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ν賢狼ホロν
「嫌なことなんて、楽しいことでぶっ飛ばそう♪」がもっとうのホロです。
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2009年02月12日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編) part1



 今週いろいろとありましたが、元気を出していきま
 しょう!予告していた通り、今日はいなづ様の『闇
 に抗う自動人形(オートマタ)』(後編)をお送りして
 いきます。前編でどうなるかと思っていましたが、
 今回も上手くまとめられておられます。前編を覚え
 ていない方、まだご覧になっていない方は、こちら
 を先にご覧になることをオススメします。

 今回も某スレでUPしていただきありがとうござい
 ます。いなづ様とはこれからも末永くお付き合いし
 ていきたいと、思っています。wiki様=緋風様
 方でも、UPされておられますのでそちらでご覧に
 もなれます。
 
 それではどうぞ!










注意! この文章と画像には、官能的表現と暴力的表現が
含まれております。
(ご覧になる方は、自己判断・自己責任でお願いします。)






『まったく、なんという様だ……』
今日もまた複数の淫怪人と戦闘員が殺されたとの連絡を受け、ダークサタンの苛立ちは極限に達しようとしていた。
該当世界の淫略はほぼすべて完了しており、数多くの構成員を創り上げることが出来ているので、極端な話淫略を終了してその世界を捨てることも出来なくはない。
だが、自分に一敗地という屈辱を与えいまだに淫怪人たちを狩り続けるハクとコクを、ダークサタンはどうしても許すわけにはいかなかった。
もっとも、敗れたのは自分の分身でありダークサタン本体を相手にしたらさすがにハクとコクでも勝てる可能性は無いといってもいいぐらいの低い確率しかない。
だが、ダークサタンは自分自身をハクとコクの世界に送り込むことはできない。
多次元宇宙に手を伸ばすダーククロスの空間を繋ぐ役割をしているのがダークサタンであり、今もハクたちの世界だけでなく数多の次元の世界を淫略している最中なのだ。
それを絶ってハクたちを堕とすためだけに一つの世界に顕現したら、繋がりを絶った世界と再び空間を繋げるのは容易なことではない。
無限の広がりを見せる多次元宇宙で、ひとたび途中で閉じた道を再びつなげ直すのは色も形も全く同じ10000本の配線の束を一つ残らず正確に繋げなおすことよりはるかに難しいのだ。
だからこそダークサタンは自分の代わりに分身を送りつけたり、自分の意思を代弁して指示をする幹部や軍団長を構成したりしているのだ。
『貴様ら、あんな小娘にいいようにされてしまって、我らダーククロスの名折れだとは思わないのか!』



ダークサタンの命令で、急遽担当次元からダークキャッスルに召還された各軍団長たちは、これまで見たことがない剣幕で怒鳴りたてるダークサタンに底知れぬ恐怖を感じていた。
「し、しかしダークサタン様の淫力すら通用しない人間なんて、私たちにはとても信じられないですよ……」
「それは、本当に人間なのでしょうか?」
淫妖花軍団長の霞と淫機人軍団長のコスモスが、そろってダークサタンに対し疑問を呈してきた。彼女達にとって、自分を堕したダークサタンの淫力が効かないなどとはとても信じられないことなのだから当然といえる。
だが、この愚かな質問は苛立っているダークサタンの勘気に見事直撃してしまった。
『貴様ら!!私が嘘や冗談を言っているとでも思っているのかっ!!』

ドンガラガッシャーン!!






      「きゃああぁっ!」
      「うあああっ!!」









一体どこから沸いてきたのか、軍団長たちが集まる部屋に突如紫電が鳴り響き、憐れ霞とコスモスは体のあちこちから煙を噴出して昏倒してしまった。
『どいつもこいつも使えない奴め!!
そもそも秋子と紫はどうしたのだ!やつらにも召還命令は出ているはずだろうが!!』
なるほど、今この場にいる軍団長は黒焦げになっている霞とコスモスを除くと、あとはセイバーとアティしかいない。
すると、アティがおずおずと前に出てきて懐からメモを取り出した。



「ダークサタン様、紫は現在初音ミクのツアーコンサートの追い込みにかかっておりとてもこの場に来ることは出来ないと連絡を受けております。秋子のほうは…申し訳ありませんが何も聞かされてはおりませ…」

『何を考えておるのだぁーーっ!!あの愚か者どもがーーーっ!!』

ゴワラゴワラグワラシャーーン!!

どうやらダークサタンの怒りが怒髪天に達したようで、物凄い威力と規模の紫電があたり構わずビカビカと走り回り…
ようやっとダークサタンが我を取り戻した時、召還した軍団長たちは全員こんがりと焼きあがっていた。
『ぐぬぬぬ……、頼りにならないクズどもが……。む?』
思い通りに行かない展開にダークサタンが業を煮やしている時不意に廊下へと通じる扉が開かれ、向こうからパタパタと二体の淫怪人が駆けながら入り込んできた。
『何だ貴様らは!!ここは貴様らのような下級の淫怪人が入ってきていいところではないぞ!!』
ただでさえ苛立っているダークサタンは、まるで八つ当たりでもするかのように入ってきた淫怪人に怒鳴り散らした。
だが二体の淫怪人はダークサタンの剣幕に怯えながらも部屋を出て行く気配は無い。
その不遜な態度にいっそ焼き殺してしまおうかと思ったダークサタンに、入ってきた淫怪人…淫獣人なぎさとほのかは平伏しながらダークサタンに話し掛けてきた。







「申し訳ありませんダークサタン様!
ですが、私たちは秋子様の命令でここに赴いてきたのです!」














『秋子の?』
今にも灼熱の炎を放とうとしていたダークサタンは、なぎさの口から出た秋子という言葉にピクッと反応した。
「あ、秋子様はダークサタン様に『すべては私にお任せください』と伝えておきなさいと私たちに命令したのです!本当です!」
今度は、ほのかの語ったことにダークサタンは眉をひそめた。

『すべては私にお任せ下さい、だと…。
秋子の奴め、あの忌々しい二人を知っているというのか……?』

その時ダークサタンは思い出した。
ハクとコクがいる世界の淫略を最初に手がけたのは、他ならぬ秋子だったことに。

2009年02月12日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編) part2
に抗う自動(オートマタ)』(後編)

いなづまこと様作



「でたーっ!悪魔が出たぞーっ!!」
副都心から少し離れた広大な緑溢れる公園の中でダーククロスの戦闘員達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。
所々につい数分前まで行動を共にしていた仲間の死体が転がっているが、そんなものにかまっている暇はない。
なにしろ、次の瞬間には自分がそれと同じにされてしまうかもしれないのだから。

"バーン!バーン!"

後ろなど振り向きもせず木々の間を抜けて、少しでも悪魔から見つからないようにと逃げている戦闘員Aの後方から大きな銃声が聞こえる。今日戦闘員達は銃を持ってきてはいないので、撃たれているのは間違いなく自分の仲間だ。
だが、戦闘員Aにとってはそれはある意味歓迎すべき事態だった。自分以外の誰かが悪魔をひきつけていれば、自分がここから逃げられる可能性が増すというものだから。
だが、そんな戦闘員Aの思惑は無残にも打ち砕かれた。
手入れをするものも無くすっかり荒れ果てた緑地を抜け、公園の出口が見えるところまで走ってきた時、戦闘員Aの逃げ道を塞ぐかのように、文字通り上空から悪魔が降ってきた。
全身白尽くめの悪魔はその手に分相応に大きい刀を握り締め、戦闘員Aを冷たい瞳で睨んでいる。
「ヒ、ヒィッ!!」
何とか逃げ切れたと思った直後に現れた白い悪魔に、戦闘員Aは恐怖で顔を真っ青にし情けない悲鳴を上げてしまった。
だが彼女を責めることは出来ないだろう。なにしろ目の前にいる白い悪魔は自分たちよりはるかに戦闘能力が高い淫怪人すら相手にならないほどの強さを持っているのだ。噂によればダークサタン様すら退かせた事があるという。
そんな化物に狙われてしまっては、どう考えても生き延びれるはずが無い!








     「ダーククロス戦闘員を確認。抹殺します」














白い悪魔・ハクが持つ刀が白い輝きを帯び始める。高熱を発したその刀で切られたら、ただ切られるのとは比較にもならない苦痛が戦闘員Aを襲うのは間違いない。
もちろんハクが持つ刀は普通の状態でも戦闘員や淫怪人は容易く切り裂く威力を持っている。なのに発熱機能まで持っているのはひとえにハクたちの生みの親である鎧健三の意図が込められているのだ。
ただ殺すだけでなく、極限まで苦痛と絶望を与えながら命を絶つ。ダーククロスへの復讐のみに心を奪われている健三の偏執的なまでのダーククロスへの憎しみが生み出した結果と言える。
もちろん、健三はハクとコクに戦闘員や淫怪人を殺す際は出来るだけ相手に恐怖を与えるようにということを徹底させている。
ハクたちが相対した際に『抹殺する』と発するのも、その意図に基づいたものなのだ。
そんな偏執狂の創った戦闘少女にロックオンされた戦闘員Aは不幸というほか無い。
「な、なんでよ?!何でお前達は私たちダーククロスを付け狙うのよ!
私たちは人間に苦痛ではなく悦びを与えているのよ!いいことをしているのよ!それなのになんでぇ?!
お願い!見逃して!!助けてくれたら、あなたにとってもいい事してあげるからさぁ!!」
進退窮まった戦闘員Aは、手前勝手な理屈を並べてハクに向かい必死に命乞いをしてきた。
今までハクとコクに相対した戦闘員たちに生存者が一人もいないという現実は今の戦闘員Aには考慮の埒外だった。
おそらく、これまでハクたちに狩られた戦闘員にも同様のことをした者がいたはずなのに。
「ねえねえ!私、女の子も旨く扱うことが出来るのよ?!今までだって、たくさんの女の子にとってもいい思いをさせてきたんだからさ!だから、剣を収めて私といい事しよ!ねぇったらぁ!!」
ハクの関心を引こうと戦闘員Aは身振り手振りを加えてなんとかハクを篭絡しようと試みる。
だが哀しいかな、ハクにそういったことは当然の事ながら全く通用しなかった。
ハクは戦闘員Aの言うことに何の関心も示さずつかつかと歩み寄り、熱されて刀身が真っ白になった刀をぴゅん、と横に薙いだ。




      「おねが…!」














近づいてきたハクの手をとろうとした戦闘員Aの右手が、肘のところからばっさりと吹っ飛んだ。
そして次の瞬間、焼け付くような熱さと痛みが戦闘員Aの全神経を暴れまわった。
「い……?!うがあああぁぁっ!!!」
腕を切られた戦闘員Aは、左手で右腕を抑えもんどりうって転げ回った。
切断面からは血が出てこない。ハクの刀の発する高熱で、傷口が炭化してしまっているのだ。
「熱い!痛い!熱い痛いイタイ熱いーーっ!!」
陸に上げられた海老のように転げる戦闘員Aに、刀を逆手に持ったハクが近づいてきた。
その顔は相変わらず、何の感情の色も彩らせてはいない。
ハクにはダーククロスへの憎しみも怨みも、痛みにのたうつ戦闘員への同情も憐憫もない。
ハクの心にあるのはただ一つ『ダーククロスを抹殺する』。それだけであった。
「抹殺します」

バシュ

ハクの刀が戦闘員の頭蓋へと振り下ろされ、哀れな戦闘員Aは脳への衝撃と高熱により瞬時に絶命した。
自分が死ぬ瞬間の恐怖を感じることがなかったのは、意図ではなかったにせよハクが与えた情けだったのかもしれない。
「…当該戦闘員の生命活動停止確認。次のターゲットに目標を変更します」
目の前で動かなくなった戦闘員だったものを一瞥すると、ハクはこの公園内にまだまだたくさんいる逃げ惑う戦闘員を狩りに森の中へと消えていった。
今日に限って何故か大量の戦闘員がハクとコクの前に現れてきている。最近はハクたちを恐れて副都心界隈には誰も近づきはしなかったのだが、あまり目撃例が無かったので逆に油断したのだろうか。いまだ公園の中にはハクの換算で10体以上の戦闘員がいる。まるで、ハクたちに狩られるためにいるように。
もっとも、ハクやコクにはダーククロスにどのような思惑があろうと関係は無かった。彼女達はただただ目の前のダーククロスの戦闘員を狩る。それ以外のことには興味なく、それ以外のことを考えることもなかった。
「敵味方不明行動体、前方約250m。音紋照会……照合。
ダーククロス戦闘員確認。抹殺します」
ハクの手に持った刀が高熱を帯び始める。再び、死の鬼ごっこが始まろうとしていた。

2009年02月12日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編) part3
一方、ハクとコクが凄惨な惨殺劇を演じて居る頃、鎧健三は相変わらず薄暗い部屋の中で一心不乱にモニターを見ながらキーボードを鳴らし続けていた。
そこには、先の改造で戦闘力を増したハクたちの身体データが連ねられている。
「うんうん。基礎代謝を活性化させたことでエネルギー伝達の効率は以前より2割は増しているな。
これにより持続力は以前の1.5倍に達している。より長く狩りに時間を裂ける様になったな」
この改造の成果が出ているからこそ、公園でハクとコクは長時間戦闘員を追いまわしていることができるのだろう。

ただ、この改造により二人の体には不都合も生まれてしまった。
基礎代謝を通常より活性化させてしまったことで、身体への負担も相応に増してしまい細胞レベルでの劣化が想像以上に進んでしまっているのだ。
おそらく今の状態での活動を続けていたら、ハクとコクは三年を持たずに機能停止=死を迎えてしまう。
もっとも、健三にとってこれは致命的な問題ではない。
二人の体細胞のデータは取ってあるために複製を作るのはそう難しいことではない。現在はここの設備の規模の問題で二人の生命維持をするので手一杯だが、もう少し大きな設備があるところに移る事が出来ればハクとコクを大量に生成してダーククロスに対し致命的な一撃を加えることも出来るのだ。
はっきり言って、今いるハクとコクは将来の大増産のためのデータ収集のためのサンプルにしか過ぎない。
どんな不都合なデータであっても、それが将来の増産のためになるなら問題は無い。
「…いっそ、身体そのものを作り変えてみるか。人間体にこだわる必要もないわけだしな。
より効率よく、より効果的に狩りを行うための身体。さて、どんなものがいいか…
腕を飛ばしてみるとか、口から酸の霧を吐き出すとか…
いっそ、目から光線を出してみるのもいいかな。幸い、ここに生体電流のデータもあることだし……」
ダーククロス壊滅を目指す彼の辞書に妥協はない。とうとう健三はハクとコクの人間としての身体の維持すら考慮に入れなくなってきてしまった。
鎧健三、まさに外道!
そんな健三がおぞましいアイデアをカタカタとハードディスクに記憶させている時、後ろのドアが軋んだ音を立てて開いた。
(なんだ?もう帰ってきたのか?)
妙に早いなと思い健三はディスプレイの時計を見てみたが、ハクたちが狩りと食料調達に行ってからまだ2時間も経ってない。
「ああん?!帰ってきたのか?また随分と早いな不良品ども。今日も大して狩りが出来なかったのかぁ?」
たちまち不機嫌になった後ろを振り向きもせず健三は愚痴ったが、後ろからは何の声も帰って来ない。
「…全く。創造主が問い掛けたんだから何か応えろ。クズどもが」
自分で愛想とかの感情を消したことなど考えもせず、健三はむっつりしながら再びキーボードを叩き始めた。
別に返事など期待してもいない。どうせあいつらは人間の形をした道具に過ぎないのだから。
ところが、健三の考えとは裏腹に後ろから声がかかってきた。
それも、全く予想もしなかった声が。

「健三さん……」
「お父さん……」


「       」
後ろから聞こえてきた声に、健三はキーボードを叩く手をぴたりと止めた。

今、後ろから聞こえてきた声は何なんだ。
今の、絶対に聞くことが出来ないはずの声は何なんだ。
今、自分の後ろにいるのは一体誰なんだ。

健三の身体は凍りついたように動かない。後ろに誰がいるのかを知るために振り向きたいが、それができない。
なにしろ、『それ』はそこに絶対いないはずの声だったのだから。

「健三さん」
「お父さん」

また聞こえる。こんなことありえない。こんな声が聞こえるわけが無い。
あの二人は死んだんだ。丸焼けになった家の中に消えたはずなんだ。
さもなければ、あれからずっといなくなったままのわけがない。
さもなければ、今さら出てくるなんて事があるはずない。

「健三さん」
「お父さん」

声が大きくなってくる。こっちに向ってこつこつと近づいてくる足音が聞こえる。
「…違う……。違う!お前達が、お前達がいるはずがないんだ!!
これは幻聴だ!幻だ!!疲れから聞こえるように感じる空耳だ!!」
健三は机に突っ伏して耳を抑え、何かに怯えるかのように背中を丸めた。
それは、これまで復讐と言う美名の名のもとに自分が行ってきたあまりに非人間的な振る舞いに対する後ろめたさからだろうか。
「消えろ!消えろ!消えろ!
幻だ!嘘だ!ありえないんだ!」
後ろから感じられる二つの人の気配を、健三は必死に否定しようとした。
なぜなら、この気配を認めることはこれまでの自分の五年間が全く無意味なことだったのを認めることになるからだ。
「やめろーっ!消えろーっ!!いなくなれーっ!!
こんな、こんな俺を見るなーっ!!見ないでくれぇーーっ!!」
うつ伏せながら半狂乱になって絶叫する健三の肩に柔らかい手がぽんと乗せられた。
「健三さん」
「お父さん」
健三の両方の耳元近くから、異なる自分の呼び名が入ってくる。
それはかつて、今一度聞いてみたかったと慟哭した妻の声。
それはかつて、もう一回聞かせてくれと嘆いた娘の声。

そして今は、絶対に聞きたくなかった声。

「純(じゅん)ーっ!さやかぁーーっ!!お願いだ!成仏してくれーっ!!
こんな情けない俺の姿を、見ないでくれぇ〜〜〜〜っ!!」
「私たちは死んではいないわ。健三さん」
「お父さん、私たちはちゃんと生きているのよ」
純が怯えている健三を無理やりに立たせる。さやかが硬く瞑る健三の目を優しく開かせる。
「あ……」
健三の目に入ってきたのは、いなくなったその日と全く変わらない格好をした妻の純と娘のさやかの姿だった。
「あ、あぁ……。じゅん……、さやかぁ……」
かたかたと震える健三の目に涙がじわじわと流れ出てくる。
「ようやっと見つけたわよ。健三さん…」
純が感極まったように目を潤ませ、懐に飛び込んでくる。
「お父さんがいなくなって私たち、とっても寂しかったの…」
さやかが幼い顔に満面の笑みを浮かべて健三を抱きしめる。
「生きてた……純が…、さやかがいきてたぁ……」
それまで健三の顔に張り付いていた、復讐に歪んだ険しい表情がみるみるうちに融解していく。
それはダーククロスへの復讐を誓う前の心優しい鎧健三の顔だ。
「そう。私たちはちゃんと生きているわ」
「これからまた、家族三人一緒だよ。お父さん……」
「うん、うん。そうだな。そうだな……」
最愛の妻と息子に抱えられ、健三は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらこくこくと頷いていた。
だがちょっと待ってほしい。
何故今頃になって二人は健三の前に現れたのか。何故ダーククロスが闊歩する地上を昼間に歩いてここに来れたのか。
そもそも、どうやってここに健三がいることを突き止めたのか。
普通に考えたら不自然なことだらけである。健三も少し冷静になって考えたらその違和感に気づいたかもしれない。
だが、今の健三は妻と娘に再開できたということで頭が一杯になり、とてもそんなことを考えていられはしなかった。
「そうよ、これからはずぅっと一緒……」
「ずぅーっと、ずぅ〜〜っと一緒なんだよ。お父さぁん……」
健三を抱きかかえる純とさやかの顔に浮かんでいる微笑み。
それは肉親に再会できた嬉しさを表しているというより、獲物をこの手に捕まえた歓喜を表しているような微笑みだ。
「だから、ね。健三さん…」
「お父さん…、この……」
純とさやかの手は同時に、健三の股間へと伸びていった…

2009年02月12日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編) part4
「「ただいま帰りました。創造主」」
ハクとコクが長い狩りを終えて帰ってきた時、相変わらず健三はモニターを睨み続けていた。
背中越しにぶつくさと文句を言いながら二人を出迎える。それがいつもの健三の対応だった。
ところが、
「ああ…、おかえり…」
今日に限って健三は椅子をくるりと回転させて二人を出迎えた。
心なしか、健三の顔つきにはしまりが無く少し興奮しているようにも見える。
「………?」
そんな健三にハクとコクは軽い違和感を覚えたが、それ以上の思考のつっこみをすることは無かった。
「創造主、食料を調達してまいりました」
コクが差し出したビニール袋の中には、例によって多種多様な缶詰が入っている。火焚きなどはもってのほかのここで簡単に食べられるものといえば、いきおい缶詰になってしまうので健三はダーククロスの狩りを命じるついでに自分の食料も探しに行かせていたのだ。
さいわい、淫略のせいで町には廃棄されたコンビニやスーパーなどが大量にあり、そこには缶詰などの保存食料が手付かずで残されている場合が多い。
もっとも、中にはダーククロスがトラップとして置いている魔因子入りの缶詰という物騒なものもあるが、そこは強化人間のハクとコクだけあり、缶詰から漂う僅かなダーククロスの香りを察知してトラップの缶詰は巧妙に避けていた。
(言い換えれば、ハクとコクがいないとこんなダーククロスの真っ只中では食料すら手に入れることができないと言うことだ)
当然コクにしてみれば、目の前の創造主が自分から袋をひったくって中味を食べるものとばかり思っていた。
なにしろ、健三はここ数日研究に没頭して殆ど何も食べていなかったからだ。
「ああ…、別にそんなものはとでいいんだ」
だが、健三はコクの出した缶詰には目もくれず、後ろの調整槽のスイッチをぱちりと押していた。
「ハク、コク。これからお前達にまた調整を施すから、服を脱いで中に入るんだ…」
健三の顔は相変わらず緊張感が抜けている感じがするが、その口調はいつもと変わらず有無を言わせない。




ハクとコクは勿論言われるままに服を脱いで生まれたままの姿になり、調整槽の中へととぷんと浸かった。
「今回のは凄いからな……。次に出てきたとき、お前達は文字通り生まれ変わるんだ……」
キーボードを叩きながらハクとコクをにらむ健三の目には、以前とは全く異なる、しかしどこかで繋がっている狂気の光が爛々と灯っていた。


暫くして、調整槽の液体が抜かれハクとコクが中から出てきた。
二人は身体の節々を曲げたり捻ったりして、自身の身体がどう変わったのかを調べている。
「………?」
だが、ハクは自分の体に起こったことに疑問が生じていた。
何が疑問かと言うと、全く変わった気配が無いのである。以前の調整なら明らかに自分のどこが変わったかという自覚を持つことが出来た。
が、今回は見た目も中味も特に変わったというというところを見つけることが出来ないのだ。
隣のコクを見てみると、やはりコクもなにがどうしたのかということを分からないでいるようでしきりに体を動かしている。
「創造主、自分たちにどういう調整を施したのでしょうか」
本来健三に対して疑問を挟むような行動と言動はしないはずなのだが、ハクはあえて健三に問いただしてみた。
「……ああ、今回はな……」
そこまで言って、健三の顔がニヤァと不気味に歪んだ。それはハクが今まで見たことも無い、創造主の健三が笑った瞬間だった。
「…?」
何事なのかとハクが首を捻ったその時、

シュルルルル!

突然、ハクの背後から弾力のある太い紐のようなものが伸び、ハクの四肢を絡めとってしまった。
「?!」
横を見ると、コクが同じく何かに絡め捕られている。
あまりに突然のことに、ハクは表情が無いはずの顔に驚愕の表情を浮かべて健三を見た。
「フ・フ・フ・フ……」
ハクとコクを見る健三の目はそれまでにない異彩な輝きを放っている。
それは二人を道具とみなしていた健三には宿るはずのない…肉欲に燃えた輝きだった。
「創造主……」
ハクが健三に改めて状況を説明して貰おうとした時、部屋の奥の影から何かがこちらへ向けて歩いてきた。





「ふふふ、ようやっとこの手にすることが出来たわね。白い悪魔さんに黒い死神さん。私の名前は淫獣人・秋子。以後よろしくね」













そこにいたのは、獣の四肢と耳をもつダーククロスの淫怪人。それも淫獣軍の軍団長・秋子だった。
「淫怪人……?!」
ありえない場所でありえないものに出会った。
ハクもコクも、呆然と秋子のことを眺めている。
「貴方達がこの副都心辺りを根城にしていたのは既に確認済みだったからね。まずはあなたたちを引きつけるために戦闘員達を囮に出して、ここいら一体を捜索していたのよ。
そして、この辺りに住んでいた生物学に関係している人間をチェックして、この鎧健三さんがあなた方に関わっていたことを確認したわ。こんなことにも頭が回らないなんて、ここの淫略担当者は本当に頭がなってないわね」
秋子はクスクスと笑いながら、健三の身体をするすると撫で回した。
「あっ!あうぅ……」
それだけで、健三は顔を歓喜に火照らせ秋子の手の成すがままに身体を捩らせた。
「そうなると後は話は簡単。
過去に私たちが堕とした健三さんの関係者を送り込んで健三さんを淫隷人にしてしまえば、もう貴方達の味方は誰一人としていなくなる」

クスクス…クスクス…

2009年02月12日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編) part5
二人を縛るぶよぶよとした触手の先から笑い声が聞こえる。
暗闇から出てきたその先には、タコのような触手を全身に生やした淫水魔と、蛾の様な羽と触角を伸ばした淫怪蟲が姿を表していた。
「うふふ。あなたたちがお父さんが作ったお人形なの…あらやだ、私そっくりじゃない…」
長く伸びた触手でハクとコクを拘束している淫水魔・さやかは、自分と同じ顔形をしている二人を見て気持ち悪いものでも見るかのように顔を曇らせた。
「まあ、あの二人は健三さんの遺伝子を使って作られたんですもの。言ってみればあなたのお腹違いの妹になるわけですから、似ていてもおかしいことはないわよ?」
そんなさやかを母親である淫怪蟲・純は、羽から燐分を振りまきながら宥めた。
「ご、ごめんなぁ……ハク、コク。本当に、すまないなぁ……」
健三は顔を笑っているのか泣いているのかよくわからない顔で二人に詫びていた。
「でもなぁ…、し、仕方が無いんだよ。すまないと思っていても、もう体が逆らえないんだよぉ…
淫怪人の中で出すのがあれほど気持ちいいなんて、思いもしなかったしさぁ……
久しぶりに抱いた純の体が、あんなに気持ちよかったなんて考えもしなかったからさぁ……
自分の娘であるさやかの中に射精するのが、あんなに気持ちいいなんて、想像もつかなかったからさぁあっ……っ!!」
健三の声は最期のほうは思いっきり上ずり、秋子に抱えられた体がビクビクと震えたかと思うと思いっきり張った股間に真っ黒な染みが浮かんできた。
どうやら妻と娘を貫いている時を思い出し、それだけで射精をしてしまったようだ。
「ふふふ、健三さんったらすっかり淫らになっちゃって…。まあしかたないわね。私たちの体を味わったんですから…」
「そうよね。お母さんと二人掛りで淫力漬けにして、体の中にたぁっぷりと魔因子を注ぎ込んであげたんだもの。
おちんちんもどんどん大きく硬くなって、私も最後はトンじゃったもの。
ホント、私のお父さんにふさわしい、いやらしくて元気なお父さんだよね。くくく!」
純もさやかも、自分たちの手で夫を、父を犯しぬいたことを本当に愉しそうに話している。
「それで、今度は貴方達二人の番。今度こそダーククロスの軍門に降ってもらうわよ、お二人さん」
秋子は拘束している二人に余裕綽々といった態度をとっているが、淫怪人三人に囲まれ、しかも拘束されていてもハクとコクは動じた様子は見せてはいなかった。
「…ハク、ダーククロス淫怪人確認」
「…ダーククロス、殲滅します」
例え丸腰になっているとはいえ、ハクとコクの戦闘能力は通常の淫怪人の比ではない。正面の秋子はともかく、後ろの淫怪人二体は歯牙にすらかけないだろう。
だが、二人が身を翻そうとした時、二人を拘束しているさやかの触手がズルズルズルッと二人の体の正面をなぞった。
今までならこんなものどうということはなかったろう。しかし、

ゾククッ!

「「??!!」」
その瞬間、ハクとコクの体に電撃にも似たような甘い痺れが走った。
「…想定外の感覚…」
「…これは…、理解不能…」
ハクもコクも何が起こったのか全くわからなかった。何しろ、自分が今まで感じたこともない痛みとも痺れとも痒みともとれない、全く未知の感覚だったからだ。
「創造主、これは……」
コクの問いかけに、健三は引きつった笑いを浮かべながらたどたどしく口を開いた。
「さ、さっきな…お前達二人に施した調整。あ、あれはなぁあ…
お前達二人に、『快楽』を感じられるように切っておいたか快楽中枢のシナプスを再生させぇる措置だったん、だぁよぉ…!
これで、おお前達は快楽を感じることが出来、結果ダーククロスの淫力を体に感じることが出来るようになるんだよぉぉ…!!」
「ダーククロスの力を」
「感じる……?」
それは、ハクとコクにとっては自分たちの存在意義すら危うくするものだった。
彼女達はダーククロスの淫力から身を守るため、快楽を感じることを出来なくなっていた。
淫力が人間の快楽中枢に作用して理性を薄め、脳内を犯して魔因子を取り込ませるダーククロスの手法を真っ向から否定させるこの措置があってこそ、ハクとコクはダーククロスに対し有利に戦うことが出来たのだ。
それなのに、快楽中枢が正常に働くことができるようになってしまっては、その優位性は損なってしまう。
そうなってしまっては、いかに淫怪人を上回る戦闘能力を持つハクとコクと言えど、その辺の同世代の少女となんら変わりはしなくなる。
「まあぁ完全に再生させることは不可能だろぉうけれど、以前に比べたらずっと感じるようにはなっているんだぁぁ。
これで、お前達にもやっと幸せをあげることができるんだよぉぅ…!」
「そうなのよ。だから私が、あなたたちを思いっきり可愛がってあげる!」
その顔を淫靡に染めたさやかが、体中から生える八本の触手を縦横自在に伸ばして二人に纏わりつかせてきた。
「んっ!」
「くぅっ!」
さやかの触手はハクとコクの体の上を駆け回り、ある触手は乳首をずるずると擦りある触手は腋の下をにゅるにゅると行き来し、ある触手はお尻をくりくりと弄り、ある触手は股下をごしごしとブラッシングした。
そのどれもが、今まで性の感覚を知らなかったハクとコクに、わずかではあるが感応の並を送り込んでいる。
「………っ!」
「………っ!!」
その今まで知らなかった肉体の反応に、ハクもコクも顔を僅かだが赤く染め歯をきゅっと食いしばっている。
「ふふふ、我慢することは無いのよ。ここは私たちしかいないの。思いっきり声を出し、思いっきり感じていいのよ」
純がハクの顔を両手で持ち、その口を強引に開かせる。
そして純も口を開き…、その口の中から蝶の口吻を思わせる細長い管状の舌が伸びてきた。
「んっ!んんっ!!」
そしてそれはハクの口の中へと沈み込んでいき、ハクの口の裏をつんつんといじり、喉の奥をころころと刺激し、食道の粘膜をずるりずるりと舐め上げた。
「ん!ん!んんん!!!」
そのおぞまし過ぎる感覚に、ハクは目を見開いて何とか逃れようと体を蠢かせたが、さやかの触手に蹂躙されている体がろくに動かすことも出来ず、言い様に純の舌に征服を許してしまっていた。
「んぐぐ〜〜〜っ!!」
見ると、コクの方にはさやかが唇を重ねて口内を貪っている。コクの顔もそれまで感じたことのなかった快楽に戸惑いながらも流されかかっている、もどかしい表情を浮かべている。
前のほうでは創造主の健三が裸に剥かれ、秋子に馬乗りにされていた。
その顔は心底幸せそうな壊れた笑みを浮かべている。
(コク……、創造主………)
自らも口内を犯される感覚と戦いながら、ハクは今にも快楽に呑まれそうな自分の心を必死に繋ぎとめていた。



「ふふ…、そろそろいい具合に蕩けたみたいね」
あれからどれほどの時を経たのか、淫怪人に嬲られ続けたハクとコクはすでに息も絶え絶えになり全身から力が抜けている。
これがあれほどダーククロスに恐れられた白い悪魔と黒い死神とは、知らない人間が聞いたら絶対に信じないだろう。
「ダークサタン様、ご準備は出来ました。今ならこの二人、容易く我らの手に……」
秋子がダークサタンに心の中で呼びかける。
すると、研究室の床に亀裂がビシリと走り、下から赤黒いダークサタンの触手がニョキニョキと生え伸びてきた。
『ふふふ、よくやったぞ秋子!今回の貴様の働き、賞賛に値する!』
ダークサタンとしても、これまでのあまりにも不甲斐なかった部下のイメージを払拭する秋子の手腕に喜びを隠せずに入られなかった。
何しろ、自分ですら苦戦したこの二人を、こうまで追い詰めることが出来たのだ。褒めて褒めすぎると言うことは無いだろう。
『今回の功績で、お前の軍団長としての地位を筆頭まで昇格させよう。それが今回の働きの功績だ!』
「ひ、筆頭?!ありがとうございます!!」
筆頭と言うのは、現在六人いる軍団長の中でもっとも上と言う意味を持つ役職である。それまでは親衛軍の紫がその地位を占めていたが、ダークサタンはそれを秋子に変えるというのである。
これほど嬉しいことは淫怪人にとってない。ダーククロスの中で実質ナンバー2となるのだから。
「うふふ!嬉しいわぁ!これで、最前線に出ないで魔城に引っ込んでやりたい放題!ラララ〜〜ン!」
『………。さて』
浮かれて飛び回る秋子をあえて無視し、ダークサタンはその醜悪な触手をハクのほうに伸ばした。
『これから貴様の純潔を犯し、至上の幸福と悦楽の中で我が魔因子をくれてやる。
その時お前は後悔することだろう。我に抵抗し続け今まで味わうことすら出来なかった、我らダーククロスがもたらす肉の悦楽の素晴らしさにな!』
もはやぴくりとも体を動かさないハクの根元を、ダークサタンの触手の先っちょが捉えた。
『これを少しでも挿れてしまえば、もうお前は我らに逆らうことは出来ぬ。
その魂までダーククロスの淫力に染め上げて、忠実な下僕になるがいい!!
そして、向こうの黒いのは他ならぬ貴様の手で我らが仲間に変えさせてやる!ガハハハ!』
今まで与えられた屈辱をはらさんがため、ダークサタンの触手はひどくゆっくりと動きハクの体をこじ開けようとしていた。
「………」
その瞬間を、ハクは霞んだ瞳でじっと眺めていた。
体は慣れない快楽を強引に感じたせいで酷く重く、奥の芯がじりじりと熱持っているように感じる。
(これを挿入したら…私は……)
快楽の感覚が体に戻ったからなのか、今まで芽生えたことも無かった自我が、朧げながら形成されているような感じがする。
何しろそれまで自分がどうなるのかなんて考えたこともなかったのに、今はそれを思っている自分がいる。
(私がこうなることは…、創造主の思いのとおりなの……)
もし、健三がダーククロスと戦うためにある自分たちがダーククロスの手に堕ちることを望むなら、自分はあえてそれに従おう。
それが創造主の人形である自分の存在意義なのだから。
(でも、そうでなければ……)
そう思い、ハクはチラリと健三の顔を覗き見た。
その顔は、さっきから相変わらずヘラヘラと浮世から外れたような幸せそうな笑みを浮かべている。
まるで、今まで自分から捨ててきた幸せをようやっと手に掴んだような至福の笑みだ。




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2009年02月12日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編) part6
だが、健三は泣いていた。笑みが張り付いている顔の頬をとうとうと涙が落ちている。
その目に流れる一条の涙は、決して嬉し涙などではない、屈辱と悲憤に彩られた悲しみの落涙。
怨み骨髄にわたる敵の手に落ち、操り人形とされてしまった自分に対する怒りの意思。
それは健三の心の奥底に追いやられた本来の自我が、現在の自分を決して認めていないことの何よりの証左だ。

「………!」

それを見た瞬間、ハクは決断した。
「うわぁぁっ!!」
ハクは全身に渾身の力をこめ、自分を拘束していたさやかの触手をぶちぶちと裂き切り、今にも自分の中に入り込もうとしてたダークサタンの触手をがっしりと掴んだ。
「この……おぉっ!」
両手に力を込めたハクは、手の中で暴れる触手を左右にぎゅぅっと引っ張った。その凄まじい張力に耐えられず、触手はぶちぶちと嫌な音を立てて、粘液を撒き散らしながら先端を引きちぎられてしまった。
『な、なにっ?!』
思いもよらないハクの抵抗に驚くダークサタンだが、次の瞬間目の前に激しい炎が舞い上がる。
「燃えてしまえ!!ダークサタン!!」
ハクが空間転送して取り出した高熱の刃を持つ刀がダークサタンの触手をメチャクチャに切り裂き、その余熱によって触手が激しく燃え出した。
『ぐおおおおっ!!』
真っ赤な炎に撒かれたダークサタンの触手はバタンバタンと暴れまわっていたが、そのうち完全に炭化するとボロリと崩れ落ちてしまった。

一方、コクのほうも何もしていないわけではなかった。
「ぎゃあああぁっ!!」
自分の触手に突如走った激しい痛みにさやかは獣のような声を出して触手をのたうたせたが、そのためにハクだけでなくコクの拘束まで解いてしまった。
「!!さやか!」
母親である純の切迫した声に顔を上げたさやかだが、その時には既に目の前に顔を怒りで真っ赤にしたコクが迫っていた。
「ダーククロスは……、抹殺する!」

ドボォッ

「え……がっ!!」
コクの鉄板をも貫く手刀がさやかの首を捉え、さやかはあっさりと首を跳ね飛ばされた。首から青い血を夥しく噴出させながらさやかの胴体はかくんと膝を折ってその場に倒れ付し、その横に驚きの表情を張り付かせたままのさやかの首がぼとりと落ちた。
「さやか……、き、貴様あぁっ!!」
愛娘の死を目の前で見た純は一気に逆上し、コク目掛けて物凄い速さで飛んでいった。頭の一対の触覚をピンと伸ばし、まるで槍のようにしてコクの胸板を貫こうとしてるようだ。
「死になさいーーっ!!」
一直線に突っ込んでくる純の顔はまるで鬼のように険しい。が、それを迎え撃つコクもまた以前の人形のような無表情ではなく、迫り来る純に対し明確な敵意をもっていた。
「死ぬのは……お前っ!」
コクはさやかを切り裂いた手刀を前に突き出し、純目掛けて突進した。コクもまた、全身を一本の槍と化して純を仕留めようとしている。
そして、互いが衝突するその瞬間!
「死ねーッ!!」
「…死ねっ!」
コクは一瞬身をかがめ、純の突進の下に潜り込む。そして手刀を上に構え、純の顔面にチョップを打つような体型になった。
「………っ?!」
純はコクの意図を察したが気づいた時にはもう遅い。
顔にめり込んだコクの手刀はそのまま純の肉を骨を引き裂いていく。皮肉にも純の突進力が過大だったせいでコクの手刀の威力も数倍になっているのだ。
たちまちのうちに純の体は中心から真っ二つになり、コクを飛び越えてさらに数メートル進んだ後に左右のパーツが同時に床に落っこちた。
「…ダーククロスの淫怪人…抹殺!」
自分の後方に落ちた肉隗を確認し、体を血塗れにさせたコクは凄惨なオーラを纏いながら立ち上がった。

「バ、バカな……。何が起こっているの…?」
秋子には今ここで起こっていることが理解できなかった。
今すぐにも自分の作戦でダーククロスの仇敵が軍門に下ると思っていたのが、次の瞬間にはダークサタンが返り討ちにあっただけでなく手持ちの淫怪人二体が見るも無残な姿で絶命している。
「ね、ねえあなた?!あなたあの二人を改造したんでしょ?!これってどういう……」
秋子は懐にいる健三に事の次第を正そうとしたが、今はそんな場合ではなかった。
ダークサタンを斬り裂いたハクがこっちに向って突っ込んでくるのが見えたからだ。
さやかと純を切り裂いたコクの手刀と同じ威力をもつ手刀が秋子のほう目掛けて迫って来る。
「?!まずっ……」
危険を感じた秋子は健三をハクのほうへと突き出した。いくらなんでも創造主を傷つけるはずは無いだろうからとの秋子の計算だった。
だが、

ズン!

「うがっ……」
ハクは躊躇うことなく、健三の胸板を貫いた。
健三の体から流れてくる血は人間の赤い血ではなくダーククロスの青い血だ。その血がハクの白い体を青々と染めていっている。
「ハ、ハク……」
健三は激しい痛みを堪えながらハクに向って呼びかけた。
「創造主……」
健三を見るハクの目は例えようの無い悲しみを帯びながらも、決して曲げようが無い決意に彩られていた。
「創造主は…、私たちに言いました。私たちをダーククロスの連中を一匹残らず滅ぼすために創造したと。
ダーククロスは例外なく抹殺しろと。そのためなら、創造主の体がどうなろうと構いはしないと」
ハクの瞳から涙が流れてくる。
それは、命令されたからとはいえ自らの手で親を殺さなければならなかったという悲しみからか。
「だから、私は創造主を抹殺します。ダーククロスの手に堕したならば、例え創造主であろうと私の標的。
それが、創造主の意思であるならば……」
「ハクぅ……」
ハクを見る健三の瞳。そこには自分を殺したということに対する非難の意思は見えない。むしろ、安らぎさえ見せている。
まるで、この事態こそが自分が望んでいたと言わんばかりに。
「そうだぁ……それでいいんだ!それでこそ俺の作品だ……!ダーククロスを消すために作った俺の傑作だ!!
いいな、ハク!コク!!殺せ!!
俺の家族を滅茶苦茶にした、俺の世界を滅茶苦茶にした!俺と純とさやかを殺したダーククロスを殺せ!!
ただの一人の例外もなく殺せ!何が何でも抹殺しろ!!地獄に落ちても決して許すな!
だから俺も殺せ!!ダーククロスに堕ちたものは、誰であろうとだ!わかったなぁ!!コクぅっ!!」
健三は自分を貫いているハクだけではなく、後ろのコクへも呼びかけた。
そのコクは涙を流しながら銃の照準を健三へと向けている。
「さあ俺を殺せコク!俺を殺す哀しさをダーククロスへぶつけろ!俺を殺す怒りをダーククロスへ向けろ!
憎め!憎め!!ダーククロスを憎みきるんだ!!」
「「創造主………」」
健三の最後の処置で人間としての感情が生まれたハクとコクは、健三の慟哭をその心ですべて受け止めた。
恐らく感情を持たない人形のままのハクとコクだったら、何の感傷も抱かなかったことだろう。
自分たちが最初に殺した淫妖花ノゾミのように、ただ淫隷人が今際の際に喚いているだけ、としか感じなかったかもしれない。
「俺の無念の心を飲み込み、俺の怒りの心を飲み込み、俺の代わりに必ず全てのダーククロスを滅ぼせ!!
それが俺のお前らへの、最後の命令だーっ!!」
「……創造主…、了解!」

2009年02月12日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編) part7
ダァン……

"バァン!"

コクが放った炸裂弾は正確に健三の頭部に命中し…、健三の頭部は跡形も無く吹っ飛んだ。
「創造主……」
「創造主……」
例えどんなに酷い目に合わされていたとしても、例えどんな理由で作られたにせよ、二人にとって鎧健三は間違いなく自分たちの父親であった。
足元で物言わぬ遺体になった健三を、ハクとコクは初めて流す熱い涙を拭おうともせずじっと見つめていた。
「そ、そんな……、自分たちの創造主まで殺すなんて……。貴方達、何を考えているの?!」
秋子はあまりの出来事に腰が抜けそうになっていた。自分たちの創造主を助けようとするならまだしも、躊躇い無く殺すなんて考えもしなかったのだ。
そんなおびえる秋子へ、ハクとコクはじろりと瞳を向けた。
その目に宿るのは強烈な殺意。自分たちの手で親を殺さなければならない状況にさせたものへ対する、抑えようのない怒り。気の弱い者なら、それこそ一瞥されただけでショック死しかねないほどの。
猛々しい怒りならまだ御しやすい。頭に血が上った者はえてして隙も大きい。
が、今ハクとコクの心に滾っているのはまるで氷のように冷たい殺意だ。確実に相手を捉え、確実に殺す。そんな殺意。
これなら、感情の無い人形の時のほうがまだマシに見える。機械的に相手を殺す様は見た目は不気味だが巻き込まれてもただの事故と納得できなくも無い。
目の前の二人が明らかに自分を標的にしているのを悟り、秋子は逃げ腰になりながらも必死に二人に訴えかけてきた。
「わ、私知ってるのよ!貴方達の創造主から聞いたのよ!!
貴方達、今のままだと何年も持たないのよ?強化されすぎた体が悲鳴上げて、すぐに死んじゃうのよ?!
私たちなら、貴方達をずっと生かすことが出来るわ。健三さんだってそれを納得して私たちの仲間になったんだから!!」
健三のくだりは勿論嘘だが、今はなんとしてもこの場を凌がなければならない。
「あなたたちも死にたくは無いでしょ?私たちと一緒に来れば死なずに済むわ!だから、いっ…」
その時、自分目掛けて銃を構えたコクの姿が目に入った。

ダァン!!

「ひっ!」
すんでのところで弾は交わしたが、秋子の頬にはかすった銃弾で出来た青い血の筋が走っている。
「そんなの関係ない。私たちは、ダーククロスを倒すために創造主によって創られた。
それが私たちに創造主から与えられた使命。そのためなら、自分たちの死も厭わない」
黒衣を纏ったコクが両手に銃を構える。
「そして、私たちは創造主から託された。全てのダーククロスを狩るという使命を。
そのためなら私たちは、例え標的が創造主であろうとも手を下す。それが、創造主の遺志なのだから」
白衣を纏ったハクが刀を振るう。

「「私たちは、ダーククロスに対してはいくらでもコクハクになれる。
たとえ自分たちにとって大事だった人でも、ダーククロスになったならば容赦なくその命を奪い取ることができる。
これが創造主が私たちに最後に与えた『心』。ただ酷薄に闇を狩る、ダーククロスへの死神としての私たちの心」」

そうなのだ。今秋子の目の前にいるのは、与えられた命令をただ機械的に実行するマシンではなく、自らの明確な意思を持ち、ダーククロスを憎み、恨み、根絶することしか考えていない死神なのだ。
「だから…、あなたを殺す!」
「だから、お前を殺す!」
ハクとコクは同時に跳躍した。今この場にただ一人残っている淫怪人、秋子の命を絶つために。
「き…きゃああああぁっ!!」
こんな狭いところではどこにも逃げ場は無いし、逃げ道はコクハクが飛んでくる先にある。
(殺られる!)
さすがに秋子は死を覚悟した。
が、


『もういい!!』


その場に一際大きいダークサタンの声が鳴り響いた。同時に、ハクとコクの足元にぽっかりと黒い穴があき二人目掛けて真っ黒な光が降り注いだ。
「「!!」」
そのまま二人は空中に跳んだまま、ぴったりと静止してしまった。
『貴様ら二人、我が下僕に堕とそうと色々と謀ってみたが、事ここまで至っては最早詮無し。
あくまでも我らに逆らうというのであれば、最早お前らなど必要ない!!
このまま次元の狭間に落ち、我らの前から消えてなくなるがいい!!』
どうやら、自分たちにあくまでも歯向かい続けるハクとコクにダークサタンは業を煮やし、二人をこの次元から追い出してしまおうと考えたようだ。
次元を超えることができるダークサタンならではこその荒技なのだが、正直ダークサタンにとってもこれは本当に追い詰められた時の最後の手段だ。
いくら多重次元を行き来できるとはいえ、次元の穴をこじ開けるのはそう簡単にできることではない。自身のエネルギーの消耗も激しいし、街中なんかで開けたら周辺にもどんな影響が出るかわかったものではない。
だが、そんなリスクを負ってでもダークサタンとしてはここで二人を排除することを決断した。
さもなくば、この二人のせいでこの先どれほどの被害が出るか想像もつかないからだ。
二人を包む黒い光はどんどんとその濃度を増し、それに伴い二人の姿は次第に薄くぼやけてきている。
「私たちが……消えてきている……」
「この世界から……追い出される……」
自分たちに起こっている事態を、ハクとコクは意外なほど冷静に受け止めていた。周りから感じられる気配がどんどん希薄になり、五感が利かなくなってきている。
『一旦狭間に飲み込まれたら、もはやここに帰ってくることなど不可能に等しい。
バカな奴らめ、大人しく我らの軍門に下っていれば、このような惨めな死は迎えなかったものを!』
ダークサタンの嘲笑が二人の耳に響く。だが、耳障りなその声を聞いても二人の闘志はあくまでも衰えることはなかった。
「…どこへ跳んでしまおうが関係ない……。私は必ず、あなたたちダーククロスを滅ぼす」
「今、この地を追われようとも、どんな手段を用いてでも、私は絶対、お前達を殺す!!」
二人はどこにいるかも分からない、しかし確実にこの場にいるダークサタンに対し言い放った。
ダーククロスを狩る、悪魔と死神としての自覚を持って。
「「待っているがいいダークサタン、私たちは、絶対におま………

バシュン!

その瞬間、ハクとコクはこの世界から永遠に消え去った。
後には、びびり過ぎて失禁しながら腰を抜かした秋子がいるだけだった。
『やれるものなら、やってみるがいい!!忌々しい人形どもが!!』
結局自分の手で堕とすことができなかったからか、ダークサタンの声はいつになく苛立っている様に聞こえた。
「ダ、ダークサタン様……、助けてくださってありがとうございます……」
秋子は尻餅をつきながら涙を流してダークサタンに感謝を述べたが…、それに対するダークサタンの反応は実につれないものだった。
『別にお前を助けたわけではないわ、この役立たずめ。
お前の筆頭昇格の件は見送りだ。このような失態を見せてしまったからにはな。
あと、我の招集を無視した罪は重いぞ。魔城に帰還した際、覚悟をしておけよ……』
そう言い放ち、ダークサタンの気配は掻き消えてしまった。
「そ、そんなぁ………」
散々苦労し、独断専行してまで先走り、あと少しというところで全てをひっくり返された上この体たらく。
まさに踏んだり蹴ったりといった感じで、秋子はその場に仰向けにへなへなとぶっ倒れてしまった。


☆エピローグ


「う〜〜、寒い寒い〜〜〜〜」
この地域では珍しいドカ雪が深々と降る冬の町。もう日は沈み始め街灯の弱い光が道を照らしている。
この町に住む中学2年生、紅衣勇は折りたたみ傘を差しながらてくてくと歩いていた。
普段なら何の問題も無く進める道が、少し雪が積もっただけでこれまで体験したことの無いデンジャーゾーンへと変化する。
摩擦力が少なくなった路面は容赦なく靴を滑らせ、長靴を履き忘れた足元には足を蹴るたびに雪が中に潜り込んで靴下を冷たく濡らしていく。
「そりゃあたまには雪も降ってほしいって物だけれどさ…、これは振りすぎだよね〜〜」
雪雲で真っ黒な空を眺めながら、勇はなかなか思い通りにはならない天気を恨めしく思いながら家路へと向っていた。
普通に通えば10分もかからない我が家が見えてきたのは、実に学校を出てから20分以上経過してからだった。
「や、やっと……帰れた……」
まるで雪山からの帰還兵のような気分を味わった勇の目に、自宅の前の道に転がる黒い塊が入ってきた。
「…?なにあれ……」
日が暗くてよく見えない。勇はバチャバチャと雪を刎ねながらなにかを確かめるために走りよった。
「え…?」
転がっているものが何なのかを確認し、勇は絶句した。



「「………」」

勇の足元に転がっているのは、どう見ても行き倒れにしか見えない二人の少女だった。
どうやら双子のようで顔形は瓜二つなのだが、肌の色と服装はまるで相反しているかのように真っ白と真っ黒だった。
「ね、ねえ!大丈夫ですか?大丈夫ですか?!」
勇は二人の肩をゆさゆさと揺すってみたが、まるで氷のように冷たくなっている二人は何の反応もしない。
「た、た、大変だぁ!!
お母さーん、お母さーん!!ちょっと、ちょっと出てきてーーーっ!」
勇は驚きで声を裏返しながら、家の中へと飛び込んでいった。

この世界にダーククロスの淫略が開始される、およそ半年前のことだった…




文責 いなづまこと



いなづ様、ご覧になった方々お疲れ様でした。
いなづ様の『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(後編)
はどうでしたでしょうか?
私は、シリアスな場面が何度かあって楽しめました。
しかしまだ、ハクとコクのもうひとつの未来を見ていない方は、
そちらもご覧になられることをオススメします。
↓をクリックすればもう1つの未来へ。



何か変更点があれば、コメントにどうぞお書きください。

できれば作者様にご感想があれば、コメントにお書きください。
作者様も、ご感想のお返事をだしてもらってもかまいません。

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