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2018年09月27日

霊使い達の旅路 第一章・九話(遊戯王OCG二次創作)


 遊戯王OCG、霊使い新規カード収録おめ!!
 血が滾ったので、ほんとに久々にSS再開!!
 ……いや、ホントはこっちが本業なんだけどね……

 それでは、続きを読むからどうぞ。



ライナ2.jpg

                   ―8―





 動き始めていた。
 夜の空が。
 星々が。
 ゆっくりと。
 けれど確実に。


 「もうすぐ、時が満ちる」


 空を見上げていたダルクが言った。


 「準備はいいか?ライナ」
 「ええ。大丈夫です」


 涙で赤らんだ目をこすりながら、ライナが一歩前に出る。


 見つめるのは、天に広がる星図の一点。
 そこに向かって、杖を掲げる。


 「ダルク、ラヴ君、ディー君、風水師さん……」


 かけられた声に、皆が目を向ける。
 集まる視線に向かって、ライナは微笑む。


 「色々ありがとうです。皆の事はどうなっても忘れません」


 その言葉に、皆が目を丸くする。


 『止メテクダサイヨ……』
 『そうだよ。今際の際じゃあるまいし』


 非難がましく言う使い魔二体に、バツが悪そうな笑みを向けるライナ。


 「ごめんなさい。でも、どうなるかは分かりませんから。言っておくべき事は言っておかないと」


 それを聞いたダルクと風水師が、苦笑する。


 「何だ。随分とネガティブだな。僕じゃあるまいし、らしくないぞ」
 「そうですねぇ。エリアさんは、そんな弱音は吐きませんでしたよぉ。まだまだ、修行が足りませんねぇ」


 言われたライナ。ゲンナリとした顔で言う。
 

「そう言わないでください。エリアちゃんほど、気丈ではいられませんよ」
 「そうだな。少しばかり、潜った修羅場の数が違うかな」
 「いけませんね。人生これ鍛錬ですよ」
 「なるほど。あれだけやって、まだ足りないってか」


 そして、皆はもう一度笑い合う。
 笑うダルクの杖に、昏く光が灯る。


 「それなら……」


 瞬間、その顔から消える笑み。


 「もう一つ、超えてみるか!!その修羅場ってやつを」


 ジャラァアアアアアアアッ


 途端、空間を切り裂く漆黒の鉄鎖。
 『闇の呪縛(ダークネス・リストリクション)』
 闇色の鎖蛇が、獲物を喰らう様に突き刺さる。


 『ギュブゥアアアッ!!』
 『ジュラァアアアアアアアッ!!』


 響き渡る悲鳴。いや、異音と言うべきか。夜闇の中で、呪詛の鎖に絡み取られた異形が苦しむ様に蠢く。


 「今!!」
 「殺!!」


 ダルクの声に応じて、風水師が苦無を投げる。
 空を穿って飛んだそれは、過たず異形の身体へと突き刺さる。


 「ギュッ」
 「ギャアッ」


 おぞましい絶叫と共に、崩れいく異形達。
 その様を見た風水師が、ホッとした様に息をつく。


 「やれやれ。どうやら、急所に当てれば、死んでくれる様ですね」


 そう言う彼女の目の前には、無数に蠢く影の群れ。
 闇に溶け込む様に黒い甲殻に包まれた身体の型は、千差万別。その、生物と形容する事すらはばかられる身体。粘着く体液の向こうから紡ぎ出されるのは、耳が爛れるかと思われる異界の言葉。


 『ルテキイルテキイルテキイルテキイ……』
 『チノイチノイチノイチノイ……』
 『イシマヤラウイシマヤラウイシマヤラウ……』
 『イシマタネイシマタネイシマタネ……』
 『イシホイシホイシホイシホイシホ……』
 『イダウョチイダウョチイダウョチイダウョチ……』


 崩れ落ちた同胞(はらから)の亡骸を踏みにじり、”それら”はゾロゾロと押し寄せてくる。漂う異臭に顔をしかめながら、ダルクが問うた。


 「目にも鼻にも、しんどい連中だな……。今の氷結界は、こんな奴らも受け入れているのか……?」
 「馬鹿言わないでください。門は広く開けていますが、分別はつけていますよ」
 「じゃあ、コイツらは何だ……?」


 その問いに、風水師はニヤリと笑む。その顔が、酷く青ざめている様に見えたのは月の光のせいか。


 「亡霊ですよ……」
 「何……?」
 「彼らは、亡霊です……」
 「どういう事だ……?」
 「だって、そうでしょう?」


 訳が分からないと言ったていのダルクを差し置いて、風水師は語りかける。目の前で蠢く異群。その中の一体に向かって。


 「何で、貴方がいるんです……?ねぇ、『ボガーナイト』様……」


 声がけられたのは、群れの中に立つ人型のそれ。
 けれど、答えはない。
 ”彼”はただ、赤く濁った眼差しを虚空に揺らすだけ。


 「ボガーナイト……?誰だ……?」
 「X-セイバーのお一人です……。三龍との戦いで、お亡くなりになったんですけどね……」
 「!!」


 思いもしない言葉に、ダルクの顔が引きつる。
 そんな彼の反応が面白いのか。それとも、現実を直視しないためか。風水師は乾いた笑みを浮かべ続ける。


 「彼だけじゃないんですよ……。他にも、この世にはもういない筈の方がたくさん……」
 「………」
 「ほら、あそこにいるのはジュラック……先の戦火で、滅びた種族です……。あちらにいるのは、魔轟神……。伝書に記してあったものとそっくり……そして……」


 ジリジリと迫る影の群れ。それを一つ一つ示す、風水師の指。それが震えている様に見えるのは、ひょっとしたら自分が震えているからかもしれない。
 そんな事を思いながら、ダルクは『黒い宝珠(ブラック・コア)』を放つ。


 ゴキュキュキュキュッ


 『ギピィッ』
 『ゴパァッ』


 空間を歪める黒珠に喰われ、声を上げる”それら”。
 その声は、苦悶の呻きにも、歓喜の嬌声の様にも聞こえる。
 身体半分を失い、倒れる同胞を乗り越えて、無数の”彼ら”は進んでくる。
 まるで、そこにある死を渇望するかの様に。


 「嫌なものを見ましたよ」
 「……これ以上、嫌なものがあるのか……?」


 皮肉混じりのダルクの問いに、風水師は「ええ」と答える。


 「”彼ら”の中にいます……」
 「何がだ……?」
 「氷結界(ここ)に来て、行方不明になった方達です……」
 「!!」


 ダルクの目が、驚きに見開く。


 「確かか……?」
 「ええ。もう、見る影もありませんけどね……」
 「じゃあ、氷結界(ここ)で起こっていた行方不明事件って言うのは……」
 「”彼ら”が、犯人でしょう……」
 「つまり、奴らに殺られたら……」
 「取り込まれる……と言う事でしょう、か!!」


 ジャッ


 言葉と共に、風水師がまた苦無を投げる。
 急所を穿たれた何体かが崩れ去るが、焼け石に水。

 『アア……アア……アア……』
 『ルネシルネシルネシルネシルネシ……』
 『イガネオイガネオイガネオイガネオ……』
 『テセナシテセナシテセナシテセナシ……』


 呪詛の如き声を上げ、生命なき者達の軍勢は終わる事なく湧き出てくる。


 『マスター!!』
 『ちょっとこれ、キリがないよ!!』
 「泣き言言ってる暇があったら、動け!!気を抜いたら、一気に押しつぶされるぞ!!」


 悲鳴を上げる使い魔達に激を飛ばすダルク。その様を見たライナが、思わず身動ぎする。


 「皆!!」


 けれど、そんな彼女を制するのもまた、愛しき片割れの声。


 「動くな!!」
 「でも!!」
 「何のために、皆が頑張ってると思ってる!!お前は、自分のやるべき事をやれ!!」
 「は、はい……!!」


 苦渋の表情を浮かべながら、ライナはもう一度昏い天空へと向き直る。
 星の巡りが合うは、もう僅か。
 ライナはもう一度だけ、皆を見る。
 返るのは、強い意思を宿した視線のみ。
 ライナは口を引き絞り、最後の決意を決めた。


 「……昏き顕界 無明の迷府 其に響くは迷いし子等の惑い声……」


 始まる詠唱。
 それを耳にした風水師が、流れる汗を拭いながら言う。


 「……始まりましたか」
 「ああ……」
 「では、せいぜい時間を稼ぎましょう」
 「すまない……」
 「何を今更」


 そう答えて笑む風水師の息は、荒い。
 否。彼女だけではない。
 いくら倒しても、湧き出してくる死者の軍勢。
 皆の疲労は、限界に達しようとしていた。


 ギャプッ


 三度(みたび)虚空に生じた黒球が、幾つもの影を抉る。けれど、終わらない。
 押し寄せる死者達。
 じきに、こちらにその手が届く。


 「……触られたら、やばそうだな……」
 「同感です……」
 『トハ言イマシテモ……』
 『時間の問題っぽいよ……。これ……』


 背を合わせ、クルクルと回りながら光線を放つD・ナポレオンとハッピー・ラヴァーが呻く様に息を切らす。
 体力に劣る彼ら。
 防衛線は、ゆっくりと押され始めていた。
 それを察したダルクが呟く。


 「これだけはと、思ってたんだけどな……」


 耳にした風水師が問う。


 「何か、奥の手でも?」
 「奥の手と言うか、”最後”の手だな」
 「それはまた、物騒な」


 わざとらしく驚く彼女に、ダルクは言う。


 「巻き込む事になる。お前は逃げろ」
 「おや、つれない事を」
 「お前は、僕達を理解してくれた。死なせたくない」
 「うふふ。なかなかな口説き文句ですね」


 笑う風水師は、けれど首を振る。


 「でも駄目です。私が愛を受けるのは、エリアさんだけですから」
 「冗談言っている場合じゃ……」
 「ライナさん一人、残すおつもりで?」
 「!!」


 一瞬、絶句するダルク。それを見た風水師は、目を細める。
 何もかも見透かす様な目。
 ダルクの背筋に、軽く悪寒が走る。


 「違うでしょう?貴方達の絆は、断ってはならぬものの筈」
 「けれど……」
 「血の誓いを破ってはいけません。それは、許されざる裏切りです」
 「お前……」
 「エリアさんは、諦めませんでしたよ。最後まで、己の絆を」


 それを聞いて、ダルクは思わず苦笑する。


 「また、あいつの名前かよ。敵わないな……」
 「あの方は、私の導なもので」
 「また、厄介なやつを選んだな……」
 「自分でも、そう思います」


 その言葉に、笑い合う二人。
 ダルクは、気合を入れ直す様に杖を持ち替える。


 「確かに、エリア(あいつ)に睨まれちゃ困るか……」
 「でしょう?」
 「分かった……。もう少し、足掻いてみるよ……」
 「重畳です」


 とは言え、事態が好転する訳ではない。
 敵はなお、数を増してくる。
 ライナの詠唱は、まだ終わらない。
 押し寄せる物量に、ついに風水師が膝をついた。
 そこに襲いかかる、仄暗く燃える炎塊の様な影。


 「させるか!!」


 咄嗟に前に出たダルクが、杖で炎塊を打ち付ける。
 打たれ、弾ける炎塊。
 その瞬間、ダルクの身体にまとわりついた炎の残滓が、不気味な光を放った。


 「!!」


 途端、ダルクの身体を襲う強烈な喪失感。


 「力の……無効化能力……!!」


 それを理解すると共に、視界が回る。
 膝を屈する風水師の前に、倒れるダルク。


 「ダルク……さん……!!」


 呻く風水師も、限界の極み。立つ事も叶わない。
 殺到する、死者の群れ。


 『マスター!!』
 『ダルク!!』


 使い魔達の声も、もはや届かない。
 虚ろな意識の中で、ダルクが歯噛みしたその時、


 「その魔力磁場。いただくわ」


 静かに響く声。そして、


 ヒュンッ


 一閃の光が、ダルクを包む火粉を貫き、地面に突き刺さる。
 次の瞬間――


 フォンッ


 地面いっぱいに広がる、真紅の魔法陣。
 そして――


 『魔女の一撃(ウィッチーズ・ペイン)』


 ゴウッ


 巻き起こった青白い焔柱が、死者の軍勢を呑み込んだ。
この記事へのコメント
ヴェルズの登場でSFチックな空気からホラーテイストになってビビりましたよ、しかし彼らのセリフを逆から読んだ時の懇願が実に悲しく心に来るでの、物語を引き立ててよかったです
Posted by 里ノ月 一 at 2018年10月01日 19:22
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