2008年02月21日
猫姫の舞踏 14
「わぁ、お弁当だ!」
弁当箱を見るなり、ブランは先ほどの不機嫌が嘘のように目を輝かせ、尻尾をバタバタと騒がせながら、ひったくるようにして弁当箱をつかんだ。
「食べていいの? 食べていい?」
「おう、いいぜ。俺のオゴリだ」
「やったー!」
弁当を差し出した男の許可をもらうなり、ブランは弁当箱を開け、がっつき始めた。
「むぐ、むぐ……」
「ほれ、お茶いるか?」
「むぐっ(いるっ)」
「ほい」
ブランは茶を受け取り、それも勢い良くのどに流し込んでいく。
ノアールは突然現れた男と、ブランの食いっぷりに、呆気にとられていた。が、ここでようやく我に返り、男に向かって怒鳴った。
「か……、か、カイン! 何であなた、ここにいるのよ!?」
「よっ、どーもー」
慌てるノアールに対し、男――カインはあくまでひょうひょうと、ノアールたちに会釈した。
「何でって、つけてきたから」
当然のように答えられ、ノアールは頭を抱え込んだ。
「……最悪」
後ろ髪を惹かれる思いで撒いたはずなのに、その相手が目の前にいる。ノアールの気持ちは一気に沈んだ。
「どしたの、おねえちゃん?」
「ブラン、何とも思わないの? コイツのせいで、おばさんへのあいさつ、できなかったのよ?」
「あ、そっか。んー、でもさ、おべんと美味しいよ?」
「はぁ?」
餌付けされたブランは、すでにカインとの確執など忘れ去ってしまっている。
「ま、ま。それにさ、今生の別れってわけじゃねーんだしさ」
ブランに2杯目のお茶を注ぎながら、カインが口を挟んでくる。
「黙ってて、カイン。ブラン、あなたもいい加減、ご飯で釣られるのやめなさいよ。17にもなって、恥ずかしいと思わないの?」
「んーん」
ブランは白身魚のフライを口に運びながら、首を横に振る。
「あなたねぇ……」
「まーまー、落ち着けって、ノアール。な、ほら、弁当食えよ」
カインはニコニコしながら、ノアールに弁当を手渡す。
「うるさいわね! いらないわよ、そんな……」
いきり立ち、突き返そうとしたノアールの鼻腔に、焼きたてのパンの香りが、ふわっと漂ってくる。匂いをかいだ途端、「ぐぅ……」とお腹が鳴ってしまう。
「う……」「ほーら、おねえちゃんもお腹すいてるんでしょ? 食べようよー、一緒に」
「ほら、お茶もあるぜ」
ノアールはブランとカイン、さらに弁当の、美味しそうなバターの香りに押され――。
「……そこまで、言うなら」
結局、弁当の包みを開いた。
(黄輪)