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2017年05月06日

狙いはハジメ 古より響く闇の嘶きI (ナオシーさん作・学校の怪談二次創作)




さて、ナオシーさん作の学怪二次創作も、いよいよあと2話を残すのみとなりました。
 物語はまさしくクライマックス!!刮目して見よ!!



IMG_20170312_0001.jpg





宇治の平等院。

聴こえてくるのは、追われる者の悲鳴や、追う者の怒声。

鉄同士が打ちあう音がしたかと思えば、馬の蹄が駆ける音もする。

周りで殺伐な喚声の上がる中、一人の男が堂の一室で座禅を組み、一心に経を唱えている。

大鎧に身を固めたその男は、既に老境の域に入っているものの、その佇まいから、かつて精悍な武士であったことが想像に難くない。

ふと、その男を薄い黒雲が包む。



"…哀れだな、源三位入道。"



どこからともなく、声が聴こえる。

源三位入道…かつて源頼政と呼ばれた男は、静かに眼を開けた。

"我は死んではおらぬ…。この乱は、我が起こしたるもの…。見よ、おまえは姿無き我に追い詰められ、乱は失敗、おまえの命もあと僅か…。所詮、人間如きが、我に勝てる筈もない…。"

嘲笑するかのように、せせら嗤う声。


頼政は、当世の権力者、平氏の棟梁、平清盛に対し、謀反を起こした。

頼政の息子仲綱は、名馬を飼っていた。
この名馬を清盛の息子宗盛が欲し、無理やり奪ったのがことの乱の発端である。

馬を出し渋った仲綱に意趣返しをするかの如く、宗盛は無理やり奪った馬に、"仲綱"と名付け、

「仲綱、歩け。」「仲綱、走れ。」

と、鞭打った。

「平家にあらずんば、人にあらず」

そのような狂言が飛び交うほど、この頃の平家の専横は目に余るものがあった。

その平家にも忠実に長年仕えた頼政であったが。

この息子の扱いには、腹を据えかねた。

所詮、どんなに侮辱しても、源氏は何もできないと平氏は思っている。


(そんなことをされてまで生きながらえるなど、何の意味があろうか。)

老将頼政は、謀反を決意した。


しかし、計画は事前に露見、平家の大軍を相手に奮戦するも、今は平等院に追い詰められ、ただ、死を待つだけとなっている。

世間では、その馬は、頼政の討伐した鵺の仮の姿だとまことしやかに噂された。

そしてこの鵺の笑いが、それが真実であったということを物語っている。

老将は、しかしそれに動じることもなく、鋭く言い放った。



「人間を甘く見るでない、鵺。」



ピタリと嘲笑が止まる。

「お主がしつこいように、人間も業の深い生き物。足下をすくわれぬよう、ゆめゆめ、油断せぬことだな。」

"…ふん、世迷言を…。"

そんな頼政の言葉に、耳を貸したのか、貸さなかったのか。
鵺の言葉は、なんとも言えぬ歯切れの悪い、煮え切らないものであった。

「また会おうぞ、鵺。」

頼政は最期にニヤリと笑い、そして脇差を首に突き立てる。

彼を包んだ黒雲も同時に消えていった。



ーー


ーーー


ーーーーー




「ぐ、ぐ…ぬ…!!うが…が…が…!!」




二人の子供が、己が額に破魔の護符を貼り付けた。



「あんたなんかに…ハジメは渡さない!」



霊力を宿した護符は、鵺を纏う邪気をたちまち浄化し、その身体にはビキビキと音を立てて、ひびが全身に広がってゆく。

力が、抜けてゆく。

さつきとハジメは二人は顔を見合い、互いに確かめ合うように頷く。

「みんな!呪文を!」

さつきの声に応呼する五人。

「これで…終わりです!」
「よくも、ハジメ兄ちゃんを…!」
「覚悟しなさい…!」

"ぬぐ…ぐ…お、おのえぇ…!!"

恨めしく五人を、そしてハジメを睨み付ける鵺。

ハジメはその鵺の視線を正面から受け止める。





「俺の魂はおまえにくれてやる程、安くねえ。」


五人は声を揃えてあの呪文を唱える。

「「"夜は明け、朝が来る!!夜は明け、朝がくる!!夜は明け、朝が来る!!"」」

天邪鬼より託された、鵺を滅ぼす呪文。

それをこれでもかと繰り返す。


その言霊は新たな光となり、途端、神々しい霊力が、ひび割れた鵺の身体から発せられた。


"ぐ、グギャアアアアアアァァァァァ!!!"


この世の終わりとも思える、魔獣の断末魔が、五人の耳を劈く。


それは、霊眠ではなく、魂の尽きたものの、真の消滅。


物凄い光が一瞬辺りを照らしたかと思うと、その中で醜悪な魔獣の身体が、残り火のようにかさかさとチリとなり、跡形もなく消えてゆく。






消えゆく意識の中。

鵺が最期に見たもの。


魂を狙い続けた、あの少年。



俺の魂は、おまえにくれてやる程、安くねえ




そう言った、あの少年の顔が。


かつて弓を構え自分と対峙した、あの男の顔と被る。




(千年という時を経て…借りを…返しに来たというのか…。)




人間を甘く見るでない




あの言葉が、ずっと胸に引っかかっていたのは、この日が来ることが分かっていたからなのか。



(…人…間は…侮れ……ん…………)




それを最期に、鵺の意識は完全に途絶えた。








黒雲が徐々に晴れていき、その隙間から、眩しい朝日が差し始める。

病院の駐車場は、その激しい戦いの痕跡すら残さず、全てが元通りになっていた。

ハジメが負った腕の傷も、彼の血に染まっていたさつきの服も。

まるで、この長い長い一夜ですら、夢であったかのように、すっぽりと抜け落ち、何事もなかったかのように元に戻り、五人と一匹を朝日が照らす。

魔獣の消滅から、しばらく呆然と立ち尽くしていた五人は、陽の暖かさに触れ、ようやく自我を取り戻した。

「天邪鬼…鵺は…?」

さつきが、天邪鬼に問う。
彼の負っていた傷もまた例に漏れず、スッキリと消え落ちていた。

「ああ…奴は"消滅"した。奴の結界も解けた。悪夢は…全て終わったのさ。」

その言葉にさつきは、ふぅーーーと、溜まりに溜まった空気を、大きく吐き出した。

と、同時に全員がドサリと腰が抜けたように、その場に尻餅をついた。

全て元通りに戻っているようだが、全身に残るこの疲労感は、決してそれが夢ではなかったことを物語っている。


「終わったん…ですね。」

桃子が力なく、しかし安心したように笑う。

「ハ、ハハハ…足に、ち、力が入りません…。」

レオも今更のように腰を抜かし、足をプルプルと震えさせている。

「…怖かったよぉ。」

逃げ出したくなるような恐怖と向き合い、ずっと堪えていた涙が、敬一郎の眼から関が崩れたように、ぶわっと溢れた。
そんな敬一郎を桃子が優しく包み込む、その頭をさらさらと撫でる。

「よく頑張りましたわね、敬一郎くん。」

敬一郎の頭を撫でる桃子のその柔らかな眼差しが、あの佳倻子にそっくりであったことに泣きじゃくる敬一郎は気付くことはなかった。

「ふー…ホントもうダメかと思ったぜ…。」

疲れ切った顔で冷や汗を拭いながら、さつきの隣でハジメが呟く。

さつきもそう思う。

色々な助けを受け。

その中でもうダメだと思えるほどの絶望も味わい。

それでも、最後まで頑張れたのは、彼の言葉があったから。

「いやぁ、さつきがあんなに諦めが悪いとは思わなかったぜ。すげー俺感動したよ。」

「なによ…あんたが諦めるなって言ったんじゃない。」

悪戯っぽく笑うハジメに、さつきはぷくりと頰を膨らます。

「俺そんなこと言ったっけ?」
「言ったわよ!だってあんたが…!」

そこまで言って、さつきは言葉を飲み込む。

どんな状況でそれを言われたのかを思い出したのだ。

途端にさつきの顔が真っ赤に染まる。

今思えば、我ながらなんと大胆なことをしていたのだろうと思い、頭からあのシーンを振り払おうと、ぶんぶんと首を振った。


ドサリ。


挙動不審なさつきの隣で、何かが崩れ倒れる音がした。

ハッとしてそちらを見ると、つい先ほどまで話をしていたハジメが倒れている。

「は、ハジメ?!どうしたの?!」

突然倒れたハジメに、一瞬嫌な予感がする。

しかし、その身体を抱き起こすと、すぐにその原因が分かった。

ハジメはすやすやと寝息を立て、眠りに落ちていた。

ほっと肩の力が抜ける。


「無理もありませんわ。夢の中でも鵺と戦っていたのですから。」

泣き止んだ敬一郎を連れた桃子が、さつきの肩を軽く叩く。

緊張の糸が切れ、今までの疲労やら睡眠不足やらが一気に襲いかかってきたのだろう。

ちょっとやそっとのことでは起きそうもない。

(お疲れ様でした。ありがとう。)

そんな彼に心の中でそっと呟き、その黒髪をそっと手で触れる。

「少し、このままにしてあげましょうか。」
「そうですね。」

これが、本来の、ではない。


これが本当の二人の姿。

そんな二人を見て、レオと桃子、敬一郎も優しく微笑む。


「さぁて、そんなに上手くいくかな?」

そんな優しげな雰囲気に水を差すかの如く、ぶっきらぼうに言う黒猫に四人が振り返る。

「カーヤ?」
「…どういうことよ、天邪鬼?」

途端、さつきの脳裏に、先ほど消滅した魔獣の姿が過る。

まさか、まだ…と、四人が息を飲む。

しかし、そんな四人に対し、天邪鬼はあくまで意地悪そうにニヤニヤと笑う。

「ま、そいつがゆっくり眠れるのは、まだしばらく先になりそうだってことだよ。」

そう言うと、天邪鬼はピョンと跳躍したかと思うと、不意に姿を消した。

「どういうことでしょう…?」

首を傾げるレオだが、他も天邪鬼の言葉に皆目見当が付かず。同じように首を傾げる。

その時。

「「ハジメ!!」」

彼らの背後から、男女の声がした。

振り返ってみると、そこには、主治医を連れたハジメの父と母の姿が憤怒の表情を浮かべながら立っていた。

鼻息荒く、どたどたと荒々しく足音を立てて彼の許へとやって来る。

「勝手に病院を抜け出したかと思ったら…こんなところで…どれだけ人に心配をかければ気がすむのかね、このバカ息子は!」

意識不明の重態であった息子が、知らないうちに病院を抜け出し、こんなところで満足気に寝ているのだ。

病院側としても大問題である。

怒りでさつきたちのことは見えていないらしい。

「お、おばさん!は、ハジメは…」
「ごめんなさいね、さつきちゃん。このバカ見つけてくれたんでしょ?全く…みんなにまで迷惑をかけるなんて、なんて子だい!」

さつきには申し訳無さそうに謝るが、再び彼を睨み付ける。

ハジメはそんな怒れる両親に気付くこともなく、すやすやと寝息を立てている。

「全くだ!こいつ、こっちの気持ちも知らずにいい気持ちで眠りやがって…!おいハジメ!寝てるんじゃねえ!起きろ!」

父の強烈な拳骨が、ハジメの頭部に落とされる。

痛みによる哀れな悲鳴が、朝の病院に木霊する。

「全く…人間ってやつは。」

陽が射す暖かな病院の屋上で、それを見ていた天邪鬼は、にしししし、と一人楽しげに笑っていた。




                          続く
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