『ゴスペラーズ アカペラ コーラス セレクション』
最新曲と代表曲のアカペラ曲、計10曲を纏めた譜面集。
聴きながら読むと、辿りながら聴くとゴスペラーズさんが追随を許さない唯一無二のヴォーカルグループ(コーラスグループではない)事が分かる一冊になっている。
CDやライブで聴いていて、どうなってるのか、どなたがこの時に歌っているのか分からない部分ばかりだったのだけれど、その秘密が色々分かるようになっているこの本はゴスペラーズさんを丸裸にする譜面集と言ってもいいかもしれない一冊で、ファンには嬉しい、アカペラ人には有難い内容になっていると思う。
長年のファンなら声で推しメンがいつどこを歌っているのか分かるのだろうけど、それが勿論分かる本。
まだ買っていない方や購入意欲がまだ湧かないファンの方は買った方がいい一冊だと思う。
特に安岡さんファンの皆さんにお勧めしたい。
今回特に驚いたのは安岡さんが内声の要であり、ベースを時折担当しているという事。
「この後にベース?」という所があったり、『関ジャム』でも放送されていたステイ(他が変化している中、同じ音をコーラスし続ける事)が随所にあり、ベースとコーラスの橋渡しになっており、そのステイを見つける楽しさもある。
冒頭、「ゴスペラーズさんが追随を許さない唯一無二のヴォーカルグループ」と書いたがその理由の一つにコーラスアレンジにあると思う。
全体を見渡すとベースが持続して上の和音が変わるペダルポイントやその逆、内声だけの変化、上の和音とベースが逆に動く反行、どちらかが動く斜行、一緒に動く並行、ステイなどなど、細かいズレも音符で巧みに書かれていて、歌い方も多種多様に変化させている。
普段聴いていて、とても立体的で複雑に聴こえるゴスペラーズさんのアカペラの中身を解剖する事が出来たのだけれど、全てにおいて『Promise -a cappella-』のアレンジがゴスペラーズさんの土台の一つにあるように思う。
それがイントロ、特に1小節目に集約されていると思う。
全体メロディーは下降、ベースは上昇という反行、伸ばしているところで内声(ここも安岡さん!)が動く。
言葉にするとややこしいが、このややこしい事を色んなところでやっていて、その応用がこの曲や他の曲でも随所にある。
特にこの曲が優れているのはコーラスがただのコードネームの和音の伴奏ではなく、全体がカウンターメロディ(対旋律、主メロとは違う旋律)になっている点。このアレンジ法は他にも見られ、この曲から更に坂を登ろうというメンバーの想いが他の譜面から僕には感じられる。
和音を全員でやるところ、ハモるところ、一人抜けたりするところをメインボーカルを変えながら巧みに変化をつける事で、複雑なハーモニーになり立体感が生まれているようだ。
ギターやキーボードでコードを確認したい僕にとって、譜面にコードを載せてもらいたかったのだけれど、冒頭の対談で納得。
なんでもネットで分かる世の中だけれど、アナログに譜面や耳コピで知った方が音楽には良いようだ。
掲載曲、それぞれに感じる事はあるのだけれど、特に興味深かった3曲を挙げたい。
『いろは』
音符の符頭(たま)に×が所々にあって、面白かった。よくドラム譜に用いられたり、ギター譜にあったりするリズム譜。
役者もやっている僕の解釈としては、アナウンサーや俳優が学ぶ標準語的に言うと無声音に近い表現になるだろうか。
無声音とは、か行などで発音するもので母音をあまり発語しないもの。(反対に関西方面では有声音となり母音も発語する。関西出身のアナウンサーに無声音ではない方が多い。)
譜面ではこの×音符になっているにも関わらず音も指定されていて舌を巻く。
これがこの曲のダイナミクスになっていて、時々入るベースと良い緊張感が生まれているように思う。
『新大阪』
『関ジャム』でも紹介された「バーバッパー」が勿論掲載されていた。これからライブでは『1,2,3 for 5』の時、推しの時に指を差すみたいに客席は推しのそれぞれ違う「バーバッパー」を歌うようになるのかもしれない。『VOXers』もそうなったら凄い事になりますね。
(この曲に関しては間違いも見つけてしまった。p91、1サビ「いつもそばにいて」後の村上さんの歌詞。)
『星屑の街』
譜面で書かれなきゃ分からない譜割が数カ所あった。
特にイントロ2小節目(繰り返し部分も)。
深いリバーブがかかっていて分かりづらく、最初ミスプリと思ってしまった譜割り。これを同じにせず、ズラす事によって、この曲が壮大なシンフォニーを思わせる曲になっていて、アカペラの面白さが感じられた。
先日フジテレビで『ハモネプ』が放送された。
楽しく拝見したのだけれど、どこか面白さがなく感じられたのはヴォーカル、3和音のハーモニー、ベース、超絶ボイパの枠内にあるからに思う。
この本は「アカペラはそれだけではないだろう」と、アカペラ人に一石を投じる一冊のように思う。
『星屑の街』などを掲載している事にゴスペラーズさんの後続への熱い想いが溢れているように思うのは考えすぎだろうか。
人間の声のみでやるアカペラという音楽の面白さ、難しさ、奥深さが学べる一冊。
ファンの皆さんにはより深く5人を知れる一冊。
この夏、お勧めの譜面集です。