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2019年12月19日

「アリスゲーム」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2011年03月15日投稿。




「どりゃあぁー!」
「!」
 どごぉん
 派手な音を立ててケイジは地面に倒れ込んだ。
「くそっ! 何すんだよレイコ!」
 受け身をとれず、モロに地球とケンカをした形になったケイジは右腕を大袈裟に押さえながら立ち上がる。
「大袈裟じゃねぇよ! アレ喰らって痛くねぇ奴いねぇよ!」
「何を言ってるの?」
 一人で何かにツッコミを入れるケイジに不審そうな目を向けながら、レイコは続ける。
「ケイジ、アリスゲームよ」
「は?」


「で、アリスゲームって何だよ」
 レイコを睨み付けながらケイジが訪ねる。
 すると、待ってましたと言わんばかりに胸を張って、彼女は語り始める。
「アリスゲームというのはね、計54枚の人形をカードの中に集めてそれぞれ戦わせるゲームよ」
「おいちょっと待てその設定どっかで聞いたことあるぞ」
「その集めた人形にはそれぞれ役があって、それぞれ役に合った戦い方ができるの」
「って無視かよ」
 ケイジのツッコミを物ともせず、レイコは続ける。
「ゲーム参加者は計四人。私と貴方と、そして誰か。その四人で集めたカードで戦って、一番強かった人が勝ち。どう? 簡単でしょ?」
「その四人対戦システムが某携帯ゲーム機を彷彿させないこともないんだが……。まぁ、だいたい分かった」
 ケイジは肩を竦めながら応じた。
 それを見て、満足そうにレイコは頷く。そして言葉を続ける。
「ちなみにそれに勝った者には……」
「でもだからって何でそんなことしなきゃいけないんだ?」
「ばかぁー! 人が喋ってんのに口挟むなぁー!」
 ずべしゃあぁ
「ぐはぁっ!」
 再び飛び蹴りをを喰らわされたケイジはまた地面へと倒れこむ。どうやらこの男、よほど地球にケンカを売るのが好きらしい。
「違ぇよ! 明らか不可抗力だろ!」
「だから一人で何言ってるのよ」
 ケイジのツッコミに再び不審な目を向けながらレイコは溜め息を吐いた。
「とにかく、このアリスゲームに勝った者は、」
「俺の質問無視かよ」
「うるさい! 黙りなさいよ!」
 びくっ
 レイコの怒鳴り声にケイジが肩を震わせる。そしてバツが悪そうにそっぽを向いた。
 やれやれ。そんな風になるなら最初から大人しくしていればいいのにね。
「うるせぇよ」
「何ですって?」
「いやっ、違っ、お前に言ったんじゃ……」
 ばちこん!
 レイコの平手がケイジの頬にクリティカルヒットする。顔にははっきりくっきり痕まで残して。
 何かに対する悪態を自分に対するものだと思ったレイコからの贈り物だ。
 そんないいもんじゃねぇよ。
 ケイジは地面を睨んで抗議する。学習したらしく、もう声には出さないようだ。
 そんな彼の姿を見て満足そうな笑みを取り返したレイコは、ふふんっ、鼻を鳴らして言葉を続ける。
「このアリスゲームに勝った者はね、何でも好きなものが一つだけ、手に入れられるのよ」
「は?」
 ぽかん、とした表情でケイジはレイコを見返した。
 だが、まぁ、言っている意味が分からなかったわけではないらしい。
「は?」
 ケイジは再びぽかんとした声を出す。
「それで、お前は何が欲しいんだ?」
 と、ケイジが問い掛けた途端、ふいっ、レイコはそっぽを向く。
 そしてぽつり、一言だけ、
「もう、ゲームは始まってるのよ」
 にやりと歪んだレイコの笑みの理由を、ケイジは理解できなかった。


「とは言ってもねぇ」
 ケイジは頭を掻く。そして辺りを見渡して、深く、溜め息を吐いた。
「人形ってどんなだよ!」
 今更誰に対してツッコミを入れているのか甚だ疑問だが、ケイジは大声で叫んだ。
 別れ際、レイコが渡してきたのは白いカード六枚。これが、最初から一人に配られる人形入れらしい。
「ってか見つけたとしてもどうやってこんなのに入れんだよ」
 がっくしとケイジは肩を落とした。
 まぁ、この男、今回の場合ちょっとばかし運が悪かった。あまりゲームの詳細を知らされていな
「どころか全く知らねぇよ!」
 ばしんっ、と虚しく一人空を叩きながら、ケイジはツッコミを入れる。
 ……、人の話を聞かないのはこの男の特性らしい。
「人形とか探し方分かんねぇっての」
 まぁ、そのうち会えますよ。尺的な意味で。
「尺って何!」
 深く考えたら負けです。
「……」
 ケイジは呆れたように黙った。
 そしてこの男は気付いてないらしい。傍から見たら独りでぶつぶつ言いながら歩いているこの光景こそ呆れたものだということに。
 馬鹿だな、こいつ。
「何だと!」
 あ、そんなことより前見てくださいよ。あれ、人形じゃないんですか。
「は?」
 ケイジはふっと視線を動かす。
 木の根元、それはあった。
 紅い髪の、可愛らしくふくよかな、女の子の布人形……、
「ってどこが可愛いんだ全然可愛くねぇよ!」
 いきなりケイジは叫びだす。発狂したかとしか思えない。
 だいたい、ゲームの趣旨の人形バトルには人形が絶対に必要なのだから、そう文句ばかり言ってられないだろうに。
 この男、やはり馬鹿である。
「お前のナレーションの方がおかしいだろ!」
 そしてまだ可愛いふくよかな、という表現を根に持っているらしい。
「違ぇよ! それも含めて全部がおかしいんだよ!」
 それはさておき、
「さておくなよ……」
 人形を捕まえなければこのゲームは始まらない。仕方ないのでケイジは先ほどの白いカードを一枚取り出して、
「まだ取り出してねぇよ」
 あ、そうですか。
「まぁ、取り出せばいいんだろ」
 そうですね。
 仕方ないのでケイジは先ほどの白いカードを一枚取り出して、目の前に掲げた。
「あぁ、そこからナレーション続けるんだ?」
 ……。
 全くこの男、空気の読めない奴である。物語が展開しているのだからそれに身を任せればいいものを。
 ケイジは、ふんっ、という嘲笑を聞いた気がした。
 けれど、まぁ、もうそれどころじゃないので放っておくことにしたケイジは、すっとカードを掲げて言った。
「お前をこのカードの中に捕まえてやる」
 にやり
「果たしてお前にそれが出来るかな」
「って女の子の口調じゃねぇ!」
 ツッコミどころはそこですか。
「はんっ、馬鹿なこと言ってられるのもいまのうちだ」
 がざり、木の根元にいる人形が、微かに動いて、
「お前に俺を倒せるか!」
 ばっ、と大きく弧を描いて、人形がケイジ向かって襲い掛かってきた。


「ちょっと待ったー!」
 ずざざぁー!
 ハッとしてケイジは振り向く。その視線の先には、見知らぬ男と、その腕の中で屈辱に表情を歪める、
「レイコ……」
 そう、レイコがいた。
 レイコと視線が交錯する。
「しくったわ」
 ふっと悔しそうに笑って、レイコは言った。
「レイコ……」
 ケイジはぎりりっ、と歯軋りをする。
 それを見て、にやり、見知らぬ男は不敵に笑う。そして数枚のカードを見せつけるように掲げる。
 それが意味するもの、つまり……、
「アリスゲーム、やろうぜ」
 決戦、開始……!
 ピ――!
 どこからともなく笛の音が聞こえ、その音に、ぴーんと何か緊張した空気を感じながら、ケイジは手持ちのカードを見た。
「ってちょっと待てー!」
 はい?
 きょとんとした空気が辺りを包む。
「いきなり話進み過ぎだろ! さっきの人形手に入れるいきさつとか全部なしかよ!」
 世の中には大人の事情というものが存在するのです。
「いやそれにしても話飛び過ぎだろ!」
 ……、この男本当に空気が読めない奴だ。そうしないと話が進まない大人の事情を察さないとは。
「ケイジ、貴方また、何を言ってるの」
「……」
 そんなケイジの独り言に、三度レイコが不審そうな目を向ける。それを受けて、ケイジは大人しくなった。
 尻に敷かれる男も考えものである。
 うるせぇ。
 心の中でケイジは一人ごちながら、諦めたように溜め息を吐く。
「やればいいんだろ、やれば」
「あ、あぁ、やれば、いいんだ」
 ケイジの謎の言動に、やや引き気味に見知らぬ男は応えた。
 そしてケイジは手持ちのカードを見る。
手持ちのカードは計三枚。クラブの4、ダイヤの
「って三枚しかねぇよ俺!」
 自分の手持ちの少なさにびっくりしたようにケイジが叫ぶ。
 自分の手持ちのカードが何枚かすら分かっていないとは、ちょっと話を端折り過ぎたかもしれない。
「ちょっとどころじゃねぇだろ!」
「?」
 レイコの訝しがる視線がケイジに刺さる。
「あ、いや、何でもない」
 話を進めよう。
 手持ちのカードは計三枚。クラブの4、ダイヤの9、ダイヤのK、どれも微妙なものばかりである。
 キングということでダイヤのKが強そうなイメージもあるが、正直、K=13という不吉な数字であることも否めない。
 そして、ケイジの最大の弱点がこれだ。
「ってか俺、どのカードにどんな特性があるか知らねぇ」
 ぽかーん
 見知らぬ男があんぐりと口を開ける。
 そして、いつも通りのレイコの怒鳴り声。
「ケイジの馬鹿ぁー!」
 ばっ、と見知らぬ男の腕を振り払い、ずかずかずか、ケイジといい感じで間合いを取り、おりゃあぁー! 三度飛び蹴りを喰らわせた。
 ぐふぅっ
 身体が驚くほどしなり、ケイジが地面に倒れ込んだ。
「痛ぇよ! ってかお前自由になれるんじゃねぇか!」
「何で自分の持つカードの特性も知らないのよ!」
 ケイジの声には答えずにレイコが手を振り上げながら怒鳴る。
 その声にケイジも見知らぬ男もたじろぐ。いや、振り上げた手も原因の一つだとは思うが。
「いや、まぁ、もう始まったわけだし、アリスゲーム、や、やらない?」
 見知らぬ男がおどおどと口を開く。
 ぎらり
 射抜くような視線をレイコから受けながら、見知らぬ男は尚も続ける。
「もう引っ込みがつかないんだ。アリスゲームやろう。手持ち中六枚を戦闘に使う。同じカードは二度使えない」
「おい俺カード三枚ってさっき言っただろ」
「よし、仕切り直しだ」
 ぴ――!
 笛の音が鳴る。
 相手がカードを取り出し、出て来たのはハートのクイーン。威厳あるロココの女王。
「いけ! クイーン!」
「いや突然過ぎるだろちょっと待てー!」


「かなでー、ご飯よー」
「は、はーい」
 突然の声に慌てて、トランプがばらばらと机から落ちる。
「!」
 急いで拾うが、もう、配置が分からない。
 あぁ、やってしまった。
 私は肩を竦める。
 仕方ないのでこのゲームは終わり、ということで。
「ちょっと待てよ! こんな中途半端なとこで終われるかよ!」
 ケイジが叫ぶ。でも私はそれを華麗にスルーして、今日のご飯何かなー、と、席を立った。
「おい、ちょっと待てー!」
 ゲームの中でケイジが叫ぶ。
 まぁ、もうどうでもいいことだ。
 ゲームの結末は常に判らない。私はゲームを途中放棄したわけではない。ただ、どうしようもない事情で終わらざるを得なかっただけ。
「そんな馬鹿な話あるかー!」
「だから、一人で何を言ってるのよ」
 見慣れたというか見飽きたケイジとレイコのやりとりを無視して、私は鼻歌混じりに食卓へと向かうのだった。


GAME OVER






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