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2008年03月31日
猫姫の舞踏 20
「母が死んだ後、わたしたちは――わたしと父、それにまだ幼かったブランは――悲しみに暮れていたわ。特に父は、しばらく仕事が手に付かないほどだった。  それでも周りのみんなが助けてくれたおかげで、一月、二月と経つにつれて何とか、母を失った悲しみが和らいでいったわ。  ……でも、一人だけ、助けてくれるどころか、どん底に突き落とした人がいたわ」  そこでノアールは言葉を切る。彼女の悔しそうな顔が、カインの目に映る。 「ノアール?」 「……今でも、あの人の真意が分からない」  わたしの父は牧師だった。  少数派で、教会には異端扱いされている「猫」と結婚したせいで、あまり出世はできなかったみたいだけど、誰にでも優しくしていたから、町のみんなからの信頼は、とても厚い人だったわ。  だから、母が亡くなった時は一緒に嘆いてくれたし、落ち込んで教会に出られなくなった時も、温かく励ましてくれた。そのおかげで、母を失って2ヶ月も経った頃には、父もようやく仕事に戻れたの。 「……皆さん、2ヶ月もの間教会を閉ざしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」  久々に教卓に立った父は少しやつれていたけれど、穏やかな顔で集まったみんなに挨拶していた。 「まず、私の心の整理と、妻の平穏を祈るため、これだけ、語らせていただきます。  妻の死は、私にとって心を引き裂かれるようなことでした。平静な私ならば、『これも神のお導きでしょう』と言うべきところなのでしょうが、お恥ずかしい話――わが身に降りかかれば、とてもそんな一言で片付けられるものではない。  嘆き、苦しむ私に、皆さんは優しく手を差し伸べてくださいました。そして――プラチナさんの言葉が無かったら、私は今なお、深い悲しみの底にたゆとうていたでしょう」  言葉を所々詰まらせながら、父は集まってくれたみんなに頭を下げた。そして最後に、母の姉だと言う、プラチナさんに深々とお辞儀した。 「本当に、ありがとう……」  プラチナさんはゆっくり首を振って、静かに言った。 「いいえ、あなたが悲しんでいたら、あの子もきっと、悲しんだだろうから」  プラチナさんは母が亡くなる前日、突然わたしたちのところにやって来た。  それまでずっと、母とは会っていなかったそうなの。どうやって母のことを知ったのか、そしてどこから来たのかも――分からなかった。  でもあの人がいなかったらきっと、父は自分で言った通り、落ち込んだままだったと思うわ。本当に、その時はお世話になった。  ……その時、までは。わたしたち本当に、感謝していたわ――伯母さんが街を去る、その時までは。 (黄輪)

Posted by 黄輪 at 03:41 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年03月23日
猫姫の舞踏 19
「あ・・・いや、無理に話さなくてもいいんだぜ  理由なんかどうでもいいさ」 「ううん  あなたはどうあっても一緒についてくるつもりみたいだしね  それならそれでわたしも腹をくくるわ  そして・・・そうするのなら・・・  カイン、あなたにも知っていてもらったほうが都合がいいかもしれない」 「ふむ・・・  たしかに俺はあんたらにくっついてくつもりだしな  いつまでって聞かれたらそれはわからんが・・・  当分の間はボディガードがわりでもやっとくぜ」 ふ・・・とノアールはさびしそうな笑顔を見せて 「わたしたちの旅の理由・・・  それは『探し物』よ  あるモノを探しているの」 「あるモノ・・・?  それがなんだか聞いてもいいのかな」 ノアールは失くしたり盗られたりしないように、いつも腰にがっちりと留めているバッグから、一枚の写真を取り出してカインに見せた。 やせてはいるが、優しい笑顔の女性が赤ん坊を抱いている。 「わたしたち姉妹の・・・母よ」 「おお こりゃべっぴんさんだな  じゃぁ、この赤ん坊がノアールか」 「そう・・・これはわたし  この写真が撮られたときは貧しいけど幸せな時間だったらしいわ  これから2年後にブランが生まれたの  そして・・・  ブランが生まれてからまた2年後・・・母は亡くなったわ」 「え・・・そうだったのか・・・  つらいこと思い出させちまったな 悪かったな」 「ううん  もうつらさは忘れてしまったわ  ただ・・ときどきむしょうに恋しくなるだけ・・・」 ノアールはさびしげな笑顔を写真の母親に向けていた。 「それじゃ・・さがしものってのは?」 「そう、いわゆる形見の品ってやつかな  わたしたちが探しているのはこれよ」 そう言ってノアールは写真の女性の胸元に光る首飾りを指差した。 「この首飾り・・・これをさがしているの」 (キリン)

Posted by 黄輪 at 21:07 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年03月20日
猫姫の舞踏 18
 ノアールたちはカインを先頭に大通りを進み、裏路地に続く細道の前で、カインが振り返る。 「こっち、こっち」 「え?」「そっち?」姉妹同時に、声をあげる。  通常は大通りの方が、旅人などの「一見の客」は多い。だから、大通りに旅人向けの店が構えられるのが普通であるし、街の事情にうとい旅人にとっても、そちらの方がありがたい。  逆に、裏路地にある店と言うのは街に長く住んでいる、いわゆる「固定客」向けであり、普通は旅人が利用することはおろか、発見することさえ難しい。ましてや、宿と言うのは旅人しか使わない。  この街に来たばかりのカインが裏路地の店を見つけられるとは、いや、そもそも裏路地に宿が存在するとは、到底ノアールたちには考えられなかった。 「本当にあるの?」 「ま、論より証拠。見てみた方が早いぜ」  カインに導かれるまま、ノアールたちは裏路地に入る。消えかけていたカインへの不信感が、ほんの少し浮き上がりかけたが―― 「ども、大将!」 「ああ、どうもどうも。そちらの『猫』さんたちが、お連れさんで?」 「そーそー。じゃ、しばらくよろしくな」  どこをどう見ても、普通の宿だった。  カインはこの宿を簡単に、安く借りることができたからくりを説明してくれた。 「ま、この街は商売してるヤツが多い分、競争も厳しいわけだ。中には大通りで出し損ねて、仕方なく路地裏に店を出すトコもあるんだよ。たいてい、そんな店は旅の客には気付かれにくいし、なかなか客も入らない。  その分、お客を呼び込もうと苦労してるわけで――『いきなりだけど泊めてくれ』とか、『宿賃は安めにしてくれないか』とか、他のトコじゃ断られるようなことを頼んでも、ホイホイ呑んでくれるんだよ」 「へぇ〜……。カイン、すごーい」  ブランは尊敬のまなざしを、カインに向けている。 「ま、経験だよ、経験。……ま、俺も別の、似たような街で宿探ししてる時に偶然、このことに気付いたんだけどな」  ノアールもカインの手際のよさに感心していた。 「本当、手馴れたもんね。  ……料理はうまいし、気さくで気も利く。ごろつきまがいのことしなきゃ、アンタいい料理屋や商人になれるのに。何で旅してるの?」  ノアールの素朴な疑問に、カインは笑って答える。 「ん、まあ、はは……。気楽、だしな、うん」  と、カインは急に真面目な顔になり、ノアールたちを見すえる。 「ノアールたちこそ、何で旅してるんだ? 雰囲気と言い、そのー、『魔眼』のことと言い、単なる物見遊山には見えねーんだけどな」 「……」「う……ん」  その質問に、ノアールもブランも、黙り込んでしまう。 「……あっ、いや、いいんだいいんだ。言いたくなきゃ、うん」  3人の間に、気まずい沈黙が流れる。そのまま5分も経った頃、ノアールがぽつり、ぽつりと口を開き始めた。 「……あんまり、詳しくは言いたくないの。私と、ブランの問題だから。  でも、お弁当と、宿を見つけてくれたお礼に――ちょっと、だけ。ちょっとだけ、話すわ」 (黄輪)

Posted by 黄輪 at 01:04 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年03月15日
猫姫の舞踏 17
改札を出て、三人それぞれにあたりをきょろきょろと見回す。 まずは今夜の宿を見つけなければいけない。 「うーん  ふたりとも、ちょっとここで待ってな  すぐ戻ってくっから、どこにも行くなよ?」 そう言い置いてカインがあっという間に姿を消した。 「なんか落ち着かないヤツだねぇ、カインって  おねぇちゃん、どうするの?  まくなら今だと思うけど・・・・置いてっちゃう・・・?」 「たぶんすぐに追いかけてくるでしょ  なんとなくだけど簡単にまいたりできるヤツじゃなさそうだわ  ちょっと信用してみよっか・・・」 「うわ!  どうしたの、おねぇちゃん!  まさか・・・あのお弁当で惚れちゃったとか?」 ブランがからかうのに、そのおでこを人差し指で弾いてにらむノアール。 「ブランじゃあるまいし、食べ物でつられたりなんかしないわよ」 (・・・・そう・・・・  なんとなくだけど信じてみたい気がする・・・  なぜだろう・・・・?) そしてふと思い出した。 そう、カインはあの夢で何度も見た魔術師フォスに似ているのだ。 体型はかなり違う・・・カインは細身ながらも筋肉質でかよわさなどない。 顔が・・・どことなく面影のようなものが似ているのだ。 列車の中で夢を見たばかりのときにカインがそこにいたからそう感じたのかもしれない。 そうかもしれないけど・・・なんだろう・・・・ その人が持つ空気のようなものが共通しているように思えた。 なにより、「猫」としての自分の勘が、カインを信用してもいいと伝えていた。 たいして待つほどもなくカインが駆け戻ってきた。 「おっけー!  きょうの宿を見つけてきたぜ  歩いてすぐそこだ  メシ付きで格安で話つけてきた、いこうぜ」 「え・・・?」 ノアールもブランもあっけにとられながら さっさと歩きだしたカインの後を追った。 「ちょっと待って!  部屋はちゃんと別々にあるんでしょうね?」 「あ・・・当たり前じゃねーか  俺は男なんだぜ・・・・」 意外なことにカインが真っ赤になっている。 ノアールは思わずくすりと笑ってしまった。 もしかしたらいい旅になるのかもしれない、という気持ちになった。 (キリン)

Posted by 黄輪 at 15:41 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年03月06日
猫姫の舞踏 16
 また、するりと夢の世界へ入り込む。  また、あの女と魔術師の夢を見る。  そしてまた、ノアールは黙って、その二人を見守っていた。 ――あなた、顔色が悪いわ。本当に、この峠を越えられるの?――  女が魔術師に尋ねる。魔術師は確かに、青い顔をしている――かなり痩せているし、体はあまり、丈夫な方ではないらしい。 ――ああ、うん……。大丈夫だよ、アイラ。こんなところで、休んではいられない―― (アイラ? あの、女の人のこと?)  ノアールは少し、驚いた。この夢を何年もずっと見続けて、今ようやく、女の名前を聞かされたのだ。 (ううん、それだけじゃない。ここ――このシーン、初めて見る) ――無理、しないでね。もしあなたが倒れたら、あたし――  魔術師はにこっと微笑み、女に応える。 ――大丈夫、大丈夫。私にはまだ、やらなければならないことがある。そして、君も……、あ、いや。君たちも、守らなきゃいけない―― ――……うん。お願いね、フォス――  ここで、夢から覚めてしまった。 (あれ……? いつもの、倒れるシーン、は……?)  眠る時間が短かったためなのか、いつも見る、フォスと言う魔術師が倒れ、アイラと言う女が泣き叫ぶシーンを見ることは無かった。 (……でも。何だか、幸せそうだった)  いつも見る悲劇のシーンとは違う、あの二人の幸せそうな会話と、笑顔。その二人の顔も、初めて見たような気も――。 (……初めて、かな? どこかで、見たような、気が)  ぼんやり考えているうち、また、眠気がやってくる。  今度は、夢を見なかった。いや、見たような気もするが――。 「おい、ノアール! ブラン! もうスタン駅に着くぜ! ほら、起きなって!」  カインの声と、慌てて飛び起きたせいで、こっちの方はすっかり、忘れてしまった。 「ん、ん〜! あー、関節ポキって鳴った!」  何時間も列車に揺られて疲れたのか、ブランが伸びをしている。カインも同じように、首をコキコキ言わせ、体をほぐす。 「はー……。もう大分、暗くなっちまったなぁ。宿、あるかな?」 「あるかな、って……。まだ、付いてくる気?」 「おう」  当たり前のように、カインがうなずく。ノアールはもう、この話をすること自体、不毛な気がし始めていた。 (どうすればいいのかしら、ね。……もう!) (黄輪)

Posted by 黄輪 at 02:10 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年02月28日
猫姫の舞踏 15
しゃべる余裕もなく半分ほど食べたブランが 「んぐ。。。それにしてもこのお弁当おいしいなぁ  おなかがすいてたってこともあるけど・・・  すっごいおいしいよ〜」 「たしかに・・・  わたしもおなかすいてはいたけど  それを差し引いてもかなりおいしいわ  お店なんてどこも開いてなかったのに  どこにこんなお弁当売ってたの?」 「ふふ・・・だろだろ?  あれよ、昨夜帰ってからそれ作るのに結局一睡もしてねえんだ  次の駅までだって2時間はあるしな  ちょっとごめんよ・・・・よいしょっと」 カインはそういうと向かい合って食べているふたりの隣に入り込み 座ったと同時に小さくイビキをかきはじめた。 「ちょ・・・ちょっと  ずうずうしいわね あっちいきなさいよ!」 ノアールが眉をしかめて追い出そうとするがもう眠ってしまっている。 「なんなのこいつは・・・意味わかんないやつねもぉ! ブラン、次の駅でこいつ置いて降りるからね!」 「ちょっとまってよおねぇちゃん いまこの人さ 『これ作るために一睡もしてない』って言わなかった? ってことはこのお弁当、この人が作ったんだよ!?」 「え・・・そういやそんなこと言ったわね・・・」 「すごぉぉぉぉい! こんなおいしいもの作れるなんてすごいよぉぉ もう連れてっちゃおうよ 毎日おいしいごはん食べれるんだよ?」 「なにバカなこと言ってんのよブラン ますます得体が知れないわ とにかくこのまま寝せておいて、次でそっと降りるわよ」 「ちぇ・・・ 昔から『料理のうまい人に悪い人はいない』って言うのにー」 「そんなコトワザ聞いたことないわよ」 苦笑しながら次の駅で降りたあとのことを考え始めたノアールは 小さなため息をついた。 (さて。。。どうしようかな  次の町にはあまりいい宿もなかったはずだし・・・  とりあえず一泊だけして明日また早朝に予定の町へ向かうかぁ) ふと向かいを見ると、おなかがふくらんだブランが居眠りを始めていた。 ノアールもうとうとと眠くなる。 (んー・・・おなかいっぱいだと眠くなっちゃうなぁ  朝はやかったしなぁ・・・ふあぁぁ) ほんのちょっとだけ・・・と窓に頭をつけてうとうとしてしまう。 次の駅への到着を告げる車内アナウンスで目が覚めた。 「いけない!   つい眠っちゃったわ・・・ブラン!」 「おいおい・・・よく眠ってんだ、寝せといてやれよ  目的の町まではまだ半日かかるんだろ」 「カイン・・・!  起きてたの!?」 「もちろんさ  ふたりが眠ってんのに、護衛の俺が寝てちゃ役にたたねえや  まぁ、ちょっとでも異様な空気がありゃすぐ目は覚めるがな」 「護衛って、なに言ってんのよ・・・  一緒にいくなんて一言も言ってないからね  お弁当ひとつでまるめこまれたりしないわ」 「ちぇ・・・  まぁ、とにかく次の駅で降りるのはやめときな  あそこはろくな町じゃねぇ  あとをどうするにしろ、いまはこの子寝せといてやろうじゃないか  あんたも空気には敏感だろ  俺は悪さしない、約束するから少し眠りな」 ブランの寝顔を見ていると起こすのもかわいそうに思えた。 どっちみち、カインは一筋縄でいける男ではなさそうだ。 予定の町までになんとか考えればいいと思いなおしてノアールは再び目を閉じた。 (キリン)

Posted by 黄輪 at 17:56 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年02月21日
猫姫の舞踏 14
「わぁ、お弁当だ!」  弁当箱を見るなり、ブランは先ほどの不機嫌が嘘のように目を輝かせ、尻尾をバタバタと騒がせながら、ひったくるようにして弁当箱をつかんだ。 「食べていいの? 食べていい?」 「おう、いいぜ。俺のオゴリだ」 「やったー!」  弁当を差し出した男の許可をもらうなり、ブランは弁当箱を開け、がっつき始めた。 「むぐ、むぐ……」 「ほれ、お茶いるか?」 「むぐっ(いるっ)」 「ほい」  ブランは茶を受け取り、それも勢い良くのどに流し込んでいく。  ノアールは突然現れた男と、ブランの食いっぷりに、呆気にとられていた。が、ここでようやく我に返り、男に向かって怒鳴った。 「か……、か、カイン! 何であなた、ここにいるのよ!?」 「よっ、どーもー」  慌てるノアールに対し、男――カインはあくまでひょうひょうと、ノアールたちに会釈した。 「何でって、つけてきたから」  当然のように答えられ、ノアールは頭を抱え込んだ。 「……最悪」  後ろ髪を惹かれる思いで撒いたはずなのに、その相手が目の前にいる。ノアールの気持ちは一気に沈んだ。 「どしたの、おねえちゃん?」 「ブラン、何とも思わないの? コイツのせいで、おばさんへのあいさつ、できなかったのよ?」 「あ、そっか。んー、でもさ、おべんと美味しいよ?」 「はぁ?」  餌付けされたブランは、すでにカインとの確執など忘れ去ってしまっている。 「ま、ま。それにさ、今生の別れってわけじゃねーんだしさ」  ブランに2杯目のお茶を注ぎながら、カインが口を挟んでくる。 「黙ってて、カイン。ブラン、あなたもいい加減、ご飯で釣られるのやめなさいよ。17にもなって、恥ずかしいと思わないの?」 「んーん」  ブランは白身魚のフライを口に運びながら、首を横に振る。 「あなたねぇ……」 「まーまー、落ち着けって、ノアール。な、ほら、弁当食えよ」  カインはニコニコしながら、ノアールに弁当を手渡す。 「うるさいわね! いらないわよ、そんな……」  いきり立ち、突き返そうとしたノアールの鼻腔に、焼きたてのパンの香りが、ふわっと漂ってくる。匂いをかいだ途端、「ぐぅ……」とお腹が鳴ってしまう。 「う……」「ほーら、おねえちゃんもお腹すいてるんでしょ? 食べようよー、一緒に」 「ほら、お茶もあるぜ」  ノアールはブランとカイン、さらに弁当の、美味しそうなバターの香りに押され――。 「……そこまで、言うなら」  結局、弁当の包みを開いた。 (黄輪)

Posted by 黄輪 at 00:56 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年02月16日
猫姫の舞踏 13
列車が走り出して数時間がたち、日も高くなってきた。 「ねぇ。。。おねぇちゃん。。。」 「ん? どうしたの?  朝早かったからちょっと眠い?」 「ううん・・・そうじゃなくてね・・・  おなかすいた・・・・」 「ぷっ  ブランったら食い気ばっかりねもぉ  ・・・とはいえ、朝早かったから朝食もとって  なかったんだったね  しまったなぁ・・・  駅のお店もまだ開いてなかったし  なんにも買ってきてないわ  うわぁ、食べ物がないと思うとわたしもおなかすいちゃった  おもしろいもんね あははは」 「ちょっと おねぇちゃん!  笑い事じゃないわよ〜  このままじゃおなかすいて死んじゃうよぉ」 ブランはほっぺをふくらませて抗議している。 食べ物がからむとかなり本気でイライラするらしい。 「だって、ないんだものしょうがないじゃない  んとね・・・あと2時間もしたら大きな駅につくから  そこだと停車時間も長いし、なにか食べ物買いましょう」 「やだもぉぉぉ  2時間もなんてガマンできないよぉ」 ブランは涙さえ浮かべ始めている。 「そんなこと言っても・・・・  どうしようもないわよ、ガマンしなさい」 「ぅぅ・・・地獄だ・・・・」 「はい、おじょうさんたち  そんなことだと思ってちゃーんと用意してあるよ!  おいしいお弁当はいかがかなぁ〜」 ノアールの後ろの座席から突然聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。 そして、大きな弁当箱がふたつ、ふたりの前に差し出された。 (キリン)

Posted by 黄輪 at 04:09 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年02月08日
猫姫の舞踏 12
 二人は次の旅に思いを馳せつつ、この街で最初に訪れた場所、そして最後に訪れる場所――テルル駅に足を運んだ。 「もう、秋も終わりだね。ここ、最初に来た時は蒸し暑いなって思ってたけど、今は何だか、温かいもん」  ブランの言う通り、駅構内は列車から流れてくる蒸気がたまり、少し冷たく、乾いていた空気をほんのりと暖かなものに変えている。 「そうね。もう少ししたら、雪も降ってくるわ。あんまり北へは、行かない方が良さそう」  ノアールは路線図を仰ぎ見ながら、ブランに相槌を打った。 「じゃあ、南にする? あ、でも南だと、朝になるのも早いかな」 「もう、ブランったら」  ノアールは苦笑しつつ、どの方角に行こうかと思案する。 (そうね……。北はさっき話したとおり、却下。東は来た方向だし、残るは西か、南。南は暖かいけれど、直線的な路線は無いから、かなり遠回りな旅になるわね。じゃあ……) 「西に、行こっか」 「あ、やっぱりおねえちゃんもぐっすり……」「そんなわけ無いでしょ。季節とか来た方角を考えて、西よ。それで……」  ノアールは現在地、テルルから西に4駅ほど離れた地名を指差す。 「スタンの街に行きましょ。ここもテルルと同じ、平和な街らしいから。それに商業が盛んなところだから、色々と情報がつかめるかもしれないし」 「商売が、盛ん? じゃあ、美味しいケーキ屋もあるかな?」 「またそんなことばっかり……」  ブランの方を振り返って、ノアールはまた、苦笑した。  スタンの街へ行く切符を買い、二人は列車に乗り込んだ。それから間も無くして列車は動き出し、二人を運んでいく。 「この街ホントに、楽しかったなぁ」 「そうね……」  ブランは寂しそうに窓の外を見つめている。ノアールも外を眺め、小さくうなずいた。 「ね、おねえちゃん」 「ん?」 「また、来ようね。おばさんにもまた、会いたいし」 「そうね。また……、来ましょ」  力強く進んでいく列車の先で、汽笛が鳴った。訪れた時は軽快だったその音色も、今の二人にはどこか、切ない響きに聞こえた。 (黄輪)

Posted by 黄輪 at 18:29 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年02月07日
猫姫の舞踏 11
「ブラン起きて」 「んぁ・・・・んー・・・んぐぅ・・・・・・」 「ほら、起きてってば!  支度するわよ!」 「ええ〜・・・・  いま何時よぉ・・・・んんー・・・・  まだこんな時間じゃなぃ  なんの支度するのよぉ・・・」 「昨夜話し合ったじゃない  ここを出るのよ  さっ、早く起きて顔を洗って支度するのよ」 しぶしぶ起き上がったブラン 「昨夜話し合ったからって急すぎじゃない?  おばさんにもまだなんにも話してないのに・・・  もしかしたら今夜のごはんの用意してるかもしんないよ!?」 「そんなわけないでしょ  屁理屈いってないで早くしなさい」 「だってー・・・  なんでそんなに急ぐのよ  夜が明けたばっかりだよ?」 「だから急いでるの  昨夜あの男がここにきたこと忘れてるんじゃないの?  あいつがまたくる前にここを出てしまいたいのよ  できたら夜が明ける前に出発したかったくらいだわ」 「ああ・・・そっか・・・・  わかった」 ふたりは手早く支度をすませた。 旅なれているのでこういうことは早い。 1時間もしないうちに準備を整え、部屋のテーブルに 女主人にあてた丁寧な手紙とじゅうぶんすぎるだけの 宿代を入れた封筒を置いてそっと宿を出た。 「はぁ・・・しかたないことだとはいえ  おばさんにはちゃんと挨拶したかったなぁ  おいしいごはんいっぱい食べさせてもらったのになぁ  ・・・・・ほんとのおかあさんみたいだったのにな」 「・・・・・・・・・・・・」 ノアールも同じ気持ちであった。 ブランと違ってかすかながらとはいえ母の記憶がある。 まだ幸せにのんびり暮らしていた頃の思い出が重なる。 たぶん、ブランよりもっとノアールのほうが寂しさは 大きいのだろう。 なにも言わないノアールを見て、ブランもその気持ちを 察したのか、宿の主人についてはそれ以上言わずにいた。 「ね、おねえちゃん  次はどこへ行くかはもう決めてあるの?」 「うーん・・・  ほんとに急に出てきちゃったからね  まだちゃんと決めてないなぁ  とりあえず駅までいって、どこへ行くか決めよう」 「おっけぃ  そうだなぁ・・・  今度はあんまりはやく夜が明けないほうがいっぱい寝ていられるから  西のほうがいいな!」 「ばかね、なにいってんの  西も東もそんなに変わりはしないわよ」 無邪気なブランを見て、ノアールの顔が少しほころぶ。 お互いの気持ちを汲みあってすごしていける。 改めて妹を愛しいと思えるノアールであった。 (キリン)

Posted by 黄輪 at 15:59 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
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