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2017年04月04日

狙いはハジメ 古より響く闇の嘶きE (ナオシーさん作・学校の怪談二次創作)




 こんばんは。土斑猫です。
 ナオシーさん作・学校の怪談二次創作第6話公開です。
 いよいよ本格的な行動を開始した怪奇。果たして、ハジメの運命は・・・。
 刮目なされ!!
 

 それはそうと、ナオシーさん、この作品の中でサッカーの描写をとても細かく書いてらっしゃるんですよね。 
 これ、自分には出来ません・・・orz
 何せ、サッカーの事「相手のゴールの球入れたら勝ち」くらいの知識しかないんですもん・・・。
 いかんですなぁ。もう少し、色んな事に視野を広げなければ・・・。
 他の人の作品を読む事は、そういう意味ではとても刺激になります。
 ナオシーさんには、そういう意味でも感謝してます。
 自分も、もっと人に刺激を与えられる様な作品を書きたいですね。
 今は諸事情で停滞してますが、執筆再開したらがんばるぞ!!



IMG_20170312_0001.jpg




「鵺…。」

天邪鬼の言葉を聞き、誰もが息を呑んだ。




「…ってなんだ?」
「…知らない。」
「私も…知りません。」
「僕も知らない!」

ギャグのような間の抜けたやり取りに、レオはズッコケてしまった。

「全く、これだから人間は…。」

この流れに、さすがの天邪鬼も呆れ顔であった。

「いいですか皆さん!いくら心霊現象に興味が無いからと言っても、それは無知というものです!」
レオはズッコケてずれたメガネを戻しながら、怒り気味で四人を詰った。

「んなこと言ってもなぁ。」
「そーよ。みんなレオくんみたいにオバケに詳しいわけじゃ無いんだから。」

あっけからんと言う二人であったが、レオにギロリと睨まれ、思わず背筋をピンと張った。

「全く…鵺は、その昔、源頼政という武将によって討伐された、日本の妖怪の中でもかなりメジャーな存在です。狒々のような顔に、虎の身体、蛇の尻尾を持つ巨大な獣のような姿で、夜な夜な黒雲をまとって現れては、トラツグミのような不気味な声で嘶き、人々を恐怖のドン底に陥れた、言わずと知れた大妖怪です!当時の天皇もその嘶きに苦しめられ、気を病み、病気になっていた処を、源頼政が弓でもって成敗したと伝えられています。」

鼻息あらく、鵺について説明するレオ。
故に、トラツグミは鵺鳥と呼ばれているんですよ、と最後に付け加える。

そこまで知っているのであれば、何故今まで思い浮かばなかったのかとさつきは逆に聞きたかったが、レオが怒り心頭になることが予想出来たので、さすがに控えておいた。

「まあ、その話を聞く限り、鵺はミナモトのなんとかって奴に倒されたんだろ?なんでまた生き返ってるんだよ?」
「そ、それは…。」

さすがにレオもそんなことまでは分からない。
救いを求めるように天邪鬼を見ると、やれやれといった表情で、ハジメの疑問に、天邪鬼が応える。

「簡単なことだ。所詮、霊力も無い人間が、人間の武器で撃退したところで、完全に奴を滅ぼすことは出来なかったてことさ。」

事実、頼政は後年、息子の飼っていた名馬を巡り、当時権勢を誇った平家に対し謀叛を起こすが、反乱は失敗。奮戦するもその中で戦死した。
その馬は、討伐した鵺の祟りだとまことしやかに噂されたとある。
鵺が、倒されても力を完全に失ってはいなかったということだ。

「では、何故その鵺がハジメさんの魂を付け狙うのでしょうか?」

至極当然な桃子の問いに、天邪鬼は少し思案する。

「恐らく奴は今、魂を糧として生き永らえているんだろう。完全には滅びなかったとはいえ、生きるものとしては、一度止めを刺された。そんな奴が現世に留まる為には、魂を奪い、それを糧とする必要があるという訳だ。」

より優れた魂をな、と最後に付け加える。

その話を聞き、ハジメの顔に苦渋の色が浮かぶ。

敵の正体は分かった。
しかし、その目的が本当に自分の魂であるなら、その結果はどこに行き着くのか、具体的に正体がわかったからこそ、心の奥底で恐ろしさを確かにした。

それはさつきもまた等しく。

「ね、ねえ、天邪鬼!何か…なにか鵺を霊眠させられる方法は無いの?魂を取られない方法は無いの?!」

焦るさつきを見て、改めてハジメに天邪鬼は向きなおる。

「分かったか。おまえを狙っている陰気臭え妖怪は、少なくとも千年は生きる太古の魔獣だ。並の相手じゃねえ。だが、霊眠は兎も角、少なくとも魂のやり取りは、気力次第でなんとかなる。」
「どういうことだよ?」

当然、ハジメは魂のやり取りの仕方など知らない。

「簡単さ。気力で奴に負けないこだ。これからも奴はおまえを消耗させようと、悪夢やなんやらでおまえを苦しめるだろう。だが、おまえが気を強く持ち、奴が根負けするまで耐えることが出来れば、少なくとも今の方法で魂を奪われることはねえ。」

要は気力、根性で耐えろ、ということである。

ハジメはゲンナリした表情になる。


「まだしばらくあんな夢見なきゃなんねえのか。勘弁してくれよ。」
「なんだ、だらしねえ。根性だけは誰にも負けねえんじゃなかったのか?」

そんなハジメを、天邪鬼は嘲笑う。
もちろん、それが彼なりの発破のかけ方だと、冷静であればもう誰でも分かるのだが。
こう言われるとカチンと来る。

「んだと?よーし!こうなったらとことん付き合ってやるぜ。気合いでなんとかなるんだったら、なんとかしてやるよ。鵺なんかに負けてたまるかってんだ!」
「ししし、ま、せいぜい頑張りな。」

載せられたハジメに、単純だなとニヤニヤと笑う天邪鬼。

そんな彼らの姿を見て、さつきも少しではあるが安堵する。



「おーい、ハジメ!」
そんなやり取りの中、敬太が声を上げながらさつきたちのレジャーシートへと走ってやって来た。

「いつまで休んでるんだよ。もう試合が始まるぞ!監督が、ハジメはどこだって、カンカンだ!」
「げっ!いけね、休み過ぎた!じゃあな天邪鬼、助かったぜ!」

ハジメは短く礼を述べ、すぐにスパイクを履くと、コートの方へ走っていく。少し向こうで監督に小言を言われているのだろう、頭をぺこぺこと下げている。

「ちっ、呑気なもんだ。こんな時にまで試合とは…。」
「あら、動き回っている方が、ハジメさんにとっても気を紛らわすことになるのでは無いでしょうか?」
「ふん…。」

素直にハジメに礼を言われることは、天邪鬼にとってもあまり無い。
いつになく照れているのか。
さつきは、天邪鬼なんだから、と思いながらも、自身も彼に礼を言おうと覗き込んだ。

「ねえ、天邪鬼、ありが…」

しかし。

さつきが礼の言葉を途中で飲み込むほど、天邪鬼は真剣な顔をしていた。
いや、むしろその表情は、先ほどより、緊迫していると言ってもよい。

「カーヤ…?」

敬一郎も、彼の緊張した表情に気付く。
そんな彼らに対し、天邪鬼はゆっくり口を開いく。

「…あいつの前だから言わなかったが、根性で耐え抜くことだけでは、根本的な解決にはならねえ。」
「え…?」
「どういうことです?」

その声色も、先ほどのように余裕があるものではなかった。


解決にはならない。


その言葉に再び、彼らの中に緊張が走る。


「恐らく、ハジメの野郎は鵺との魂のやり取りに負けたりはしねえだろう。だが、そのやり方で魂を奪うことが出来なければ、奴が次に取る行動はおおよそ検討がつく…。」
「次の行動…ですか?」

天邪鬼はもう一度コートの方に青と黄色の目を向ける。
コートでは試合開始を前に、各ポジションに選手達が散っていく。
そして、後半の試合開始を告げる笛が響き渡った。

「鵺にとって、あいつの魂を奪うことは、自身の命を永らえる為の死活問題。自分が目を付けた魂を、そんな時に奪えなかったからといって、はいそうですか、と諦めると思うか?間違いなく、実力行使に出てくる。」

「それって…つまり…。」

それ以上、天邪鬼は応えなかった。


さつきはごくりと生唾を呑み込む。


狙ってくるのだ、直接ハジメを。

直接、彼の魂を奪いにやってくる。

狒々の顔、虎の身体、蛇の尻尾。

目の前にその邪悪な姿を現し、彼をその爪で、その牙で、引き裂いて殺そうとしてくるのかもしれない。

そうなった時、私たちはどうすればいいのか。

千年以上生きる、伝説の魔物を相手に、霊力もない、武器もない自分に何が出来るのか。

「れ、霊眠方法はないんですか?」

たまらず、レオが天邪鬼に伺う。
レオもさつきと同じように、何の対策もなく挑むのは、余りにも無謀だと思っている。

黒猫は空を一度仰ぎ、そして、ぶっきらぼうに答えた。

「ないことは、ない。」

「知ってるのね?お願い、天邪鬼!霊眠方法を教えて!このままじゃハジメが…!」
「カーヤ!ハジメ兄ちゃんが死んじゃうなんてやだ!助けてよ!」
「天邪鬼さん!」
「天邪鬼!」

常であるなら、どうしようかなぁと悪戯っぽく答えを渋るのであるが。
四人のすがるような瞳に見つめられ、ふぅと天邪鬼は小さくため息を吐いた。

「奴に向かって、"夜は明け、朝が来る" これを唱えれば、奴を霊眠させることが出来る。」

「"夜は明け、朝が来る" …。」
「思ったより簡単そうですね…。条件とかは特に無いんですか?魔法陣がいるとか…松明を掲げるとか。」


「そんなもんはねえ。」


ただし、と天邪鬼は続けた。


「その呪文は、霊力のある人間が使って初めて効果を成す呪文だ。力のない人間が唱えたところで効果がないか…よしんば効果があっても、すぐに自力で奴は霊眠を解くだろう。」


そんな…とさつきは絶句する。
それが分かっていたから、天邪鬼はあえて霊眠の方法を伝えようとしなかったのかもしれない。

自分には、母と違い、霊力など無い。

(ママ…。)

こんな時、さつきは亡き母を想う。


自分に、母佳倻子ほどの霊力があれば。
その呪文で、鵺を霊眠させることが出来るかもしれない。


しかし、自分にそんな力は、無い。


唯一、神山家の積年の宿敵である"逢魔"を霊眠させた時に、それらしい力を発揮したが、あの時は必死であったし、仲間の助け、そして何より天邪鬼の捨て身の行動があったからと、さつきは思っている。


少なくとも、あれ以降はそのような力を使えたことはない。

(私では、ハジメを救えない…。)


こんなに、自分の無力さを感じたことはない。

愛しく想う人のことすら、自分は守れないのか。


(ママ…私、あいつのこと、救えないよ…。)


つうっと、翡翠色の瞳から、涙が頰を滴る。


「お姉ちゃん…。」

そんな姉の気持ちを幼いながらに悟ったのか、敬一郎は姉の下に歩み寄る。



その時。

ポトリ。

俯くさつきの目の前に、ふと何かが落ちてきた。
顔を上げてみると、そこには一本の弓矢が落ちていた。

「これは…弓矢?」

涙を拭い、さつきはそれを手に取る。

細長い柄に、羽のようなものがついた筈(はず)、そして鋭く光を帯びた、鉄の鏃(やじり)。

教科書や本でしか見たことがなかったが、紛れもなく、これは弓矢である。

「そいつを使え。」

再び、天邪鬼の声がした。

「そいつはある神社に奉納されていた、邪な気を打ち破る矢、所謂破魔の矢だ。そいつを奴に突き立てれば、或いは奴の力を弱める効果があるかもしれねえ。その時に霊眠の呪文を唱えれば、奴を倒すことも出来るかもな。」
「天邪鬼…。」

この数日、彼が何をしていたのかようやく分かった。
早くから鵺の仕業と気付いていた天邪鬼は、これを手に入れるために奔走していたのだろう。

「カーヤ!ありがとう!」

さつきが礼を述べる前に、敬一郎が涙目で天邪鬼を掻き抱く。
うわっ、と驚き敬一郎の腕に抱かれる天邪鬼の尻尾はぶわっと広がり、顔もどこか赤い。

「離せ、敬一郎!俺は別におまえらの為にやってんじゃねえ!卑怯で陰気臭えあの野郎が、好き勝手するのが気に食わねえだけだ!」

ぎゃあぎゃあと、敬一郎の腕の中で毒吐きながらもがく。
どこまでも、天邪鬼。

「相変わらずですわね。」
「本当、誰かと大して変わらないんじゃ無いでしょうか。」

そういう二人が天邪鬼に向ける眼差しも本当に優しく。
そんな彼らのやり取りを見て、さつきの顔にも精気が戻った。
力強く、弓矢を胸の前で握る。

「安心するのはまだ早いぜ。例え効果があるにしても、あいつに刺さなきゃ何の意味もねえんだ。」

ようやく敬一郎から解放された天邪鬼だが、まだその表情は緊張を解いていない。

もちろん、天邪鬼の言うことは最もだ。

かつて、武勇に優れた豪傑が弓を用いて、ようやく射止めた怪物である。
正直、子供の力だけでなんとかなる相手だとは思えない。

しかし、もう打つ手がない訳ではない。

霊眠の呪文もある、破魔の矢もある。

何より、心強い仲間や、ひねくれ者ながらも、頼もしいオバケが自分たちにはついている。

大丈夫。

さつきの心は決まっていた。

どんなことがあっても、彼を救うと。




試合は後半も終盤に近付いている。

後半も開始から、北天の川小のハジメ封じ作戦が続行されており、ハジメは常に三人以上にマークされている。

無論、天の川小チームも、いつまでも押されてばかりではない。
マークがハジメに集中していることを逆に利用し、一丸となり、逆襲の4点目の追加点を挙げる。

しかし、一度流れが決まってしまうと、この流れを変えるのは容易なことではない。

強豪北天の川小学校の猛攻は続く。
追加点を重ねた僅か5分の間に、更に2得点を許してしまった。

点数は4-4。

残り5分を切った試合時間の中で、あと一撃が勝負を決めると思われた。

会場全体から、両校の応援コールがあらん限り選手達に降り注ぐ。

ハジメは右に左にと動くが、ボールをなかなか受け取ることができないし、受け取ってもマークを振り切るのは至難の技だ。

少しずつ、チームにも焦りが見え始める。


「レオ兄ちゃん!もう、時間がないよ!」
「あー!あと1点、あと1点でいいのに…!」

レオは悔しそうに呟く。
四人と一匹は、残り時間少なくなった試合を観戦していた。

今のハジメは、心で負けないことが、鵺の呪縛から逃れる方法だと信じている。
ここで試合に負ければ、少なからず、心身に影響を与えるかもしれない。

であれば、絶対に勝って欲しい。

その後のことは、その後だ。

さつきはぎゅっと、再び手にしていた弓を握り、心の中で呟く。

(ハジメ…頑張って!!)



時間が無い中、ハジメが荒々しくボールを相手から奪うが、北天の川チームも防御陣が必死に喰らいつく。
その激しいボールの奪い合いの中、数名が激しく接触し、ハジメを含む数名が倒れこむ。

その過激さに、さつきたちも思わず息を飲んだ。

「ファール!天の川チームのボールだ!」

笛を吹きながら、審判が駆け寄ってくる。
注意を与えながら、天の川チームのボール主導権を指示する。どうやら、北天の川の選手が、勢い余ってハジメに背後から体当たりをしてしまったらしい。
接触した選手同士に怪我は無さそうだが、互いにラフプレーが目立つようになってきた。無論、焦りからである。


「ハジメ、大丈夫か?」

立ち上がるハジメに、敬太が声をかけてくる。
当然ハジメの心配をしてやって来たのだが、その顔は他のメンバーにもれず、焦りの色が見える。

「痛てて…ああ、大丈夫だ。でもそろそろ時間がヤベェな。」
「ああ、このフリーキックが多分、最後のチャンスになる。何としてもモノにしないとな。」

ハジメが倒されたことにより、天の川チームにはフリーキックのチャンスが与えられた。
フリーキックは相手に邪魔されることもなく、自由な場所に蹴り込むことが出来る。
幸い、敵ゴールも近い。直接シュートでゴールを狙うことも出来るが、当然、敵もそれを警戒し、ゴール前で守りを固めている、

「敬太、やるか?」

直接、ゴールを狙ってシュートするか?という問いである。
敬太は頷く。

「ゴールの右サイドを狙う。フォローしてくれ。」

その言葉を聞いたハジメは、的確にチームメイトに指示を出し、それぞれを散らせる。

攻撃側と防御側。

お互いが、どこにボールが来ても良いように各々ポジションにつく。

それを見た敬太が、渾身のシュートをゴールめがけて蹴り込む。

ボールは守る選手達の頭を超え、みるみるうちに、敬太の狙ったゴール右サイドへと吸い込まれていく。

が。

ボールは僅かにそれて、ゴールポストへと当たり、跳ね返る。

これを取って外にはコート外に弾き出せば、とりあえず引き分けで終わる。
そう、北天の川小の選手達が思ったその刹那。

突然、物凄い勢いでゴール前に乗り込んで来てた一人の選手。それは青いユニフォームに身を包んだ、ずっとここまでマークを欠かさなかったあの選手。

あっ!と思った時には遅かった。

彼の放った最後のシュートがゴールネットを揺らすと共に、試合終了の笛が鳴り響いた。



「試合終了!5-4!勝者、天の川小学校チーム!」

わあっ!と今日一番の歓声が観客席からあがる。

試合終了直前、敬太の外したシュートのこぼれ球を見逃さず、マークが無くなった一瞬の隙をついて、ハジメが決勝点を決めたのだった。

「ハットトリックです!」
「ハジメ兄ちゃん!凄い!」

まるでドラマのラストシーンのような劇的な展開に、レオと敬一郎は、我がごとのように喜んだ。

さつきも、緊張が解けたように、ふうーーと長く嘆息する。
いつの間にか、それこそ手に汗握るほど、強く握っていた拳を、ふっと解いた。

そんなさつきの肩を、ポンと桃子が軽く手を置いた。

「さあ、私たちもハジメさんを労いに行きましょう。」



「いいところ持っていったな…。」

試合を終えた天の川小学校のコートでは、汗だくの顔で敬太がハジメの下にやって来た。
最後の見せ場をハジメに持っていかれたその顔は多少恨めしげであるが、それでも笑顔。
今は勝った気持ちの方が大きいようである。

「悪い悪い、まあ勝ったんだからいいじゃねえか。」

ぽたぽたとこちらも顔から汗を流すハジメであるが、敬太に手を差し出すと、敬太もその手に、バシンと己の手の平を合わせた。

「ハジメ兄ちゃんー!」

コートの外から、敬一郎の声がする。
そちらを見ると、応援に駆けつけた親友達が、喜色満面で勝利を喜んでいてくれた。
そちらにもVサインを送り、そして彼女に視線を移す。

一瞬、視線が交じり合い、彼女は少し顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。

(少しは良いところ、見せれたか。)

ハジメがそちらに向けて、歩を進めた。

その時。



ゾクッ。



突如、背後に感じるあの邪悪な雰囲気。

ハジメは背筋が凍りつきそうな視線を感じた。

それは、夢で見たものよりも、圧倒的に巨大で、重苦しいもの。

身体中から、一瞬で汗が引く。

(なっ…!?)

そう思った時には、目の前が暗闇に包まれ、己の足は言うことを聞かなくなり、膝から崩れ落ちた。

ドサリ。

「ハジメ?!」

突然、コートで倒れこんだハジメ。

明らかな異変を感じたさつき達は、彼の下へ駆け寄る。

彼を起こそうとすると、その身体はとても人が持つ体温とは思えぬほど、熱くなっていた。

「凄い熱…!」

呼吸は荒く、顔は灼熱に照らされたかの如く熱く染まる。


意識の有無も定かではないハジメを、さつきは激しく揺さぶった。


彼女の脳裏に、あの男のことがよぎる。


これは、あいつの仕業だ。それ以外に考えられない。


「ハジメっ!ハジメっ!!」


さつきは狂ったように彼の名前を呼んだ。
しかし、ハジメの呼気の荒さは益々増すばかりで、彼女の呼びかけに応える様子はない。

「負けちゃダメ!鵺なんかに負けちゃダメ!!」



「ちっ、どこだ?どこにいる!?」


天邪鬼は、この状況を作り出した、分かりきっている犯人を捜すように、辺りを見渡すが。


その妖気の発する者を見つけるには至らなかった。

(ちっ、どこまでも…!)

苦々しく心の中で呟き、天邪鬼はその場を離れ、ふっと姿を消した。


尋常でない雰囲気に、周りが気付き始めた。

「お、おい!どうした!」

観戦していたのか、担任の坂田が、彼らのもとに駆けつける。

「せ、先生!青山君が…!」
「凄い熱です!早く病院に!」

レオや桃子をかき分け、さつきからも彼を引き離し。ハジメの額に、坂田が手を当てる。

「これはいかん!誰か!早く救急車を呼べ!」




                               続く

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