ソンディは「先祖から遺伝する無意識」の統計研究と分析治療を行い、
フロイトの個人的無意識と、
ユングの民族的・人類的な集合的無意識の間に重要なものがあることを発見しました。
それは「家族的無意識」です。
フロイトは、晩年、精神分析による臨床経験から
「精神分析が見事な治療実績をあげることができるのは、主に精神的外傷が原因である場合だけ」と言い、
「素因的なもの」は「分析が終結不可能」つまり治療が困難だと認めてました。
「素因的なもの」とは、先天的な要因です。
個人が誕生時や生後に受けた後天的な心の傷(トラウマ)は、個人的な無意識に刻まれたものです。
これに対し、先天的な要因とは、遺伝的なものであり、心理学的には個人を超えた無意識に根源を持つものです。
フロイトは個人的な無意識よりも深い無意識の層があることを認めていたと考えられます。
ソンディが発見した家族的無意識とは、
個人的な抑圧の過程にも、
また集合的な無意識の過程にも帰せしめることのできない
「潜在的な家族的素質」すなわち、個人のいわゆる遺伝素質です。
そして、ソンディは、個人の中に抑圧されている祖先の欲求が、
個人の運命を決定するというという理論を打ち立てました。
それが運命心理学です。
阿頼耶識と集合無意識について
どちらも無意識のさらに奥底にある領域で、感情や行動の元になるものだと思います。
阿頼耶識
法相宗の「唯識」という教えで、心の深層領域で意識として認識出来るものの奥の、
無意識の末那識のさらに下にあるのが阿頼耶識になります。
万物は阿頼耶識に縁起(えんき)する、
前世も現世も来世も、人の行動や思考は阿頼耶識から生まれるもの。
阿頼耶識は言いかえれば潜在意織にあたるもので、
表層意識(日常)で強く意識したことや経験したことはこの潜在意識に蓄えられ、
生まれかわっても持ち続けて転生し、現世に影響するものです。
阿頼耶識が影響して末那識に煩悩が生まれることになります。
集合無意識(普遍的無意識)
ユングが考える心の構造は、
・意識と
・個人的無意識と
・集合的無意識の3層からなるとされています。
意識は自分で認識できる心です。
個人的無意識は、無意識領域で個人の経験から生まれた、
・自分では意識できない心のことで自然に忘れ去られたり、
・意識が抑圧した内容(コンプレックス)のことです。
集合的無意識は無意識のさらに奥底にあり感情の元となるもので、
・人類全体が共有する普遍的な心で把握することはできません。
・集合的無意識により個人的無意識にコンプレックスなどが生まれます。
世界各地の神話に類似性がみられることから、
人類は心の奥底に共通性(普遍性)のある、元型(アーキタイプ)を持っている、
とヒンズー経の聖典に触れてユングは考えていたので、
仏教の阿頼耶識と良く似てしまったようです。
「転生」という言葉を使わずに、
人類全てが持っていると表現しただけで、ほぼ同じ事と解釈できるのではないでしょうか。
集合的無意識は直訳なので普遍的無意識と言い換えられるときもあります。
ソンディの家族的無意識の重要性
ユングの理論は完全なものではありません。
むしろ大きな欠陥があります。
その欠陥を補うものとして、ソンディの理論があります。
ソンディは、当時、唯物論の共産主義国だったハンガリーで、
人間の心に注目し、科学的な運命心理学を打ち立てました。
ソンディは「先祖から遺伝する無意識」の統計研究と分析治療を行い、
フロイトの個人的無意識と、
ユングの民族的・人類的な集合的無意識の間に重要なものがあることを発見しました。
それは「家族的無意識」です。
フロイトは、晩年、精神分析による臨床経験から
「精神分析が見事な治療実績をあげることができるのは、主に精神的外傷が原因である場合だけ」と言い、
「素因的なもの」は「分析が終結不可能」つまり治療が困難だと認めてました。
「素因的なもの」とは、先天的な要因です。
個人が誕生時や生後に受けた後天的な心の傷(トラウマ)は、個人的な無意識に刻まれたものです。
これに対し、先天的な要因とは、遺伝的なものであり、心理学的には個人を超えた無意識に根源を持つものです。
フロイトは個人的な無意識よりも深い無意識の層があることを認めていたと考えられます。
ソンディが発見した家族的無意識とは、
個人的な抑圧の過程にも、
また集合的な無意識の過程にも帰せしめることのできない
「潜在的な家族的素質」すなわち、個人のいわゆる遺伝素質です。
そして、ソンディは、個人の中に抑圧されている祖先の欲求が、
個人の運命を決定するというという理論を打ち立てました。
それが運命心理学です。
無意識の中にある潜在的な家族的な素質
ソンディはある男が外見上「健康な」女性にひどく惚れ込み結婚したが、
この女は、結婚後数年経ってから、
夫の母親がすでに十数年間に亘って悩んできたのと全く同じ症状――自分が誰かを毒殺するのではないかという強迫思考――を示したという実例に関心を持ちました。
そして、この男の無意識の中には、彼の母親の病的な素質が力動的に作用しており、
この男の無意識の中にあるこのような潜在的な家族的な素質が、
運命的に結婚の対象の選択を規定したのである、と想定しました。
そして、数百例の結婚を分析して、「家族的無意識」の概念に到達しました。
ドストエフスキ−は、なぜ彼の小説の主人公にとくに殺人者を選んだのであろうか
また、ソンディは、ドストエフスキ−の『罪と罰』および『カラマ−ゾフの兄弟』を読んで、
「ドストエフスキ−は、なぜ彼の小説の主人公にとくに殺人者を選んだのであろうか」ということを、自らに問いました。
そして、ドストエフスキ−家の伝記を調べてみると、
祖先の系列の中には、実際に殺人者が現れていました。
Aは、使用人に命じて、彼女の夫を家の中で殺させた。
Bとその息子は、某軍人貴族の殺害に参加した等々。
ドストエフスキ−は自らの家族的な遺伝素質の中に殺人者を潜在的に担っていたゆえに、
殺人者の精神生活を表現することができたし、
また表現せずにはいられなかった。
こういうことが遺伝学的な資料によって裏付けられました。
運命分析テスト(ソンディ・テスト)
ソンディは、人間における無意識を構成する根本的な要素は
・性、
・感動発作、
・自我、
・接触の4つの衝動であり、
それを構成するのは、8つの遺伝因子の働きであるとする作業仮説を立てました。
そして、個人が帰属する家系的な遺伝圏、
遺伝趨性(結婚・職業・友情・疾患・死亡の趨性)、
祖先の欲求と祖先像、その自演などの知見と学説を構築し、
それを測定し記号化するテストを考案しました。
それが運命分析テスト(ソンディ・テスト)です。
ソンディは、運命分析テストを用いて、人々の衝動的性向を調べました。
・その結果、恋愛、友情において特定の人が引き合うことばかりでなく、
・職業を選ぶ際や、
・自殺する際の方法にも先祖の傾向が表れることを統計的に研究、発表しています。
すなわち、人は過去の先祖の行動や性格のパターンを受け継いでおり、
恋愛、友情、職業、病気および亡くなり方などにおいて、
無意識に祖先の影響を受けた行動をするというわけです。
ソンディの運命分析は、精神疾患や精神障害を決める遺伝素質が、
両面的なものであることを明らかにします。
・すなわち病的な遺伝素質は、
・同時に高度な精神能力の素質でもあるということです。
例えば、癲癇と宗教的神学的な能力、
分裂病と精神医学や精神病理学の能力、
躁鬱病と芸術・絵画の能力等が対になる。
二つの方向のいずれを選択するかを決めるのは、環境・素質・意思によります。
ソンディの運命分析は、こうして無意識的選択行動の心理学となりました。
その応用領域は「運命疾患」と呼ばれるもの、
すなわち恋愛、友情、職業、趣味における選択行動障害や、
身体的な病気および精神的疾患の選択、
特に犯罪形式の選択、
神経症の種類の選択、
さらに死亡様式(傷害,殺人,自殺)の選択の領域に及びました。
ソンディは、単に精神だけでなく身体も、
衝動や遺伝性質だけでなく魂の作用も、
更に現世だけでなく来世の世界の現象も、
深層心理学的研究の対象としました。
こうして、ソンディはフロイトの個人的な無意識の層と
ユングの民族的・人類的な集合的無意識の層との間にあった断裂を、
家族的無意識の層によってつなぎました。