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ν賢狼ホロν
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2009年02月05日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(前編) part1

 はい、今日は以前予告していた通り、
いなづ様が某スレで載せたセイバーズ関係のSSを、載せていきたいと思います。
これは前編で、後編は次の予定らしいです。
今回はまた、違った雰囲気のSSを書いてくださいました。

 そして予告ですが、いなづ様から『翔儀天使アユミ〜成淫連鎖』の次の話の、
差分画像をいただきました。近日中にUPしますので、ぜひご期待ください。

 それではどうぞ☆





注意! この文章と画像には、官能的表現と暴力的表現が
含まれております。
(ご覧になる方は、自己判断・自己責任でお願いします。)





そこは過去にビッグドームと呼ばれた野球場跡。
かつてはプロ野球を観戦に来た親子連れでごったがえしていたそこは、現在は見る影もないほどの廃墟と成り果てていた。
高く昇っていた夏の日が突然閉ざされ、光射さぬ暗闇の狭間から突然現れたダーククロスと名乗る謎の侵略集団が、この国のみならず全世界を席巻していったのは僅か一年にも満たない期間だった。
破壊と淫辱をもって人間に襲い掛かり、恐怖と感応によって心を砕かれた人類は瞬く間にダーククロスの軍門にくだり、ある者はダーククロスの尖兵となってかつての友や家族にその毒牙を向け、ある者はダーククロスに囚われその命涸れ果てるまで陵辱の限りを受けた。
今や生き残った僅かな人類は夜昼問わずどこからか突然現れるダーククロスの戦闘員や淫怪人に追われ、逃げ惑う日々を送っていた。

しかし、ここビッグドームでは想像も出来ない事態が起こっていた。
「うぎゃあああぁっ!!」
大きく跳ね飛ばされた戦闘員の腕が派手に吹き飛び、青黒い血を派手に噴き出している。激しい痛みに顔をゆがめる戦闘員が蹲った直後、その頭がずるり、と首から離れ人工芝の上にぼとりと落ちた。
いくら屈強な戦闘員といえども、これは完全に絶命している。
しかも戦闘員の死体はこの一体ではない。
この広いビッグドームの内外野に、なんと十数体の戦闘員の死骸が転がっているのだ。
人間の数倍の戦闘力を持つ戦闘員がこれほどなすすべなく殺戮されることなど、どう考えてもありえることではない。
そして、累々たる屍が横たわる球場のピッチャーマウンドに佇む二人の少女。
どうやら双子だろうか、その姿は驚くほど酷似している。
丈の長いコート、生脚が覗く短いスカート、頭にちょこんと乗っかる帽子。
腰まで伸ばした長い髪。眼鏡の奥に煌く金銀妖瞳。感情がないかのような無機質な表情。
そのどれもが瓜二つである。
が、決定的に異なるところがあった。
片割れは白磁器のような抜けるような白い肌で服装もすべて白で統一していたのに対し、
もう片割れの一人は逆に色黒の肌に黒の服装を着込んでいたのだ。


「…戦闘員、殲滅完了」
白いほうが手に持ったやたらと巨大な刀についた戦闘員の血糊をぶん、と振り払った。
「視界内敵残存戦力、淫怪人一体。これより殲滅します」
黒いほうも自分の身長ほどもある刀を片手で軽々と持ち、バッターボックスにいる淫怪人に切っ先を向けている。
「バ、バカな……、私たちダーククロスの戦闘員がこんなにも簡単に……」
目の前に広がる光景をダーククロスの淫怪人、淫妖花ノゾミは信じることが出来なかった。
ダーククロスの淫怪人として新たな生を得て、初めて臨んだ人間狩り。
人間を追いかけ追い詰め、自慢の触手で性の虜にする面白さを求め、瓦礫の中をのこのこと歩いていた二匹の人間を見つけた時は悦びで小躍りしたものだ。


その後、部下の戦闘員を使って鬼ごっこに興じ、こうして二匹をビッグドーム内まで追い込んだのだ。
こうすれば彼女達は袋のネズミ。後はゆっくりと嬲って犯して堕落させ、魔因子を注ぎ込んでダーククロスの下僕にする算段だったのだ。

ところが、それは罠だった。袋のネズミにされていたのはノゾミたちのほうだったのだ。
ビッグドームの中に入った彼女達は、それまで逃げ惑っていた姿から態度を豹変させノゾミたちに襲い掛かってきたのだ。
それも恐るべき強さで。
普通、人間では淫怪人はおろか戦闘員にも抗し得ない。身体能力の基本が違うのみならず、ダーククロスの構成員は淫怪人、戦闘員、淫隷人を問わず体から人間を発情させ無力化する淫力を発している。
これにより、どのような人間であろうとダーククロスの構成員に向かい合ったが最期戦闘意欲を喪失させ、容易くダーククロスの手に堕ちてしまうのだ。
が、目の前の二人は淫に囚われるどころかたちまちのうちに襲い掛かった戦闘員2体を見たこともない刀で切り伏せ、ノゾミたちがあっけにとられている暇もなくたちまちのうちに5体の戦闘員をただの肉の塊に変えてしまったのだ。
ノゾミは焦りながらも全身から強烈な淫香と淫力を放ち、二人の戦闘力を奪おうと試みた。戦闘員の淫力が効果がなくとも、まさか淫怪人である自分の力まではレジスト出来ないだろうと考えたのである。







(生意気な人間め!私の魔の香りに当てられて全身の穴という穴から体液を噴出させて悶え狂うがいい!!)








ノゾミの噴出する香りと淫力は屋根で閉ざされたビッグドーム全体をたちまち包み込み、そのあまりに濃厚な淫気は二人を取り囲む戦闘員にまで効果が及び、戦闘員が顔を赤く染めて片手を股間に這わせてしまうほどの威力だった。
が、肝心の二人はそれほどの濃密な淫気に包まれているにも拘らず全く表情を変えず、先ほどと全く変わらない速さで動きの鈍った戦闘員を一人、また一人とバラバラにしていった。
そして、今残った最後の一人の首が飛んでいったところである。
「な、なんなの……、お前達、なんなのよぉ……」
ノゾミはじりじりと迫って来る二人の少女に完全に気圧され、一歩、また一歩と後ずさっていった。
あの日々逃げ惑う苦痛と恐怖から開放され、それまで狩られる立場だったのを狩る立場へと転換し、犯される側だったのを犯す側へとスタンスを変え、ようやっとあの鬱屈した日々から開放されると思ったのに。
自分は素質があるからとダークサタン様直々に魔精を戴き、ダーククロスのエリートである淫怪人へと生まれ変わったというのに。
なんで、なんでまた自分は狩られる側に立たされていなければいけないんだろうか。

2009年02月05日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(前編) part2
「く、来るな……。来るなぁーーっ!!」
恐怖から来るあまりの重圧に耐えかねたのか、ノゾミは全身の蔓状の触手をいっぱいに広げ、二人の少女目掛けて伸ばしていった。タングステンで出来たワイヤーよりも強力なノゾミの蔓は、一旦絡めば人間の手では引きちぎることも出来ず
力を込めて突き刺せば3cmの鋼板すら容易く貫通させることが出来る強力なものだ。
そんなものが10本近く唸りを上げて二人を包み込むように突っ込んできた。勿論、下手に受けようものならその体はたちまちのうちに串刺しにされてしまうだろう。
だが、蔓が少女達の体を貫こうとしたその瞬間、少女達は残像すら残さずその場からシュン!と掻き消えた。
まるで、最初からそこにはいなかったかのように。
「?!バカな!どこに……」
慌てたノゾミが消えた二人を捉えようと体を捩ったその時、

ズルリ

ノゾミが捩った腰がそのまま胴体から真っ二つに離れた。
「え」
突然下半身の踏ん張りを失ったノゾミは、真横になった視界のまま人工芝の上にどさりと崩れ落ちた。





「あれ?なんで?なんで私倒れているの……」




何が起こったのかよくわからないノゾミの目に飛び込んできたのは、青い血を盛大に吹き上げて立っている、自分の『下半身』だった。
その後ろには、剣を横に薙ぎいている黒い少女の姿が見える。
その手に持つ刀には、ノゾミの返り血が刃一杯にこびり付いていた。





「え?私、なんで、私の腰と足が私の前に……?!
やだなぁ、私の足はちゃんと私に……」




ない。
ノゾミの体は腰から下がきれいさっぱりなくなっており、血をだくだくと噴きこぼしていたのだ。
このとき初めてノゾミは、自分が黒い少女に真っ二つにされたことを自覚した。
「……っ!?や、やだ……。いやぁぁぁっ!!」
その時ノゾミは淫怪人としての誇りも矜持も忘れ、ただの弱々しい普通の少女『希美』として悲鳴を上げた。
希美はつい最近、これと同じ悲鳴をあげた事がある。
あれは瓦礫の中ダーククロスの人間狩りに遭遇し、逃げ惑い、追い詰められた時。


目の前でいやらしい笑みを浮かべる『霞』と名乗った植物の淫怪人の触手が自分に向って延びてきたときだ。
あの時は絶望と恐怖の後に蕩けるような快感に包まれ、ダーククロスの一員になれたというご褒美がついてきた。
しかし、今希美の絶望と恐怖の先にあるものは、『死』という一切の『無』しか選択の余地は残っていない。
「敵淫怪人の戦闘能力喪失を確認。これより、抹殺する」
黒い少女が刀を構え、とことこと近づいてくる。その一歩一歩が、まるで脚のない希美が死への十三階段を昇るのを肩代わりしているようにも感じられる。
「い…いやっ!!助けて!死にたくない!死にたくない!!」
希美は辛うじて自由に動く両手を必死に動かし、黒い死神の手から逃れようともがく。
が、黒い死神はそれすら許さないのか希美の手をグシャリと踏み潰した。
「いやぁーーっ!!助けて!お父さん、お母さぁ〜〜〜んっ!!」
希美はもうこの世にはいない父と母に向って泣き叫びながら助けを求めた。
「お父さん!お母さん!お母さん!!おかあさぁーん!!」
だが、勿論いくら叫んでも父と母は助けにはこない。
ぎゃんぎゃんと泣き叫ぶ希美の頭上で、黒い少女が刀を高々と振り上げた。
「抹殺する」

「いやっ!いやあぁっ!いやいやいやいやいやい



次の瞬間、希美の首は胴体から離れ飛んでいた。
希美は結局、淫怪人としての悦びを味わうことはなかった。
「抹殺終了」
自分の体にかかる凄まじい返り血を気にすることなく、黒い少女は刀を転送させると白い少女の方へととことこと走っていった。
「ハク、敵残存兵力を確認」
黒い少女にハクと呼ばれた白い少女は、少しの間目を閉じて意識を耳に集中させ辺りの気配を確かめると再び目を開いた。
「コク、敵戦力の殲滅を確認。戦闘行動を終了します」
「了解。戦闘行動の終了を確認」
ハクの言葉にコクと呼ばれた黒い少女はこっくりと頷き、ビッグドームの外へ通じる道をてくてくと進み始めた。
その後にハクも続き、球場内にはバラバラになったダーククロスの構成員の死体だけが残されていた。

この後、暫くの間ダーククロスの間で『煉獄の白い悪魔』『踊る黒い死神』と呼称され恐れられたハクとコクが初めて実戦の舞台にたった瞬間であった。

2009年02月05日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(前編) part3

に抗う自動(オートマタ)』(前編)

いなづまこと様作


かつて副都心と呼ばれた瓦礫の山。ダーククロスが来る前までは数々のうず高い高層ビルが列をなしていたそこは、今は見る影も無く荒れ果てかつてあった文明の残滓をそこに刻んでいた。
目立つ所だっただけに真っ先にダーククロスの淫略に狙われ壊滅したそこは、当然人間など住めるはずがないほどに荒れ果て、他の生物の侵入すらかたくなに拒み続けていた。
が、そんな不毛の空間を歩く二つの影があった。
全く同じ背格好、色こそ違え全く同じ服装を纏ったその姿はあのハクとコクである。
二人は歩く歩幅も全く変わることなく、一定の距離を開けながら瓦礫の山をすたすたと進んでいた。
もはや狩るべき人間がいないこの副都心跡にダーククロスの構成員はまず現れない。
いや、現れたとしてもこの二人を見た瞬間ダーククロス側が逃げ出すだろう。もっとも、二人を目の当たりにして逃げられた淫怪人など、それこそ片手で数えるほどもないのだが。
それほどまでに、この世界でのハクとコクは恐れられていた。
何しろ、自分たちの自慢の淫力が全く通用せず、淫怪人すらはるかに凌駕する戦闘能力で確実に葬ってくるのだ。
そのあまりに無慈悲な殺戮の様にハクは『煉獄の白い悪魔』。
そのまるで舞踊のような流麗な殺しの技にコクは『踊る黒い死神』と称され、目撃イコール死という認識をこの世界の淫略を任されている淫怪人や戦闘員に与えていた。
もちろん、ダーククロスの側もただ逃げていただけではなかった。
いくら強いといっても、ベースは人間のはずなのでどこか拠点があるのは確かなのだ。ならば、そこを抑えてしまえばある程度は戦闘力をこそぎ落とすことは出来ると考えていた。
だからダーククロスも、以前は二人の後を付けまわしたり上空からアジトを探したりしてみた。
だが、結論から言えばそれはすべて失敗に終わった。
どんなに気配を消して後を追っても絶対に気づかれて抹殺され、どんなに高空を飛んでいようと正確無比な射撃で一匹残らず撃墜されてしまうのだ。
そして、追跡の根が絶ったと同時に二人はいずこへと素早く消え去ってしまうのだ。
はっきり言って、ハクとコクがどれほど抵抗しようがすでにこの世界の9割以上を支配下に置いたダーククロス側からしてみたら痛くも痒くもないのだ。ハクとコクに連動して人間のレジスタンス活動が起こるわけでもなく、被害地域が副都心跡を中心に環状線の内側に限定されているので、そこに近づきさえしなければハクとコクに襲われることは無いのだ。
だが、ダーククロス側からしてみたらこれほど癪なことはない。
これまで色々な次元に魔の手を伸ばし、その徒然で数え切れないほどの世界と勇者をその手に堕としてきたのだ。それもただ一つの例外もなく。
それが、たった二人の小娘相手にまるで歯が立たないどころかいいように蹂躙されてしまっている。
そして、それに対抗する術を淫怪人たちは持ちえてないのだ。

そのあまりの部下の不甲斐なさに、とうとうダークサタンの堪忍袋の尾が切れて自ら参戦してきたことがあった。
『小娘ども!よくもいいように我が下僕どもを葬ってきたものよ。その力、賞賛に値する!
よって、貴様らに我が淫怪人となる栄誉を授けることにする。これからその力、我が役に立てるがよい!!』
道を進む二人の前に突如地面を割って現れたダークサタンの触手が、ハクとコクに向けて淫怪人とは比較にもならないくらいの濃度と密度の淫力をぶつけてきた。
かつてこれに抗えた人間はおらず、どんなに貞淑な人間も、どれほど力を持った勇者と言えどダークサタンの前に淫蕩に支配された笑みを浮かべて肉体を捧げてきたのだ。
「………」
「………」
だが、空気すら遮断するほどの淫力をぶつけられてもハクの顔色は相変わらず白いままでコクの瞳には冷たい光が宿り続けていた。
これはダークサタンにとってはまさに予想の範囲外だった。
『バ、バカな!!淫怪人ならいざ知らず、わ、我が淫力までも利かないというのか?!』
おそらく、こんなにダークサタンを狼狽させたのは数多くの次元でダークサタンに相対してきた勇者の中でハクとコクだけだろう。
淫力に酔ったハクとコクに襲い掛かろうと揺らめいていた触手がきっかけをなくしてまごまごしていたその時、白いきらめきと共にすっぱりと空へと吹き飛んだ。
『ギ、ギャアアァッ!!』
ハクの持つ刀により根元から切断された触手は暫くビチビチと跳ね回っていたが、やがて黒い煙を上げてジュウジュウと溶けて消えてしまった。


「適性生物、ダーククロスと確認。排除します」
ハクが持った刀が、周囲を取り巻いた触手をズパズパと切断する。
「ダーククロスは、排除する」
コクが持った銃が、逃げ惑う触手を正確に撃ち貫く。
『お、おのれえぇぇっ!!小娘どもがぁ!!』
あたり一面に腐臭と汚液を撒き散らした後、敵わぬと見たのかダークサタンの分身は来たときと同じく地面へと引っ込んで消えていった。
「…ダーククロス、認識を消失。戦闘行動を停止します」
「了解。戦闘行動を停止」
ダークサタンの分身が完全に消え去ったのを見て、ハクとコクは得物を懐に収め何事も無かったかのように歩き始めた。

この結果は、ダーククロスの構成員をさらに震え上がらせた。自分たちの主であるダークサタンの淫力すら、それがたとえ本体より数段劣る分身のものでったにせよ通用しないなどとは思いもしなかったからだ。
なにしろ、自分たちはその分身の力に屈して淫怪人として生まれ変わったのだ。
それすら利かないとなったら、自分たちに勝てるはずがない!
それ以降、ハクとコクはダーククロスにとってまさに死神として写るようになった。ダークサタンや幹部たちがどんなに叱咤しようが淫怪人も戦闘員も絶対に二人に近づこうとしなくなった。
じゃあ幹部たち自らが手を出したのかというとそれもない。
ダークサタン分身すら退けた二人に手を出して、無事にすむ道理がないことは火を見るより明らかだからだ。
これにより環状線内側の一帯は、殆どダーククロスの活動がない空白地と化してしまった。それほど、ハクとコクの存在はダークサタンに恐れられていたのだ。
環状線の内側に入らなくなったことにより、悪魔と死神に会うことがなくなった淫怪人たちはようやっと胸を撫で下ろした。
と、言うわけにはいかなかった。
なんと最近、環状線の外側で二人に遭遇した淫怪人がいる可能性があるらしいのだ。
何で疑問形なのかは言うまでもない。
二人に遭遇して、生きて帰ってきた戦闘員も淫怪人もいないからだ。



瓦礫がうず高く積みあがる廃墟。二つの塔が立っていた跡があるそれはかつては都庁と呼ばれていた建築物だが、現在は自慢の塔もぽっきりと折れかつての威容は見る影もない。
外から見るとまったく人の気配が感じられないそこに、ハクとコクは小さな体を折り曲げて中へと入っていった。殆ど日も射さない真っ暗な空間を、二人はまるで日中の外のように軽やかな足取りで先へと進んでいく。
すると、奥のほうにぽつんと灯る一条の明かりが目に入ってきた。どうやらそこが、二人の目的地のようだ。
もはや廃屋と化した都庁の部屋で、唯一電気が生きている部屋。
意外なほどの広さをもつその部屋の中には、都庁には似つかわしい理系の大学の研究室のような設備がごっそりと備え付けられていた。
いや、それはそんな生易しい代物ではない。
正体不明の液体が並々と蓄えられている強化ガラス製の筒。不気味な点滅を繰り返している正体不明の機器。
都庁にあったものをそのまま流用しているスーパーコンピューター。所々に転がっている、用途の不明な物体。
それは大学の研究室というようなものを明らかに超越している、どう見ても映画や小説に出てくる頭の螺子が飛んでいるマッドな科学者の一室だった。
そしてその中心には、そこにいるのが相応しいと断言できるよれよれの白衣を羽織った、目に異常な光を宿した科学者が一心不乱にキーボードになにかを入力し続けていた。

「「ただいま帰りました。創造主」」

2009年02月05日
『闇に抗う自動人形(オートマタ)』(前編) part4
ハクとコクは自分たちに背を向け振り向こうともしない科学者に帰還の報告をした。
「………、帰ってきたか」
ハクとコクの声を聞き、科学者はキーボードを打つ手を止めてくるりと椅子をまわして二人のほうを向いた。
髪の毛や髭は伸び放題、頬はげっそりと痩せこけて肌の色は日に当っていないからなのか病的なまでに青白い。
その容姿からは年齢は想像も出来ないが、40を越えているということはなさそうだ。
「創造主、食料を調達してまいりました」
ハクが手に持った鞄からどさどさと缶詰を床に落とした。中にはドッグフードとかとんでもないものも混じっていたりするが科学者のほうは特に気にすることも無く、よりによってドッグフードの缶詰を掴むと待ちきれないかのようにわしわしと食い始めた。
「…まったく、ちゃんと人間の食い物を持ってこい。この不良品め」
とか言いながらも科学者はたちまちドッグフードを食べ尽くし、次にパイン缶を開けてぐびぐびと汁を飲みはじめた。
「申し訳あリません。創造主からは食料を探して来いとしか言われていませんでしたので」
ハクは科学者に向けて深々と頭を下げた。が、その表情は全然変わっていない。
科学者はそんなハクに目をくれることなく、用意された缶詰を瞬く間に食べ尽くし、空の缶詰を部屋の隅へと投げ捨てた。
「ハク、ちゃんと片付けておけよ」
「承知いたしました、創造主」
まるで嫌がらせのように遠くへ投げられた缶詰をハクは嫌がることなく拾い上げ、部屋の片隅にガラガラとほうり捨てた。
それを見て、科学者は微動だにせず突っ立っているコクへと向き直った。
「…で、コク。今日は何人殺した」
「今日は戦闘員三体。淫怪人一体を抹殺しました。創造主」
その数を聞き、科学者の顔がみるみる不機嫌になっていく。
「チッ!最初の頃に比べると随分効率が悪くなったな。この能無しが!!」

バァン!

科学者は手に持った錆びたパイプでコクの頬を強かにぶっ叩いた。傍目から見ても相当に痛いはずなのだが、コクは顔色一つ変えないで科学者へと向き直った。
「申し訳ありません。最近、ダーククロスとの遭遇率も相当に低下しており……」
「言い訳するなーっ!このボケーッ!!」

バキィッ!!

再び科学者のパイプがコクの頬を直撃する。普通これだけ強烈な一撃を喰らえば歯を折るか肌を傷つけるのだろうがコクの体には生傷一つ生まれはしない。
「お前らがこの世に生まれた理由を忘れるな!
お前らが生きる意味はただ一つ!一体でも多くのダーククロスの屑どもを殺し、俺の復讐を果たすことなんだぞ!!そもそも…」
「………」
科学者の上ずった怒声を、コクはただ静かに聞いていた。


ハクとコク。
彼女達は純粋な意味で普通の人間とは違っていた。
彼女達が生まれた経緯は、この世界にダークサタンの魔の手が伸びてきた時まで遡る。
さる生物施設の一研究員だった鎧健三は、ダーククロスの淫略によりそれまでの人生を全く狂わされてしまった。


まわりの人間は次から次にダーククロスに囚われ、ある友人は他人を犯すことしか考えられなくなり、ある先輩は全身に鱗を生やして後輩を咥え込んでいた。
阿鼻叫喚と化した施設から命からがら逃げ出した健三だったが、家に帰ったときに目に入ったものは完全に燃え落ちてガラクタになった自宅と、どこを探しても見つからない妻と娘という現実だった。

「おのれ……おのれ!ダーククロスめ!!」

この瞬間、鎧健三は温厚な研究員から狂気の復讐者と化した。
健三は己の持てる知識のすべてを使い、遺伝子操作、薬物投与、生体改造などのありとあらゆる手段を使ってダーククロスに対抗しえる生物兵器を創り上げんとした。
が、そううまく都合よいものが作れるはずが無く、最初の数年はどうしようもない出来損ないや全くの失敗作が軒を連ねる結果になった。
中にはより良いサンプルを得るために子供を拉致同然に連れ去って強化改造を施したこともあるが、成功したためしはなかった。
だが健三はめげることなく、次から次へと生体改造に手を出し…、数え切れないほどの犠牲者を作り出した。
そして、その夥しいほどの犠牲の果てに創られたのが…、ハクとコクだった。

今まで生体改造に失敗したのは、出来上がった個体を無理に改造しようとしたのが原因と悟った健三は、今度は受精卵の状態から生物兵器を作り上げようと試みた。
それまでに手に入れたサンプルからめぼしい卵子を取り出し、自分の精子と受精させて作り出した受精卵にそれまでに得たノウハウの全てを詰め込み、改造に継ぐ改造の果てに遂に実用に足る対ダーククロス用生物兵器、ハクとコクが誕生したのは実にダーククロスへの復讐を誓ってから5年後のことだった。
ハクとコクの製造に関して健三が一番考慮したのは、いかにしてダーククロスの淫力に対抗するかだった。
どんなに意思の強い人間ですら容易く堕落させてしまう淫力。それに抗するために健三が考え付いたのは、ハクとコクに快楽を感じる感覚を全く取っ払ってしまうことだった。
いかに淫力が強力であったとしても、快楽を感じられないのであれば全く意味をなさない。
健三はそのためにプラント内で受精卵状態のときからハクとコクの身体から快楽を感じる器官、神経を徹底的に取っ払っていった。
それがいかに非人道的なことであったとしても、健三にとっては関係の無いことだった。
彼の脳内あったのはただ一つ。ダーククロスを滅ぼせる兵器を作り上げることだけだった。
そして、彼の結果は実を結び、ダーククロスの淫力を全く寄せ付けない脅威の身体能力を持ったハクとコクは誕生した。
しかし、その代償としてハクとコクには快楽を感じなくなっただけでなく、人間の感情というものを全く持ち合わせなかった。
しかし、これは健三の望んでいた通りになったといえる。
彼が欲しかったのは前述の通り、友人を、妻を、娘を奪ったダーククロスを滅ぼせる力を持った兵器だ。
決して彼を癒す心温まる家族を作ったわけではないのだから。


「ハク!!コク!!貴様らはこの世にいるダーククロスの連中を一匹残らず滅ぼすために生まれたんだ!
ダーククロスには決して容赦するな!淫怪人も戦闘員も、淫隷人も容赦なく抹殺しろ!ただ一人の例外もなくだ!
もしダーククロスの連中を殺せる機会があるなら、俺の身がどうなっても構いはしない。
どんな手を使おうが、どんな犠牲を払おうが、絶対絶対にダーククロスを抹殺しろ!いいな!!」
明らかに狂気が宿っている狂乱の科学者であり、自分たちの創造主であり、ある意味血の繋がった父親ともいえる鎧健三の檄に、哀しい生物兵器であるハクとコクは何も言わずこっくりと頷いた。
彼女達に疑問を提起する思考は無い。創造主である健三の命令こそが絶対のものだからだ。
「…まあいい。今日はもう狩りにいかなくてもいいぞ。
その代わり、今から調整層の中に入るんだ。さっき、とても面白い強化プランを思いついたんでな。早速改造してやろう」
健三は二人に対し、後ろの妖しい液体を湛えたプラントを指差して中に入るように命令した。
「「はい」」


もちろん逆らう意思など無い二人は纏っている服を脱ぎ捨てると、そのままとぷんとプラントの中へと入っていった。
青白く貧弱な光に黒と白の裸体が映し出される様はなんとも蟲惑的だが、復讐の鬼と化している健三にそんなものを愉しむ心はない。
「待っていろよダーククロスめ……、俺の全てを奪った忌まわしい屑どもめ!!
この俺の最高傑作が、いつか必ず貴様ら全員地獄へと送ってくれる!その日を楽しみに待っていろ!!」
何かに取り付かれたかのようにキーボードを打ち続ける健三を、ハクとコクはガラス越しにその金銀妖瞳で見つめていた。
二人に感情は無いはずだが、健三を見る二人の瞳は何故か酷く悲しそうな色を湛えていた。





文責 いなづまこと


後編へ続く!



今回も編集のため、今まで頂いた画像を追加しました。
何か変更点があれば、コメントにどうぞお書きください。
できれば作者様にご感想があれば、コメントにお書きください。
作者様も、ご感想のお返事をだしてもらってもかまいません。

by ホロ

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