2017年03月14日
狙いはハジメ 古より響く闇の嘶きA (ナオシーさん作・学校の怪談二次創作)
はい。という訳で、ナオシーさん作・学校の怪談二次創作。第二話掲載です。
にしても、この作品のさつきは乙女してて可愛いですね。
本編でももうちょっと、こういうロマンス調入れてくれても良かったんですけどね〜とか今になって思ったり。
もうちょっと、話数があったらやってくれたかもしれませんね。
そもそも1クールだけってのが短すぎなのよね!!
この鬱憤を晴らすためにも、この作品を存分にお楽しみください(宣伝)
「なんで俺がリレーの選手なんかに?!」
突然職員室中に響き渡るようなハジメの大声に、職員達は仕事の手を止めて皆振り返った。
「うるさいぞ青山!!静かにしろ!!」
お小言を言うつもりは無かったものの、ハジメを呼び出したの坂田の方がその声に驚いてしまい、結局ハジメを叱りつけた。
「す、すいません。」
突然の坂田の話とは、ハジメに次の運動会のリレーの選手として出場して欲しいという、なんともタイムリーな話であった。
「先生、ハジ…青山くんがなんでリレーの選手に選抜されるんですか?」
呆然とするハジメに代わり、身を乗り出してさつきが坂田へと質問する。
「いや〜それがだな。1組の頭山くんが、昨日サッカーの練習中に怪我をしてしまったらしいんだ。頭山くんはリレーの選手にも選出されているんだが…どうも怪我の具合を見ると、運動会に間に合わそうも無いんだ。そこで1組の先生から、3組で誰か代理でリレーに出られないか打診があったんだ。」
「頭山くんが…。」
さつきも、頭山の名前は聞いたことがある。
なんでも学年で1、2を争うほど、運動神経が高いという。
普段はサッカー部の主将を務めているらしい。当然、足も速いのであろう。
「幸い、ウチのクラスはまだリレーの選手を選んで無かったからな。1組の先生がどうしてもと言うんで、とりあえず1人は代理で選ぶことにした。青山、おまえウチのクラスで一番速いだろう?」
そう言うと、坂田はハジメに視線を移す。
(先生も知ってるんだ…。)
普段、体育の時間でのハジメの取り組み態度を見ている坂田ですら、彼の足の速さを評価している。
本当に知らないのは私だけなのかもしれない。
「どうだ青山?引き受けてくれるか?」
笑顔をたたえる坂田ではあるが、その表情の裏には、有無を言わせず、断ることは出来ないぞ、という考えがあるように見える。
最も、この坂田の申し出は、さつきにとって願ったりかなったりである。
「先生のお願いじゃ、断れないわよね、ハジメ?」
さつきもニンマリと笑い、彼の肩を小突く。
一方、当の本人は、ゲンナリとした表情を浮かべている。
「そうだ、青山。おまえまだ夏休みの自由研究提出してなかったよな?どうだ?今回代理で出てくれれば、自由研究をチャラにしてやってもいいぞ?」
追い込みをかけるような坂田のその言葉に、ハジメはぴくりと眉を動かした。
「せ、先生、それは所謂裏取引では…。」
宿題やらなくていいから、リレーに出ろ、ということである。
そんなことを先生が公然と提案して良いのか、とレオは青い顔をしている。
さつきもこれには呆れてしまった。
「…分かりました。やります。」
その条件に目が眩んだのかは分からないが、ハジメは遂に坂田の要求を呑んだ。
これに坂田は満足したように、ハジメの肩を叩き、喜色満面である。
「そうかそうか、よく言った青山!先生もおまえの走りに期待しているぞ!さ、話は終わりだ。もう下校時間過ぎてるぞ。帰った、帰った!」
もう用は済んだとばかり、手をひらひらさせ、三人に下校を促した。
「…失礼しました。」
三人は坂田の机を後にする。
「1組の先生は美人ですからね。坂田先生は断れなかったんでしょう。」
「はあ?なんだよそれ。完全に貧乏クジじゃねえか…。」
「まあ、自由研究無くなったんだし、よかったじゃない。これでリレーに集中出来るわねー。」
「おまえなぁ…。」
ぶつくさ文句を垂れ、肩を落とすハジメを二人は引きずるようにして、職員扉へと向かった。
「あ。」
その時、突然思い出したように、坂田が声を上げて三人を呼び止めた。
「悪い悪い、先生一つ忘れてたんだが…1組の先生から頭山君の代わりに、サッカーの練習と試合にも青山を出して貰えないかって頼まれたんだった。まあ自由研究やらなくていいんだから、それくらい大丈夫だよな?そういう事で両方頑張ってくれよ?来週には試合があるそうだ。あは、あははは…!」
三人は一瞬、耳を疑った。
その数秒後、ハジメの悲痛な叫びが、再び職員室に響き渡ったのであった。
翌日から、ハジメの多忙な日々が始まった。
授業が終わると同時に体操着に着替え、リレーの練習に参加し、それが終わると休む間も無くユニフォームに着替え、サッカーの練習に参加する。
リレーの練習ではバトンの受け渡しや、短距離ダッシュを何本も行い、サッカーの練習では来週の大会に向けて模擬試合を何試合も行う。
動きっぱなしの時間が、夜7時頃まで続くのだ。
そんな日々がここ数日間ずっと続いている。
その日、さつきとレオは下校する前に、ハジメのサッカーの練習を少し見学していた。
「相変わらず頑張ってますね、ハジメは。」
「うん…本当、よくあんなに動けるよね。」
改めて、ハジメは凄いと思った。
彼の動きはさつきの目から見ても、他を圧倒していた。
普段からサッカーをしている訳でもないのに、練習試合では、巧みなパスワークを行い、素早いドリブルで相手を翻弄し、ゴール前では強烈なシュートで得点を重ねている。
それだけではなく、チームリーダーである頭山の代わりに、他のメンバーに的確な指示を出す司令塔の役割も果たしていた。
チームメイトも信頼を置いているのか、その指示に黙々と従っている。
1組の先生も、ハジメを名指しで指名したくなる訳だ。
そんなハジメの姿に。
思わず見とれてしまっていた。
普段のスケベでバカなハジメは身を潜め。
誰からも頼りにされるハジメがそこにいる。
普段あまり見ることのないハジメのその姿を見たさつきは、同時に彼が急に遠い存在になってしまったような気がした。
ふと気付いた。
周りを見ると、彼の活躍を見守る女の子たちが他にもいる事を。
「ハジメ先輩ー!頑張れー!!」
ハジメがボールを持つ度に、黄色い喚声が上がる。
いつの間に見に来ていたのか、友人のあやや美園達でさえ、
「さっすが青山!やる気になったち青山はちょっと違うよね〜!カッコいい!」
「凄いなぁ。頑張れー!青山ぁ!」
と、賞賛を惜しまない。
カッコいい、凄い。そして口々に呼ばれる彼の名前。
それを聞く度に、さつきの胸はキリキリと痛んだ。
そんな練習途中の僅かな休憩時間。
さつきとレオはハジメの下へと赴いた。
「さすがハジメ、今日も素晴らしい活躍じゃないですか。」
「まあ、これくらいはまだまだ朝飯前だな。」
ハジメは笑顔を浮かべながら、こぼれ落ちる汗をタオルで拭う。
火が着くのは遅いものの、基本的にハジメは責任感の強い男子である。
選手を任された直後は文句ばかり垂れていたが、始まってしまえば、与えられた仕事以上の働きを見せている。
ふぅ、と一息つくハジメに、さつきはすっと買っておいたペットボトルを差し出した。
「はい、これ。」
「おお、気が効くなぁ。サンキューさつき。」
ペットボトルに入ったポカリスエットを、ハジメはごくごくと音を鳴らし、一気に飲み干す。
「やだ、こぼれてるわよ。」
「仕方ねーだろ、今日はまだ何も飲んでねえんだから。」
他人から見れば、それはまるで何年も共に道を歩んだ関係のよう。
そんなやり取りをする二人を見て、レオはさつきの脇を肘で、トンと軽く小突いた。
え?という表情でさつきはレオに振り返るが、既にレオはもう知らんぷり。
再び、彼の方に向き直る。
何か言葉をかけなければ。
そう思うと、逆に何も言えなくなってしまう。
軽口なら、いつでも叩けるのに。
肝心な言葉が中々出てこない。
「…また明日も授業中はずっと昼寝になりそうね。」
やっと紡ぎだした言葉がこれ。
横で知らんぷりをしていたレオが、ズルッとこけそうになっていた。
違う、本当に伝えたい事はこんな事じゃない。
ーー頑張ってねーー
どうしてこんな簡単な事が言えないのだろう。
(可愛く、ない。)
自分でもそう思う。
「そうだよなぁ。さつき、ノート後で写させてくれ。」
心の底で自問自答をするさつきに対し、ハジメは清々しいまでにいつも通りだ。
「ええ?どうしよっかなぁ〜。」
「頼む、な!な?」
神様、仏様、さつき様ー!と合掌する彼を見て思わず、頰が緩む。
これが、いつものハジメだ。
今なら素直になれる気がした。
「ねえ、ハジメ。がんば……」
「青山先輩!さっきのシュート凄かったです!この後も頑張って下さい!」
突然、押し寄せてきた女子達の喧騒に、さつきの言葉は一瞬で掻き消されてしまった。
女子達は同学年では見た事がない。5年生の女の子達かもしれない。
「心配すんなって。俺がいるんだ!試合くらい勝てる勝てる!」
全く調子がよい。
煽てられると、調子に乗るのはハジメの悪い癖だ。女子達に囲まれ、すっかり得意げになっている。
それを見たレオは、あちゃーとアタマを抱えた。
(タイミングが悪いというか、何というか…)
恐る恐る、さつきの方を見てみると。
案の定、彼女の顔からは一切の色が消え、無表情…まるで能面のような顔でハジメを凝視していた。ゆらゆらと冷気が背後から漂っているようにも見える。
レオは思わず、ひっ、と肩をすぼめた。
そんな立ち尽くす彼女に気付くこともなく、ナハハハとだらしない…少なくともさつきにはそう見える笑顔を浮かべるハジメは、既に二人の事など忘れたよう。
「私…先帰るね…。」
地獄の底から聴こえてくるような底冷えする声。ふらふらとその場を後にする。
「さ、さつきさん。待ってください!」
レオは慌ててさつきの後を追った。
(もう、何でいつもこうなんでしょうか!全くお互い肝心なところで子供なんだから!)
さつきを追いながら、レオは親友二人の関係を歯痒く思い、なんとかせねばと思い立つ。
自称心霊研究家の彼は、別のところで才能を開花出来るのではないかと思える程、今自分のすべき事がよく分かっていた。
ーーそんな三人のやり取りを。
校庭の片隅に立ち尽くす男が、ずっと彼らを見ていた事に、誰一人気付く事はなかったーー
少し時間が経った後。
レオはさつきは、駅前の駅前のハンバーガーショップの店内に腰を下ろしていた。
冷たい表情のまま早足で帰ろうとするさつきをレオは無理やり引き止め、店に誘ったのだ。
とりあえず安価なポテトとシェイクを頼んだ二人ではあるが、そこに会話という会話は無く、若干気まずい雰囲気が流れる。
「どうしたのレオくん?」
先に口を開いたのはさつきではあるが。
その声に抑揚は無く、その全身は、まるで幽鬼のように冷たい威圧感をまとっていた。
その迫力に思わず後退りしそうな程であったが、レオはハハハと無理くり笑顔を作る。
「急にハンバーガーが食べたくなってしまいましてですね、一人では味気ないので、さつきさんを誘ってみた訳です。いやぁ、やっぱりハンバーガーは美味しいなぁ!」
「…ハンバーガー頼んでないし。それにまだ何も食べてないけど。」
容赦のないツッコミがレオを襲う!!
ううっ、と怯んでしまった。
「ごめんね、でも今なんか食欲無いんだ…。」
さすがにさつきも言い過ぎたと思ったのか、伏せ目がちに謝った。
「い、いいえ、無理やり誘った僕が悪いんです。」
素直に謝られては、レオも何も言えない。
再び二人は沈黙してしまい、またしても気まずい空気になってしまった。
「さつきちゃん?レオさん?」
その時、向かい合って座る二人の上から、聞き慣れた声が降りてきた。
「桃子ちゃん(さん)!!」
そこには、セーラー服を着た紫色の髪を美少女、桃子が笑顔をたたえて立っていた。
「外から偶然お二人を見かけまして…。何やら真剣な顔をされていらっしゃいましたので、お邪魔かとも思ったのですか…。」
「ううん、全然!座って座って!」
今の二人の目には、桃子は女神のように映っていた。
さつきにとって、何でも相談のできる姉のような存在であるし、レオにとっては、この状況から抜け出せる救いの神のような存在であった。
二人に誘われ、桃子は席に腰を下ろした。
桃子は現在中学一年生。
昨年、卒業するまでは毎日のように時間を共にした存在であったが、卒業後は会う機会は当然減ってしまった。
こうしてゆっくり話が出来るのも久しぶりだ。
さつきの顔にも笑顔が戻り、互いの近況に話の花が咲いた。
「敬一郎くんはお元気ですか?」
「うん、とっても元気にしてるよ。今なんか、運動会でリレーの選手になりたいーなんて言ってて…本当、去年とは大違い!」
「まあ。」
桃子も喜びと驚きを隠せない。昨年、敬一郎が一生懸命に徒競走の練習をする姿を今でもよく覚えている。
「ハジメさんの指導が良かったのでしょうね。敬一郎くんもきっと自信が付いたんですわ。」
もちろん桃子に他意は無いが、ハジメの名前を聞き、レオは飲んでいたシェイクを吹き出しそうになった。
それに桃子は気付かなかったものの、さつきの表情に一瞬陰りが見えたのは見逃さなかった。
「さつきちゃん…?」
「…あ、うん!なになに?」
「…ああ!ぽ、ポテトがもう無くなってしまいましたよ!」
タイミングよく…というより、むぐむぐと一人で残ったポテトを詰め込むように一気に食べてしまったレオ。
呆れた様にさつきが呟く。
「レオくん、一人で食べ過ぎ。桃子ちゃんまだ食べるでしょ?待ってて、今買ってくるから!」
「え、ええ。ありがとうございます。」
そう言うと、さつきはカバンから財布を取り出し、レジカウンターの方へと走っていった。
「れ、レオさん…どうされましたの?」
明らかに頬張り過ぎなレオに対し、桃子は怪訝な表情で伺う。
口一杯に頬張ったポテトをシェイクでぐしゃぐしゃにして飲み込むと、ふぅ、と一息つき、レオは幾分真剣な顔で桃子に向き直った。
「すみません桃子さん、少しお話があります。」
レオは要点だけを掻い摘んで桃子に話をした。
「ごめーん、この時間お店混み始めてて、大分時間かかっちゃった。」
「いえ、さつきちゃん、わざわざありがとう。」
再びトレイにポテトを載せて持ってきたさつきは、それを机に置いた。
「ところでさつきちゃん、今日はハジメさんは一緒じゃありませんの?」
唐突な桃子の質問に、椅子に座ったばかりのさつきは、そのまま椅子からずり落ちそうになってしまった。
「え、え?あ、ああハジメね!なんかあいつ今忙しみいたいで!」
「ええ、わたくしも今レオさんから伺いました。なんでも、運動会のリレーの選手とサッカーの選手の代理になっているとか…。」
大変そうですわね、と桃子は心配そうな表情を浮かべる。
「し、心配無いよ桃子ちゃん!あいつ体力だけが取り柄のバカなんだから。多分、疲れた事にも気が付かないんじゃない?」
彼の話を振った途端、目が泳いでいるさつき。憎まれ口を叩いた後は、思い出したように落ち込んだような顔をする。そんな彼女を見て桃子は、これは重症だと苦笑してしまった。
「そう…残念ですわ。久しぶりにハジメさんも交えて皆さんでお話が出来ればと思いましたのに…。」
そう言うと、桃子は思いついたようにポンと手を叩く。
「そうですわ、さつきちゃん、ハジメさんのサッカーの試合は今週の土曜日ですか?」
「あ、う、うん。そう聞いてるけど…。」
「でしたら、皆さんでハジメさんの応援に行きしょう!」
え?と驚くさつきの横から、レオも賛同の声を上げる。
「良いですね!お弁当でも作って、持って行って皆んなで食べるのも良いですね。」
「それは素敵ですわレオさん!」
まるで示し合わせたかのように試合観戦にノリノリの二人に対し、さつきは浮かない顔している。
本音を言えば、彼の試合を誰より見に行きたいと思っている。
より近くで彼の活躍を見ていたいと思っている。
しかし、当日は今日よりも多い見物客がいるだろう。それこそ、女の子達だって。
もしかしたら、今日よりもっとイヤな気持ちになるかもしれない。
(私は可愛くないから。)
彼にとって、私は隣の家に住む友達にしか過ぎないのではないか。
そう思うと、どうしても二の足を踏んでしまう。
うつむき気味で悩むさつきをみて、桃子は優しく声をかけた。
「さつきちゃん、もし宜しければ、当日お弁当を作ってきてくださる?」
「え?お弁当?」
顔をあげたさつきに、桃子は微笑む。
さつきの料理の腕前は、亡き母親佳倻子直伝である。
「ええ、わたくしも久しぶりにさつきちゃんの手料理を食べたいですし…何よりきっとハジメさんも喜びますわ。」
「桃子ちゃん…。」
きっとこの女子には、何もかもお見通しなんだろうと思った。
そんな気を使ってくれる桃子に、さつきは一人意地を張っていることが恥ずかしくなった。
「…そうね、桃子ちゃんに食べてもらえるなら、私も久しぶりに腕を奮おうかしら!」
「その意気ですわ、さつきちゃん。」
それでもまだ、素直になる事は出来なかったが、どうにかさつきをその気にすることが出来た。
男の心は胃袋で掴め大作戦、レオ発案である事にさつきは当然気付いてはいない。
どうにか話が落ち着き、さつきの顔に往年の元気が戻った。
レオはやれやれといった表情で、出来立てのポテトを摘む。
しかし。
「どっこいしょー!!」
店内に響き渡る程の、今日一のさつきの気合いの入った突然の大声に、食べたばかりのポテトを思い切り吹き出してしまうレオであった。
続く
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