2017年03月12日
狙いはハジメ 古より響く闇の嘶き@ (ナオシーさん作・学校の怪談二次創作)
こんばんは。土斑猫です。
今回から、ナオシーさんの許可を得て、同氏作成の学校の怪談二次創作を掲載させていただきます。
ご本人によると、処女作だそうですが、なかなかどうして。面白いです。
特に、ハジメ×さつき派の方々は、読んで損はありません。
作品の掲載に至っては、原作の雰囲気を壊さないために原文をそのまま載せさせていただきます。
作品の提供と、掲載の許可をくだされましたナオシーさんには改めてお礼をさせていただきます。
本当に、ありがとうございました。
それでは、いよいよ開演。
じっくりとお楽しみください。
その夜は常にも増して暗く。
黒雲というべき雲がどろどろと空を覆い、一面には不快な邪気が立ち込め、時折、不気味な嘶きが響き渡る。
街灯の無いこの時代、辺りを照らすのは、いくつもの篝火。
煌々と燃え盛る炎の灯りに照らされながら、ガシャガシャと重い音を立て、喚声を上げる何名もの男達。
「屋根の上へ追い詰めたぞ!決して逃してはならぬ!!」
「頼政(よりまさ)殿!お頼み申す!」
大和鎧を纏った男達の雰囲気は、まるで捕物を行うかのように緊迫した空気が漂い、厳かな屋敷の屋根の上にいる、"何か"を指し、口々に騒ぐ。
頼政と呼ばれた、際立つ大鎧に身を包んだ勇壮なその男は、弓に矢を番え、キュウと弦を引き絞り、鋭く屋根の上を睨みつける。
「ござんなれ。」
弓の的となっている"何か"は、弓を構える頼政に対し、ギラリと目を光らせ、獰猛な獣の如く、屋根から其の者目掛けて飛び掛った。
ほぼ同時に、狙いをつけたたその矢は、短い音を立てながら、異形の魔物に放たれた…
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それから千年近い時を経て。
当時とは建物も人の様相も全く異なったこの時代。
9月の半ばに入った天の川周辺の天気は、秋晴れといっても良い晴ればれの空模様。
まだ、残暑の名残もあり、多少の暑さは残るものの、時折涼しい風も吹き、体感的な過ごしやすさは格段に増していた。
秋は何事においても易い時期である。
読書の秋、食欲の秋、そしてスポーツの秋。
天の川小学校でも、スポーツの秋に相応しいイベントである、秋の大運動会が半月後に迫っていた。
そんなある日の下校時の校庭に、いつものメンバーは集まっていた。
「運動会かぁ…もうそんな時期かぁ。」
赤みに茶の混じった長髪を、三つ編みに結った女の子、宮ノ下さつきは、幾分鬱陶しそうに呟いた。
「おまえ運動音痴だもんなぁ。」
「うるさいなぁ。あんたに言われなくたって分かってますよーだ。」
そんな少女に対し、若干小馬鹿にした様に茶々を入れるのは、尖り気味の黒髪に、健康的に日焼けをした少年、青山ハジメ。
憤慨するさつきを、まあまあと宥めるのは、帽子を被り、眼鏡をかけた少年、柿の木レオ。
「我々六年生にとって、小学校で行う最後の運動会になりますからね。良い思い出になる様な運動会にしたいものです。」
彼らはもう最終学年の、その後半へと足を進めていた。
学校でのイベント毎は、もう卒業まで数える程しかないのだ。
運動会といえ、例外ではない。
「それはそうだけど…。」
さつきはあまり気が乗らない。
そう、ハジメの言う通り、彼女は基本的に運動が苦手なのだ。運動会などと言うイベントは彼女にとってあまり気持ち的に盛り上がれる行事ではない。
「お姉ちゃん、僕今後の運動会、リレーの選手に立候補するんだ!」
3人と比べまだ身体の小さい、黄色い長靴を履いた少年、小学二年生の宮ノ下敬一郎は、そんな姉の気持ちを他所に、胸を大きく叩いた。
「あんたが?どうしちゃったの?」
自分の知る限り、弟もあまり運動が得意な方では無かった筈だ。
昨年、ハジメの…文字通りの"スパルタ指導"により見事徒競走で1位を獲った敬一郎ではあるが、あまりこういった事には積極的ではない様に思っていた。
ましてリレーなど、足に自信のある選抜メンバーによる、運動会の目玉競技である。
「去年、ハジメ兄ちゃんに教わって、僕凄く走る事には自信ついたんだ!今年はパパも応援に来てくれるし…頑張ってみようかなって思って!」
「敬一郎…。」
無垢な弟ではあるが、確実に成長の階段を登っている。一年前に、事ある毎に泣いてばかりいた弟ではないのだ。頼もしくもあり、少し寂しくもある。…ピーマンを食べないのは相変わらずではあるが。
「へぇ、敬一郎やる気満々じゃねえか。頑張れよ。去年みたいにしっかり走ればリレーの選手も夢じゃないぜ!」
「ありがとう、ハジメ兄ちゃん!」
敬一郎はハジメを本当の兄の様に慕っている。
ハジメのスパルタ指導も投げ出さずにやり遂げたのは、彼に対する信頼の証でもあるのだ。
「あ、そう言えば。」
ふと敬一郎がハジメに向き直る。
「ハジメ兄ちゃんはリレーでないの?」
「あ?俺??」
突然の敬一郎の質問にハジメは素っ頓狂な声を上げてしまった。
これを見たさつきも悪戯っぽく笑う。
「そーよー。敬一郎も頑張るんだから、あんたも頑張りなさいよ。」
「頑張るって…おまえなぁ。」
ハジメは首を横に振った。
「無理無理、俺はパス。面倒だしな。」
「なーんだ。自信ないの??」
「んな事言ってねえだろっ!」
「じゃあ出てみなさいよ。敬一郎もハジメが本気で走ってるところ見たいよね?」
さつきは敬一郎にニッコリ微笑む。
敬一郎はこれに笑顔で答えた。
「うん、僕もハジメ兄ちゃんの本気の走り見てみたい!」
「ぐ…」
敬一郎を盾にとられては、ハジメも反論の言葉が無い。
そんな何時ものぎゃあぎゃあと顔を付き合わせる夫婦漫才をレオは静観していた。
いや、意外だなと感じていたのだ。
さつきと敬一郎は、ハジメをよく知っている様で、知らないのだ。
彼の本当の才能を。
「お二人とも、ハジメは学年で一番足が速いんですよ?」
へ??とさつき達はレオに振り返る。
「あれ、ご存知無かったんですか?」
「え…だってハジメ体育の時だってグウタラしてるだけだし…。」
さつきはハジメをジト目で見た。一方のハジメは若干バツの悪そうな顔をしている。
普段、体育をしている時のハジメは、どちらかと言うと何もしていないイメージがさつきの印象だった。クラス内で徒競走をしても、上位にはいるものの、特段目立って速いわけでは無いと思っていた。
…最も、少しでも運動する人が見れば、それが手抜きも手抜きで走っている事が分かる筈なのだが、それが分からない所は運動が苦手なさつきである所以か。
「足が速いどころじゃ無いですよ。それに、どんな競技もハジメは卒なくこなすんです。」
「そうなんだ、ハジメ兄ちゃん凄い!」
「レオっ!」
あまりベタ褒めされても、身体が痒くなるのか、ハジメはレオを止めた。敬一郎などは目を輝かしている。
「じゃあ何でいつも本気でやらないのよ?」
「何でって言われてもなぁ…。」
ハジメは真面目に考える。
「…疲れるから?」
「あんたねぇ…」
さつきからすれば、贅沢この上ない話であった。
宝の持ち腐れではないか。
「まあ、能ある鷹は爪を隠すってヤツですかね。」
「そう、それだレオ!たまにはいい事言うなおまえ!」
ハジメはガシッとレオを掴み、ぐりぐりと頭を撫で回す。
「イテテ…まあハジメの場合、逆にそれしか能が無いと言うか…」
ゴスッ
鈍い音とともにレオが倒れる。
「一言余計なんだよ。」
腹を抱えて倒れるレオを他所に、さつきは考え込んでいた。
ハジメとは。
天の川に引っ越してきてから、ずっと一緒にいる。増してや、常軌を超えた体験も共にしてきた仲である。
それにも関わらず、彼の本質をあまり知らなかった事に、彼女は少し胸が痛んだ。
私は彼の何を知っているんだろう。
スケベなところ。
ニンジンが嫌いなところ。
諦めが悪いところ。
算数が苦手であるところ。
充分、彼の本質である様な気もするが。
先程レオは、ハジメの運動神経はあたかも、周知の事実という様な言い方をしていた。
みんな知っている。けど、私だけが知らないハジメの姿。
このモヤモヤした気持ちが何だか分からない。
いや、分からない振りをしているだけなのだ。
…本当は、誰よりも知っている。分かっている。
ただ、声に出してしまうのが怖いだけ。
「ん?どうしたんだよ、さつき。」
思いにふけるさつきに、ハジメは怪訝そうに声をかけた。
「う、ううん!何でも無い!」
慌てて笑顔を作り、話題を振る。
「それより、どうするの?リレー出るの?」
敬一郎達の1、2年生のリレーのそれとは違い、5、6年生で行う高学年の対抗リレーは、それこそ天の川小学校屈指の俊足達が揃い踏みする競技である。
運動会の種目順で言っても、最終競技にあたる。
大会最大の目玉といっても良い。
冗談ではなく、本当にさつきは見たくなった。
その場に立ち、本気で走る彼の姿を。
自分の知らない、彼の姿を。
「だーかーら。俺は出ないって。」
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、ハジメの答えは一辺倒だった。
「最後なんだから思い出作るんでしょ?やる気出しなさいよ!」
「別に俺は運動会で思い出作る気はないね。」
「もぉー…」
押し問答で、これでは話が纏まらない。
敬一郎も頼んではみるが、それに対しても要領を得ない回答ばかりだ。
レオなどはもうこの議論に飽きてハウツー本を読み始めている。ハジメの性格をよく知っているだけに、余り深追いしないのであろう。
やっぱりダメかな、とさつきが思い始めたその時である。
「おーい!青山ー!!」
突然校舎の二階職員室から呼び声がかかった。
「げっ、坂田!!」
鉄棒に腰を下ろしていたハジメは、いけね、とばかりに飛び降りた。
声を掛けてきたのは、さつき達の担任である坂田である。
「すみません、もう帰りまーす!」
気付けば空が赤くなり始めている。
最終下校時間がもうすぐ側まで迫っていた。
お小言を貰う前にさっさと退散しようとするハジメ達であったが。
「こらー!まだ帰るなー!青山!話があるから職員室に来ーい!」
そう言って、坂田は部屋に戻ってしまった。
「ハジメ、何かしたんですか?職員室に呼ばれるなんて…。」
「いや、何にもしてねえよ。」
「あんたまだ、夏休みの自由研究提出してないでしょ?催促じゃない?」
「う…頭痛がして来た。帰りてえ…。」
敬一郎を先に家に帰し、三人で一路職員室に向かう途中、ハジメが坂田先生に呼ばれた原因でありそうなものを口々に述べるが、多分怒られるのだろうというのが三人の総意である。
基本的にハジメは優等生ではないので、その様なイメージがつきまとう。
そもそも9月も半ばに入ったというのに夏休みの自由研究が終わってないとは如何なものなのか。
全く、と思いながらもさつきはピンと閃いた。
「ねえ、リレーに出るなら自由研究手伝ってあげてもいいわよ?」
「ああ?まだ言ってるのかよ…。」
どうしてそんなに拘るのか気になったハジメであったが、さつきの瞳が意外にも真剣味を帯びていたので、ハジメも敢えて聞こうとはしなかった。
「まあ、何にせよ、話を聞いてからですね。」
「…そうだな。失礼します。」
ガラガラと職員室の扉を開け、坂田の机へと赴く。
「おー来た来た。下校前に悪い悪い。」
あっけからんと三人を迎える坂田の態度は、これから小言を言う様には見えなかった。
とりあえず、一安心でふぅと息をつくハジメであったが。
坂田の話は、想像もしていないような、突拍子もない話であった。
そして、その話は結果的にさつきの願いを叶えることになる…。
続く
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作品の投稿、ありがとうございました。
おこがましい要望でしたが、まさか実現するとは…本当にありがとうございます。
しかも、挿絵まで…!
挿絵のイメージが、私がこの作品で思い描いているそのものであったので、感動してしまいました。
重ね重ね、ありがとうございます。
また、第4話を数日中に送付します。
土斑猫様もお忙しい中、お風邪など引かれぬようご自愛下さいませ。
よろしくお願い致します。