2021年01月31日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,36
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,36
「ありがとよ、ナオミちゃん、ほんといありがと、よく分かっていてくれた。・・・・・・僕は今こそ正直なことを言うけれど、お前がこんなに、・・・・・・こんなにまで僕の理想にかなった女になってくれようとは思わなかった。
僕は運が良かったんだ。僕は一生お前を可愛がって上げるよ。・・・・・・お前ばかりを。・・・・・・世間によくある夫婦のようにお前を決して粗末にはしないよ。ほんとに僕はお前のために生きているんだと思っておくれ。
お前の望みは何でもきっと聴いて上げるから、お前ももっと学問をして立派な人になっておくれ。・・・・・・」
「ええ、あたし一生懸命勉強しますわ、そしてほんとに譲治さんの気に入るような女になるわ、きっと・・・・・・」
ナオミの眼には涙が流れていましたが、いつか私も泣いていました。
そして二人はその晩じゅう、行く末のことを飽かずに語り明かしました。
それから間もなく、土曜の午後から日曜に掛けて郷里へ帰り、母に初めてナオミの事を打ち明けました。
これは一つには、ナオミが国の方の思わくを心配している様子でしたから、彼女に安心を与えるためと、私としても公明正大に事件を運びたかったので、出来るだけ母への報告を急いだわけでした。
私は私の結婚についての考えを正直に述べ、どういう訳でナオミを妻に持ちたいのか、年寄りにもよく納得が行く様に理由を説いて聞かせました。
母は前から私の性格を理解しており、信用していてくれたので、
「お前がそういうつもりならその児(こ)を嫁に貰うもいいが、その児の里がそういう家だと面倒が起こりやすいから、あとあとの迷惑が無いように気を付けて」
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
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