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2019年12月28日

「委員長は中二病☆」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年05月18日投稿。




「危ないっ! 出でよ我が盾、サイエンスノォートっ!」
 ばしんっ、
 からんからんからん……。
 世界は誰も私を救ってなんかくれない。そう思ってた私を救ってくれたのは、委員長である、彼でした……。


「委員長は中二病☆」


※割と真剣にギャグです
※始終上のようなノリです
※もう一度いいますが、割と真剣に、ギャグです
※割と真剣に、ギャグです以上を踏まえた上で読みたい方はどうぞ











「委員長は中二病☆」
タグ:2011

2019年12月19日

「DollsMaker 邂逅ナンテ」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。
※投稿時より過去の作品です
※大学時代初期に運営していたサイト「ゆづきあかつき」に載せていた作品です




『邂逅ナンテ大層ナモノジャナイ』

少年は手にナイフを持っていた。
それが見えたわけでもない。この瞳は、さして意味をなさない。
ぼやけすぎた世界さえも、たいして意味はない。
だから、気にもしなかった。
ただ、作り続けていた。
失って、しまった、幻影、を。
「何を、作ってるの?」
「誰か、いるのか?」
「眼が、見えないの」
「……」
お前は誰だ。聞けばよかったのかもしれない。けれど、そんなことは、どうでもよかった。
ただ、作り続けたかった。
失ってしまった、その、肉体を……。
「そんなの無理だよ」
「!」
顔を上げた。見えるはずもないのに、少年を、見つめて。
「とてもキレイな指をしているね」
「……」
「いいな。何を作っているかは、まだ分からないけど」
「……」
手が、止まる。
どうしてこんなに関心を示すのか解らない。
そして、何故答えてしまったのかも、判らない。
「失ってしまったものだ。もう、遠い昔に」
「あぁ、そう、僕が、もとから持っていないものだね」
その時、かしゃん、音がして、何かが落ちたのが分かった。
ナイフ。何かを傷つけるための。
「失えもしない」
「……」
何故か、悲しくなった。その想いを知らない、ということに対して、何故か、とても、とても悲しくなった。
そして、どうして、そんな言葉が口を吐いたのか、
それが一番分からない。
「俺が、お前に与えてやろうか」
紛い物しか、与えられないが。
すると少年は、悲しそうに、だが、確かに笑ったのが、見えた。






「DollsMaker 欠陥品ノ、人間」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。
※投稿時より過去の作品です
※大学時代初期に運営していたサイト「ゆづきあかつき」に載せていた作品です




『欠陥品ノ、人間』

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い、とっても、気持ち悪い。
気持ち悪くて仕方ないから、熱くなったはずの下半身も熱を失った。
何が気持ち悪いのかも分からない。
ただ、気持ち悪くて堪らない。
まただ……。
怖くなった。自分という人間が、人間として、異質な存在であろうことが。
嫌だ。認めたくない。
ばっとその場を逃げ出して、洗面所で出せるだけ全てのものを出してきた。生温い黄味がかった液体に、微かに赤が混じっている。
そこまで吐いて尚、その、言いようのない気持ち悪さは拭えない。
そんなだから、ずっと、独りぼっちのままなんだ……。
苦しくなる。
だくだくと打つ自分の鼓動は、決して興奮の所為じゃない。怖くて堪らない。怖くて、とても怖くて堪らないからだ。
怖くて怖くて堪らない。その行為が、気持ち悪くて堪らない……。
いや、違うな。
そこまで考えて、ずるり、崩れるように壁に凭れかかった。
その、行為が、じゃない。
ははっ、
笑いがこみ上げてくる。
自分という、欠陥品の、人間に。
ははっ、はははっ、
笑い出したら止まらない。先ほどまでの気持ち悪さを何とか打ち消そうとするかのように、勝手に出てきて止まらない。
ははっ、はははっ、
はははははっ、
違う、違う、違う違う違う違う。
あぁ、そうだ。自分は、人間として、異質で、異物で、欠陥品で。
あはははははっ!
涙が、零れ落ちた。
熱が恐ろしい。他人の熱の上昇が、触れて、傍にあって、とても、気持ち悪い。
求めていないわけじゃないのに、
その温もりが、
気持ち悪くて、堪らない。
あぁ、ねぇ、神様。残酷なのは、分かっていたけど、こんな、こんな欠陥品を生み出したりしてさ、

「そこで、この異物を嗤ってるんでしょ?」

空に向かって吐き出した言葉は、決して誰にも届かない。
あぁ、そうだね。
届けたい人も、見つからない、ね……。






「DollsMaker 人ノ温モリ」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。
※投稿時より過去の作品です
※大学時代初期に運営していたサイト「ゆづきあかつき」に載せていた作品です




目の前に誰もいなくなった後、するっ、トンッ、ぱちゃり、音を立てて鎌が落ちた。無意識のうちに力は抜け、ただ視界には、黒光りする紅がある。
あれは誰だっただろう。
昔、視界に入れた気がする。それだけの、もの。
それは誰だっただろう。
昔、触れ合った記憶がある。もう確かに覚えていない、あの肌の感触。
これは、誰だっただろう。
昔、抱きしめた覚えがある。柔らかくて、ふんわりしていて、確かな熱が、そこに、そこに存在して……、
吐き気がする。
嫌悪で身体の髄が砕けるかとすら思った。柔らかな感触に、背筋が粟立った。女の異常な体温が、自分という人間の異常を告げていた。
僕は、狂っている――。
それでも肉体を抱きしめたくて、
硬質の人形など所詮玩具に過ぎない。そう思いながら、体温の異常な上昇から逃れるためにそれを抱いた。
逃げた。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて、逃げきれなくて、ゆっくり得物を振りかざす。
それなら、彼女の温もりを奪えばいい。
突き出したのは、二人を繋ぐナイフ。溢れ出したのは、二人を裂く温もり。
嗚呼、熱い……。
逃れたかった熱を全身に浴びながら、冷たくなってゆく肉体に手を添える。
柔らかい、まだ……。
今なら、触れられる気がした。そう、硬くなってしまうまえに。触れられる、気がした。
そう思った瞬間、一気に全身の熱が上がったのを感じた。
欲しい。躰が、欲しい。
がっ、と肉体を仰向けにし、脚を開くところまで開いてしまう。途中、ぼきりっ、音がしたけど気にはしない。
はやく、はやく欲しい。
熱を失ってきた孔の中へ、その穴をこじ開けるように中へと突き上げた。
どくんっ、
鼓動が、弾けた。
吐き気は、なかった。
これが、求めているものだと、気付いてしまった。
嗚呼、僕は、狂っている――。
でも、そうすることが、一番の悦びだと、気付いてしまった。気付いてしまったから……。

ねぇ、誰か、僕に正常な感覚をおくれよ……。

嘆きに似た声は、もう、誰にも届かない。
だって、もう、
君は死んでしまったんだからね……。






「DollsMaker 黒の瞳」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。
※投稿時より過去の作品です
※大学時代初期に運営していたサイト「ゆづきあかつき」に載せていた作品です




ビクンッ、ビクンッ、痙攣する眼球を独り見つめていた。
僕は今、漆黒の瞳に捕らわれている―――




黒の瞳 ‐クロノメ−




そこらに打ち捨てられているのは人間じゃない。うちの自慢の人形師が作った人形達の残骸だ。
少し眠るといい。
ギョロリ、光を宿す精巧な義眼が向けられる。宿る光の種類は、まさしく怒り……。
何を怒っているんだい?
お前が……、
ダンッ、大きな音を拳で立てる。叩きつけたのは、人形達の残骸の眠る仕事机。
お前が人の事を考えずに人形作りばかり受けるからだろう!
自分が作れないくせにと悪態を吐きながら、ギロリと光る偽物の視線を向けてくる。その偽物の視線が、背筋をあわだてる。
地面に転がる人形達を拾い上げて、にやりと笑って尋ねてみる。
繋ぎ合わせて歪なカタマリを作ってみない?
なんだと?
ばきっ
手に力を込め、残骸の腕を更に砕き千切る。破片は、虚しく床に散らばって、積もる。
こきっ
首を、脚を、胴体を、様々な出来損ないの、様々な部位を分解して目の前に飾ってみせる。
馬鹿なことを。
床に散らばった様々な出来損ないの破片を踏みつけながら、新しい粘土に手を伸ばす。瞳は、光を映してないかのように虚ろだ。
それでいい。
そうやってただ見えぬ世界を表現し続ければいい。それこそが、それこそが求め続けた芸術なのだから。
眼を、入れ替えよっか?
あぁ?
本物の、鮮明に像を結べぬ網膜の、裏に映し出される偶像を思うと、何とも言えなくなる。それを見事に再現するその腕が、堪らなく愛おしい。そう、
「引きちぎりたくなるほどね」
あぁ?
あの美しい漆黒の瞳がなければ、君が偶像を追い求めることなどなかったのだろう。そう思えば、何故かしら背筋があわだつ。
悦びに似ている。
その腕が作り出した人形と戯れ遊ぶ時の、悦びに似ている。
仕事なんか、もういいよ。
微笑む。光を宿す偽物には、声だけではごまかせない想いがあるからだ。
代わりにお前のためのオモチャを作れ、と?
嗤え。嗤うがいいさ。生物を抱けない哀れな人間に、命を吹き込まれた冷たい玩具を渡すことしかできない人形師よ。
目を細め、自分のあてがった義眼を見つめる。
どんなに似せて造っても、あの漆黒の、澄んだ瞳を再現できない。見えぬ代わりにあの瞳があるなら、いっそ、一生光を宿させずに生かそうか。
「何を考えてる」
「別に」
イラついた声を聞きながら、心の中でただ、出会った日の瞳を思い出していた……。






「DollsMaker 灰の雪」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。
※投稿時より過去の作品です
※大学時代初期に運営していたサイト「ゆづきあかつき」に載せていた作品です




ただ、灰色の中にいた。
其処が楽園だと思い込んで、ただ、灰色の中でうずくまっていた―――




灰の雪 ‐ハイノユキ−




サクッ、サクッ、足が踏みしめているのは、たぶん、雪だと思う。うずくまって何かを待つのも飽いたし、ただ足を動かしてみる。
ねぇ、どこに行ってるの?
小さな声が、後ろから聞こえた。
誰だ?
僕じゃないよ。
第三の声の主に、見えないながらも一瞥をくれてやる。たぶん、この先に奴はいる。
この子を拾ってきたんだよ。
そう私、拾われてきたの。
透き通るようなか細い声で彼女は喋る。姿形は確認できない。今、手元にアレがないから。
困ったよ、小さい子供がこの子の価値も分からず見つけてしまったから。
くすくすと笑いながら、奴は楽しそうに子供の腕が落ちる様子を語りだす。
吐き気がする。奴の嗜好は理解しがたい。したくもない、それが本音だが。
そういえば、この辺りもすっかり焼けてしまったよね。
どこかに壊れた人形でもあるかもしれない、そういう声が辺りを動きまわり、多方向から耳障りなノイズを鼓膜に届ける。
等身大の人形はないのかな?
あら、私がいるのに?
二つの声が、不協和音が、重なり合わないノイズが、
イライラする。
そっと腰に提げていた短刀に手をかけ、抜き、奴の声を頼りに前へと突き出した。
ひゅっ
カシャン
刃先が確かに硬質のモノに当たる。目指していたモノではないが、当たらずとも遠からずで、再び、カシャンと地面にそれが落下する音を聞いた。
雪が、積もっているのに?
見えもしないのに、すぐ傍にいるであろう人物に目を向けた。すると、くすくす気味悪く笑うのが耳に入り、一瞬、全身に寒気が広がったのを感じた。
残念、それじゃ僕は殺せない。
「君は、僕から逃れられないからね」
使いものにならない眼球では、降り積もる灰が冷たい雪に感ぜられて、見えもしないのに、焼けた大地に転がる日本人形が脳内を支配していた……。






「DollsMaker 朱の海」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。
※投稿時より過去の作品です
※大学時代初期に運営していたサイト「ゆづきあかつき」に載せていた作品です




それが血液だと気づいたのは、ずっと後のことだった。
僕は今、朱の海にいる―――




朱の海 ‐アケノウミ‐




どうしたんだい?
にやりと笑って少女に尋ねた。
少女は何も応えない。おびえた瞳でただ見つめる。きっと、手に持つそれが目に入ったからだろう。
おびえないで。答えてくれたら、すぐ、いかせてあげるから。
本当?
少女は気を許したのか頬を緩ます。そして、そっと、手を持ち上げた。
これ、見つけたの。
それは何?
小さな人形だ。日本人形。真白いべべを羽織って、頬を薄く染めている。閉じられた瞳では永遠に空を見ることはない。
寂しいべべを着ているね。
日本人形を、左手でそっと愛撫した。指の触れたその頬は、ひどく冷たい色をしていた。
ねぇ、朱色の着物を着せてあげようか。
え?
お兄さんね、朱色の着物を持っているんだ。
本当?
少女は喜ぶように日本人形を持って跳ねた。
子供の心は分からない。別にいい。解るつもりもない。
ちょっと貸してごらん。
うん。
そうやって、少女が両腕を前に出した瞬間、
ザシュッ
ぽとり、地に落ちた日本人形から手首が離れる。流れ落ちる雫によって、装束が、どんどん朱に染まっていく。
きゃあぁぁ!!
少女があらん限りの声を上げ、叫んだ。
五月蠅い。
無情にも、僕はその首を斬り落としてしまった。
飛び散った塊がぶつからないように、そっと、腕の中に抱き上げて接吻した。
見れば、鎌の刃は人間だった塊の傍に落ちている。どうやらもう、寿命らしい。それをそっと拾い上げ、ポッケの中にあった袋に入れた。
あぁ、べべを替えてあげないとね。
そう言って、右前になっていた着物をすっと左に直した。
「君はもう生きているんだから」
見開いた眼は、空を見つめていた……。






「Be too short to say that good-bye」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。




『さよならと言うには短すぎて』

 軽く、背中を押した。
「え?」
 ふらり、簡単に傾いたその身体は、そのまま足を踏み外してどこかに消えた。
 視界から消えたそれは、たった数秒時を止めて、後に、ぐしゃああぁあぁあ、と、音を立てて潰れた。
 潰れた。
 簡単に、潰れてしまった。
「はは、ははっ、ははははは」
 見下ろした先には、どす黒いシャツと肉塊、肉片。真っ赤な水溜まりに浮かんで、もう、動くこともなく、そこにあった。
 ただ、そこにあった。
 ただ、それだけ。
 書いてしまえば、たった、それだけのこと。
 それなのに背筋がぞわわっ、と粟立って、何とも言えない感覚が、あぁ、とても快かった。
 その衝動に理由はない。特に理由なんてものはそこにはなくて、それでも、何となく、ただ、何となく、背中を押して。
 無機質に流れる時間が厭わしかったわけでもない。消えてしまうことを、望んでいたわけでもない。
 ただ、さよならと言うには短すぎて。
 だから、最期に、
「さようなら――」






タグ:2011

「no-title」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。
※投稿時より過去の作品です




 実家に帰る度、増えていた手作りのマスコット。ペアになったネコ、雪だるま、ネズミ。グループホームから持ち帰られた、マスコット達。雪だるま、ネズミ、フクロウ。何を作ると言う目的はなく、ボケ防止なんだと、親は言っていた。
 夏、実家に帰ると、やっぱりマスコットは増えている。手にして、何となく、違和感を覚えながら、ニワトリのマスコットを見ていると、親がポツリと呟いた。
「作ってたおばあちゃんがボケがきてね、もう、そんな上手くは作れないかもしれない」
 私はニワトリを見る。今までのマスコットと違って粗くなった縫い目に、左右違う目の位置。何故だかぼやけたニワトリは、最後のマスコットになるのかもしれなかった。
 何となく、悲しくなって、私はニワトリをぼんやり見つめていた。
 どうして、こんなに、終わりが近いんだ、と……。






タグ:2011

「アリスゲーム」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。




「どりゃあぁー!」
「!」
 どごぉん
 派手な音を立ててケイジは地面に倒れ込んだ。
「くそっ! 何すんだよレイコ!」
 受け身をとれず、モロに地球とケンカをした形になったケイジは右腕を大袈裟に押さえながら立ち上がる。
「大袈裟じゃねぇよ! アレ喰らって痛くねぇ奴いねぇよ!」
「何を言ってるの?」
 一人で何かにツッコミを入れるケイジに不審そうな目を向けながら、レイコは続ける。
「ケイジ、アリスゲームよ」
「は?」


「で、アリスゲームって何だよ」
 レイコを睨み付けながらケイジが訪ねる。
 すると、待ってましたと言わんばかりに胸を張って、彼女は語り始める。
「アリスゲームというのはね、計54枚の人形をカードの中に集めてそれぞれ戦わせるゲームよ」
「おいちょっと待てその設定どっかで聞いたことあるぞ」
「その集めた人形にはそれぞれ役があって、それぞれ役に合った戦い方ができるの」
「って無視かよ」
 ケイジのツッコミを物ともせず、レイコは続ける。
「ゲーム参加者は計四人。私と貴方と、そして誰か。その四人で集めたカードで戦って、一番強かった人が勝ち。どう? 簡単でしょ?」
「その四人対戦システムが某携帯ゲーム機を彷彿させないこともないんだが……。まぁ、だいたい分かった」
 ケイジは肩を竦めながら応じた。
 それを見て、満足そうにレイコは頷く。そして言葉を続ける。
「ちなみにそれに勝った者には……」
「でもだからって何でそんなことしなきゃいけないんだ?」
「ばかぁー! 人が喋ってんのに口挟むなぁー!」
 ずべしゃあぁ
「ぐはぁっ!」
 再び飛び蹴りをを喰らわされたケイジはまた地面へと倒れこむ。どうやらこの男、よほど地球にケンカを売るのが好きらしい。
「違ぇよ! 明らか不可抗力だろ!」
「だから一人で何言ってるのよ」
 ケイジのツッコミに再び不審な目を向けながらレイコは溜め息を吐いた。
「とにかく、このアリスゲームに勝った者は、」
「俺の質問無視かよ」
「うるさい! 黙りなさいよ!」
 びくっ
 レイコの怒鳴り声にケイジが肩を震わせる。そしてバツが悪そうにそっぽを向いた。
 やれやれ。そんな風になるなら最初から大人しくしていればいいのにね。
「うるせぇよ」
「何ですって?」
「いやっ、違っ、お前に言ったんじゃ……」
 ばちこん!
 レイコの平手がケイジの頬にクリティカルヒットする。顔にははっきりくっきり痕まで残して。
 何かに対する悪態を自分に対するものだと思ったレイコからの贈り物だ。
 そんないいもんじゃねぇよ。
 ケイジは地面を睨んで抗議する。学習したらしく、もう声には出さないようだ。
 そんな彼の姿を見て満足そうな笑みを取り返したレイコは、ふふんっ、鼻を鳴らして言葉を続ける。
「このアリスゲームに勝った者はね、何でも好きなものが一つだけ、手に入れられるのよ」
「は?」
 ぽかん、とした表情でケイジはレイコを見返した。
 だが、まぁ、言っている意味が分からなかったわけではないらしい。
「は?」
 ケイジは再びぽかんとした声を出す。
「それで、お前は何が欲しいんだ?」
 と、ケイジが問い掛けた途端、ふいっ、レイコはそっぽを向く。
 そしてぽつり、一言だけ、
「もう、ゲームは始まってるのよ」
 にやりと歪んだレイコの笑みの理由を、ケイジは理解できなかった。


「とは言ってもねぇ」
 ケイジは頭を掻く。そして辺りを見渡して、深く、溜め息を吐いた。
「人形ってどんなだよ!」
 今更誰に対してツッコミを入れているのか甚だ疑問だが、ケイジは大声で叫んだ。
 別れ際、レイコが渡してきたのは白いカード六枚。これが、最初から一人に配られる人形入れらしい。
「ってか見つけたとしてもどうやってこんなのに入れんだよ」
 がっくしとケイジは肩を落とした。
 まぁ、この男、今回の場合ちょっとばかし運が悪かった。あまりゲームの詳細を知らされていな
「どころか全く知らねぇよ!」
 ばしんっ、と虚しく一人空を叩きながら、ケイジはツッコミを入れる。
 ……、人の話を聞かないのはこの男の特性らしい。
「人形とか探し方分かんねぇっての」
 まぁ、そのうち会えますよ。尺的な意味で。
「尺って何!」
 深く考えたら負けです。
「……」
 ケイジは呆れたように黙った。
 そしてこの男は気付いてないらしい。傍から見たら独りでぶつぶつ言いながら歩いているこの光景こそ呆れたものだということに。
 馬鹿だな、こいつ。
「何だと!」
 あ、そんなことより前見てくださいよ。あれ、人形じゃないんですか。
「は?」
 ケイジはふっと視線を動かす。
 木の根元、それはあった。
 紅い髪の、可愛らしくふくよかな、女の子の布人形……、
「ってどこが可愛いんだ全然可愛くねぇよ!」
 いきなりケイジは叫びだす。発狂したかとしか思えない。
 だいたい、ゲームの趣旨の人形バトルには人形が絶対に必要なのだから、そう文句ばかり言ってられないだろうに。
 この男、やはり馬鹿である。
「お前のナレーションの方がおかしいだろ!」
 そしてまだ可愛いふくよかな、という表現を根に持っているらしい。
「違ぇよ! それも含めて全部がおかしいんだよ!」
 それはさておき、
「さておくなよ……」
 人形を捕まえなければこのゲームは始まらない。仕方ないのでケイジは先ほどの白いカードを一枚取り出して、
「まだ取り出してねぇよ」
 あ、そうですか。
「まぁ、取り出せばいいんだろ」
 そうですね。
 仕方ないのでケイジは先ほどの白いカードを一枚取り出して、目の前に掲げた。
「あぁ、そこからナレーション続けるんだ?」
 ……。
 全くこの男、空気の読めない奴である。物語が展開しているのだからそれに身を任せればいいものを。
 ケイジは、ふんっ、という嘲笑を聞いた気がした。
 けれど、まぁ、もうそれどころじゃないので放っておくことにしたケイジは、すっとカードを掲げて言った。
「お前をこのカードの中に捕まえてやる」
 にやり
「果たしてお前にそれが出来るかな」
「って女の子の口調じゃねぇ!」
 ツッコミどころはそこですか。
「はんっ、馬鹿なこと言ってられるのもいまのうちだ」
 がざり、木の根元にいる人形が、微かに動いて、
「お前に俺を倒せるか!」
 ばっ、と大きく弧を描いて、人形がケイジ向かって襲い掛かってきた。


「ちょっと待ったー!」
 ずざざぁー!
 ハッとしてケイジは振り向く。その視線の先には、見知らぬ男と、その腕の中で屈辱に表情を歪める、
「レイコ……」
 そう、レイコがいた。
 レイコと視線が交錯する。
「しくったわ」
 ふっと悔しそうに笑って、レイコは言った。
「レイコ……」
 ケイジはぎりりっ、と歯軋りをする。
 それを見て、にやり、見知らぬ男は不敵に笑う。そして数枚のカードを見せつけるように掲げる。
 それが意味するもの、つまり……、
「アリスゲーム、やろうぜ」
 決戦、開始……!
 ピ――!
 どこからともなく笛の音が聞こえ、その音に、ぴーんと何か緊張した空気を感じながら、ケイジは手持ちのカードを見た。
「ってちょっと待てー!」
 はい?
 きょとんとした空気が辺りを包む。
「いきなり話進み過ぎだろ! さっきの人形手に入れるいきさつとか全部なしかよ!」
 世の中には大人の事情というものが存在するのです。
「いやそれにしても話飛び過ぎだろ!」
 ……、この男本当に空気が読めない奴だ。そうしないと話が進まない大人の事情を察さないとは。
「ケイジ、貴方また、何を言ってるの」
「……」
 そんなケイジの独り言に、三度レイコが不審そうな目を向ける。それを受けて、ケイジは大人しくなった。
 尻に敷かれる男も考えものである。
 うるせぇ。
 心の中でケイジは一人ごちながら、諦めたように溜め息を吐く。
「やればいいんだろ、やれば」
「あ、あぁ、やれば、いいんだ」
 ケイジの謎の言動に、やや引き気味に見知らぬ男は応えた。
 そしてケイジは手持ちのカードを見る。
手持ちのカードは計三枚。クラブの4、ダイヤの
「って三枚しかねぇよ俺!」
 自分の手持ちの少なさにびっくりしたようにケイジが叫ぶ。
 自分の手持ちのカードが何枚かすら分かっていないとは、ちょっと話を端折り過ぎたかもしれない。
「ちょっとどころじゃねぇだろ!」
「?」
 レイコの訝しがる視線がケイジに刺さる。
「あ、いや、何でもない」
 話を進めよう。
 手持ちのカードは計三枚。クラブの4、ダイヤの9、ダイヤのK、どれも微妙なものばかりである。
 キングということでダイヤのKが強そうなイメージもあるが、正直、K=13という不吉な数字であることも否めない。
 そして、ケイジの最大の弱点がこれだ。
「ってか俺、どのカードにどんな特性があるか知らねぇ」
 ぽかーん
 見知らぬ男があんぐりと口を開ける。
 そして、いつも通りのレイコの怒鳴り声。
「ケイジの馬鹿ぁー!」
 ばっ、と見知らぬ男の腕を振り払い、ずかずかずか、ケイジといい感じで間合いを取り、おりゃあぁー! 三度飛び蹴りを喰らわせた。
 ぐふぅっ
 身体が驚くほどしなり、ケイジが地面に倒れ込んだ。
「痛ぇよ! ってかお前自由になれるんじゃねぇか!」
「何で自分の持つカードの特性も知らないのよ!」
 ケイジの声には答えずにレイコが手を振り上げながら怒鳴る。
 その声にケイジも見知らぬ男もたじろぐ。いや、振り上げた手も原因の一つだとは思うが。
「いや、まぁ、もう始まったわけだし、アリスゲーム、や、やらない?」
 見知らぬ男がおどおどと口を開く。
 ぎらり
 射抜くような視線をレイコから受けながら、見知らぬ男は尚も続ける。
「もう引っ込みがつかないんだ。アリスゲームやろう。手持ち中六枚を戦闘に使う。同じカードは二度使えない」
「おい俺カード三枚ってさっき言っただろ」
「よし、仕切り直しだ」
 ぴ――!
 笛の音が鳴る。
 相手がカードを取り出し、出て来たのはハートのクイーン。威厳あるロココの女王。
「いけ! クイーン!」
「いや突然過ぎるだろちょっと待てー!」


「かなでー、ご飯よー」
「は、はーい」
 突然の声に慌てて、トランプがばらばらと机から落ちる。
「!」
 急いで拾うが、もう、配置が分からない。
 あぁ、やってしまった。
 私は肩を竦める。
 仕方ないのでこのゲームは終わり、ということで。
「ちょっと待てよ! こんな中途半端なとこで終われるかよ!」
 ケイジが叫ぶ。でも私はそれを華麗にスルーして、今日のご飯何かなー、と、席を立った。
「おい、ちょっと待てー!」
 ゲームの中でケイジが叫ぶ。
 まぁ、もうどうでもいいことだ。
 ゲームの結末は常に判らない。私はゲームを途中放棄したわけではない。ただ、どうしようもない事情で終わらざるを得なかっただけ。
「そんな馬鹿な話あるかー!」
「だから、一人で何を言ってるのよ」
 見慣れたというか見飽きたケイジとレイコのやりとりを無視して、私は鼻歌混じりに食卓へと向かうのだった。


GAME OVER






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