃ・・・」
 ズルズルと後ずさるライナ。
 ドンッ
 その背中が、木の幹に当たる。
 そんな彼女の前に、ダルクが立つ。
 「だ・・・だめ・・・ライナとあなたは、そんなこと・・・」
 チャリ・・・
 冷たい鎖の音を立てて、上がる左手。
 それが、ライナに向かって伸びて―
 「だ、だめ―――っ!!!」
 ライナが目をつぶって悲鳴を上げた瞬間、
 ゴキュキュキュッ
 黒い渦が、彼女の後ろの空間を呑み込んだ。


 『!!』
 『今の音は!?』
 少し離れた林で薪を集めていたハッピー・ラヴァーとD・ナポレオンが、一斉に振り返った。
 『ますたーノ、『黒イ宝珠(ブラック・コア)』デス!!』
 『何かあったんだ!!』
 『行キマショウ!!』
 二体は頷き合い、その方向へ向かって宙を駆けた。


 パキパキ・・・ピキ・・・
 黒い光に抉られた空間。その中心で、蛍緑の魔法陣がキュルキュルと回っていた。
 「・・・ご挨拶だな。久しぶりに会ったと思ったら、”これ”か?」
 展開する魔法陣の影で、白い髪が揺れる。
 「・・・だったら、気配を消して近づくな。盗賊の類と思われても仕方ないぞ・・・。」
 「ごめんなさい。思わぬ場所と時間に人の気配があったから、素性を調べようと思ったの。お互い、その気持ちは同じだと思うけど?」
 言いながら、白髪の少年の後ろから現れたのは長い赤毛の少女。
 彼らの姿を見たライナが、驚きに目を剥く。
 「あ・・・あ〜〜〜!!」
 「お久しぶり。お元気そうね。霊使いのお嬢さん。」
 そう言って、白髪の少年―リチュア・アバンスの隣りで赤髪の少女―リチュア・エミリアは穏やかに微笑んだ。


 『・・・何でこんな事になってんだろ・・・?』
 『イイジャアリマセンカ。争イ二ナラズニ済ムノナラ。』
 『何言ってんだい。前の件であいつら敵だったの忘れたの?』
 『根ハ悪イ方達ジャアリマセン。大丈夫デスヨ。』
 『相変わらず、質が良いなぁ。悪魔族とは思えないよ。』
 『アラ?ソレハ偏見デシテヨ。』
 4人分のお茶を入れながら、D・ナポレオンはハッピー・ラヴァーに向かって笑ってみせた。


 『ドウゾ。粗茶デスガ・・・。』
 「ありがとう。」
 温かいお茶を受け取りながら、リチュア・エミリアはD・ナポレオンに微笑みかける。
 その横で、リチュア・アバンスは焚き火を挟んでダルクに向き合っていた。
 「全く、見かけによらず気が荒いのは相変わらずか。『魔力隔壁(マジック・ウォール)』がなけりゃ、今頃異次元の塵だったぞ。」
 衝撃の痺れが残る右手をプラプラと振りながら、そんな事を言うアバンス。
 「・・・先にも言ったろ。気配を消して近づく様な奴に、ロクな奴はいない・・・。」
 「・・・何か嫌な過去でもあるのか?」
 「・・・余計なお世話だ・・・。」
 「とにかく、その臆病グセの巻き添えにされちゃたまったもんじゃないんだがな。」
 「・・・知った事か・・・。」
 「ほう・・・。」
 「・・・文句があるか・・・?」
 お茶をすすりながら、バチバチと火花を散らすアバンスとダルク。
 その様を見たエミリアが、クスクスと笑う。
 「あらあら。仲が良いわね。」
 「・・・あれが、そうみえるですか?」
 呆れるライナに、エミリアは小首を傾げる。
 「あら?見たままじゃなくて?」
 「・・・あなた、すはけっこうてんねんなのですね・・・。」
 「あら、ありがとう。」
 そう言って、コロコロと笑うエミリア。
 「・・・あのときは、けっこうやんでたんですね・・・。」
 半ば呆れながら、ため息なぞつくライナであった。
 と、エミリアが笑うのを止めて、真顔に戻る。
 「それで、貴女達はどうして氷結界(こんな所)に?」
 その言葉を聞いたライナが、その目を細めた。


 「・・・そう。モイスチャー星人(あの子)を探す為に・・・。」
 ライナの話を聞いたエミリアの顔に、影が差す。
 「丁度いいのです。霊体(スピリット)が分離した状態だったとは言え、貴女の術式です。”あれ”について、教えてください。」
 そう言って、ライナはエミリアに詰め寄る。
 「いや、あれは・・・」
 「いいわ、アバンス。私が話す。」
 間に入ろうとするアバンスを、エミリアが制する。
 「『輪廻狂典(フレネーゾ・ウトピオ)』について、知りたいのね?」
 ライナは頷く。
 『輪廻狂典(フレネーゾ・ウトピオ)』。
 かつての禁呪集団・リチュアに属していたエミリアのもう一つの姿。『イビリチュア・ガストクラーケ』の特殊能力(パーソナル・エフェクト)。
 モイスチャー星人のモイをこの地から消し去った、忌まわしい記憶の根幹。
 その忌呪の操者、エミリアは言う。
 「・・・結論から言うわ。」
 身を乗り出すライナ。
 「・・・諦めなさい。」
 その言葉にライナ・・・否、場の全員の表情が硬くなる。
 「どういう・・・意味ですか?」
 ギシ・・・
 尋ねるライナの手の中で、杖が軽く軋む。
 その意味を知りながら、エミリアは淀む事なく言葉を続ける。
 「今のモイスチャー星人(あの子)は、貴女の事を・・・いえ、この星の事を覚えてはいない。」
 「!!」
 「輪廻狂典(あの呪)は、単純な転送術ではないわ。対象となった相手を分子レベルにまで分解して送還し、その先で再構築する。一種の転生術よ。」
 「・・・・・・!!」
 「分かるでしょ。転生術で生まれ変わった者は、前世の記憶を継承しない。モイスチャー星人(あの子)はもう、貴女の知っているモイ君ではないわ。」
 ザッ
 瞬間、ライナが手にしていた杖を振り上げた。
 『ライナ!?』
 『姉上様!!』
 驚く使い魔達の前で閃く、銀と黒。
 アバンスがその白刃をライナに突きつけ、彼の喉元にダルクが黒杖を突きつけていた。
 「・・・気持ちは分かるけどな。それを許す訳にはいかない。」
 「・・・それは、こっちも同じだ・・・。」
 ライナとエミリアを挟み、睨み合うダルクとアバンス。
 「・・・ダルク・・・、手を引いてください・・・。」
 震える手で杖を下ろしながら、ライナは言う。
 応じて、ダルクが杖を引く。
 アバンスも息をつき、刃を収めた。
 「ごめんなさいです・・・。貴女を責めるべきではないのに・・・。」
 「いいえ。貴女の憤りは、当然よ。」
 大きく息をつきながら、頭を下げるエミリア。
 「ごめんなさい。本当なら、命に代えて償わなければならない事なのだけれど・・・」
 そう言って、エミリアは自分の首筋に手をやる。
 そこには、ハッキリと刻まれた風呪の紋。
 「・・・約束を、守っているのですね。」
 「ええ。私達にはまだ、やらなければならない事があるから・・・。」
 その言葉に、ライナは問う。
 「そう言えば、貴女達は何故氷結界(ここ)に?」
 「言ったでしょう?」
 その視線が、上を向く。
 「やらなければ、いけない事があると・・・」
 眼前にそびえる氷結界の本山。
 それを見上げながら、エミリアは囁く様に呟く。
 「「・・・・・・?」」
 怪訝そうな顔をするライナ達。
 そんな彼女達に向かって、今度はエミリアが問うた。
 「それで、貴女達はどうするの?」
 答えは、即座に。
 「このまま、行きます。」
 「さっきも言ったけど、望みはないわよ?」
 けれど、ライナの瞳は揺るがない。
 「単に、確率がゼロと言うだけです。マイナスじゃありません。」
 そんな言葉に、フフ、と笑むエミリア。
 「強いのね・・・。」
 「おともだちパワーは、むげんだいなのです!!」
 ビシリと言い放つライナ。
 エミリアが、今度こそ声を上げて笑う。
 「あはは、変な娘ね。貴女。」
 「あなたにいわれたくはないのです!!」
 「あら、ごめんなさい。」
 憤慨するライナに謝るエミリア。
 謝りながら、ふと真顔に戻る。
 「でも、それなら提案があるわ。」
 「・・・なんですか?」
 「私とアバンスを、同行させて。」
 その言葉に、ライナとダルクは目を丸くする。
 「・・・どういうつもりなのです?」
 「贖罪代わりという訳ではないけれど・・・」
 エミリアとアバンスの眼差しが、ライナ達を見つめる。
 「護らせて欲しいの。貴女達を。」
 「・・・まもる?」
 「ええ。」
 「・・・氷龍達はもういないんだぞ。何を警戒している・・・?」
 「さっきも、言っただろ。」
 ダルクの問いに、今度はアバンスが答える。
 「ここには、罪があるんだ。俺達の・・・”リチュア”の罪が・・・。」
 そう言って、アバンスとエミリアはもう一度氷結界の本山を見上げる。
 ヒュゴォオオオオ・・・
 昏い夜天。谷を渡る風が、何かの鳴き声の様に響いて溶けた。


                                  続く

この記事へのコメント
 ライナを翻弄するダルク、といういつもとは逆の展開が続いている(100%ライナの自爆なのだが)。二人きりの空気も限界だったので新たに二人加わったのも割と助かったと言えるのでは?こうなるともうひと組の方の旅も面白いことになっていそうだ。

 塩湖ウォーター・ワールド。イルカはいるのだろうか。観光用に持ち込まれたとか?
Posted by zaru-gu at 2016年04月25日 23:11
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