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　今日は少し趣向を変えて、詩の話をしようと思う。

　自分は詩とか興味ないですから、
　という人もおられるだろうが、ちょっと待って聞いてほしい。

　私も、ごく最近まで詩なんかに興味はなかったのだけれど、ちょっと考え方がかわったんである。


　国語の授業で使う教科書とかでなく、はじめて意識的に詩集を読んだのは、
　確か高校生くらいのころだったと思う。

　そのとき、たまたまテレビ番組かなんかで、
　アルチュール・ランポーとかいう天才詩人の特集をやっていたのだった。

　このランポーという人はものすごい早熟の天才だそうで、
　二十歳にもならないうちから、後世に残るような詩を書いて、それで三十七歳で死んでしまった。

　高校生のころからもちろんワナビであった私は
　『早熟の天才詩人』　という言葉になんかあこがれて、

　よっしゃ、いっちょ読んでみっぺか！　と読んでみたのだが、結果は全然だめであった。

　ランポーさんの書く詩は、どうも象徴詩というジャンルらしく、
　読んで字のごとくに象徴的な表現が多発するんである。

　だから、ぶっちゃけて言うと、
　もう何が言いたいんだかボクにはさっぱり分からないよ。というような詩なんである。

　というわけで、そのランポーさんの詩を、読んでは何がなにやらさっぱりで、
　詩ってやつは自分には向いてないと思うようになり、それ以来、詩というものを敬遠していた。



　けれども、今日紹介する本を読んで、考え方が変わったのだった。

　『詩のこころを読む (岩波ジュニア新書) 茨木 のり子 (著) 』である。

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　この本は戦後最大の女流詩人であるらしい、茨木のり子、という人が、
　詩の初心者のために書いた本であるらしい。

　初心者用だからかしらないが、やたら象徴的で難解な詩は、ほとんど収録されていないし、
　色々な詩集から、いいやつだけを集めて構成してある。

　だからなんというか、詩とかほとんど読んだことのない素人からしても、
　素直にいいなと思えるものが、結構あるのだ。


　で、この本を読んで思ったことは、
　詩なんかには全く詳しくない私が言うのもアレかもしれないが、

　おそらく、名作とよばれるに値する詩は、たぶんそんなに難しくないのではないかということで、
　詩に限らず、本当に良いものというのは、案外わかりやすいもんではないかということだ。

　例をあげれば、
　国語の授業で使った、教科書や便覧で、高村光太郎の詩集『智恵子抄』の
　レモン哀歌という詩を読んだことがあるかもしれない。


　もう著作権の保護期間をすぎているので下に引用してみる。


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　『レモン哀歌』

　そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
　かなしく白くあかるい死の床で
　わたしの手からとつた一つのレモンを
　あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
　トパアズいろの香気が立つ
　その数滴の天のものなるレモンの汁は
　ぱつとあなたの意識を正常にした
　あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
　わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
　あなたの咽喉（のど）に嵐はあるが
　かういふ命の瀬戸ぎはに
　智恵子はもとの智恵子となり
　生涯の愛を一瞬にかたむけた
　それからひと時
　昔山巓（さんてん）でしたやうな深呼吸を一つして
　あなたの機関はそれなり止まつた
　写真の前に挿した桜の花かげに
　すずしく光るレモンを今日も置かう

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　どうですか。読めば大体の背景やストーリーの流れが分かるでしょう。
　詩ではあっても、意味が分かるものはあるんです。
　

　そして、この『レモン哀歌』の文章の圧倒的な上手さと緊張感！

　考えてみれば、読んでいて、これは凄くいい！　と思うような上質の小説や漫画の、
　そのクライマックスのもっとも良い部分の文章なりネームなりは、やっぱりとても美しくて、
　緊張感があって、詩的な輝きを放っているものだという気がする。

　つまり、おそらく極限まで上手な、本当に上手な小説やら漫画のネームやらは、
　同時に極めて美しい散文詩でもあるのだと思う。

　だから、ワナビの皆様も、小説とかだけではなくて、たまには（意味の分かる）良い詩を読んで、
　文章に美しさや緊張感を持たせる方法を学ぶのもいいかもしれない。


　いつの日にか、全編が詩のように美しい小説を書くのだ！