2011年03月15日投稿。
『さよならと言うには短すぎて』
軽く、背中を押した。
「え?」
ふらり、簡単に傾いたその身体は、そのまま足を踏み外してどこかに消えた。
視界から消えたそれは、たった数秒時を止めて、後に、ぐしゃああぁあぁあ、と、音を立てて潰れた。
潰れた。
簡単に、潰れてしまった。
「はは、ははっ、ははははは」
見下ろした先には、どす黒いシャツと肉塊、肉片。真っ赤な水溜まりに浮かんで、もう、動くこともなく、そこにあった。
ただ、そこにあった。
ただ、それだけ。
書いてしまえば、たった、それだけのこと。
それなのに背筋がぞわわっ、と粟立って、何とも言えない感覚が、あぁ、とても快かった。
その衝動に理由はない。特に理由なんてものはそこにはなくて、それでも、何となく、ただ、何となく、背中を押して。
無機質に流れる時間が厭わしかったわけでもない。消えてしまうことを、望んでいたわけでもない。
ただ、さよならと言うには短すぎて。
だから、最期に、
「さようなら――」
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