2014年01月07日
「二流の人」 坂口安吾
今年の大河ドラマの主人公は黒田官兵衛である。最近の大河ドラマは官兵衛や直江兼続、山本勘介などくせのかなり強い人物がやたらと主人公となっている。ドラマで描かれる際、その曲者ぶりが変に曲解されるせいで、ある程度その人物について知っている者からすれば悲しくなることもある。
坂口安吾はこの「二流の人」以外にも「黒田如水」という短編も書いている。もっとも「黒田如水」は「二流の人」とほとんど同じような語り口・内容であり、この作品をもとに「二流の人」を描いたのはありありとわかるためまあ、読まずとも良い。
司馬は長編で人物を描くときには基本的に通史を書くようにしている(新史太閤記や覇王の家といった尻切れトンボもあるが)。それに対し安吾の時代小説の凄いところは描きたいところのみをピックアップして書き、それ以外の部分は一切紙面に残さないことだ。
小田原攻めの陣屋で黒田如水と家康が会談するところから始まる。
「この二人が顔を合せたのはこの日が始まり。いはば豊臣滅亡の楔が一本打たれたのだが、石垣山で淀君と遊んでゐた秀吉はそんなこととは知らなかった。」
秀吉が恐れたのは家康であったがその次に恐れていたのは如水であったと続く。秀吉は如水が献策するたびに衆人の前で如水をほめたたえるのだが、同時に如水への警戒を強めていく。如水もあほではないからその都度ごとにしまったと思う。
「如水は律儀ではあるけれども、天衣無縫の律儀でなかった。律儀という天然の砦が無ければ支へることの不可能な身に余る野望の化け物だ。彼も亦一個の英雄であり、すぐれた策師であるけれども、不相応な野望ほど偉くないのが悲劇であり、それゆゑ滑稽笑止である。秀吉は如水の肚を怖れたが、同時に彼を軽蔑した。」
如水という不世出の軍略家とその飼い主・秀吉、その飼い主が最も恐れた家康の三人の実力者の構造を如水から少し離れた視点から描く。面白いのは如水は才気が顔に出てしまうほどの者ながら、事態については冷静に見つめているため、秀吉の心情を巧みに汲んで、自身を破滅へは追いやらない。
司馬の「播磨灘物語」の如水はもうすこし凛々しげなのだが、「二流の人」の如水は鬱屈が顔に出ている様がありありと想像できる。これが司馬と坂口の違いなのだろう。
No2のあり方を描く作品は多いが、心の鬱屈・屈折を感じさせる作品は少ない。史実の如水は秀吉に牙をむかなかったが、実際のところ心の中ではどう思っていたのか。秀吉と如水とは、優れたリーダーと、不分相応な力量を持ってしまった献策者との関係性を読み解くには格好の題材であろう。
黒田官兵衛
坂口安吾はこの「二流の人」以外にも「黒田如水」という短編も書いている。もっとも「黒田如水」は「二流の人」とほとんど同じような語り口・内容であり、この作品をもとに「二流の人」を描いたのはありありとわかるためまあ、読まずとも良い。
司馬は長編で人物を描くときには基本的に通史を書くようにしている(新史太閤記や覇王の家といった尻切れトンボもあるが)。それに対し安吾の時代小説の凄いところは描きたいところのみをピックアップして書き、それ以外の部分は一切紙面に残さないことだ。
小田原攻めの陣屋で黒田如水と家康が会談するところから始まる。
「この二人が顔を合せたのはこの日が始まり。いはば豊臣滅亡の楔が一本打たれたのだが、石垣山で淀君と遊んでゐた秀吉はそんなこととは知らなかった。」
秀吉が恐れたのは家康であったがその次に恐れていたのは如水であったと続く。秀吉は如水が献策するたびに衆人の前で如水をほめたたえるのだが、同時に如水への警戒を強めていく。如水もあほではないからその都度ごとにしまったと思う。
「如水は律儀ではあるけれども、天衣無縫の律儀でなかった。律儀という天然の砦が無ければ支へることの不可能な身に余る野望の化け物だ。彼も亦一個の英雄であり、すぐれた策師であるけれども、不相応な野望ほど偉くないのが悲劇であり、それゆゑ滑稽笑止である。秀吉は如水の肚を怖れたが、同時に彼を軽蔑した。」
如水という不世出の軍略家とその飼い主・秀吉、その飼い主が最も恐れた家康の三人の実力者の構造を如水から少し離れた視点から描く。面白いのは如水は才気が顔に出てしまうほどの者ながら、事態については冷静に見つめているため、秀吉の心情を巧みに汲んで、自身を破滅へは追いやらない。
司馬の「播磨灘物語」の如水はもうすこし凛々しげなのだが、「二流の人」の如水は鬱屈が顔に出ている様がありありと想像できる。これが司馬と坂口の違いなのだろう。
No2のあり方を描く作品は多いが、心の鬱屈・屈折を感じさせる作品は少ない。史実の如水は秀吉に牙をむかなかったが、実際のところ心の中ではどう思っていたのか。秀吉と如水とは、優れたリーダーと、不分相応な力量を持ってしまった献策者との関係性を読み解くには格好の題材であろう。
黒田官兵衛