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2021年01月22日

「お梅人形」本文vol,6(全10記事)

江戸川乱歩「一寸法師」より【お梅人形】VOL,6





山野夫人は、フラフラと身体がくずれ相になるのをやっと堪(こら)えた。



そして大きな目で明智をにらむ様にして、どもりながらいった。



「で、その死骸というのはいったいどこにあったのでございますか」



「銀座の  百貨店の呉服売り場なんです。



実にこの事件は変な、常軌を逸した事ばかりです。



そこの呉服売り場の飾り人形の片手が、昨夜の間に、本物の死人の手首とすげかえられていたというのです。



警務係をやっている者に知り合いがありまして、早速知らせてくれたものですから、序(ついで)にそっと指紋を取ってもらったわけなのですが。



それから、これは手首と一緒に警察の方へ行っているのですが、その手首には大きなルビイ入りの指輪がはめてあったのだ相です。

これもたぶんお心当たりがございましょうね」



「ハア、ルビイの指輪をはめていましたのも本当でございますが、でも三千さんの手首が百貨店の売り場にあったなんて。

まるで夢の様で、私一寸本当な気が致しませんわ」



「御もっともですが、これは少しも間違いの無い事実です。

やがて今日の夕刊には、この事件が詳しく報道されるでしょうし、警察でもいずれこれをお嬢さんの事件と結びつけて考える様になるでしょう。

御宅にとっては、お悲しみの上に、非常に御迷惑な色々の問題が起こって来るかも知れません」



「マア、明智さん、どうすればいいのでございましょう」



山野夫人は、目に一杯涙をためて、一種異様のゆがんだ表情で、明智にすがりつく様にいうのであった。



「早く犯人を探し出して、お嬢さんの死骸を取り戻すほかはありません。

こうなれば、警察の方でも十分捜索してくれるでしょうし、案外早く解決がつくかも知れません。

その後、御主人は御帰りないのですか」



「ハア、主人はこちらから電報を打ちまして一昨日帰ってもらったのでございますが、ひどく子煩悩な方だものですから、あのピアノのことなんか申しますと、もうとても生きてはいないだろうとうと気落ちをしてしまいまして、まるで病人のようになって、人様にお逢いするのもいやだと申して、寝間にひきこもっているのでございます。

そんな訳でございますから、今のお話も主人に知らせましたものかどうかと先程から迷っているような訳でございますの」



「それはいけませんね。

だが、御主人も余りお気落ちがひどい様ですね。

じゃ、今日はお目にかかれませんかしら」



「ハア」



夫人はいい悪(にく)相に、



「先ほどもあなたのいらしったことを申したのですけど、今日は失礼させて頂くと申しているのでございます。









★引用書籍

江戸川乱歩著

「一寸法師」

1926(大正15),12/8〜1927(昭和2),2/21

「東京朝日新聞」・「大阪朝日新聞」

同時連載本文より引用。




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