人生には課題図書というものが存在します。
「読書感想文」を書かされる訳ではないのですが、人が生きていくうえで、最低でもこれぐらいは読んでおかないと恥をかくよ、という本です。映画や音楽や絵画にも同様の作品が存在しますが、管理人はこれらの課題をサボってきたので恥の多い人生を歩んでまいりました。
ということで、人生の課題図書のひとつ、「脱出航路」をようやく読了しました。
ジャック・ヒギンズ(「鷲は舞い降りた」で有名な英国作家です)の書いた冒険小説の中でも屈指の作で、海洋冒険小説のオールタイムベスト10に必ず入る名作です。
あらすじはこんな感じ。
「第二次大戦末期、豪雨をついて一隻の老朽帆船がブラジルのベレンを出港した。搭乗者は、ベルガー船長以下29名のドイツ人男女。その目的は、なんとしても祖国に帰り着くことにあった。だが、連合軍の制圧下に置かれた嵐の大西洋は、越えるべくもない鉄壁に等しい。敵艦に砲撃される危険の中、荒波に抗して進む彼らは果たして祖国の土を踏めるのか? 男の熱い心意気を、雄渾の筆で見事に描き上げた海洋冒険小説の最高峰!」
| 「脱出航路」ハヤカワ文庫 ジャック・ヒギンズ/佐和誠 訳 1982年発行 表紙は我らの生頼範義画伯だ! |
この作品の原題は「STORM WARNING」(暴風警報)です。
「脱出航路」のほうが100万倍カッコいいのですが、内容を正確に表しているのは原題の方です。
あらすじにも書かれていますが、ブラジルから北大西洋を越えてドイツへ向かうお話です。しかもボロボロの「帆船」で。19世紀ではなく、1944年(第二次世界大戦終戦間近)のお話です、念のため。
その老朽帆船「ドイッチェラント号」の予定航路はざっくりと下図のとおり。
| ブラジルのベレンから大西洋を横断してドイツへ向かいます。 1944年8月26日に出発し、約1か月の航海の物語です。 原題が「暴風警報」である通り、ものすごい嵐に翻弄されます。 |
この小説、主人公がいるようでいない、群像劇です。強いて言えば、主役はドイッチェラント号。3本マストの漢の船。型は古いが時化には強い。オレとお前のよォ、夢のゆりかごYO。
などと書いていますが、ボロい船が延々と航海するだけの話かと思わせて、実はそうではないのです。
序盤から中盤にかけては、いくつかのストーリーがバラバラに始まり、読書や映画鑑賞に慣れた人でないと誰がどこで何をしているのか分からなくなります。
いろいろとツッコミどころのあるエピソードが続き、その間に船は北大西洋を進みます。
物語の終盤に向けて、各地の登場人物たちが、運命に導かれるように、とある島に集結します。
そしてやってくる超ド級の嵐。ドイッチェラント号は果たしてドイツへ辿り着くことができるのか?
という感じで、最後は盛大なスペクタクルシーンの連続です。大自然と戦う人間賛歌の物語でもあります。
読後に思ったことをちょっとだけメモしておこう。
1 本編が始まる前に、合衆国海軍少将の日記抜粋とドイッチェラント号の航路図が載っているんだけど、いきなりネタバレしているのがスゴイ。ジャック・ヒギンズの大胆さに度肝を抜かれる。
2 翻訳が古い。佐和誠氏には悪いが、新訳で出し直すべき傑作なので、早川書房さんヨロシク。
3 映画化されていると思ったらされていませんでした。今ならチャンス。じつはアニメで12話完結にしてもOK。制作は「ヴィンランド・サガ」のWIT STUDIOにお願い。