2010年02月08日投稿。
時間を閉じ込める人形師
「すみません、壁掛け時計を作っていただきたいのですが」
そう言って、少女は首を傾けた。
淡いピンクのふんわりとしたスカートに、白い、ブラウス。頭に被った麦藁帽が、いかにもな雰囲気を出している。
それに応じて、彼女は微笑みかける。
「よろしいですよ」
どのようなものをお望みですか、と、彼女は眼鏡を外して少女を見つめる。作業着であろう青いエプロンに、絵の具の跡がいくつかある。
「花が、たくさんの花が散りばめられているような、そんな」
そんな、掛け時計が良いです。
少女は困ったように笑む。
お金は、あまりないのだけれど……。
彼女は目を細めた。そして、また、微笑みかける。
「構いませんよ。さぁ、腰掛けて」
貴女のイメージを聞かせて下さい。スケッチブックを手に彼女は尋ねる。
それに、少女はゆっくり、言葉を探すように答えていく。
置時計、レリーフ、花瓶、彫像、粘土が作り出し得る様々な物に囲まれた中で。
そんな、途中。
「それにしても、素敵な置時計ですね」
「あぁ、それですか」
少女が傍にあった置時計を手に取る。
すると彼女は寂しそうに微笑んだ。
「それは、大切な人を模ったものなんですよ」
「えっ、あ、す、すみません」
彼女の言葉に少女は慌ててそれを戻した。それを見て、彼女は目を細めて言った。
「よろしければ、聞いていただけますか」
その時計にまつわる悲しい物語を。
これは昔、昔のお話。欧州のとある地方の、とある造型師のお話。
(続く)
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