2011年03月15日投稿。
※投稿時より過去の作品です
※大学時代初期に運営していたサイト「ゆづきあかつき」に載せていた作品です
『邂逅ナンテ大層ナモノジャナイ』
少年は手にナイフを持っていた。
それが見えたわけでもない。この瞳は、さして意味をなさない。
ぼやけすぎた世界さえも、たいして意味はない。
だから、気にもしなかった。
ただ、作り続けていた。
失って、しまった、幻影、を。
「何を、作ってるの?」
「誰か、いるのか?」
「眼が、見えないの」
「……」
お前は誰だ。聞けばよかったのかもしれない。けれど、そんなことは、どうでもよかった。
ただ、作り続けたかった。
失ってしまった、その、肉体を……。
「そんなの無理だよ」
「!」
顔を上げた。見えるはずもないのに、少年を、見つめて。
「とてもキレイな指をしているね」
「……」
「いいな。何を作っているかは、まだ分からないけど」
「……」
手が、止まる。
どうしてこんなに関心を示すのか解らない。
そして、何故答えてしまったのかも、判らない。
「失ってしまったものだ。もう、遠い昔に」
「あぁ、そう、僕が、もとから持っていないものだね」
その時、かしゃん、音がして、何かが落ちたのが分かった。
ナイフ。何かを傷つけるための。
「失えもしない」
「……」
何故か、悲しくなった。その想いを知らない、ということに対して、何故か、とても、とても悲しくなった。
そして、どうして、そんな言葉が口を吐いたのか、
それが一番分からない。
「俺が、お前に与えてやろうか」
紛い物しか、与えられないが。
すると少年は、悲しそうに、だが、確かに笑ったのが、見えた。
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