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2008年02月04日
猫姫の舞踏 10
「何なの、アイツ?」 「……」  ブランが呆れた口調でノアールに尋ねたが、ノアールも呆れてしまっている。 「……バカ、ね」  その後は特に、誰かが来るような様子も無かったため、二人は改めて、眠ることにした。  ベッドの中で、ノアールはぼんやりと、カインとのやりとりを思い返す。  ――俺はカイン・パイロストーン。金と、俺の利益になりそうなことは、何でもやる――  ――その、なんだ……、つれてってほしいんだ!――  ――あんたたちと一緒に行きたいんだよ――  ――俺もそれなりに決心してんだ。ぜってーついてくからな―― (……本当についてきたら、どうしようかな。そうなったらきっと、ブランは『ここまで頼み込んでるんだからさー、つれてってあげようよ、おねえちゃん』とか、言うに決まってる。  絶対、ダメ。あいつが自分で言った通り、あいつはきっと、自分の利益優先、自分の都合でしか、動かないわ。そんな奴、旅に加えたりなんかしたら――ここぞと言う時に、裏切るかもしれないし、いつ金品を奪って逃げ出すか、分からない――そんな奴を加えたら、最悪、命に関わることもある。  明日、何があっても。ブランが何を言っても。絶対、カインと一緒に行動は、しちゃいけないわ。だって、あいつは、自分、で……言った……)  考えるうちに、思考が鈍くなってくる。同じことを繰り返し考え、結論がぼやけてくる。やがて眠気が完全に、彼女の思考を止めさせた。  ――ああ、しっかりしてよ!――  夢の中で、誰かの声が聞こえてくる。  ――目を開けて! 死なないで!――  ノアールはこの光景に、見覚えがある。だが、ぼんやりとした印象で、いつのことだったか思い出せない。  ――あと、もう一息なのに! あなたがいなきゃ――  その光景に見覚えはあるのだが、目の前の二人が誰なのか、ノアールは知らない。  ――ああ……! あたし、どうすればいいの!?――  声の主は、ノアールより大分年上のようだ。倒れている者は、魔術師風の身なりをしている。  ――もう、おしまいだわ――  声の主は、倒れたままの魔術師を抱えながら、泣き叫んでいた。  そこで、目が覚めた。 「……あの夢、か」  同じ夢を、ノアールはすでに十数回見ていた。内容はいつも同じ。倒れた魔術師を抱きかかえた女が、泣き叫んでいる夢だ。 「しばらく、見なかったのに」  6歳の頃に初めて見て以来、何ヶ月かに一回の間隔で、その夢を見ていた。  ブランや、はるか昔健在だった両親に聞いても、思い当たる点は無く、ただの夢だろうと言われた。だが、それで済ますにはどうにも、生々しい感触のある夢であり、それには何らかの、大きな意味が込められていると、ノアールは信じていた。  それがきっかけで、彼女は旅に出たのだ。旅の間は特に、その夢を見ることが多くなった。誰かが、メッセージを送っているのかもしれない――ノアールはそう思っていた。  だが、ブランと二人旅を始めて以来――つまり、一人旅をやめて以来――3年間ずっと、見ていなかった。 (なぜ、今になってあの夢を……?  誰かが――恐らく、あの人たちが――メッセージをまた、送ってきたのかしら。私に、何を伝えようとしているのだろう。  ……もう、朝か)  夕べカインが出ていった窓から、朝日が差し込んでいた。 (黄輪) 2008.2.8 修正

Posted by 黄輪 at 22:43 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年02月03日
猫姫の舞踏 9
「カイン・・・ね  話ってなに?  わたしあんまり気が長いほうじゃないのよ  さっさと話して出て行ってもらえないかしら?」 たいていの場合において冷静沈着なノアールが珍しくいらだっている。 なにより、寝ついたところに突然侵入されたのが気に入らない。 そして・・・今夜ブランと旅立ちについて話し合ったばかりだったのだ。 できることならそっと旅立ちたいと思っていたノアールには、この珍客は煩わしいだけであった。 「まぁ・・・そうイライラすんなよ・・・  っても無理はないってのもわかるがな  こんな夜中にこっそり忍び込んだのはほんとに悪かった  まじにそれは謝るぜ」 カインは本心から詫びるように頭を下げた。 「ただな  少しでも早くこうしないと・・・あんたたち出てっちまうだろ  俺があんたたちの正体バラしちまったからな  『魔眼のモノ』は人とあまり交わりたがらないってのも聞いたことある  とくに・・あんたたち、この宿のおかみさんには迷惑かけたくなさそうだしな」 「だからなんなの・・・  わたしたちがどうだろうとあなたに関係ないでしょ  謝りにきたのならもうけっこうよ  それでじゅうぶん、もうお引取り願いたいわ」 「いや・・・  もちろん謝りにもきたんだが  いやな・・・じつは・・・  うーん・・・  本題は別にあんだよな」 「なんなのよ!  ほんとに怒るわよ?  いいかげんその本題とやらを話してちょうだい  もうこんな時間・・・いつまでも付き合っちゃいられないわ!」 「あああああー  わかったわかった  イライラすんなよ・・・話すよ  あのな・・・  あんな真似しといてなんなんだが・・・  えーと  つれてってほしいんだ!」 「はぁ・・・?」 「意味わかんないんだけど・・・?」 ノアールもブランも顔を見合わせて首をかしげた。 「だから、つれてってほしいんだよ、この俺を!  あんたたち、自分らの正体知ってるやつがいるってわかったら  もうこの町から出てっちまうだろ?  俺もどうせこの町からそろそろ出ようと思ってたとこなんだ  どこへ行くってアテがあるわけでもねーし  あんたたちと一緒に行きたいんだよ  だからこんな時間にこっそりやってきたわけさ」 カインの鼻先に人差し指を突きつけてブランが小声で言った 「あんたね・・・ばっかじゃないの?  なんでわたしたちがあんたをつれてかなきゃいけないのよ  正体知ってるっても他にだれも見てないんだからね  てゆーか!  正体正体ってねー  わたしたちが「ソレ」だって証拠もなーんもないんだからねー」 ノアールも続く 「そうよ・・・  わたしたちはずっと二人で旅をしてきたの  他の人間なんて必要ないわ  というよりジャマなだけ  せっかくのお申し出だけどお断りするわ  さ、話は終わったわね  出ていってちょうだい」 「おぃおぃ  頼むよ、ほんと  あんたたちの動きに惚れちまったんだ  あれよ・・・いわゆる弟子入りしたいわけだ!」 「いい加減にして・・・  悪いけど、わたしたち猫には人間の「ウソ」がわかるのよ  なんとなくだけど・・・本能ってやつね  それに弟子なんてジャマなだけ  ますますお断りよ  これ以上居座るのならこちらにも覚悟があるけど?」 ノアールの左目がキラリと光る。 「わかった・・・わかったよ  今夜のとこは退散するさ  しかし、ダメだって言われて簡単には引き下がれねぇ  俺もそれなりに決心してんだ  ぜってーついてくからな」 カインはそう言い置いて、窓からすっ・・・と姿を消した。 (キリン)

Posted by 黄輪 at 04:50 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年01月27日
猫姫の舞踏 8
 二人はベッドからそっと抜け出し、傍らにある武器を手に取り、注意深く窓の様子を伺う。そうして10秒ほど、影とにらみあっていた。すると――。 「……く、くくく。くっ、あははは……。そうにらむなよ〜」  どこかで聞いた覚えのある、男の笑い声が聞こえてきた。だが、二人は依然、警戒を解かない。その影は両手を挙げ、敵意が無いことを示しながら、するっと部屋に入ってきた。 「こんちゃー、っと、夜だったな、そう言や。んん、こんばんはー。……さっきはちっと、悪りーことしたな、おじょーちゃんたち」  ここでようやく、二人は男の正体に気付いた。ブランがそっと、魔術で灯りをともす。 「『ライトボール』……、照らして」  ほのかな、蛍色の光が男の顔を照らす――間違いなく、二人を襲った男の一人、あのリーダーだった。  ノアールは剣を構えたまま、男に向かって怒鳴る。 「どうしてここが……、ううん、それよりも! 一体、何しに来たの!?」 「だからー、そう怒るなって。ちっと、話をしに、さ」 「話……?」  男はニコニコ笑って手を二人にかざしながら、椅子に腰かける。 「ま、自己紹介させてもらうぜ。  俺の名はカイン。カイン・パイロストーン。基本は、旅人。時々、盗賊とか、商人とか、バクチ打ちとか――金と、俺の利益になりそうなことは、何でもやる。  流れ者で、家族は無し。その場の気分で、他の旅人とつるんだり、いがみあったりしてる。実を言えば、さっきの奴らも酒場でちょっと、意気投合しただけ。ま、あの時は成り行きでリーダー面したけどな」 「ふ、ん。つまり、ならず者ね」  ノアールに冷笑され、カインは額に手を当てて、軽くうなる。 「うっわ、きっついなぁ。……まあ、それで、アンタたちの名前、教えてくんねーかな?」  ノアールは眉をひそめ、声を荒げる。 「何で、アンタに教えなきゃいけないの? 出てってよ、話すことなんか、何も……」  まくしたてて追い出そうとしたが、ブランが簡単に答えてしまう。 「あたしはブラン。こっちはおねえちゃんの、ノアール」「ブラン!?」  妹の行動に、ノアールは驚きを隠せない。半ば声を裏返らせつつ、ブランをしかる。 「何考えてるの!? コイツは、あなたを襲おうとしたのよ!?」 「え、でも、だって……、無事だったじゃない。それにこの人、そんなに悪そうでも無いと思うよ、あたし」  ブランのあっけらかんとした態度に、カインも目を丸くしている。 「お、おいおい……。そんな簡単に、他人を信じちゃダメだろ、普通。まあ、素直に聞いてくれるのは、嬉しいけどよ」  ノアールはまだ、カインを追い払おうと考えていたが、諦めた。  ここは2階。音も無く――獣人のノアールたちでも、ほとんどかすかにしか聞き取れないくらいの物音しか立てずに――侵入したことだけを取っても、この男の腕は相当なものである。恐らく一対一では、ノアールにはかなり、分が悪いだろう。  ブランの助けが必要になるところだが、カインへの警戒心はどうやら、とっくに消えてしまっているらしい。手伝ってもらうのは、難しそうだった。  となれば――後は、交渉なり話し合いなりで、この珍客を何とかするしかない。 「……はあ。それで、話って何なの、パイロストーンさん?」 「お、聞く気になってくれたか。いやー、話が早くて助かるぜ、ははっ。  あ、あと、カインって呼んでくれていいから」  ノアールの言葉に、カインはまた、屈託無く笑った。 (黄輪)

Posted by 黄輪 at 18:59 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年01月26日
猫姫の舞踏 7
「おばさ〜ん ただいまっ  きょうはおみやげあるんだよ」   いつも笑顔で迎えてくれる宿の女主人がきょうも変わらない笑顔でふたりを迎える。 「おかえり  おや、いい匂いだねぇ  ブランちゃん、口の横、クッキーのかけらがついてるよ  お菓子食べながら帰ってきたんだね。。。ならもうごはんはいらない?」 「ええええー  ごはんとおやつは別腹だよ  ごはんごはん! おなかすいたよぉ  とりあえず着替えてくるからすぐごはんにしてね!」 大きな声で言い置きながら元気に階段を駆け上っていく。 「ブランちゃんはいつもほんとに元気だね  あんたたちみてると自分の娘みたいな気がしてくるよ  おみやげ、ありがとね  夕食のあとでみんなでいただこうね」 「うん、おばさん  いつも騒がしくてごめんなさいね  わたしも着替えてくるわ」 「騒がしいなんて思っちゃいないさ  あんたたちが静かにしてたんじゃかえって心配だよ  すぐごはんにするから早く降りておいで」 女主人はまるで母親のような暖かい笑顔でそう言った。 はやくに親と別れて、母親の顔もうろおぼえにしか思い出せないノアールは そこに母親が立っているような錯覚に襲われて、ふと涙をこぼしそうになる。 それを隠すように背中を向けてブランが向かった部屋へと階段を上った。 食事を終え、食後のおやつも堪能して、ふたりはまた部屋へ戻っていた。 「おねえちゃん、おなかいっぱいってシアワセだよね〜  毎日こんな日ばっかりだといいなぁ」 「そうね。。。  でも、もうそろそろこの町ともお別れしなきゃいけないわ」 「ええっ!?  まだいいじゃない・・・  わたしたちのこと変な目で見る人もいないし  もちろん正体バレてもいないんだし・・・  なにも問題なんてないじゃない  もう少し・・・ね?  わたし、あのおばさんのいるこの宿に泊まっていたいわ・・・」 「わたしだって同じ気持ちよ  まるで、ほんとのおかあさんといるみたい・・・  でも・・・だからこそもうここにはいちゃいけない気がするの  わたしたちの旅の目的を思い出さなきゃいけないわ・・・」 「わかってるけど・・・  今回はほんとにつらいよ・・・  できることならもうずっとここに住んでいたいくらいなのに・・・」 「同じ気持ちなのよ  でも、このままじゃいずれおばさんに迷惑をかけることになる  そうなってからじゃ・・・いまみたいな笑顔みれなくなっちゃう  あの笑顔があるうちに、ね  次の町へ出発しよう」 「わかった・・・」 ノアールもブランもそれぞれの胸に痛みを感じながら床についた。 やがてかすかな寝息が聞こえはじめる。。。。 どれくらい静寂が続いたのか、ふとノアールの耳がピン!と立った。 ほぼ同時にブランの耳も立ち上がる。 「おねえちゃん・・・・」 「しっ」 月明かりが差し込む窓にひとつの黒い影が浮かんだ。 (キリン)

Posted by 黄輪 at 22:10 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年01月19日
猫姫の舞踏 6
 男たちのことなどすぐに忘れ去ったブランは、菓子袋をもぞもぞと開けて、クッキーをつまんでいる。 「ポリポリ……、ねえ、おねえちゃん。とっさに『魔眼』使っちゃってゴメンね」 「ん……。まあ、仕方ないわよ。あの状況じゃ、ね」 「うーん……」  ブランはうつむきがちに、2つ目のクッキーをつまむ。 「でもさ――良くは、あたしも分かんないけど――危険なんでしょ? いつも、『使っちゃダメ』って言ってるじゃない。ホントに、使って良かったのかなぁ」 「使い方よ。本当に、ここだって言う時だけ、使えばいいの。  お金だってそうよ。あるからって全部、使っちゃダメよ。キチンと……」「あーあー、はいはいっ!」  ブランは半分になったクッキーをつかんだままの指をピンと立てて、ノアールの話をさえぎる。 「……ま、でも。そう言う、ホントに使わなきゃいけない時でもさ」  そこでブランは急に、神妙な顔つきをした。 「おねえちゃんには、使わせたくないな。だって、昔おねえちゃんの『魔眼』見た時、ホントに怖かったんだから」 「そう、かな?」  ノアールはすっと、自分の頬に手を当てる。 「でも、時々は使わないと。あの踊りだって、本当は……」「でも!」  ブランは菓子袋から3枚目のクッキーを取り出して、ノアールの口を押さえた。 「……でも、怖いの。ホントに、心配だから」 「……」  ノアールは差し出されたクッキーを飲み込んで、反論しようとしたが、妹の心配そうな目つきを見て、それをやめた。  妹は自分のことをとても、心配してくれているのだ。自分のことを真に、気にかけてくれるのは、もうブランしかいない。その気遣いに反論ばかりして、無下にしたくはなかった。 「……うん、気を付けておくわ。さ、早く戻りましょ」  ブランは菓子袋を閉じて、姉の言葉にうなずいた。 「うんっ」  ふわ、と夜風が流れる。風は姉妹の間をすり抜けていく。それに引かれて、彼女たちの髪も、サラサラとなびく。  髪で隠されていた、ノアールの右半面があらわになる。その右目には、何かの紋章が描かれた眼帯がきつく、はめられていた。  その眼帯の下にある、「魔眼」――この目を、そしてその目をさらした、姉の素顔を見知っている者は、今ではブラン一人だけである。 (黄輪) 2008.1.25 修正

Posted by 黄輪 at 17:17 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年01月18日
猫姫の舞踏 5
「なにぃ・・・っ・・・・おまえら・・・・」 言い終わらないうちにリーダー格の男は空中を舞い地面にたたきつけられた。 「ぐぅ・・・っ・・・  お・・・おまえら・・・『魔眼のモノ』だったのか・・・」 ノアールに剣をつきつけられたまま身動きできない男が 「あ・・・兄貴   なんだよその『魔眼のモノ』ってのは  やばいやつらなのかよぉ」 リーダーにそう問いかけつつ今の状況を見せつけられてぶるぶる震えだした。 「まぁ・・・おまえひとりなら欠片すら残さず消されちまうかもな  おぃ、ねぇちゃん  もうこれ以上手出しはしねぇ  そいつを放してやってくんねえか」 「そうね  あなた、頭はよさそうね  わたしたちのことも知ってるみたいだし  他言するようなバカなまねもしないでしょ」 そういいながらノアールは男の尻を蹴ってリーダーの方へ追いやった 「ブラン、お菓子はだいじょうぶだった?」 「もっちろん! クッキー一枚だって欠けてもいないわ」 「それはよかった  さ、早く帰りましょ  寒くなってきたわ・・・」 ふたりはまるで何事もなかったかのように歩き出した。 その背中を目で追いながら、まだ震えのとまらない男がリーダーに聞いた。 「兄貴・・・いったいなんだったんだよ、いまのは  俺たちがあいつらに声かけてものの10分とたっちゃいねぇぜ  兄貴ほどの男があんなに簡単に・・・  まるで夢みてたみてえだ・・・」 「ああ・・・あれが『魔眼のモノ』の力さ  あれでも多分かなり手を抜いてるぜ」 リーダーは苦笑しながら気を失った男を抱き起こした。 「おい! いつまで寝てんだ! いくぞ!」 「ぁぁ・・・ぁ・・・なんだぁ・・・?  なにがあったんだ・・・女はどうした・・・?」 「まぁ とにかくここを離れよう  知ってるやつらに見られたらえらい恥かいちまう」 よろよろと歩く男を支えながら 「なぁ・・・ちゃんと教えてくれ兄貴  あいつら『猫』だよな  『猫』のことをそう呼ぶのか?」 「ちげぇよ  『猫』もほとんどのやつらはおれたちとそう変わらない  見た目と、ほんの少し足腰が丈夫で速く走れたり高く跳べたり  それくらいしか違いはねぇさ  しかし・・・おれも噂でしか聞いたことはなかったんだが・・・  『猫』の中には突然変異かなにかで異常な能力を持つものが  何万人だか何百万人だかに一人くらいの割合で現れることがあるらしい  どんな能力なのかもはっきりとはわかってないらしいがな  それを『魔眼のモノ』と呼ぶって話だ」 (キリン)

Posted by 黄輪 at 18:50 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年01月17日
猫姫の舞踏 4
 ノアールは瞬間的に、身の危険を察知した。すっと後ろに退き、男たちと距離を取る。 「おいおい、そう警戒すんなって。な?」 「そうそう。大人しくしてれば、何もしねえよ」 「な、こっちに……」  そう言いながら、男たちはにじり寄ってくる。ノアールは触りこそしなかったが、自分の腰に剣が差してあることを、服の上からの感触で確認した。 (よし。ちゃんと、ある。怯えてもいないし、緊張して震えても、いない。ちゃんと、落ち着いてる)  ノアールは冷静に、男たちから安全、かつ確実に逃げる方法を考えていた。  ノアールたちの旅が始まって、すでに3年近く過ぎている。さらに言えば、ノアールの方が――ある事情から――1年多めに、旅をしている。用心深いこともあって、こんな目に遭うことも、予想はしていた。  だから、対処法もそれなりに、考えてある。 「えっ?」  大き目の声でそう言いながら、ノアールは横を向いた。 「ん?」  ノアールの動きに集中していた男たちは、つられてノアールと、同じ方向を向く。 「何だよ……」  向き直った時には、ノアールの姿は無かった。 「あ……! くそ、逃げられた!」 「畜生、金が!」  男たちのうち2人は憤ったが、残る1人――ノアールに話しかけてきた、リーダー格の男――は落ち着き払い、2人をなだめる。 「まあ、待てよ。1人には逃げられたが、もう1人残ってる。そっち、狙おう」  リーダーの意見に、手下は素直にうなずき、菓子屋へ足を進めた。 「あ、このドーナツも美味しそ〜! あ、マフィンももう一個っ!」  ブランははしゃぎながら、菓子屋の中を歩き回っている。すでに夜も更け始め、客はブラン一人である。店員が心配そうに、ブランへ声をかけた。 「お客さーん、もう120、いや、130ユトにはなるよ、それ。お金、ホントに大丈夫?」  ブランは問題ない、と言いたげに、尻尾をパタパタ振った。 「だいじょぶだいじょぶ、あ、これもー」  店の中を5周ほど回り、右手に持ったお盆にはこんもりと、お菓子の山ができていた。  男たちは遠巻きに、菓子屋の周りを囲んでいた。ブランが菓子屋を出たら襲って、金を奪うつもりなのだ。店の中を覗いていたリーダーが目配せして、「そろそろ出てくるぞ」と伝える。 手下たちも目で、それに応える。  ブランがホクホクと微笑みを浮かべ、店を後にした。男たちに気付く様子もなく、隙だらけの背中を男たちに見せた。 「今だ、捕まえろ!」  リーダーが叫び、ばっとブランに駆け寄った。 「え? ……な、何!? 何なの!?」  ブランは驚き、菓子の詰まった袋を抱え、急いで逃げようとした。すかさずリーダーはブランの手首をつかみ、その動きを止めさせる。……だが、手下たちの助けが来ない。 「おい、お前ら! さっさと……」  叱りかけて、言葉を失った。  手下の一人が、道端に倒れている。どうやら、気を失っているらしい。  そしてもう一人は、先ほど逃げられたはずの、黒い「猫」に剣を向けられていた。 (簡単に、引っかかってくれた。こう言うのはちゃんと対処しないと、いつまででも追いかけてくるから――ここできっちり、倒す!)  ノアールの様子を見て、ブランも状況を悟る。あっけに取られていたリーダーの手を振り払って、彼から離れつつ、呪文を唱え始めた。 (黄輪)

Posted by 黄輪 at 02:26 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年01月16日
猫姫の舞踏 3
「ね、おねえちゃん  宿のおばさんにお土産買ってってあげようか  今回けっこう長くお世話になってるしさ」 「そうね  食事はたぶん用意してくれてるし・・・  おやつでも買って帰ろうかしらね  といってもブランがほとんど食べちゃうんだろけどね」 「失礼ねぇ、もう・・・  そのぶんたくさん買っていけばいいでしょ  あっ、あのケーキなんておいしそう〜」 「はいはい、好きなもの買っていらっしゃいな  おばさんへのお土産だってこと忘れないようにね!」 ブランが甘い香りのその店へ走って飛び込むのを、ノアールは微笑みながら見送った。 「ほんとにもういつまでも子供なんだから・・・」 そうつぶやきながらもそんな妹がかわいくてしかたがない。 たったふたりでずっと生きてきたのだ。 大切な大切な相棒でもあった。 ブランはあれこれ目移りしてなかなか買い物が終わらない様子であった。 「んもう・・・いつまでかかるつもりかしらね 大量のおみやげになりそうねぇ・・・」 ノアールが独り言をつぶやいたそのとき、 「そうだよねぇ。  おねえちゃんをひとりこんな夜道に待たせたまんまじゃ  危ねぇじゃねーか、なぁ」 背後から男の声が聞こえた。 「だれ!?」 「いやいや  怪しいもんじゃねーよ  キレイなおねえちゃん二人じゃ夜道危ねえからな  送ってあげようかって親切もんさね」 「ご親切にどうも  でもわたしたちは大丈夫よ  放っておいてちょうだい」 「まぁ そんな気の強いこと言うなよ  人の親切は素直に受け取っとくもんだぜ」 「放っておいてって言ってるでしょ  あっちへいって!」 「ふぅん・・・  ほんとに気の強いねーちゃんだな  そんなこと言ってるとほんとに襲われっぞぉ」 男がそう言うと、どこにいたのかノアールの背後に二人の男が現れた。 (キリン)

Posted by 黄輪 at 15:51 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年01月12日
猫姫の舞踏 2
「今日もうまく行ったね、お姉ちゃん」  ブラン――白い方の「猫」が、ホクホクとした笑みを浮かべながら、ノアール――黒い方の「猫」に声をかける。 「そうね……」  だが、はしゃぐブランとは対照的に、ノアールは静かな足取りで、夜道を歩いている。2人の性格も、その毛色とそっくりなのだ。 「ねえ、コレ見てよ! 金貨だよ、金貨! 貴族まで、とりこにしちゃったんだね」 「へぇ」  ノアールは妹が差し出す金貨を手に取り、そこでようやく、明るい声を出した。 「3枚、か。いいわね、しばらくは落ち着いて暮らせるわ」 「そうだねっ」  ブランはまた、金貨を手にとって、それをポンポンと空中に投げ始めた。 「はいっ、これがブラン・フロウライトのお得意、キラキラジャグリングにござい……」「やめなさい、ブラン」  ノアールはブランの投げていた金貨を空中でパシパシとつかみ、ブランをたしなめる。 「まだ宿にも戻ってないのよ。夜道でそんなに目立つこと、しちゃダメ」 「え〜」  ブランは名残惜しそうに、姉の手を見つめている。 「えー、じゃないでしょ。この街はそんなに治安が良くないんだから。わざわざ襲われるようなこと、しないでよ」 「はいはーい」  姉の説教を、ブランはうざったそうに手を振って、聞き流す。  いつもならこれは、単なる「姉の心配性」で済まされたはずだったのだが、今回ばかりは勝手が違った。  二人の少し後ろで、いかにも柄の悪そうな男が3人、ブランの投げた金貨を見ていたのだ。男たちは顔を見合わせ、ニヤリと笑って――「猫」たちを追いかけた。 (黄輪)

Posted by 黄輪 at 17:01 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
2008年01月11日
猫姫の舞踏 1
激しいクライマックスを終え、静かにその動きを止めたふたり。 あれだけ動いたあとだというのに息切れひとつなく、その最後のポーズを保ったまま たくさんの拍手をあびていた。 自分たちへの賞賛を満足するまで吸い込んで まるで生き物とは思えないほど完璧に動きを止められたその体はゆっくりとほどけるように優雅なお辞儀を観衆へ返した。 すべての観客の方向へその喝采への礼を尽くしたあと、ふたりはまたすべるような軽やかさで人ごみへと融けていく。 ふたりが踊っていたのは大きな舞台でも会場でもない 道端なのであった。 もともと人通りの絶えない大きな道の端ではあったが、その「舞台」が終わる頃にはどこからこれだけの人が湧いてきたのだろうと思えるほどの人垣ができていた。 拍手とともにあちこちから投げられた小銭や紙幣もいつのまにかきれいに消えていた。 いつのまにどこからきたのか、そしてどこへ消えてしまったのか・・・。 ふたりの「舞台」はいつもこんな風に突然はじまり、そして人々が余韻に酔っているほんのわずかな時間に消えてしまうのである。 ただ、どこから流れてきたのかわからない噂で彼女たちの名前だけは知られていた。 ───ノアールとブラン─── ひとりは雪のような真っ白な毛色、もうひとりは闇に融ける黒い毛色であった。 (キリン)

Posted by 黄輪 at 20:50 | 猫姫の舞踏 | この記事のURL
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