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2018年05月14日
いばら姫 / 慾鴉のパラディン
頑是なく泣いて最早言葉が通じぬ幼い娘に、私はとうとう白旗を上げざるを得なかった。一体何があったのかと問いかけても、舌足らずな声で要領を得ぬ単語の羅列が続くばかりである。
随分と時間は浪費したが、怪獣だとか翼があっただとか、いやはや巨大な鳥であっただとか。兎角得体の知れぬ異形に娘の首飾りが奪われてしまったらしい、ということは聞き出せた。
首飾りは娘にとっては亡き母の、私にとっては妻の形見であるが、畢竟、それが真に異形の仕業であるならば、むしろ娘の身の無事を喜ぶべきだと諭す私に対し、娘は泣いて首を振る。
でもまだ足りないって言うの、と娘が震えながら小さな指で上を差す。見上げた私は成程確かにまだ足りなかったのだと呟いた。眼前には私を飲み込まんと巨大な嘴が広がっていたのだ。
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2018年05月13日
いばら姫 / 嫉蛇のガンナー
古くより研究に没頭せし凡骨で頑迷な古老の科学者は、新たに配属されし稀代の天才と呼ばれる若い学者が、世間の耳目を集めていることに対し、ただ醜く嫉妬するしかなかった。
夜半、年老いた科学者の心の奥底に燃ゆる醜悪な嫉妬の炎の存在は、漆黒を満たす彼の部屋に突如現れた名状しがたいほどの恐ろしい二つの鋭利な眼光によって照らし出された。
嫉妬を糧とし生きると言うそれに、嫉妬を捧げる行為がいかに愚鈍かつ悪辣かを理解した上でそれを望み、辺り一面が血の海と化した研究室と若い学者の研究成果だけが彼に残された。
残された研究成果で輝かしい功績を収め、一躍時の人となった彼だったが、その背後で彼を快く思わない者が嫉妬の炎を燃やし続け、それと遭逢し嫉妬を捧げたことは言うまでもない。
2018年05月12日
いばら姫 / 憤狼のクラッシャー
雷鳴轟き雨風が吹き荒れる酷い天候の日だがここ数日頭の中に響く悪魔の声から逃れたい私は聖堂へと足を進めていた。このままでは私はいつか声に従いあの憎き男を屠ってしまう。
刹那、眼前に閃光が貫き巨大な影が蜃気楼のように立ち上がり私に向かってやおう牙を見せる。何故憤怒と殺意に身を委ね刃を振り下げぬのかと尊大な詰問の声が頭に響き意識が遠のく。
薄れゆく意識の中で私は必死に祈り絶り続けた。主よ!主よ!どうか愚かな子羊を導き悪を退け給え!私は誰も殺シたくハないノです!誰も、ダレも……憎しみヲ抱く相手以外ハ。
気が付けば目の前にはあの憎き男の亡骸が転がっていた。右手に握った銃を眺め私は呆然と空を見上げた。再びあの方の声が聞こえ私はもう一人恨んでいる相手がいたことを思い出した。
2018年05月10日
いばら姫 / オルタナティブ
今回の報道特集は『植物人間』。重度の昏睡状態にいる患者は時に植物に例えられる。我々はある昏睡状態の少女に密着取材を決行。彼女を取り巻く家族の苦悩と葛藤を追った。
取材が進むにつれ、あらわになる理想と現実。治療の続行を望むも、そこに立ちはだかるのは莫大な治療費だ。穏やかに眠る少女の顔とは対照的に、家族には疲労の色が濃く出ていた。
我々が密着取材を行ってからわずか数週間。少女の容体は急変し、息を引き取った。あっという間の出来事だったという。こうして一家の長い長い戦いは、あっけなく幕を下ろした。
少女の死亡から数日後、驚くべき報せが入った。少女の死は、母親によるものだったのだ。あれほど延命を望んでいた母親が何故その手にかけたのか。我々は取材を続けることにした。切替
2018年05月09日
いばら姫 / ハーフナイトメア
幸せなもの。それは良く晴れた日の朝に二度寝をすること。
その為に、目覚まし時計を少しだけ早くセットするの。
起きるのはお昼で大丈夫。いいえ、夕方でも構わない。
そうしテ日が落ちタ頃に起きテ、ガッかりするの。
「アあ、また一日を無駄にしてシマッタ」って。
そんな後悔を抱えたママ、またベッドに潜り込むのでショウ?
眠りハ何モ生ミ出さナイ。寝てイル間に時間は進ミ、あなたハ世界から置いてイカレル。無生産、むだ、無意味、ムエキ、怠惰。そんな人間、生キテイル価値モ無イ!
デモソレデイイノ。無駄ナ人間ハ寝テイルノガ一番。ソウスレバ誰ニモ迷惑ハカケナイ。ダカラ価値ノナイ命ハ眠リマショウ。何ガ起キテモ(殺サレテモ)寝テイレバイインダカラ……
2018年05月07日
いばら姫 / クレリック
眠り【ねむり】
眠ること。睡眠。いばら姫にかけられた呪い。
例文「死の呪いの代わりに、姫は百年の間――続けるだろう」
安眠【あん‐みん】
安らかな眠り。十分に睡眠をとること。いばら姫の願望。
例文「ここには誰もこないから、――できるの」
惰眠【だ‐みん】
やるべき事をやらずに眠っているさま。いばら姫の喜び。
例文「――を貪る人生って、なんて幸せなんだろう!」
永眠【えい‐みん】
永遠の眠り。死去。いばら姫の理解の及ばぬこと。
例文「――すれば、ずっと夢を見続けられるんでしょ?」
2018年05月06日
いばら姫 / ソーサラー
その国には13人の魔法使いがいた。中でも一際力の強い魔法使いは、未来を見通す目を所持していた。その魔法使いの目に映ったのは、悲しい現実に見舞われる美しい姫の姿だった。
時同じくして、子に恵まれなかった王と王妃が一人の女児を授かった。美しく麗しく可愛らしいその赤子に、魔法使い達は祝福を与えねばならぬと話し合った。
13人目の魔法使いは姫の未来を知るが故に、一番美しい時に死ねる祝福を与える事にした。しかし、それは12人の未来を知らぬ魔法使いによって拒否された。
美しく麗しく可愛らしい赤子に悲しい思いをさせてはならぬ。そうして13人目の魔法使いは招かれざる場と知りながら城に乗り込み、姫にとって一番の祝福を与えた。
2018年05月05日
いばら姫 / ミンストレル
お誕生日のお祝いに、もらった呪いの贈りもの。
そこには夢がつまってて。つまらないのは現実で。
いまは起きたくありません。
綿菓子雲から飴が降る。ひとつぶつまんで舌の上。
世界がぜーんぶ食べられる、おかしなお菓子の甘い夢。
まだまだ起きたくありません。
チクチクいばらが突き刺さる。ジクジク膿んで傷だらけ。
痛々しいわ王子様。そろそろ私を諦めて。
ぜったい起きたくありません。
魔法使いの力によって、死をまぬがれたいばら姫。
しかし目覚めを受け入れなければ、それは死ぬのと同じこと。
それを知ってか知らぬのか、姫は今日も夢の中……。
2018年05月04日
いばら姫 / パラディン
学者の日記より1
眠りの森の美女、いばら姫……王子のキスで目を覚ました彼女は、本当に幸せになれたのだろうか?
学者の日記より2
文献によれば、彼女は嫁いだ後に二人の子をもうける。しかし、王子の母によって子を喰い殺されたとの記述がある。
学者の日記より3
別の記述によれば、彼女は眠っている間に王子に犯され、知らぬ間に二人の子を産まされた後に目覚めたともある。
学者の日記より4
結局のところ、姫にとっては眠り続けていた方がよほど幸せだったのではないだろうか……
2018年05月03日
いばら姫 / ガンナー
綿菓子の雲がふんわりふわふわ。少しだけ千切ってチギッテ食べながらタベタノお空をゆっくりダレノ巡りましょうハラ。
綺麗キタナイな泉ケツエキで水遊び。少しぬるくてナマアタタカクテ気持ちがいいの。
空ライブラリにそびえる大きなお城ナイトメア。とんとん扉アタマを叩いてタタキワッテお招きにナカミガ預かりましょうコンニチハ。
夢の中では私は自由。現実では、すやすやグチャグチャぐっすりブッスリお眠り中イバラヲサシテヒトゴロシ……
2018年05月02日
いばら姫 / クラッシャー
たった一人、年老いた魔法使いを祝いの場に呼ばなかったせいで、姫は不幸な呪いを受けた。「お前は15の年に糸車に指を刺されて命を落とすだろう」
そうして15の年、姫は呪いに罹ってしまう。他の魔法使いが「死ぬのではなく百年の眠りにつく」と祝いを告げたおかげで、命を落とす事は避けられたけれど――
「でも、どうして百年だったのかしら?」眠りから覚めた姫は可愛らしく首を傾げる。「出来ればもう百年、いいえ千年ぐらいは眠り続けていたかったのに」
現実世界は煩わしい事ばかり。夢の方がどれだけ幸せに過ごせたか。見知らぬ男に目覚めさせられ、妻にされるなんて真っ平御免。そうして姫は更なる眠りの呪いを求めて旅に出ました。
2018年05月01日
いばら姫 / ブレイカー
とある王国に、とてもかわいいお姫様が生まれました。長いあいだ子供に恵まれなかった王様はたいへん喜んで、盛大な祝宴を開きます。そこには12人の魔法使いが招待されました。
魔法使い達は次々とお姫様に祝福を与えます。その時、招待されなかった13人目の魔法使いがやってきて、お姫様に「15の年に糸車の紡錘の針に刺されて死ぬ呪い」をかけたのです。
残った1人の魔法使いが「死ぬのではなく眠る呪い」をかけ、何とか切り抜けましたが、結局お姫様は呪いの通り、15歳で紡錘の針に刺されて深い眠りについてしまいます。
長い年月の後、噂を聞いた王子様によって姫の呪いは解かれました。眠りから覚めた姫は王子様に言います。私はもっと「睡眠」を貪りたかったのに。空気を読めないなら死ねば?と。