2014年01月05日
「梟雄」 坂口安吾
堕落論で有名な坂口安吾による時代小説である。彼は他にも「二流の人」「鉄砲」「織田信長」といった歴史モノを多く残している。精神主義を嘲笑うような合理主義と緻密な内面描写が特徴である。
梟雄とは残忍猛々しく、狡猾な傑物を指す。梟雄としてよく名が挙がるのは、北条早雲や毛利元就、浮田直家、松永久秀といったどれもまあ納得の面々である。そしてその筆頭ともいえるのがこの作品の主人公、斉藤道三である。
京・妙覚寺の高名な学僧・法蓮房は薄っぺらな寺社会に嫌気がさし、「時運にめぐまれれば一国一城の主となることも天下の権力者となることもあながち夢ではない」乱世を目指し還俗する。「人生万事、ともかく金だ」と油屋の娘と結婚する。講談で有名な油売りの秘儀など手練手管を用い、蓄財に励む傍ら、彼は独自の兵法研究に余念がなかった。やがて財を成した油売りは、サムライになろうと考える。かつての学僧仲間を頼り美濃に落ち着いた彼は、内通・毒殺・クーデターと謀略の限りを尽くして美濃を奪い取る。主を変える度に名を変えた油売りは、その都度自身に流れる新しい「血」を見つめていた。しかし美濃奪取後、彼が奪った「血」は思いもかけぬ形で彼の胎外で成長を遂げ、彼に向かうのだった…。
斉藤道三を扱った小説では司馬遼太郎の長編「国盗り物語」が代表作であろう。本作「梟雄」は短編であるが切れの良さと構成の巧みさでは「国盗り物語」と比べても全く遜色ない。むしろ心理描写の秀悦さでは部分的には上回る場面もある。道三の美濃奪取後や、義龍謀反後の心理描写がそれである。「国盗り物語」の斉藤道三編の終末部は、織田信長編に移行するために道三個人の描写が少なく淋しいものがあった。
道三自体は父子2代説が近年提唱されていたりと、メジャーな武将に比べ正体が不明な人物であり、そのイメージの大半は江戸期以降の軍記・講談文化がつくりだしたものである。道三が斉藤妙椿と同居していたりと史実的誤謬も見受けられるものの、道三の内面を「血」というキーワードで解き明かそうとしたこの作品は、道三という梟雄ひいてはクーデターでのし上がった権力者の内在論理を理解するにあたり格好のテキストと言えるだろう。
梟雄 斉藤道三
梟雄とは残忍猛々しく、狡猾な傑物を指す。梟雄としてよく名が挙がるのは、北条早雲や毛利元就、浮田直家、松永久秀といったどれもまあ納得の面々である。そしてその筆頭ともいえるのがこの作品の主人公、斉藤道三である。
京・妙覚寺の高名な学僧・法蓮房は薄っぺらな寺社会に嫌気がさし、「時運にめぐまれれば一国一城の主となることも天下の権力者となることもあながち夢ではない」乱世を目指し還俗する。「人生万事、ともかく金だ」と油屋の娘と結婚する。講談で有名な油売りの秘儀など手練手管を用い、蓄財に励む傍ら、彼は独自の兵法研究に余念がなかった。やがて財を成した油売りは、サムライになろうと考える。かつての学僧仲間を頼り美濃に落ち着いた彼は、内通・毒殺・クーデターと謀略の限りを尽くして美濃を奪い取る。主を変える度に名を変えた油売りは、その都度自身に流れる新しい「血」を見つめていた。しかし美濃奪取後、彼が奪った「血」は思いもかけぬ形で彼の胎外で成長を遂げ、彼に向かうのだった…。
斉藤道三を扱った小説では司馬遼太郎の長編「国盗り物語」が代表作であろう。本作「梟雄」は短編であるが切れの良さと構成の巧みさでは「国盗り物語」と比べても全く遜色ない。むしろ心理描写の秀悦さでは部分的には上回る場面もある。道三の美濃奪取後や、義龍謀反後の心理描写がそれである。「国盗り物語」の斉藤道三編の終末部は、織田信長編に移行するために道三個人の描写が少なく淋しいものがあった。
道三自体は父子2代説が近年提唱されていたりと、メジャーな武将に比べ正体が不明な人物であり、そのイメージの大半は江戸期以降の軍記・講談文化がつくりだしたものである。道三が斉藤妙椿と同居していたりと史実的誤謬も見受けられるものの、道三の内面を「血」というキーワードで解き明かそうとしたこの作品は、道三という梟雄ひいてはクーデターでのし上がった権力者の内在論理を理解するにあたり格好のテキストと言えるだろう。
梟雄 斉藤道三