2008年02月08日
猫姫の舞踏 12
二人は次の旅に思いを馳せつつ、この街で最初に訪れた場所、そして最後に訪れる場所――テルル駅に足を運んだ。
「もう、秋も終わりだね。ここ、最初に来た時は蒸し暑いなって思ってたけど、今は何だか、温かいもん」
ブランの言う通り、駅構内は列車から流れてくる蒸気がたまり、少し冷たく、乾いていた空気をほんのりと暖かなものに変えている。
「そうね。もう少ししたら、雪も降ってくるわ。あんまり北へは、行かない方が良さそう」
ノアールは路線図を仰ぎ見ながら、ブランに相槌を打った。
「じゃあ、南にする? あ、でも南だと、朝になるのも早いかな」
「もう、ブランったら」
ノアールは苦笑しつつ、どの方角に行こうかと思案する。
(そうね……。北はさっき話したとおり、却下。東は来た方向だし、残るは西か、南。南は暖かいけれど、直線的な路線は無いから、かなり遠回りな旅になるわね。じゃあ……)
「西に、行こっか」
「あ、やっぱりおねえちゃんもぐっすり……」「そんなわけ無いでしょ。季節とか来た方角を考えて、西よ。それで……」
ノアールは現在地、テルルから西に4駅ほど離れた地名を指差す。
「スタンの街に行きましょ。ここもテルルと同じ、平和な街らしいから。それに商業が盛んなところだから、色々と情報がつかめるかもしれないし」
「商売が、盛ん? じゃあ、美味しいケーキ屋もあるかな?」
「またそんなことばっかり……」
ブランの方を振り返って、ノアールはまた、苦笑した。
スタンの街へ行く切符を買い、二人は列車に乗り込んだ。それから間も無くして列車は動き出し、二人を運んでいく。
「この街ホントに、楽しかったなぁ」
「そうね……」
ブランは寂しそうに窓の外を見つめている。ノアールも外を眺め、小さくうなずいた。
「ね、おねえちゃん」
「ん?」
「また、来ようね。おばさんにもまた、会いたいし」
「そうね。また……、来ましょ」
力強く進んでいく列車の先で、汽笛が鳴った。訪れた時は軽快だったその音色も、今の二人にはどこか、切ない響きに聞こえた。
(黄輪)