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2020年05月05日

【禍因子育て企画】「大正妖怪異聞-廓座お仙-」【五夜目】

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年07月09日投稿。




「お前、髪……、」
そろそろ紫陽花も彩り見せそうな今日この頃、長屋をぽてぽて紀伊と歩いていると、不意に後ろから声を掛けられた。鴉だ。
声に銀が振り向くと、いつも以上に不機嫌そうな顔をしている。
なんだよ、声を出そうとすると、鴉が珍しく紀伊をまじまじと見てるもんだから、銀は首を傾げた。
「おい、銀、お前さ、」
「なんだよ」
「髪ぐらい梳かしたりぃさ」
そう言うと、鴉は不愉快そうに紀伊の髪を引っ張った。すると、絡まった髪が鴉の指に絡み、紀伊が痛そうに、なぁー! と鳴いた。
「見とって鬱陶しいわ」
その吐き捨てるような物言いに、銀はバツが悪くなって顔を逸らした。
「だって、髪とかどうすればいいか分かんないって」
そうしてよくよく省みたら、風呂場で洗ってやる時も割と雑にした記憶しかなくて、自分がなんだか情けなくなって、銀は口をつぐんで俯いた。
そんな銀を鴉が尚も睨み付けるもんだから、紀伊は不安そうに二人を交互に見やって、か細い声でなぁなぁと鳴いた。
「ブラシなら上物お妲が持っとるきに貸してもらいぃさ。それかもうばっさり切ってしまいよし」
言いながら、鴉は鬱陶しそうに紀伊の髪を引っ張った。
それになぁーなぁー鳴いて抗議するも、鴉は止めない。
「っていうか何でそんな不機嫌なんだよ」
紀伊を引っ張って庇うと、銀は鴉を睨んで抗議した。
すると鴉は事もなげに、
「見とって鬱陶しいからだろが」
また同じ言葉を口にした。
すると鴉は踵を返し、次見た時も同じだったらその髪ちょん切るぞ、なんて言いながら、長屋の奥へと消えていった。
そんな背中を見送ってから、なんなんだよ、と、一人ごちてから、再び紀伊を見る。長い髪は来た時と違い、いつの間にかぼさぼざ跳ねているし、ところどころ絡まっているせいで髪の量以上の重量感を覚えた。なるほど、鴉が鬱陶しいと言うのも分かる気がする。
そもそも鴉なんかは自身の長い黒髪を自慢にしているし、ああ見えて手は器用で身だしなみに気を付ける方だから、余計に気になるのかもしれない。
これは一度姐さんに何とかしてもらった方がいいかもしれないな。
そう決意して、とりあえずで洗濯してそれを全て干してしまうと、紀伊を連れてお妲の部屋へと向かうことにした。
そう、まさかそこでそんな悲劇が訪れようとは、考えもせずに、だ。
「姐さん、話があるんだけど……、」
そう言って銀が戸を開けると、最初に聞こえてきたのは、何と舌打ちだった。
吃驚して目を丸くしたまま突っ立っていると、
「おや、銀の字じゃないかい」
大きな狐が嬉しそうに九つの尻尾を振った。
するとまたその背後から舌打ちが聞こえ、のっそりと不機嫌そうな鴉が顔を出したもんだから、一瞬、銀は状況が理解できずに、硬直した。その後、一気に泣きそうになって、そんなの誰にも見られたくなくて、
「おおおおおおお、お邪魔しましたっ!」
叫ぶように言って、走って逃げた。
逃げて逃げて逃げて、自分の部屋へと駆けずりこんで、紀伊が敷きっ放しにした布団に顔を押し付けた。
そんな、まさか、鴉まで。
頭が混乱して、もう何が何だか分からない。
いや、確かに、鴉が座長やお妲と旧知の仲だということは知ってはいたのだが、まさかそんな仲だなんて思いもせず。
銀は、瞳を潤ませながら思った。
「俺一人、馬鹿じゃないか……、」
ぎゅっ、銀は掛け布団を握り締める。
「俺一人、馬鹿じゃないか、なぁ、お紀伊……、」
そう言ってごしごしと目を擦りながら立ち上がると、銀は絶句した。
紀伊が、いないのである。
しまった。なんてことを。
どうやら銀は自分があの場に居たくないという衝動に身を任せたせいで、紀伊を置いてきてしまったようである。しかもよりによって、紀伊の髪に不機嫌になっている鴉がお妲と楽しんでいるところを邪魔する形で、だ。
しかし、何となくバツが悪くて、そもそもこんな顔を二人に見せたくなんかなくて。
銀は暫くぼけっとしていた。
生返事の多い奴ではあったけど、鴉にはたくさん話を聞いてもらっていた。それなのに、まさかその鴉が……。
考えれば考えるほど、頭が混乱してくる。
こうしてぼんやりしていても嫌なことばかりが浮かんでくるので、銀はそれを振り払うように頭を振った。
「もういいや、掃除して、洗濯物取り込んで、配るまで、それからだ……、」
そうして何も考えずに済むようばたばたといろんな場所を掃除して、乾いた洗濯物を取り込んで、畳んでしまって。
いざ洗濯物を配る段になって、また気が重くなって。
溜め息を吐いた。
それでも仕事は仕事だ。そう自分に言い聞かせて、洗濯物を配りに行くことにした。
そうして洗濯物を届けに行くが、まだ、鴉は部屋に帰ってはいないようで、自然、長屋の奥に近付くにつれて足が重くなるのを感じた。
はぁ……。
一つ息を吐く。
そうしてそっとお妲の部屋の戸を開ける、と。
「おや、銀の字じゃないか」
また、嬉しそうな声でお妲が言った。
「……、お妲姐さん、あの……、洗濯物……、」
もごもごと銀が口を動かすと、また、お妲の後ろから舌打ちが聞こえる。
「おい、銀、」
鬱陶しいもん置いていきよってからに。
鴉が不機嫌そうに言うので、恐る恐るそちらに目を向ける、と。
そこにはばっさり髪の短くなった、紀伊がいた。
腰ほどあったそれは、肩を少し過ぎる程度になっていて、しかも綺麗に梳かされているだけでなく、髪には編み込みまでしてあった。
そのあまりの変わりように銀が口をあんぐり開けていると、お妲は嬉しそうに口を開く。
「ねぇ、本当、鴉の字は手が器用だねぇ、お紀伊、可愛くなったじゃないか」
くすくす笑いながら、お妲は紀伊を撫でてやる。するといつものように、嬉しそうにごろごろと喉を鳴らすもんだから、銀は苦笑いを漏らした。
するとまた、鴉が舌打ちをする。
そしてすくっと立ち上がると、俺はこれを見せびらかしてくる、と、戸の外へと紀伊を引っ張っていった。
そしてすれ違い様、
「まぁ、気張りぃさ」
こつん、銀の頭を軽く叩いて言うもんだから、銀はきょとんとして、そのまま鴉と紀伊の後ろ姿を見つめる他なかった。
「ふふふっ、銀の字は本当、可愛いねぇ……、」
「はぁあああぁ!?」
そうして擦り寄るお妲に動揺する銀の姿を、鴉と紀伊が、知る由もなく。




「だいたい何で俺がこんな」
言いながら鴉は紀伊を引っ張っていく。
そうして暫く引っ張ってって、紀伊を銀の部屋へと無理矢理押し戻すと、念を押すように、
「銀は頼りにならんから、これからは自分で髪梳きよし」
と、吐き捨てるように言ってから、懐からお妲に貸してもらったブラシを、投げて寄越した。
「髪ぼさぼさにして寄ってきても、相手にせぇへんぞ」
そう言って部屋から離れていった鴉の後ろで、紀伊は嬉しそうになぁーなぁー鳴きながらブラシを玩んでいた。


続く






「大正妖怪異聞-廓座お仙-」【濡れ鴉の話】

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年07月05日投稿。




※子育て関係ありません
※リクエストで「鴉」と「梅雨明け」を目指しました(むしろ梅雨じゃないかというツッコミはなしで/爆)











濡れ鴉の話

「日々に焦がれて本当の君が見えない」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年07月04日投稿。




「no-title」

どんなに君を待ち望んでも
待った歳月に等しく君が応えてくれるなんて
夢のまた夢に過ぎなくて
あぁあ、
なんて馬鹿馬鹿しくて
なんて愛おしい











こんにちわ、さまにゃんこです。
近況をうたにしました。敢えて何が何を指しているかは記しませんが、だいたいそんな日常のうたです。
一つでもなんのことをうたっているか分かったら、同士です(笑)
でも、分からないと、思います(苦笑)











「no-title」

引っ張って、引き寄せて、
何度も何度も糸手繰り
数引けばいつか君へ巡りあうなんて
そんなだから
君の心に届かないんだ




「no-title」

生まれながらに希望の数が決まっているなら
残りの箱は全て絶望
そんなの
分かっちゃいるのにね




「no-title」

君が熱を上げるから
僕独り
勝手に溶かされちゃってさ
馬鹿みたい
それでもやっぱり
君なしじゃいられないんだ




「no-title」

抱きしめて
温もりに溺れてられるうちは
本当の愛には気付けない




「no-title」

いつか君に会えるから
そんな幻想はゴミ箱捨てちゃってさ
いつか君に会えなくとも
可能性だけは捨てられないんだから
何だってんだ
もう
本当なんて見えやしないや




「no-title」

見えないものに阻まれて
僕と君
ずっとずっと繋がれないや




「no-title」

消えてしまった過去に
おんなじ幻を見るなんて
馬鹿馬鹿しくて
笑っちゃうね
もう、君には会えないだろうにさ




「no-title」

掃き溜めに棄てる
ゴミのように
心をそのまんま
吐露したつもりで酔っちゃって
だからなんだと嗤ってさ
また
ゴミのように掃き溜めに棄てる




「no-title」

頭が悪いと罵って
言葉で君を壊してしまえば
楽になれると思ってた




「no-title」

欠けた物語は君の中
きっとずっと
僕の中には戻ってきやしないね
笑っちゃうね
笑っちゃうよね
それでもきっと
ずっとずっと
君との欠片を探し続けるんだ
笑っちゃうね






no-title

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。











no-title

「煮沸消毒」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年06月29日投稿。




君の存在を
煮えてしまった僕の心で
ぐつぐつぐつ
大丈夫
もう
毒も消えて君も消えてしまったさ
良かったね、
良かった、ねぇ






タグ:2013

「君がいない」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年06月28日投稿。




君がいない君がいない君がいない
君がいない
君以外愛せなくて
君以外愛したくもなくて
それなのに
君がいない
もう、
手の届く場所に君はいないんだ






タグ:2013

「さよならの向こう側で」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年06月28日投稿。




君を愛することを忘れてしまった
さよならの向こう側で
また
君にこんにちは






タグ:2013

2020年05月04日

「鴉天狗のお話」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年06月22日投稿。




別に私は生まれがどうとか気にしたことなんてない。
物心ついた時にはじじばばの元で育てられたし、母を捨てたとか言う父の存在なんて気にするどころか、それ以前に知らないし、知らないものは気にもならない。ただ周りはそれを冷やかすのが好きらしい。
はっ、面倒臭い奴等だ。
私は鴉天狗達が暮らす小さな集落に生まれた。父の存在は知らないし、じじばばともども教えてくれないから分かりもしないが、ただ、目が碧かったんじゃないかと思う。
小さい頃、私は自分の顔を知らなかった。邸の庭で鞠ばかりついていたもんだから、外に行ったこともなくて。そんな退屈な毎日だったから、ある日本当に退屈になって、こっそり邸を抜け出した。
そして私は初めて知った。
あぁ、私は人とは違うんだ、と。
最初、皆が何故私を見て煙たい顔をしているのか、判らなかった。着ているものも皆と変わらないはずだし、髪だって毎日ばばが整えてくれてる。何にもおかしいところなんてない。ないはずだ。
じろじろと見やがって。
私は舌を打った。
すると、一人の子が、母らしき人に尋ねる。無垢な顔で。無垢な声で。
「ねぇ、あれが異端の子なの? だって、おめめ、碧いもの」
その時、私は初めて知った。
私の目はそこここにいる赤や黒の目とは違う。じじばばのように金色でもなければ、人っ子のように茶色ですらないのだ。
私は自分の顔なんぞ見たことなかったもんだから、自分の目がじじばばと違うなんてとんと知らなかった。
その日からだ。
あぁ、きっと、私の父は目が碧かったんだな、と、思ったのは。
一度外に出てしまったら、私はすぐに慣れた。そして、もっと外を知りたいと思った。周りは相変わらずの反応だったけれど。私があまりに抜け出すもので、じじばばも諦めたのか何も言わなくなった。私は別に自分が特別なんだとも思わなかった。目の色ごときなんだって言うんだ。
私はそんなことより、もっと世界が知りたかった。
そうして幾歳か過ぎた。
相変わらずだいたいの奴等は私を異端だなんだと外れ者にしていたが、そんなのは集落の外に出れば関係のないことだ。私はちょくちょく人里に飛んでいっては、人っ子のふりをして町の者たちと話していた。元々話し相手がじじばばと一人二人いるかいないかの友人だけだったから、外に出て話すのはとても楽しかった。
また人っ子は面白いことに、私が話をするとたいそう喜んでいろんなものをくれた。簪に鞠に切り子細工、きらきら光るものを、たくさん、たくさん。そのほとんどは私には要らないものだったが、私はそれを喜んで受け取った。そして礼には満たないかもしれないが、私も村にある誰かしらの家の柿をもいでくれてやったり、山菜や筍が余ったらくれてやった。
そうすると、また、いろいろ話を聞けるし、また、いろいろ貰えるのだ。
人っ子とは面白い。本当に面白い生き物だった。
こちらが聞けば要らぬ情報からどこかで使えそうな情報まで、べらべらべらべら喋ってもらえるもんだから、私は調子に乗っていろいろ聞いてやった。
そうして人里をうろついていたある日、その人を見掛けた。
とは言っても、一瞬目があったような気がしただけで、実際に目があったわけではないのかもしれない。その人はすぐに飛んでいってしまったからだ。
でもその姿がなんとなく気になって、もしかしてそこに行けばまた会えるかもなんて淡い期待を、少しだけ、少しだけ、抱いてしまった。
まぁ、人里で見たのはそれ一回っきりだったのだけど。
暫くして、じじばばも死んでしまった。じじもばばもいい人で大好きではあったけれど、私が知りもしない父に対しては、最後まで悪態を吐いていたもんだから、なんだか虚しくなって、これで良かったんだと思った。だって、死んでしまったら、もう、誰かへの憎悪なんて、なくなってしまうんだから。これで、良かったんだ、って。
私はとうとうひとりぼっちになって、寂しいからよく唯一とも言える友人のもとへ訪ねて行ったのだけど、そいつもどうやら様子が芳しくない。昔からひょろっこい奴だと思ってはいたけども、ここまでくると、もしかして、と、考えてしまう。
縁側で二人腰掛けて、いつも通りの日向ぼっこだけれど考えると気が重く、私は溜め息を吐いた。
すると奴は咳をしながら、くすくすと笑って言う。
「溜め息なんて珍しいね、考え事?」
「珍しいって、私が溜め息吐いたり考え事してるのがそんな珍しいって? 私だっていろいろ考えてるのよ」
「そう? お祖父さんが亡くなった時も、お祖母さんが亡くなった時も、あっけらかんとしてたように見えたけど」
「ちょっと、私が血も涙もないみたいに言わないでくんない」
それにあの時は…、
私は思い出す。異端の子を匿っていたとかなんだで、じじの死んだ時も、ばばの死んだ時も、皆は白い目で見るだけだった。
そんな時、身体の調子がよくないにも関わらず私の元に手向け花を持ってきてくれたのは、こいつだけだった。
私はまた溜め息を吐く。
するとまた、くすくすと笑う。
昔からそうだった。何でも分かったような風をして、それでいて何も知らない無垢な顔で、くすくすくすくす、楽しそうに笑ってるんだ。
私はやりきれなくなって、そのまま寝転び天を仰いだ。
「あぁあ、ばっかみたいにいい天気!」
「ねぇ、大天狗様が君に目をつけてるって話、知ってる?」
「は?」
「大天狗様がね、君は使えそうな人材だから、部下に欲しいんだってさ」
すごいねぇ。
言って、またくすくすと笑っている。
「私、そんなの初耳なんですけど。っていうか大天狗様に会ったことすらないのに何でそんな」
さぁ、
くすくす笑いながら、その手が私の長い髪を撫でる。
「君は人里やらどこへやら、行きたいところに行ってはいろんな話を仕入れてくるじゃない? だからだよ、たぶん」
「ふーん、それにしたって、異端の子を、ねぇ…、」
「異端とか、関係ないじゃない」
「何それ、人のこと異端の子ってアンタが言ってたんでしょ」
「あはははははっ! それは皆言ってるよ。僕が言いたいのはね、異端だろうがどうだろうが君は面白い生き物だってことだよ、大天狗様も気に掛けるほどね」
そう言って笑った後の、少しだけ、寂しそうな顔。
私は見ていられなくなって、あぁあ、と、大袈裟に声を吐くと、ばっと立ち上がった。
「ま、大天狗様とかそんなん、私には関係ないけどね!」
「……、」
そうして翼を広げると、じゃ、またな、って、縁側から羽ばたくと、何処へともなく、飛んでいった。
それから何度かまた話す機会があったのだけど、その話はそれ以降出なかった。私がその話を嫌がったのが、何となくわかってたのかもしれない。
結局私は、最後まで気を遣わせてばっかりだった。
その日は雨だった。
その日は突然やってきた。
私はぼんやり雨宿りしながら、濡れた顔をごしごしと乱暴に拭った。
そしてやっと、言わずにいた言葉が、するりと落ちた。
「あぁあ、本当に独りぼっちになっちゃったなぁ」
そしてその場に座り込み、膝を抱えた。
じじばばのいない邸は広すぎて、耐えきれなくて遊びに行って、それなのに、もうそんなことも出来ないなんて。何処に行っても、もう、独りぼっちだ。
私は、ぼんやり地面を見つめながら、思った。
その時、ふっと視界が暗くなる。
誰だよ、そう思って私に影を落とした奴を睨み付けると、それは、いつか人里で見掛けたその人だった。
「……、」
その人は、膝を抱えた私に、何も言ってはこなかった。代わりに、すっと右手を差し出してきて。その右手の意味を、理解してはいたのだけど、私は首を振って拒絶した。今はそんな気分じゃない。放っておいてくれ。そんな風に。
「……、」
「……、」
「…………、」
その人は何も言わない。
それなのに、ぽつり、私の口から、言葉が漏れる。そう、一つ口にしてしまうと、ぽつぽつと、次から次へと、溢れ出してくる。
「独りぼっちになっちゃった」
「……、」
「大切な友達だったのに、何にもできないままだった。私なんかと一緒にいて、自分だって白い目で見られちゃうのに、馬鹿な奴だなぁ、って、思って」
「……、」
「私、知ってる。アイツが貴方に言ってたんでしょ、私が使えるヤツだって。私なんかより、貴方の部下にはアイツのがぴったりだったってのに、残ったのは私一人なんだから、酷い話だね」
「……、」
その時、ふっと、頭に手が乗せられる。温かくて、大きな手だ。
お父さんってものが存在したら、それはきっとこんな感じかな、と、ぼんやり思った。
「私なんか……、」
「確かに俺はアイツから話を聞いて、お前に目をつけた。元々アイツを部下にと思ってたのも間違いじゃない。アイツはあんなだが頭が切れるからな」
「じゃあ何で私を……、」
「迎えに行ってやってほしい、と、頼まれたからだ」
「……、」
最後まで、本当にアイツは……。
私は溜め息を吐いた。
もう久しく、溜め息すら吐いていなかった気がする。
「そうだな、迎えに行ってやってほしいと言われたこともあるが……、」
「……、」
「いつか見たとき、独りにしておけないな、と、そう思った。そんなもんだ」
「……、」
私は溜め息を吐く。でも、さっきよりは軽い。
そうして立ち上がって、右手を差し出した。
「どうせ行く宛もないし、私なんかが役に立つなら、どうぞ、」
それがアイツへの、最後の手向けになる。
そう思ったから。
そして何より、真っ直ぐ自分を見つめてくれたこの人を、信じてみようと思ったから、だ。
そうして私は手を取った。
が、その直後、ちょっと待ってと手を放す。
怪訝な表情を浮かべるのをものともせず、私は懐剣を取り出すと、自分の長い髪をひっつかみ、乱雑にばさりと切った。そしてその髪束をぐっとその人の目の前に差し出して見せて、言った。
「アイツが長い髪がきれいだ何だと言ってたから伸ばしてた。もう、必要ない。これは、アイツへくれてやって」
私の突拍子もない行動に呆れたのか、肩を竦めたけれど、それをしっかり受け取ると、空いた手でまた、私の頭を撫でた。
そうして私は、その人についていくことになった。
その人は人使いが荒いところやちょっといろいろ不安なところがあったけれど、だからこそ、仕方ない私が支えてやるか、って思わされるような不思議な人で、その人の部下として私が生きていくのは、また、別の話である。


終わってしまう






タグ:リクエスト

「どうせ要らないんだから」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年06月15日投稿。




世界にどうせ僕なんて要らないんだから
どうせ要らないんだから
ねぇ、
君の手でさっさと殺してしまってよ、ねぇ、






タグ:2013

「君に焦がれて」

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年06月13日投稿。




君に焦がれてもう何も見えないんだ






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